服従の天秤なんて二度と見たくない   作:真樹

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1_二乃、服従させられる

 こんにちは。中野二乃です。

 今をときめく18歳。現在は同じ顔として生まれた姉妹達、五つ子と一緒に高校生をしながら大好きな人へアタックしています! 

 そんな私の一日が今日も始まります。

 と、思ったのですが──

 

 今、異世界にいます。

 

 

「なんでよ!? 異世界って何よ!? 起きた瞬間(あ、今私異世界にいる)って自覚したの生まれて初めての経験よ!? これってあれでしょ、異世界転生ってやつ。普通は四葉がこういうのの担当でしょ! 私はファンタジーなんて全然しらない。誰よここに私を連れてきたやつ! しかも一番おかしいのはね、今いるこの場所変な場所!」

 

 

 今、地下牢にいます。

 

 

「なんでよ!? 目覚めた場所が牢屋って何が起きたのよ! 普通はこっち来る前に神様とかと会って、なんか凄い能力貰ったりして、それからこっちで色々良い事ばっかり起きたりするんでしょ!? 詳しくなくたって知ってるわよ! 全部スルーしてるわ! 私のスタート当たり前みたいにレベル1かそれ以下から始まってる!」

 

 目覚めて五秒で想いの丈を一通り叫び終わった後、一ミリだって気は収まらなかったけども、ようやく静かになることができた。

 寝起きで血糖値がまだ低いっていうのにいきなり騒いだもんだからくらくらするしマジ最悪。

 頭に上っていた血も降りてきて少し冷静になってきた頃、ようやく私は鉄格子の外に人影があることに気が付いた。

 

「あなた、随分元気なのね」

「えっと……どちら様?」

 

 鉄格子を挟んだ通路には一人の女性が立っていた。もしかして今の一部始終全部見られてたのかしら。

 毛量の多いピンク色の髪をおさげにして頭には角が生えている。服装はボンテージっていうのかな。実物は初めて見たけどそんな露出の多い同い年か、少し年下かと思うような女の子だった。

 

「私はアウラ。魔王直属の幹部『七崩賢』の一人よ。これだけ言えばわかるかしら」

「ごめんなさい。全然」

 

 あ、よく分からないけど怒らせてしまっちゃったみたい。顔引きつってる。

 肩書きみたいのを話してくれたのはわかったけどファンタジー素人の私じゃほとんど理解できないわよ。魔王って単語ぐらいはギリギリわかったけど。

 

「え、ちょっと待って。あなた敵側?」

「敵……そうね、人間から見れば魔族は皆敵でしょうね」

「え、うそ。ここにいる時点でなんとなく想像はできてたけど、私囚われの身からスタートなの? クソゲーすぎない?」

 

 クソゲーなんて単語、三玖とかから聞いたことがあるくらいで自分で使うのは初めてだけど、こんなにするりと出てくるってことは私ゲームの才能とかあるのかしら。

 

「えっと、"くそげー"って何? さっきからあなたの言ってることがちっとも理解できないんだけど」

「うわ、今初めてあんたに親近感覚えたかも。私もよ。あんたの言ってることが意味わからない。みーとぅーよ。あんだーすたん?」

 

 おまけにフー君から教えてもらった単語も流暢に使えてる。受験余裕かも。

 

「……まあいいわ。人間と魔族で話が通じないのなんてわかりきったことだもの」

「あ、今の凄いゲームっぽい」

「黙りなさい。平原で倒れていたあなたを殺さず連れてきたのには理由があるわ」

「ってことは助けられたってことかしら。えと……ありがとう?」

「調子狂うわね……今私の部下が街に潜入してるわ。人間なら少しは情報を持っているんじゃないかしら。私たちの役に立ちそうなことを話してちょうだい」

「ごめんなさい全然知らない」

「そんなわけないでしょ。この辺で人間が住んでる街なんてあそこしか──」

 

 その時だった。アウラと名乗った女の人が話しているのを遮って、ガシャガシャと足音と共に鎧が彼女の傍に駆け寄ってきた。

 

「ひっ」

 

