おじさんとショタと、たまに女装   作:味噌村 幸太郎

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 喫茶店の扉を開くと、すぐにカウンターが見え、中でマスターがグラスを磨いている。

 俺だけなら、「いらっしゃい」と灰皿をすぐに出してくれるが……。

 今日は違う。マスターにとっても、懐かしい顔が隣りにいるから。

 

「ありゃ!? 未来ちゃんじゃないか!」

「どうも~ お久しぶりです、マスター」

 

 ぺこりと頭を下げる未来。

 それに対して、マスターは大きく口を開いたまま。

 未来を上から下まで眺めて、その変わりように驚いている。

 

「本当に未来ちゃんか……びっくりしたよ、べっぴんさんになったねぇ」

「へへ、褒められちゃった」

 

 と俺に向けて、ウインクする。

 しかし今は彼氏でも、なんでもないので、無視する。

 

「マスター、どこでもいいからテーブル席、使ってもいいすか?」

「もちろんだよ。空いているし、好きなのを使いなよ」

 

 そう言う、マスターはどこか嬉しそうだった。

 まるで我が子が自宅に、彼女を連れて来た父親のようだ。

 いつもより早く、灰皿とメニューを持って来た。

 

 当然、俺と未来は注文を決めてないが……。

 長年通っていたので、聞いてもないのにマスターが勝手に決める。

 

「二人とも、”いつもの”で良いんだよね?」

 

 俺がナポリタン大盛りで、未来はカレードリア。

 食後にコーヒーとカフェラテ。と言いたいのだ。

 

「ああ、俺はそれでいいっす」

「私も」

 

 なんだか、未来のやつも嬉しそうに答えているように見えた。

 

  ※

 

 食後のコーヒーを楽しみながら、タバコに火を点ける。

 目の前に女性が座っているけど、元カノだし別に断わる必要もない。

 

「翔ちゃん、あのさ」

「ん?」

 

 ティースプーンを使って、カップの中をぐるぐる回す。

 先ほどまで、美味そうにドリアを頬ぼる、未来とは別人のようだ。

 どこか緊張しているような……。

 

「言いたくないなら、いいんだけど」

「なんだ? 気になるだろ、言えよ」

「そ、その……三年前に翔ちゃん、言ったじゃん。『好きな人が出来たから、別れたい』って」

 

 あまりに唐突だったので、口に含んだコーヒーを吹き出してしまう。

 

「ブフーーーッ!」

 

「ちょっと、翔ちゃん? 大丈夫!?」

「げほ……だ、大丈夫だよ。いきなりだったからさ」

 

 テーブルを汚したため、未来がマスターを呼んでおしぼりをもらう。

 もう別れたというのに、顔をおしぼりで拭いてもらった。

 俺も落ち着きを取り戻した頃。未来が再度、口を開く。

 潤んだ瞳でこう言った。

 

「あれさ……”今”はいないんだよね? ならさ、私がもう一度……立候補とかダメかな?」

 

 とふくよかな胸をテーブルの上にのせて、頼む。

 

「それは……」

 

 妹の(あおい)が言った通りかもしれない。

 こいつは俺から別れ話を持ち出した時、ちゃんと”ウソ”だって気がついてたのか。

 今なら誰も相手がいないとわかった上で、また恋人同士に戻りたいと。

 断る理由はない……と、ちょっと前の俺だったら即答するはずが戸惑う。

 

 彼のことを、頭に思い浮かべていたから。

 アパートの廊下に座る、航太の後ろ姿を。

 俺が今、未来とよりを戻したら……。

 

  ※

 

 ずっと返答に困って、黙り込んでいる俺を見た未来が、何かを察したようで。

 胸の前で手を叩く。

 

「あ、あのさ! 翔ちゃん、このあと時間ある?」

「どうして?」

 

 腕時計を確認すると、夜の8時になろうとしていた。

 俺は別に構わんが……。

 

「こうして、”ライム”でお喋りするのも良いけど……居酒屋で飲まない?」

 

 久しく飲み会など、誘われていなかったので、その提案はとても嬉しい。

 しかし、俺は貧乏作家だから。どこかの売れっ子漫画家とは違い、金が無い。

 

「別に良いが……俺、金はないぞ? せいぜいが”せんべろ”ぐらいじゃないと」

「そんなの、気にしないでよ~ おごるって~」

「じゃ、じゃあ……」

 

 ただで酒を飲めるというだけで、ホイホイと着いて行くことになった。

 

 ~3時間後~

 

「うおえぇぇ!」

「大丈夫か? 弱いくせに飲み過ぎなんだよ……」

 

 そう言って、久しぶりに彼女の身体に触れる。

 優しく背中をさすり、少しでも未来が楽になれるよう、介抱する。

 かれこれ、30分近くは電柱と睨めっこしていた。

 たまにすれ違う、通行人の視線が辛い。

 

「ご、ごめんね……久しぶりに翔ちゃんと会えて、うれし……おぇ!」

「良いよ。喋るな、吐ける時はしっかり吐いた方がいいぞ?」

「カッコ悪い、私……」

 

 どれだけ綺麗に着飾っても、中身は変わらないな。

 そう言えば、こいつと初めて出会ったのも、今と同じシチュエーションに近かった。

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