序盤で死ぬ当て馬モブの俺、インフレ激しい百合エロアニメにて最強を目指す   作:霧夢龍人

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第17話

艶めかしくも慈愛に満ちた手で頬を撫でてくるサラカに対して、蛇に睨まれた蛙のように固まっている俺は今、命の危機に瀕していた。

 

「ねぇトオルくん。僕達って友達だよね?」

「ッあ、あぁ!もちろん友達でございますよ!」

 

「ふふふ、そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあそれなら───ちゃんと正直に答えられるよね」

 

ハイライトのない薄桃色の瞳でじっと覗き込んでくる主人公様は、俺の逃げ道を無くして正直に話すように語りかけてくる。

 

あ、オワタ。

 

思わずそう思ってしまう程の圧力と重苦しい雰囲気が合わさって、怖さのあまりチビりそうだった。美人が怒ると怖いってよく聞くが、サラカはその典型例だろう。

顔が整いすぎて、俺みたいな似非イケメンが並ぶと月とスッポン以下になる。しかも作中最強な上に頭もいいときた。

 

そんな原作者()からのアホアホ依怙贔屓能力で、ヒロイン達を尽く堕としていくはずなのだが・・・何故かその矢印が今、俺に向いている。

 

“本来”、こうしてサラカに抱き締められているのはメインヒロインである月見里(ヤマナシ) レイアさんの予定だ。

友達作りが大変で根をあげるレイアに、サラカが「友達?ふふ、僕以外は必要ないでしょ」と言って抱き締める名シーンなんだ。

 

それが、そのはずが───なんで俺なんだ?

 

・・・いや待て、まずはこの状況を打破するべきだ。これ以上変な噂がたったら、精神衛生上宜しくない。

しかし正直に話そうもんなら、今のサラカがどういう反応をするか分からない以上怖すぎて話せそうにないしな。

 

というわけで───。

 

「お、俺はサラカだけが友達だ!だからそんな唯一の友達を裏切るようなこと、する訳ないだろ?」

 

───話題を逸らすことにしました。

 

え、卑怯?あまりにも屑過ぎる?

うるせぇ!こちとら命と百合が掛かってんだよォ!

 

内心冷や汗を流しながら、逆にサラカを抱き締め返すような形で語り掛ける。サラカに()()()()()()ため、嘘を見透かされないように話を逸らす必要があるからだ。

 

若干ピクリとサラカの身体が硬直したような気がするが、そんなこと気にしていられなかった。

 

───『ま、マスター!・・・友達居なかったんだね』

 

「(泣くぞマジで。俺は今ここで泣き喚いてもいいんだからな!?)」

 

───『ちょ、やめてよね!?クール系気取ってる陰キャ男ってだけで吐きそうになるのに、それ以上属性増やさないで!』

 

「(ふふふ・・・、やるんだよ!今、ここで!)」

 

ステータスちゃんと絡みつつ、サラカの様子を伺いながらゆっくりと腕を離した。

抵抗なくするりと抜けたことに安堵したのも束の間、サラカが頬を真っ赤に染めて固まっていることに気付いた。

 

「・・・あれ?」

 

てっきり俺とステータスちゃんの会話を聞いていたと思ったのだが、当の本人は口をパクパクと開閉しているだけ。おーいと目の前で手を振っても、全く反応を示さなかった。

 

「さ、サラカさーん?」

 

試しに耳元で呼び掛けてみる。

すると体がピクリと跳ねて、赤くなった頬を隠すように頬を手で覆ってしまった。

 

「うぅあ・・・ぅぅ」

 

は?なにこれ可愛すぎか?───おっと、いけない。推しの貴重な照れシーンに脳が焼かれかけていた。推しの前では無力なのがヲタクの悪い癖である。

 

とは言え流石にこのまま放置する訳にもいかないので、数分ほど時間を置いて話しかけることにした。たっぷりと時間をかけて落ち着いたお陰で話せるくらいにはなったようだが、ずっと顔が赤いままだ。

 