 鎧の全身を視界が捉えた瞬間、私は小さな悲鳴を上げた。鎧には首が無かったのだ。

 そこでようやく私にも実感が湧いてきた。私はファンタジーの世界に来たのだと。

 

「何かしら」

 

 アウラは私の様子に気にも留めず鎧に耳を傾けた。

 鎧もまた、アウラに耳打ちするようなポーズを取る。

 ……顔無いけど話せてるのかしら。

 

「──そう、分かったわ。ちょうどいいわ、あなたも来なさい」

「どこへ?」

「侵入者が来たらしいから返り討ちにするところを目に焼き付けてあげる」

「冗談じゃない、なんで私がそんな──」

服従の天秤(アゼリューゼ)

「え」

 

 いつの間にか取り出していた方手持ちの天秤。それは片方に傾いていて、アウラが呪文のような言葉を唱えたと同時に体が自由に動かなくなった。

 もしかして、魔法ってやつ?

 

「あなたに拒否権はないわ。いいから言う通りに付いてきなさい。あなたに見せてあげるのはそこらの雑魚じゃない、魔王様を倒した英雄ヒンメルのパーティの一人、魔法使いフリーレンの死に様なのだからね」

 

 

 

~数十分後~

 

 

 

「アウラ、お前の前にいるのは──千年以上生きた魔法使いだ」

 

 アウラ。負けました。

 服従の天秤って言ってたかしら。片手で持てるくらいの小さな天秤で、傾いた方が勝ちってやつを自信満々に取り出したけど、フリーレンと呼ばれていた白髪の女の子に使った途端に凄い勢いでフリーレン側に傾いた。

 というかフリーレンって子、あれがエルフっていうのかしら。耳長いし。

 あんなに自信満々に見てなさいって言ってたのに、結局私が見るのは彼女側の敗北になるなんて。

 

「アウラ、自害しろ」

「じが……!? ちょ、ちょっと待ってよ!」

「……? なんだい、君。いつからそこにいたんだい。全然気が付かなかったよ。それに普通に生きてる人間みたいだね」

「私のことはどうだっていいのよ! それよりも死ねだなんていくらなんでもあんまりじゃないの!?」

「そこにいたのなら話は聞いていただろう。君の後ろにいる頭の無い人々は、全部そいつがやったことだ」

「確かに聞いてたわよ。でも、罪を犯したなら法律の下でちゃんと償えばいいじゃない!」

「それは人間の考えだよ。そこにいるのは言葉が話せるだけのただの獣だ」

「でも!」

「君のことは後で助けてあげるよ。そろそろ命令が実行される。見たくないなら目を閉じておくといい」

 

 フリーレンの言う通りであった。

 すぐさま先ほどの自害しろという命令にしたがい、体が勝手に動き始めていた。

 

 私の体が。

 

「なんでよ!?」

「え」

「え」

 

 フリーレンはおろか、アウラさえも意外そうにこちらを見た。

 そして私はと言えば近くの鎧に近づくと剣を奪い取った。

 近くによって気が付いたけど、最悪の匂いがする。多分これ、あれだ。首切って殺した後そのままにしちゃったもんだから当然するだろう、最悪のやつだ。

 吐きそうになった。帰りたい。

 そんな私をよそに、フリーレンとアウラが再び向き合っている。

 

「アウラ」

「……なに」

「さっき私、お前に命令したよね?」

「そうね」

「呑気に話してないで助けてよ!!」

 

 再びアウラの脇に戻ってくると、剣を握っている手が持ち上がり、刃が私の首の傍まで持ってこられた。

 もしかして私、ここで死ぬ? 

 冒険が終わるとかそんな生易しいものじゃなくて? 

 

「ありえない……なんで私がこんな目に……!」

 

 じわりと涙が浮かんだ。

 同時に走馬灯のようにかつての世界が思い出される。

 

「やだぁ! 助けてよ! 誰か! 皆、フー君、お母さん!!」

「いやまあ、普通に助けるけどさ」

 

 その後私は普通にフリーレンさんに助けられた。

 後、服従の天秤が効かないアウラはフリーレンにボコボコにされたけど何とか逃げていった。

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