宇宙戦艦ヤマト 2199-Ⅱ ガトランティス戦役 断章 作:◆QgkJwfXtqk
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第1突撃陣形を形成し、1線となって宇宙を進む8隻の宇宙戦闘艦。
青い光を彗星の様に引いて駆け抜けていく。
名画伯が引いたが如き見事な単縦陣は、乗組員の練度の高さを示していた。
円錐めいた青灰色の船体には<UNITED NATIONS COSMO FORCE>の文字が刻まれている。
星間防衛軍とも呼ばれる事もある地球連邦宇宙軍の戦闘艦、ド・グラース級駆逐艦*1だ。
場所はガミュロン星系。
「相変わらずテロン人は生真面目だ」
ド・グラース級駆逐艦の群れをそう評したのは、青い肌のガミラス人だ。
隻眼の将、フォムト・バーガー准将であった。
縫い傷もあってその風貌は強いが、それらの戦傷が潜り抜けて来た戦場を示す様に胸には多くの
正に歴戦の指揮官であり、駆逐艦による集団突撃を得意とする水雷屋であった。
「隙がありませんか?」
「連中の防空システムは良好だ。ガトランティスみたくミサイルで開口部は作れんだろうさ」
さて困ったと口の端を歪めるバーガー。
だが付き従う強者たちは、それが信頼する上官のユーモアであると理解してた。
「尻尾を撒いて逃げ出しますか?」
茶目っ気タップリに合いの手を入れるのは長身痩躯のガミラス人、バーガーの
嘗ての
「それも悪くはない手だ。第3戦艦隊ところの参謀は、状況さえ知らせて貰えば十分だと言っていたからな」
「はっはっはっ、それは楽で良いですな! 最新鋭のガイエス級が3隻も配備されたのです、連中も気合も入ると言うものでしょう」
事前の会議の場で第3戦艦隊の参謀は、如何に俊足を誇るテロン軍であろうとも機雷原と機動爆雷をもって足を潰し、長距離からの砲撃戦を仕掛ければ撃破は出来る。
そう自信満々に述べていた。
「ま、業腹だが新しいオモチャを貰った
ゆっくりと周りを見る。
ベイガーを含め、誰もが楽し気な顔をしている。
バーガーの性格をよく判っているのだ。
だからこそ楽し気に、次の言葉を待っている。
「だが、それだけじゃ俺たちもツマラン。そうだよな?」
「我々が命じられた任務はテロン艦隊主力への攻撃、その
「そうだ。戦艦部隊が仕掛ける為の支援、その全般だ。という訳で、あの駆逐艦部隊をぶち抜いてテロンの戦艦部隊の顔を拝みに行くとしよう」
「ザー・ベルク!!」
見事な単縦陣を維持して走っている8隻のド・グラース級駆逐艦。
その先頭を走るのは臨時編成された第1機動部隊の第3強襲戦隊旗艦たるスズカであった。
既に第1種戦闘配置が発令されている為、狭いスズカの
アドレナリンに炙られた顔をしているスズカクルー。
だが、艦長である古代進中佐は落ち着いた顔で艦長席の背もたれに体重を預けていた。
戦意はある。
だが同時に歴戦があるが為、その時以外には極力、無駄を省く様にしていたのだ。
「艦長!」
と、主任レーダー手が声を上げた。
同時に、スズカの戦術コンピューターがレーダーが捉えた情報を戦術状況表示盤に提示する。
赤い、
敵艦隊の発見である。
「距離、32,000
「速度は?」
「概算で約36
「その速度なら
昨今の地球連邦宇宙軍は、レーダー波による艦規模の確認と推進機の熱紋による敵艦の識別を行っている。
とは言え流石に30,000
だからこそ、歴戦の指揮官による推測も重要になってくるのだ。
「了解です!」
古代の指示を第3強襲戦隊司令部の参謀 ―― 小所帯である為、たった1人の参謀である柿崎拓真が、艦長席の後ろの参謀席から応じる。
その外見に相応しい野太い声だ。
「しかし正面から行きますか」
「我々は主隊の、醜の御楯だ。逃げる訳にはいかないさ」