あ、今覆った手の隙間から俺の事見て・・・目が合うとまた覆ってしまった。なんてベタな(困惑)

 

暫くそうやって手の隙間から視線を覗かせるサラカと目を合わせ、また目を覆うという謎の攻防を繰り広げていると、落ち着いたサラカが恥ずかしそうにハニカミながら上目遣いで覗き込んできた。

 

「君って結構、その、大胆なんだね?恥ずかしくてちょっと、驚いちゃった・・・よ?でも僕が世界で一番の友達か・・・ふふふ、嬉しいな」

 

「あっ(昇天)」

 

───『・・・なにこれ、もしかして私お邪魔だった?』

 

美少女+推しのハニカミとか、もうこれ一種の生体兵器だろ。世界で一番の友達なんて言った覚えは無いが、この笑顔を戦地に投入すれば瞬く間に戦争は止むに違いない・・・そしてサラカを手に入れようと、取り合いの戦争に発展するだろうなきっと。

 

でもここは百合エロアニメの世界。主人公は有り得ない豪運と天運を味方にしているから、そんな不幸な結末(バッドエンド)は起こりえない。

 

・・・はずなのだが、どうやら今日はそうともいかないらしい。

 

「あぁー!漸くみつけましたぁー!」

 

「え?───ぶへっ!?」

「へ?あ、ちょっと君ぃ!?」

 

可愛すぎる推し(サラカ)の笑顔に昇天しかけた俺。そこへ並では無い柔らかい感触、吹き飛ぶ体、迸る衝撃。

我が身へ突進してくる存在を認知した瞬間、五臓六腑が口から出そうになるほどの威力が体を襲う。

 

その刹那、地面に叩き付けられる感触とともに乗っかる柔らかいモノが呼吸を阻害した。この感触と言い呼吸のしづらさといい、どうやら俺は百合の神様に嫌われているらしい。

 

「なんだよもぉーーー!!またかよぉぉぉーーー!!」

 

「あちゃー、ごめんなさい。痛くありませんでした?」

 

「ぜんぜん大丈夫だ・・・ははは」

 

肉体の方はまだ大丈夫である。だが精神的にサラカとレイアの胸の感触を味わってしまったという、百合を見守る者としては最低最悪なことをしでかしてしまった。

 

最低だ、俺って。

なんて自己嫌悪に浸るも、事態は更なる悪化を見せた。

 

「それなら良かったです!それじゃあ、入学式の時の続きしましょ?」

「・・・ふふふ、なんだって?トオル君なら僕の方が先に先約があるんだけど?」

 

「ひぇっ!」

 

前門の虎後門の狼とはこのことだろうか。

桃色の髪をした少女は朗らかな笑顔を浮かべながら俺を抱き寄せ、プラチナホワイトパールの髪をした少女は凍てつく笑みを浮かべながら足を絡ませてきた。

 

おかしい、サラカはともかくレイアに関してはそんなに話していないし、仲良くなった覚えもないんだが。

 

「うーん。これじゃ、話し合いじゃ済みそうにないですね!」

「そうみたいだね。ってことで───やろっか!」

「はい!」

 

「おいちょっと待てって!」

 

なんでコイツらこんなに血の気が多いんだよ!ていうかこれ、サラカとコハルでも見た光景だぞ!?

もし俺がここで止めなければ・・・まずい、今自分が何処にいるか分からないが、また学校をボロボロにしたとなれば俺まで巻き添えを喰らいかねん!

 

優しいミカにこれ以上怒られるのは嫌だし、サラカとレイアはアニメでも王道カプだったため、是非とも仲良くして欲しいのだ。

 

だから、ここは全力で止める───ッ!

