おじさんとショタと、たまに女装   作:味噌村 幸太郎

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5 お返し

 

 コンビニでタバコを買って、アパートに帰ってくると航太の姿は消えていた。

 きっと自分の家へ帰ったのだろう。

 それを知って、ひと安心する自分に気がつく。

 

 口角が上がるのを必死に堪えて、自宅の鍵をあける。

 ドアノブに手を回そうとした瞬間、気がつく。

 

「あれ? 半纏(はんてん)を返してもらってないぞ……」

 

 格好つけて貸したのは良いが、あれがないとけっこう不便なんだよな。

 この時期、暖房をつけたくても光熱費が高くなるし……。

 ま、あの子が外で寒さに耐える姿を見るよりマシか。

 そう自分に言い聞かせて、大人しくエアコンのスイッチをつけることにした。

 

 ~翌日~

 

 結局、朝になっても半纏が返ってくることは無かった。

 ひょっとして、パクられたのかな?

 いや、航太に限ってそんなことはしないだろう……。

 って俺は、なぜあの子を信頼しきっているんだ?

 

 

 夕方になり、ちゃぶ台の上でパソコンに向かってタイピングしていると。

 チャイムが鳴った。

 こんな時間に誰だろうと、ドアののぞき窓から訪問客を確かめる。

 

 艶のあるショートヘアに、大きな瞳。

 肌は小麦色に焼けている。

 

「あ、航太か」

 

 彼だと分かった瞬間、すぐにドアを開く。

 

「あの……昨日はありがと」

 

 いつものような強気な態度じゃない。どこか恥ずかしそうにしている。

 頬を赤くして、視線を下に落とす。

 俺と目を合わせてくれない。

 

「ああ、昨日の肉まんか? 気を使わなくていいぞ。アプリで当たったから無料だし」

 

 真っ赤なウソだが。

 

「でも、おっさん。寒いのに『これ』も貸してくれたでしょ」

 

 そう言うと、一つの紙袋を差し出す。

 受け取って中を確認すると、昨日俺が彼に貸した半纏だった。

 綺麗にたたみ、ビニール袋で包んである。どうやら洗濯までしてくれたようだ。

 まるで新品みたい。

 

「洗濯なんてしなくても良かったのに……はは」

 

 俺が苦笑いをしていると、航太が急に怒り始めた。

 

「だって! その『はんてん』だっけ? タバコ臭かったし、汚れてたもん!」

「う……」

 

 確かに彼の言う通りだ。

 なにせ、大学時代から使っている代物だからな。

 所々ほつれたり、破れたりしていて、中の綿も飛び出て……ってあれ?

 今、気がついたが全て綺麗に修繕されている。

 

「あまりに貧乏くさいから、直してやったよ。綿も入れ直してな、フンッ!」

 

 なんだこの子、意外とツンデレか。

 

「器用なんだな……ありがとう。これでまだまだ使えそうだ」

「べ、別に。これぐらい、なんてことないし」

「そうなのか」

 

 受け取っておいてなんだが、会話に困る。

 この子、航太の考えていることがわからない。

 そう言えば、友達がいないと言っていたな……。同性の友人が欲しいのだろうか?

 年上とはいえ、俺と友情を深めたいとか。

 

「あの、おっさん。肉まんくれたじゃん?」

「うん」

「本当に嫌いなの?」

 

 上目遣いでジッと睨まれる。

 参ったな。嘘がバレてしまう。

 

「ああ、酒を飲むようになってから。ダメになってさ」

「ふ~ん。珍しいね、肉まんが嫌いとか」

 

 まだ疑われているようだ。

 随分長いこと睨まれているから、気まずい。

 

「その……俺が肉まんを苦手って、なにか知りたいのか?」

「だって、昨日。せっかく貰ったのに、半分こ出来なかったじゃん」

 

 こういうところだけは、子供だな。

 

「ははは、気にするなって」

「嫌だよ! オレだけとか……さ」

 

 航太の顔はどこか寂しそうに見えた。

 俯いてしばらく黙り込んでしまう。

 変に気を使わせてしまった……と俺も頭を掻く。

 しかし、なにかを思い出したようで、航太は玄関から飛び出てしまう。

 

「あ、おい……」

 

 俺もあとを追いかけようとしたら、ぴょこっと小さな顔が飛び出る。

 航太だ。

 

「お待たせ! これなら、おっさんでも食べられるんじゃない?」

 

 そう言う彼の両手には、大きな鍋が握られている。

 

「なんだい、これ?」

「ホワイトシチュー。昨日のお返しにあげる!」

「え……」

 

 鍋のふたを開けると、3人分は入っていた。

 なぜここまで、気を使われるのだろう。

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