「仕方ありませんな。それに数は負けてますが__ 」
「駆逐艦同士での殴り合いで地球艦隊が負ける筈はない。そうだな?」
「__ですな!」
元は戦闘機乗りの柿崎は、事故で機体を降りて参謀畑に転身した異色の人材であった。
だが、そうであるが故に奇妙なまでの明るさ。
或いは軽さを持っていた。
柿崎の明るさが、そして同じ調子で軽く応じる古代との会話が、スズカの
スズカの乗組員は春先の人事異動で3割が入れ替わっていた。
それも、士官学校や教育隊を出たばかりの人間が大多数であったのだ。
艦長である古代を筆頭に、基幹人員こそスズカに慣れ親しんだ
「さて諸君、戦争だ。緊張をし過ぎるなよ。訓練通りにやれば勝てる」
「はいっ!!」
バーガーの第1襲撃部隊と古代の第3強襲戦隊の交戦は、これこそが高機動艦艇による機動戦と言うべきモノとなっていた。
共に単縦陣を維持しながらの殴りあい。
突破を図るバーガーは、ガトランティスを相手にする等であれば部隊を分解しての飽和攻撃を図るものであったが、それを選ばなかった。
相手が
人的資源の乏しさもあって、自動化と
集団で、それも変幻自在にまとまって動けば簡単に照準を合わせる事が出来ない。
地球連邦宇宙軍との戦闘経験豊富なバーガーらしい判断と言えた。
対して古代が艦隊を崩さない理由は単純明快であった。
数的不利、だからだ。
此方も個では無く集団で闘う事で、数の不利を砲火力の集中で補おうというのだ。
激烈な機動戦。
宇宙で干戈を交える2頭の蛇竜めいていた。
両部隊共に、少なからぬ数の艦艇が脱落していく。
だが戦いは激しさを減じる事無く、否、唯々加速していく。
宇宙が沸騰しかねない勢い。
だがそれが、唐突に断ち切られた。
赤色の信号弾。
それが3つ。
続けて青と緑の信号弾も上がった。
打ち上げたのは第1襲撃部隊と第3強襲戦隊に付き添っていた演習管理艦だ。
赤3つと青と緑、都合5発の信号弾が意味するのは地球/ガミラス共同演習の強制停止命令であった。
状況終了に伴って艦内の灯火管制が解除され、通常の白色灯に切り替わったスズカ。
誰もが息をほぅっと吐いていた。
戦隊先頭を進んでいたスズカは複数の被弾判定を受けており、
だが、指揮官である古代にそんな贅沢は許されていなかった。
今回の共同演習は実際に艦艇を動かす演習であり、それなり以上の予算と手間が掛けられていた。
それが、全ての状況を停止させられたのだ。
ただ事ではないと判るのだ。
「旗艦ライオンからの再配置命令、来ました」
柿崎からの言葉に頷く古代。
脱落判定を喰らっていた艦を拾い、集合場所へと指定された宙域へと進路を取る様に命じる。
三々五々と集まって来る第3強襲戦隊の駆逐艦。
そこにガミラスの艦艇も合流してきた。
勿論、先ほどまで激しく砲火を交えていた第1襲撃部隊だ。
「どうやらアチラも、合流宙域は同じようですな」
「ああ」
渋い、小さな声を漏らす柿崎。
このガミュロン星系にある有力戦闘艦を集めるのだ。
ただ事ではない、その傍証が集まる様であった。
「艦長!」
通信長が声を上げた。
レーザー通信が入っていると言う。
無論、ガミラス側 ―― バーガーだ。
敬礼と答礼。
格式張っていたのはそこまでであった。
『よう、久しぶりだな』
「貴方も元気そうだ」
気安く笑うバーガー。
古代の顔にも緊張感は無い。
かつての
抱くべき星が違うが故に、そうそう頻繁に顔を合わせる事はないが、友誼とは距離で薄れるものではないのだ。
『しかし、相変わらず良い突っ込みだったぜ』
「そちらこそ、部隊を突き崩せなかった」
『そりゃ、俺の手勢だからな。そっちは寄せ集めか?』
「ああ。臨時集成部隊の掌握も訓練内容になっててね」
『そりゃ大変だ』
「全くだ」
何気ない会話を続ける2人。
それは心底からの友誼であると同時に、ある意味で演技でもあった。
