異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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天子VSドスガレ!


天子はただのジャンプでMH4並みのジャンプ(操虫棍)ができます。


14話 砂中に潜むもの

「衣玖ッッッ!!!」

 

 

 突然舞い上げられた砂塵に、衣玖の軽い体は易々と持ち上げられた。体がくの字に折れ曲がり、そして宙を舞ったあと地面に叩きつけられた。

 いくら下が柔らかい砂だといっても、あの高さから受け身もなしで叩きつけられたら無事では済まない。

 

 

「っ!!」

 

 

 天子は、倒れた衣玖の元とへ急いで駆け出した。

 天子の顔は自分でも分かるくらいに真っ青になっていた。これまで感じたこともない焦燥感に駆られ、砂の大地に足を取られて躓きそうになりながらも天子は懸命に駆けていった。

 

 しかし、それは叶わなかった。

 

 

「何……コイツ……?」

 

 

 地中から姿を現したソイツの姿を見て、天子は否が応でも足を止めざるを得なかった。

 そいつは見上げるほどの巨躯で小高い山が出現したのではと錯覚するに足りるほどの体躯だった。細かい砂粒を纏った体表は黒ずんでいて、見た目は柔らかそうに見える。体の左右と背中にはまるで魚のような黒ずんだヒレが脈打つように蠢いていた。

 扁平な頭部に、裂けたように開く口。口内にはズラリと尖った牙が並び、その牙一本一本が天子の腕と同じぐらいの大きさだ。

 大きな頭部に反してあまりにも小さい目。砂色に濁った眼球には、目の前の獲物を狩り殺す好戦的な意思が浮かんでいるようにも見える。

 

 二人は知る由も無かったが、ソイツの名前はドスガレオスといった。

 天子が依頼のときに手に取ったガレオスのリーダー格の存在である。

 

 ドスガレオスは地中を潜り、衣玖が油断したところを足下から強襲したのだ。

 衣玖が最初に感じた空気の乱れは言うまでもなくドスガレオスのことである。ドスガレオスという強大な存在の出現により、自然と空気が乱れてしまったのだ。

 しかしそのあと衣玖が何も感じなくなったのは、ドスガレオスが地中を潜航して接近していたためである。地中の移動ならば空気に触れていないため、衣玖が感じ取ることができなかったのだ。

 

 ドスガレオスは衣玖の元へ行こうとする天子の進路を塞ぐように体を捻らせた。ドスガレオスからすれば僅かな動きでしかないが、その巨体さ故に天子にとっては進路を阻害された形になってしまった。

 

 

 ヴゴォォォ―――

 

 

 横幅に広い口を開いて威嚇するように天子に向かう。足踏みの振動が天子にも伝わってくる。

 どれくらい重いのだろうか、想像するとゾッとする。

 

 

「……この世界のモンスターデカすぎ」

 

 

 最初にオルタロスに対してつぶやいたときとは全く違う抑揚で天子は緋想剣を構える。

 どうやら簡単には通してくれなさそうだ。一度コイツの気を引いて離れる必要があるかもしれない。でないと衣玖の身が危険だ。

 そう思考に結論が行き届くと天子はドスガレオスに向かって飛び込むように駆けだした。

 

 

「っ!」

 

 

 幸いドスガレオスはその巨体が災いして天子の突然の俊敏な動きに対応できなかった。駆け出した天子に向かってあまりにも巨大な口を広げ噛みつこうとしたが、既に天子はドスガレオスの懐に入り込んで緋想剣を振っているところだった。

 

 

「せやあっっ!」

 

 

 巨体を誇るドスガレオスには背中への攻撃が届きそうにもない。天子は間近な巨体を支えている後足に剣を振った。

 しかし緋想剣はジャギィのようにすっぱりと敵の皮膚を穿ってはくれず、僅かに体表に傷を付けただけに終わった。

 

 

「くっ……硬い!」

 

 

