おじさんとショタと、たまに女装   作:味噌村 幸太郎

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28 あやまち

 

「はぁ~ いつもひとりで入るから、なんだか新鮮だな」

 

 と呑気に背伸びをして見せる航太。

 唯一、救いがあるとしたら、彼がこちらに顔を向けていないこと。

 腹の上に跨っていても、背を向けているから、俺の顔を見ることは出来ない。

 

 今、こちらを見られると、色々とまずい。

 あの大きなブラウンの瞳で、見つめられると理性がぶっ壊れてしまいそう。

 現に今も、彼の小尻を押しつけられているだけで、少し反応している……。

 航太にバレる前に、早くこの場から逃げないと。

 

 

「なぁ、航太……悪いんだけど。俺だけ、先に出てもいいか?」

「え? なんで?」

「その……ちょっとのぼせてな」

 

 身体の一部に熱がこもっているのは、間違いない。

 

「えぇ、もう上がっちゃうの?」

 

 と寂しそうにこちらを見つめる航太。

 いかん、そんな目で見つめられると……もう無理だ。

 そう思った俺は、力強くで航太を押しのける。

 これ以上、理性を保てない。

 

「うわっ! なにすんだよ!」

 

 いきなり浴槽の中に放り込まれた彼は、当然怒り始める。

 

「わ、悪い……ちょっと頭が」

「え? 頭が痛いの?」

「そんなんじゃないさ……」

 

 浴槽から出て、すぐに扉へ手をかけようとしたその時だった。

 航太の叫び声が浴室に響き渡る。

 

「おっさん!」

「え?」

 

 振り返ると、涙目の航太が浴槽にしがみついていた。

 小さな肩を震わせて……。

 

「おっさんさ、嘘つかなくてもいいんだぜ!」

「ウソ? なんのことだ?」

「こんなオレじゃ、ダメなんだろ! 嫌なんだ! どうせ元カノの方が良いとか思ってたんだろ!」

「え……?」

 

 すごい誤解を招いたようだ。

 

  ※

 

「もういいよ! そんなに言うなら、オレから先に出るっ!」

 

 涙目でそう叫ぶ、航太。

 俺が先に出たいと言っているのに、なぜこうなるんだ?

 

「ちょっと待て、航太。嫌とかじゃなくてだな……」

「うるさい! 嫌なら最初から言えよ、バカっ!」

 

 俺の言うことに耳を貸そうとはせず、浴槽から飛び出る。

 そして両手で力いっぱい、俺の胸を押して突き飛ばす。

 いきなりの出来事に、俺も態勢を崩し、壁にもたれかかる。

 

「こ、航太……」

「もう、おっさんのためにコスプレとかしてやんない! 元カノとすれば!」

 

 と啖呵をきった航太だったが……彼も動揺していたようで。

 足元に石けんが転がっていることに気がついてない。

 危ないと、俺が彼の手を掴もうとしたが、既に遅かった。

 

 次の瞬間、航太の足は石けんを踏んづけてしまい、後ろから床に倒れ込む。

 そのまま倒れたら、頭を強く打ってしまうだろう。

 俺は彼を助けようと、咄嗟に両手を差し出す。

 

 予想では、航太の脇を掴む……つもりだったが。

 彼の身体が細いせいか、思ったより手が前に回ってしまう。

 気がつけば後ろから、航太の薄い胸板を両手で抱きしめていた。

 

「わ、悪い……転びそうだったから」

「……べ、別にいいけど」

 

 彼の顔をちゃんと確認できないが、きっと頬を赤くしているのだろう。

 お風呂に入っていたのだから、普通のことだが彼の体温が暖かく感じる。いつもよりずっと。

 そして微かに心臓の音が、聞こえてきた……気がする。

 

 だが、それは俺も同様だ。

 今もバクバクとうるさいから、彼に伝わっていないか心配だ。

 

 どれだけ、時が経ったのだろう。

 航太を抱きしめてから、しばらく固まっている。

 別にいやらしい気持ちがあるからとかじゃなくて……離れるきっかけがないから。

 

 

「本当にごめんな、そういうつもりは無かったんだけど……」

 

 と言いつつも、未だに俺の手は航太の胸を掴んでいる。

 だがそんな俺を見ても、彼に嫌がる素振りはない。

 黙って俯いている。

 

「いいって……転ばないように、オレを支えてくれたんでしょ?」

「そ、そうだ」

「じゃあ……いいよ」

 

 その言葉を聞いて、俺はようやく彼から手を離す。

 傷つけた……航太に嫌われたんじゃないのかって、不安だった。

 

「おっさん、先に上がっててよ。オレ、ちょっと湯冷めしたみたい」

 

 そうは言うが、先ほどまでこの手に伝わっていた、彼の体温は火傷しそうなぐらい熱かった。

 顔を隠しているから、わからないが。ひょっとして恥ずかしいのか?

 

「わかった……先に上がっているよ」

「ありがと」

 

 浴室の扉を開き、洗濯機の上に置いてあったタオルを手にする。

 ふと振り返ると水着姿の航太が俯いたまま、立ち尽くしていた。

 先ほどまでお風呂に入っていたから、濡れたスクール水着が輝いて見える。

 特にヒップラインが……。

 

 しかし、そんなことよりも、航太の仕草が気になって仕方ない。

 自身の胸に両手を当てている。ちょうど心臓あたりか……。

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