戦争をしてまだ10年だ。
地球を焼け野原にされ、ガミラスもここ100年無かった本土決戦を強いられたのだ。
互いに対する感情的なしこりと言うのもまだまだ根強い所があった。
だからこそ、古代とバーガーは融和を見せる会話をするのだ。
『しかし、中止の理由は何かね』
「こちらにはまだ何の情報も入ってないぞ」
『コッチもだ』
嘆息する様に言うバーガー。
最近はボラー連邦も国内が政治の季節で手を出して来ないのに、と言う。
地球にせよガミラスにせよ公言する事はないがボラー連邦の対外融和派に支援を行っていた。
だからこそ、最新の情報を得て居られるのだ。
であればもう1つの
バーガーの顔が歪む。
何とも言い難い顔だ。
否、バーガーのみならずガミラス人であれば複雑な感情を抱く国家 ―― 国家元首を抱く国の問題であろうかと古代も思考を走らせる。
ガルマン・ガミラス帝国。
皇帝アベルト・デスラー。
ある意味で古代にとっても縁深い相手であった。
「ガルマン・ガ、すまん。ガルマン帝国だな。連中が攻めて来た可能性か」
デスラーはかつてガミラス帝国を率いていた
だからこそガミラス人はガルマン・ガミラス帝国を呼ぶ際、ガルマン帝国とだけ呼称する。
とは言え憎悪だけではない。
嘗て、デスラーには国民からの圧倒的な支持があったのだ。
だからこそ、複雑な感情に育っているのだ。
尤も、バーガー自身はシンプルであったが。
敬愛していた上官、エルク・ドメルが死ぬ事となったクソの様な作戦を強いてきたクソ野郎。
そう言う事であった。
『ああ。あの皇帝は我がガミラス帝国との同君連合に執着しているからな。手酷くフッているというのにな』
ボラー連邦と正面から殴り合っているのがガルマン・ガミラス帝国なのだ。
その戦争を有利にする為、ガミラス帝国を吸収したいと思うのも当然の話であった。
とは言えガミラス帝国からすればたまったモノでは無かった。
現指導者であるヒス総統のデスラーに対する個人的感情もあったが、それよりも
デスラー統治時代、余りにも拡大し過ぎた覇権主義国家であったガミラス帝国。
大マゼラン銀河の多くを統治下に入れた大帝国。
だが、その内実は危うかった。
多くの敵を抱え、そして統治下の惑星での反乱も頻発していたのだから。
自壊しかねない、膨らみ切った風船の様な帝国。
それがデスラー統治時代のガミラス帝国なのだ。
それが変わったのがテロン戦役、そして付帯して発生したデスラーの乱であった。
自らの手でガミラス星を焼こうとした、正に乱心としか言いようが無い事態で発生した政治的物理的混乱、この果てに当時は副総統であった現ヒス総統がガミラス帝国を掌握したのだ。
総統となったヒスによる改革 ―― ガル・ディッツを旗頭とした軍良識派と共同し、そしてイスカンダルの
いまだ道半ばであるが、取り合えずは
外敵こそ状況は変わらぬが、それでも国内が安定化すれば治安維持部隊のコストは下げられるし、経済活動も活性化する。
ガミラス帝国は破断面の直前で、立ち止まれた。
それがヒスやディッツの偽らざる現状認識であった。
だからこそなのだ。
この状況で、戦争の為の戦力の抽出元になれと言われて、はいそうですかと受け入れる国家が存在する筈もなかった。
ガルマン・ガミラス帝国に住む人々はガミラス人の同胞かもしれない。
だが、ガミラス帝国が先ず第一とするべきなのは民族的なガミラス人ではなく、ガミラス帝国であり、ガミラス帝国の臣民であるのだから。
この弁を聞いたデスラーは、思わず報告者を二度見したと言う。
それだけ、ガミラス帝国を私物の様に見ていたのだった。
「人気者は辛いな」
『全くだ』
笑う古代とバーガー。
だが、笑って居られたのはこの時までであった。
地球とガミラスの演習参加艦艇が終結し、各部隊指揮官が集められて行われた