 それはまるで石を削ったかのような感覚だった。手ごたえのない感覚に天子は密かに舌打ちを打った。

 ならば何度でも斬りつけるまで、と意気込んだ天子だったが、ドスガレオスもされるがままではない。奴も生き物なのだから、敵と認識した天子を放っておくはずがないのだ。

 ドスガレオスは懐に潜り込んだ天子を振り払うように、尻尾を振り回し始める。ついでにといわんばかりに足踏みをして天子を踏みつぶそうとしてきた。

 

 

「うわっ、危なっ!?」

 

 

 ドスガレオスの足は天子の比べ物にもならないほどの巨大さだ。足のサイズなど天子が屈めばすっぽり収まってしまう大きさだ。そんなのに踏まれでもしたら骨折どころの話では済まない。

 天子はたまらずドスガレオスの足踏み行進から抜け出し、尻尾の振り回しの範囲外ところで態勢を整えた。

 

 

「ずっと懐に留まりつづけるのは危険ね……後足も硬いし。一撃離脱でいかないと」

 

 

 一撃離脱は対モンスター戦での定石だ。

 モンスターは人間とは比べ物にもならないほどの体力を有し、かつその皮膚や鱗は剣さえはじいてしまう高い防御力を持つものもいる。その巨体から繰り出される一撃は下手すれば人間を一撃で殺しかねないような凶悪さを含んでいる。

 人間よりは頑丈である天子も、このモンスターの一撃を耐えられるかと聞かれれば、おそらく無理と答えるであろう。

 このモンスターは、それほどの凶悪さを秘めている。

 

 天子が懐から離れたと目視で確認したドスガレオスは天子に向かって威嚇を始めた。

 

 

 ヴォォォォォォ――――!

 

 

 天子はドスガレオスの威圧的な咆哮をビリビリと体に受けながらも、踏み出す足を止めずドスガレオスの側面から回り込むように接近する。

 振り回されるであろうと予測していた天子は、尻尾攻撃が当たる前に上空にジャンプをして尻尾攻撃を回避した。人間の身体能力を軽々と超えた跳躍力で極太の尻尾を回避、そして重力にのっとって落ちる威力を乗せた一撃でドスガレオスの背中を縦に斬り裂いた。

 振るわれた緋想剣は先程のように硬い体表に阻まれることなく、背中の鱗をはじき飛ばして皮膚に直接斬りつけた。斬りつけた拍子にそこから血が噴き出てくる。

 

 

「やった! 通った!」

 

 

 どうやら背中の鱗は比較的柔らかいらしい。剣が通ったことに喜ぶ天子だが、ドスガレオスは気に入らなかったようだ。

 

 

 ガァァァァァァァァァァ―――!!!

 

 

 傷を付けられたことに腹を立ててたのか、ドスガレオスは尻尾を無茶苦茶に振り回して闇雲に攻撃した。

 そこに着地して態勢が悪い天子に向かって尻尾が迫って来る。避けられないと直感で判断した天子はせめて悪あがきとばかりに緋想剣を横に添えて防御の姿勢をとった。

 

 しかし、刀身の細い緋想剣では盾にするには不向きだ。かつ天子の軽すぎる体ではドスガレオスの重すぎる攻撃に耐えることができない。

 尻尾に直撃した天子は強烈な一撃を受け体をふわっと持ち上がられ、衝撃を受けて後方の砂地に吹き飛ばされた。

 

 

「が、は―――っ!?」

 

 

 体がバラバラになってしまったかのような衝撃。痛みが神経を通じて全身を貫き、揺さぶられた頭がぐらぐらして平衡感覚が掴めない。三半規管が揺さぶられて軽い脳震盪を起こしているのだ。

 ガクガクと震える足腰を気合で叱咤し、顔から冷や汗を垂らしながらほぼ無意識でポーチを探って中にある回復薬を手に取り蓋を開けて一気に呷った。

 

 

「うっ―――まじぃ……」

 

 