 

二人が武器を持って構えるのを見計らい、腰に提げたビームサーベルをレイアの大鎌へ、胸元から顕現させたマサムネをサラカの持つ刀へと添え───二人の放つ莫大な威力の攻撃をいなした。

 

「あらら?」

「ふふ、やっぱり止められちゃうか」

 

「武器を取り出す前に話し合えよ。てか話し合ってくれ、俺の胃に穴が空いちゃうから」

 

止められたのが不思議なのか首を傾げるレイアと、逆に嬉しそうな顔を浮かべるサラカに懇願する。

その二人は顔を見合せると、それもそうだと頷いて互いに自己紹介を始めた。俺を挟んで楽しそうに顔を歪ませる二人には申し訳ないが、王道カプも大好きな百合厨としては早くくっ付いて欲しいレベルである。

 

よし、とりあえずはこれでいい!後はおじゃま虫の俺が退散するだけだ。【天賦】から“路肩の石のような存在感(モブモブモブ)”を発動させ、二人の意識外へ潜り込んだ。

 

対象が姿を認識されている場合は使えない【天賦】だが、対象以外の何かに気を取られている場合は、無類の強さを誇る。

幾ら主人公やメインヒロインでも、俺の存在感の薄さには叶わない・・・どうやらこの勝負、俺の勝ちだ!

 

我ながら気持ち悪い笑みを浮かべながら、こっそりと二人の間から抜け出そうと力を込める。

 

「「へっへっへ!俺の勝ち」あれ、どこへ行くんだい?」

「こら、トオル君。そうやって逃げ出しちゃダメだよ」

 

・・・え?俺って今、路肩に転がってる石と同等の存在感しか無いはずだよな?

それなのになんで、俺の服を二人ともがっしり掴んで離さないんだ?

 

ギギギと油の切れたブリキ人形のようにゆっくり後ろを振り返ると、清々しい笑顔をうかべた二人が、細腕に青筋が浮かぶほどの力で俺の服を引きちぎらんばかりに握りしめていた。

 

思わず二人の背後に、恐ろしい貌を浮かべた般若面を幻視する。

 

「まさか君・・・」

「私たちから逃げようなんて」

 

「「思ってないよね?」」

 

敗北を確信した。

しかしそんな俺に、更なる追撃が畳み掛けられる。

 

─── 【識別ID:M08dd.esu】より、“超”特殊条件を達成。新たなる天賦を解放します───大成功しました。直ちに既存の天賦の才より上へと格上げ(ランクアップ)致します───成功しました。

これより、【上位天賦】“百合の間に挟まる男(エターナルデッド)”を取得致します───完了しました。

 

「は、はは・・・永遠に死ね、か」

 

とうとうステータスの自動音声にも貶されるようになった俺は、早く死んだ方がいいのかもしれない。

桃髪ゴリラと白髪ゴリラにギリギリと身体を締め付けられながら、俺はそう思ったのだった。

 

☆★☆★☆★

 

「死ぬかと、思った・・・うっぷ」

 

あれから数時間経ち、ベッドの上で屍と化すモブ。つまり俺。

二人の間に挟まりながら死んだ目で二人のイチャイチャを眺めていたせいだろう、妙に疲れてしまった。

 

百合厨だから二人のイチャイチャを見れてご褒美だろって?

甘い、甘すぎるっ!

二人が世間話に花を咲かせている間、俺はずっと間に挟まっていたんだぞ?元々相性が良さげな二人だから仲良くなるのはいい事だが、決して俺の服を離してくれなかった。

 

「なんで間に俺を挟むんだよ」

 

───『私は何を見せられてるんだろうって思ってたわ』

 

「助けてって念じたのに助けてくれなかった奴がなんか言ってるな」

 

───『女の子たちの間に挟まってた男がよく言うわね』

 

「ヴッ!?」

 

やめろォ!その言葉は俺に効く!