ガトランティス帝国軍がガミュロン星系に接近していたのを発見したのだ。
大戦艦級10隻を含む200隻近い大艦隊である事が予想されていた。
混じりっけなしの凶報であった。
この場に集まっている艦艇は地球とガミラスを合わせても50隻に満たないのだ。
艦艇の性能で言えば大抵の場合、地球もガミラスもガトランティスを優越しているが、大戦艦級となれば話は変わる。
それに、性能が優越しているとは言え4倍の戦力差と言うのは中々に厳しかった。
近場の基地から援軍を呼ぶ事も検討されたが、援軍が来るよりも先に、ガトランティス帝国軍は襲来すると言うのがガミラス軍の参謀の計算であった。
地球軍側もその計算に同意していた。
逃げるが勝ち。
そう言う状況であった。
だが逃げると言う選択肢はガミラス軍に取れるモノでは無かった。
このガミュロン星が有人惑星 ―― ガミラスの一般市民が入植している惑星であるからだ。
ガトランティス帝国軍の襲来よりも先に、全ての一般市民を救出し、避難すると考えるのは現実的な判断では無かった。
「ガミラスの勇志諸君! どうやら我々は歴史に名を刻めそうだぞ」
戦意と言うモノに不足を感じないザルツ系ガミラス人のゲム・ガンツ中将が、いっそ朗らかと言える口調でガミラス軍の方針を明示した。
対して地球軍のブ・ウランフ中将も同意する様に頷いた。
「ガンツ中将閣下。我々も、地球=ガミラス共同防衛条約に従い出撃しますぞ」
戦争を、戦闘をするのに軽い口調で意見を述べるウランフ。
アジア系らしい
とは言え別に戦争が政治の従属物である事を理解出来ない訳でなければ、
地球=ガミラス共同防衛条約は自動参戦条項が含まれていたが為である。
これは宇宙の広さ故に決められていた事であった。
地球にせよガミラスにせよ、本星の政治的判断を伺おうにも距離があり過ぎて、回答が齎された時には機を失する危険性が高いが為の事であった。
とは言えこの場で、しかも劣勢であるにも関わらず、即答で参戦を口に出来る辺り、実に戦意に不足が無い人物であると言えた。
ウランフに向け誠意を込めて敬礼をするガンツ。
否、ガンツだけではない。
全てのガミラス軍人がウランフに敬礼を捧げていた。
「テロン人の勇気に感謝します」
「共に戦い、共に勝ちましょう」
答礼するウランフ。
その動きに、地球軍人も又、敬礼をガミラスに捧げていた。
集まった
かくして2209-ガミュロン星域会戦が発生する事が決定するのだった。
ド・グラース級
イスカンダルからの技術支援を受け実用化された波動技術体系、ヤマト型戦艦で実証されたソレを大々的に適用した新しい駆逐艦であった。
全長200m級の船体は、ガミラス戦役前の基準で言えば戦艦級である。
だが
主砲として30cm3連装陽電子衝撃砲を3基搭載し、それ以外にも大量のミサイル兵装を抱えている本級は、その船体の大きさ ―― ガミラス軍クリピテラ級航宙駆逐艦を上回っている事もあり、
但し、ガミラス軍から戦力として高い評価の与えられている本級であるが、その居住性に関しては極めて辛い評価を受けている。
コレは、200m級の船体に星系間航行能力や戦艦級の戦闘力を押し込んだ結果であった。
とは言え地球人 ―― 基本設計を担った日本からすれば8㎥と言う十分な個人空間を2等士まで用意しているので贅沢であると言う感覚であった。
この為、ガミラス人の連絡将校の乗船を受け入れた際に「本船は居住性も十分ですよ」と言ってしまった逸話がある。
尚、当の連絡将校は「食事は最上。戦闘力も良好。なれど居住性は○×△(ガミラス語での最大級の罵倒表現)」と感想を残して居た。
ここら辺の経験が、後のタカオ型巡航艦の設計に生かされ、迎賓館の様なと評されたゲストルームの内装に繋がる事となる。
2024.03.11 文章修正