おじさんとショタと、たまに女装   作:味噌村 幸太郎

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第八章 正直になろう
38 見た目だけは親子


 

 俺が初めて作ったおかゆを、全て平らげた航太。

 味の方は知らないが、「おっさんにしては上出来だよ」と笑っていた。

 しかし、熱が引いたとは言え、まだ安静にしていなければ……。

 そう思った俺は、彼をベッドへ戻るよう促す。

 

 航太は「茶碗を洗いたい」と言っていたが、そこは厳しく注意した。

 

 ~それから、数時間後~

 

 俺は不器用なりにも茶碗を洗ったり、後片付けをしていた。

 しばらく、航太はベッドの中からこちらを眺めていたけど。

 やはりまだ状態が良くないようで、今はすぅすぅと寝息を立てている。

 

 明日もまだ彼が治っていなかったら、何か持って来ようかな?

 そんなことを考えていると、いきなり玄関のチャイムが鳴った。

 他人の俺が出ていいか、迷ったがとりあえず、応対してみる。

 

「は~い? どちらさまですか?」

『ぷへぇ~ 綾しゃんでぇ~す!』

 

 誰かと思ったら、母親の綾さんか。

 声からして、すっかり出来上がっているな。

 酔っ払いの相手は面倒くさい。

 

 ドアを開くと、酒くさいお水系のお姉さんが立っていた。

 身体をふらふらと揺らせて、落ち着きがない。

 

「あ~! 黒崎さんだぁ~!」

「綾さん……酔っぱらってます?」

 

 あんまり関わりたくない。

 航太の面倒は見たし、母親が帰ってきたんだ。

 俺も帰らせてもらおうかな?

 

「ただいま、なのれす……」

 

 そう言って、玄関に座り込む綾さん。

 コートを羽織っているが、中はVネックのミニワンピースだ。

 自然と胸の谷間が露わになってしまう。

 

「ご、ごほんっ!」

 

 わざと咳払いして見せる。

 今夜は息子以外の男がいますよ、と言いたいからだ。

 

「うえ? あ、黒崎さん。ごめんなさいねぇ~ 航太の面倒を見てくれて……」

 

 ようやく酔いがさめて来たか。

 

「いえ、良いんですよ。俺も航太くんには、日頃からお世話になってるし」

「そうですか……。でも、なにもお礼をしないのは、心苦しいです」

 

 と座り込んだまま、上目遣いで訴えかける。

 こういうところは母親譲りなのか?

 

「気にされないでください、お互い様ってことで」

 

 そう言って玄関に置いていた、自身のサンダルに足を通した瞬間だった。

 綾さんが俺の足をギュッと掴む。

 思わず「ヒッ!」と悲鳴を上げてしまった。

 

「待ってください! 今度、航太が良くなったらお食事に行きましょ?」

「え……食事?」

 

 まさか、綾さんと二人きりで居酒屋にでも行くのかな? と思ったら……。

 

「はい。航太と3人でランチに行きましょうよ」

「ああ……ランチですね」

 

 それを聞いて、なぜかホッとした。

 

  ※

 

 翌日の朝、自宅のチャイムが鳴り、扉を開けると……。綾さんが立っていた。

 解熱剤が効いたようで、航太の状態は一晩で良くなったらしく。

 

「約束どおり、来週みんなでランチを食べにいきましょう」

 

 とお誘いを頂いた。

 

 正直、母親の綾さんと一緒だから、航太とのんびりできないのは淋しいけど。

 他人の俺と未成年の航太が、外を歩くにはハードルが高い。

 しかし、家族が一緒なら安心だ。

 

「俺はいいんですが……あいつは、航太くんはどうなんですか?」

「え? 航太なら喜んでましたよ。黒崎さんとご飯を食べられるからって」

「そうですか……」

 

 意外だ。思春期だから、母親と一緒にご飯を食べるなんて、嫌がるかと思っていた。

 それに俺と航太のコスプレは……秘密だから。

 なんとなく、後ろめたいような気が。

 

「じゃあ、今度の日曜日。お昼に近くの喫茶店でランチしましょう」

「え……喫茶店って、もしかして?」

「あ、知ってます? 私のお店のお客さんに教えてもらってぇ。”ライム”って言うんです。ドリアが美味しいらしいですよ~」

「ははは……有名な店ですからね」

 

 まさかとは思ったが、あの喫茶店か。

 マスターが変なことを言わないと良いけれど。

 

  ※

 

 航太の状態が良くなったと聞いた俺は、一安心したようで。

 肩の荷が降りて、ずいぶんと軽くなった気分だ。

 

 編集部の高砂(たかさご)さんに頼まれていた、エロ漫画の原作。

 執筆活動も順調に進められている。

 普段は一話分の原作を編集部へ送るのだが……。

 

 ここ最近、起きた航太との思い出が刺激的で。

 忘れないうちに原稿へ書くことにした。

 そしたらコミックス一冊分ぐらい、書き上げてしまった。

 

 ボツになっても良いからと、ダメもとで送ったら。

 しばらくして、高砂さんから電話がかかってきた。

 

「いきなり、こんなにたくさんの原稿を送って来ないで下さい!」

 

 と注意されるかと思ったら。

 

『もしもし!? SYO先生ですか?』

「あ、はい。そうですけど……」

『なんですか、あの原稿は!』

「すみません……今回、書きすぎですよね?」

 

 そう言うと、高砂さんは受話器の向こう側で息を大きく吸い込む。

 

『エロすぎなんですよっ! もう私が送ったコスプレとか要らないでしょ!?』

「え?」

『高熱だからって。勝手に家へあがりこみ、座薬を入れてからの主人公が”ビルドイン”! 最高の展開でしょ!』

「……」

 

 どうやら、満足してもらえたようだ。

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