 

どうやら、的確に俺の傷口を抉ってくるステータスちゃんには人の心がないらしい。

そう言ったら“外付け人工知能”だから感情はあるし、マスターよりかは人の心に溢れてるわよ!と返されてしまった。

 

控えめに言って泣いた。

 

「結局あの後、サラカが靂楼ノ天凜(ヴォルフガング)からの依頼があるって言って退席してなかったら、もう少し拘束されてたんだと思うとゾッとするわ」

 

───『あら、そんなに辛かったの?』

 

「推しの笑顔は心臓に悪い・・・」

 

誤解を恐れずに言うなら、靂楼ノ天凜(ヴォルフガング)のお陰で推しの笑顔によって死なずにすんだのである。

大方怪獣やら怪人の出現などだろう。彼女達がいつも対処している類のもののため、俺が心配する必要はない。

 

だが何故だろう、少々きな臭いのだ。

例えばそう、コハルがオキザリスに入学してくる速さである。原作なら彼女は転校生として入ってくるはずなのに、一般生徒として潜り込んでいること。

 

そしてメインヒロインであるレイアの様子もおかしかった。

自己紹介した覚えがないのに俺の名前を知っていたり、俺に対してやれに距離が近い。

 

この原作との乖離は間違いなく、俺がトオルに転生?してしまった事が原因だろう。

 

「そうなると・・・もしかしたら“アイツ”が出てくるかもしれねぇな」

 

俺が思い浮かべるのは、第一部のボスにして最凶の敵である一人の女の姿。アイツが物語に絡んでくるのは、原作開始から約2ヶ月後だ。だから今の段階で言えばまだまだ余裕はあるが、油断は出来ない。

 

もしかしたらもう───()に出てきている可能性だってあるからな。

 

中庭に出てビームサーベルを構えながら、最悪の事態を想像する。第一部にしては強すぎる敵だからあまり関わりたくないが、俺も加勢するかもしれない。

今のうちに強くなっておくべきだ。

 

───

──

 

中庭にてビームサーベルを構え、一人佇む。

ステータスちゃんから教えて貰った通りの動きを真似て、それを反復練習で身体に覚えさせているのだ。

 

時は大動画時代。

動画内のモーションをトレースして動きを真似する、なんていうクソ高マシーンがある中で、俺はただひたすらに動きを学んでいく。

筋肉の動きがどうとか、関節の可動域がどうとか、間合いの管理の仕方だとか・・・そういう基本的なことを身に付けていっている。

 

まぁどうしても剣だけは我流になってしまうため、そこはトーカ先生に教えて貰うつもりだ。

 

───『そこ、重心の動きが鈍いわよ。あと体の軸が曲がってるから真っ直ぐにして。剣捌きは結構いいわ。でも調子に乗らずに、しっかりと相手の出方を伺うこと』

 

「っ、あぁ!」

 

数多に流れている動画を手当り次第に再生し、実際に使えそうな技術を盗み自分のものにしていくこの感覚が、俺は堪らなく好きだ。

 

筋力やスタミナを付けるトレーニングもこの後やるつもりだが、暫くの間俺はステータスちゃんによって、あーでもないこーでもないと動きを変えさせられたり目線を矯正されたりした。

 

よくこんなんでサラカと相討ちに持ち込めたと我ながら思うが、サラカと俺の相性がたまたま良かっただけなのだと後日悟った。

サラカは怪獣やら怪人を相手にする都合上、殺しに特化した【天啓】やらを持っているが、人と戦う時には手加減しないと死んでしまう。

 

これが試合ならいざ知らず、真剣に俺とサラカが命を懸けて戦った場合、何万、何千、何億と戦ってもサラカの勝利は揺るぎないだろう。

 

───『マスター、あなた真面目にやってるの?何そのへなちょこな脚捌きとバレバレの視線は何?ストレートで正直なのは良いけど、フェイントを仕掛けるくらいは知恵をつけなさい』

 

「く、そっ!やって、やんよ!!」

 

だから憧れる、その背中に。

いつかは手加減される試合じゃなく、真剣に勝ちを決める戦いをしてみたい。そのためには強くなっておく必要がある。

 

「ぜってーまけねぇ!」

 

───『ふん、その意気よマスター!あの僕っ子巨乳クール系娘をぎゃふんと言わせなさい!』

 

互いに士気を上げて特訓に励む俺たち。

その様子を暗い夜空から見下ろす人工の月が、明るく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへ、面白そうなのはっけん!」




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