 ティアの言葉通り、回復薬は酷く不味い代物だった。そこら辺の雑草を煮詰めて液を抽出したような今にも吐き出してしまいかねない味だったからだ。

 しかしこんな緊急時にそんなこと言っていられない。味が不味いからといって飲まなければ死につながってしまう。

 それにその不味さと効能が効いたおかげで脳震盪も足腰の震えも止まってくれた。味はともかく効き目は抜群のようだ。

 

 天子は回復薬の瓶をポイと捨て、口に付いた血を腕で拭き取った。

 叩きつけられたおかげで頭もすっきりしてきた。こいつは本気で相手にしないとこちらがやられてしまうと天子は理解したのだ。

 眼光をより鋭くさせる天子。それは強敵を相手にするときの狩人の目だ。

 

 

「背中は柔らかいけど、ジャンプしたら着地で痛い目をみる……ここぞというときにはいいかもしれないけど、リスクが高すぎるわね……」

 

 

 攻撃を受ける天子は大ダメージを負うが、対する向こうは傷一つくらいでは動じない巨大モンスター。ジャンプ攻撃はハイリスクローリターンのあまり使えたものではなかった。

 背中は柔らかいが危険。後足は硬すぎて刃が通らない。

 となれば他の部位を攻撃するしかない。

 

 

「生き物ってだいたい頭が弱点だけど……」

 

 

 頭部はどんな生き物でも大概弱点であるが、あまりにも分かりやすい弱点であるためその分硬い守りで防御していることが多い。人間でさえも頭蓋骨で脳を覆っているのだから。

 ドスガレオスも、頭部は堅固であるに違いない。ならば、と天子は狙いを定めてドスガレオスの頭部の近くに潜り込んだ。

 

 

「喉は、どうっ!?」

 

 

 縦に引き裂くように剣を振う。ドスガレオスの喉元を狙った一撃は、首の近くであるがゆえにドスガレオスも対処しきれなかった。

 ザシュッ、と景気よく引き裂かれた喉から大量の鮮血が溢れ、下で剣を振っていた天子の顔にも仄かに熱いそれがかかってしまった。

 

 喉は人間でも大量の神経や血管が通る重要な器官である。ここを痛めつけられてしまえば人間でも重症は免れないし、軽い揺さぶり程度でも人間は鞭打ちたように首が痛んでしまうことさえもある。それだけ喉は弱い部分なのだ。

 だから、天子は喉元を攻撃した。頭部に近いことから危険は大きいが、それだけのリスクに見合う結果を予想していたのだ。

 

 降りかかった血も気にせず、ドスガレオスの喉を斬りつけた天子は抜けるようにして退避していった。

 

 

「やっぱり、喉は弱いわね! 計画通り!」

 

 

 ニヤリと笑う天子。ようやく見出せた活路に、喜びを隠しきれないのだ。

 

 このまま攻撃を続ければ勝てる。

 

 天子は確信にも近い予想を立てた。油断せず落ち着いて行動すればこのモンスターもきっと倒せる、緋想剣の柄を強く握りしめて天子はそう考える。

 

 しかし、敵モンスターも、そう甘くはなかった。

 突然後足の曲げて大ジャンプを繰り出してきたのだ。

 

 

「うそっ!?」

 

 

 あんな巨体がジャンプするなんて、と驚く天子は急遽その場を離れ、ギリギリのところで天子自身も砂に突っ込むように緊急回避をした。

 

 

「ぶへ!」

 

 

 衝撃音とともに巻き起こった砂塵によって口の中に砂が入ってしまった。それも加えて回避した際の砂が入り込んできたらしい。。

 ぺっぺっと口内の砂を吐きだし、天子はドスガレオスをキッと睨みつける。

 だが―――

 

 

「!? 消えた……!?」

 

 

 目の前からドスガレオスの巨体が綺麗さっぱりなくなっていたのだ。真後ろで大ジャンプを繰り出してきたはずのアイツが、まるで雲隠れしてしまったかのように。

 天子は警戒するように四方を見たが、どこにもその姿は見当たらない。あるのは永遠に広がる砂漠と岩の山々。ドスガレオスのどす黒い巨体はその片鱗すら見せない。

 

 

(まさか、逃げた……?)

 

 

 自分の喉に食らわせた一撃がよほど効いたのだろうか。それならそれでいいのだが、天子は何故か釈然としない胸の内に引っかかっている何かを感じていた。

 

 ―――これで終わるはずがない。

 

 天子は警戒を解かなかった。漠然とした不安感が天子の心臓の鼓動を速めるのを助長していた。

 そして天子はこの最初の起こりを思い出し、彼女の不安感が表面化された。

 

 

(これは……最初のときと同じ! 地中からの攻撃……!)

 

 

 天子は地鳴りが始まるギリギリのところでその場から退避した。やがて噴水のようなもの凄い量の砂と轟音が響き、ドスガレオスが地中から間欠泉のごとく出現した。

 衣玖はこれにやられたんだ、と天子は大雨のごとく上空から降り注ぐ砂から頭を守りながら考えていた。こんなの受けたらと思うと背筋がゾッとしてしまう。

 

 

(衣玖……衣玖は無事なの!?)

 

 

 ドスガレオスとの怒涛の攻防に頭の意識から外れていた衣玖の存在に天子気づく。あんな強烈な攻撃を受けて無事なはずがない。安否を確認しないと、と考えた天子は砂が全て降り落ちた目の前の光景に驚愕を露わにする。

 

 

(っ!? 目の前に……!!)

 

 

 砂塵が晴れた先にはドスガレオスの凶暴な顔があった。奴は既にその巨大すぎる大口を広げ、目の前の矮小な存在を飲み込まんと一度首を逸らして勢いをつけている最中だった。広すぎる口は、天子一人を飲み込むくらいわけはなかった。

 天子は衣玖の安否に気をとられ過ぎていた。こんな凶悪な存在から目を一瞬でも逸らしてはいけなかったのだ。

 

 それが、命取りとなってしまう―――

 

 絶対に油断するな、そう言っていたロビンの言葉が今となってようやく理解できた。

 こんな奴ら、一瞬でも油断したら死んでしまう。

 

 

「しまっ――――」

 

 

 天子は急いで緋想剣を振りかぶろうとした。しかし、それはもう遅い。ドスガレオスが噛みつく方が圧倒的に速い。

 絶望に顔を歪ませた天子は、この世の全てから目を逸らすように、赤い瞳を閉じた―――

 

 

 ズドンッッッ!!

 

 

 グォォォォォォ―――!!?

 

 

「!?」

 

 

 死を覚悟した天子は、側面からの突然の轟音とドスガレオスの悲鳴のような咆哮に閉じた瞳をぱっちりと開けた。

 そこには首から焦げたような煙を出して後退させながらたじろいでいるドスガレオスの姿があった。

 ドスガレオスの近くでは青い稲妻がドスガレオスの周りで残り香のようにパチパチと瞬いていた。あの首元の煙は、稲妻攻撃を受けて焦げ付いたものなのか。

 

 

「まさか―――ッ!」

 

 

 その疑問の答えを求めるように、稲妻が打たれて焦げついた方向の空を見上げた。

 

 そこにあったのは緋色。

 美しき緋色の羽衣をなびかせて空中に浮かぶ姿は、さながら天女のようで。

 

 

「まったく、やはり総領娘様には私がついていないとダメですね―――」

 

 

 天子が最も心配していた相棒が、そこにいた。

 

 

「衣玖っ!!」

 

 

 名前を呼ばれた衣玖は、笑いかける。

 

 

「永江衣玖、ただいま戻りました」

 




衣玖「総領娘様がピンチだと聞いてきょうきょ地獄の底からカカッと復帰」

天子「ほう、経験が生きたな。ジュースをおごってやろう」
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