異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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オウフ、一万文字越えちった。
よく書いたものだと関心はするがどこもおかしくはない。


15話 天地無双

「衣玖、平気なの!?」

 

 

 天子はドスガレオスから一度距離をとり、奴の動きを逐一警戒しつつ衣玖に話しかけた。

 

 

「ポーチに入れた分の回復薬を全部飲みましたから、とりあえずは。おかげで口の中が酷いことになってます」

「……ああ、お察し」

 

 

 一本飲んだだけでも口の中が大変なことになるというのに、それをあるだけ全部飲んだとなればそれは相当酷いものだろう。衣玖も表情がややぎこちない。

 

 

「で、私がぶっ倒れている間総領娘様は少しでもあいつに有効打でも与えてくれたんですか?」

「……う」

「……その調子じゃ、大したダメージは与えられていないようですね」

「し、仕方ないじゃん。初めてのモンスターなんだし、衣玖が心配で動揺しちゃったんだし」

「……心配、したんですか?」

「え? そりゃ、するでしょ。あんな攻撃を受けて」

 

 

 衣玖が受けた攻撃はそのまま即死してもおかしくない攻撃だった。衣玖だったからよかったものの、あれが普通一般の人間であれば即死は免れ得ないだろう。天子が心配しても不思議ではない。

 衣玖は天子が自分を心配してくれていたのか、と意外に思ったのだ。確かに自分は天子とよく一緒にいたりしたが、それでも所詮比那名居一族の総領の娘と一介の龍宮の使い。違いがあり過ぎる。だから、衣玖は天子にとって自分は何でもないただの付き添いとしてしか見られていないと感じていたのだ。

 

 天子は違ったのだろうか。自分のことをもっと近しい間柄だと、心配してくれるような仲だと、そう思ってくれていたのか。

 

 そう考えると、衣玖は何だか自分が途端に恥ずかしくなっていくのを感じた。天子に無様な姿を見せてしまった。挽回しなければならない。

 

 今回は、このモンスターとの戦いの間だけは、この人に尽くそう、衣玖はそう決意した。

 

 

「総領娘様。油断して申し訳ありませんでした」

「いや、油断て……あれはどうみても仕方なかったでしょ」

「乱れが無くなって一瞬気を抜いたんです。そこを奴に突かれたんですから、油断としか言いようがありません」

「……なんか、いつもより謙虚ね」

「それほどでもない」

 

 

 普段より強情な衣玖に、ここで言い争っている場合ではないと天子は緋想剣をドスガレオスに向ける。仲間が復活したことで天子の心にも余裕ができた。

 

 

「さっさと、あの魚野郎をぶっ倒して帰るわよ!」

「はい、総領娘様!」

 

 

 そう叫ぶと天子はドスガレオスに向かって走り出し、衣玖は宙を舞って空中から接近を開始する。

 緋想剣を構えた天子と雷を纏い始めた衣玖に対してドスガレオスは先程手痛いダメージを負わせた衣玖に狙いを定め、大きく息を吸い込んで口から砂のブレスを吐きだした。

 ドスガレオスは、砂の海を泳いで溜まった砂を高圧縮してそれをブレスのように発射することができる。その攻撃はただの砂と侮ることなかれ、鉄でできた鎧を破壊してしまうほどの威力を有しているのだ。まともに直撃しようものならたとえ衣玖でもタダで済まない。

 

 

「むっ!」

 

 

 予備動作から自分を狙ってきていることを予期していた衣玖は砂ブレスで攻撃してきたことに驚きつつも、空中でひらりと躱した。

 

 

「当たらなければどうということはないんです!」

 

 

 やはり空中では三次元的に移動ができる衣玖がかなり有利なようだ。予想さえついていれば難なく躱すことができる。

 そして衣玖の役割は、ここでは囮である。

 

 

「おりゃあっっ!」

 

 

 ドスガレオスが衣玖に向かって射撃している間に天子は大地を蹴飛ばしてジャンプを繰り出した。さっきハイリスクローリターンといって取り止めにした技である。

 しかし、この場に衣玖がいるなら話は別である。衣玖が囮になって敵の注意を引きつければ、天子は悠々とジャンプで肉質が柔らかい背中へと斬りつけることができる。二人でこそのコンビネーション技である。

 躊躇なく背中へ大ジャンプした天子はその勢いのまま背中のヒレから縦一直線に剣で切り傷を負わせる。

 

 

 ヴゴォォァァァ―――!

 

 

 流石のドスガレオスもこの一撃にはたまらず悲鳴を上げ、背中にこびりついたハエを落とすかのように体をくねらせる。そして再び闇雲に尻尾を振いだす。

 

 

「同じ手を二度も食らうかっての!」

 

 

 砂塵をあげて着地した天子は着地の勢いを殺すように前方へ前転し、尻尾振り回しを回避する。そのまま反射的に飛び上がり尻尾が過ぎ去っていったことを風圧で確認すると天子は後ろ足の股の間をサッとすり抜けて喉元に緋想剣を斬りつけた。

 まるで風のような速さの攻撃にドスガレオスは対応できず、弱点の喉元を斬り裂かれる。流石にイラついたのか、首を闇雲に振り回して砂ブレスを四方八方にばら撒くが、当然天子はそんなところにいるわけもなく、もう一度喉に一撃をかます。

 ドスガレオスは首元にいる小賢しい羽虫ごときの人間を叩きつぶすべく、天子を巻き込んでの体当たりをくらわせようと態勢を低くしようとした。

 

 

 バチィィッッ!!

 

 

「上がお留守ですよ!」

 

 

 体当たりの構えをとったところで、上空にいる衣玖の雷撃がドスガレオスを襲う。球状の電撃を発射し、触れるとさらに分裂していく電撃の球がドスガレオスに襲いかかりドスガレオスの全身を電気の球が強襲する。

 ジャギィのように全身を焦がすわけにはいかず、直撃した箇所が僅かに黒点を作り上げるのみだが、それでも徐々に体力を削っている。ドスガレオスも生物なのだ、無敵ではない。

 

 天子と衣玖のコンビネーションが炸裂し、ドスガレオスに反撃の隙を与えない。天子が攻撃すれば衣玖が注意を逸らすために電撃を放ち、衣玖に矛先が向けば天子が緋想剣で弱点を攻撃して矛先を逸らすようにする。

 地を風のように駆ける天子と、上空を流れるように動作で回避する衣玖。

 

 天と地、お互いが互いの隙間を補うようにして戦う戦法、『天地無双』

 

 阿吽の息で攻撃とサポートを繰り返し、まるで一人で全てを動かして戦っているかのような人形師のような戦い。天子を操り、衣玖を操り、そして敵役であるドスガレオスさえも術中に嵌める。既にこの場は彼女たちの演劇舞台の壇上だった。

 

 攻撃の暇を与えてくれない二人の攻撃に、ドスガレオスはたまらずその場を離れて大ジャンプを繰り出して砂の海に戻る。経験上、天子も衣玖も奴の砂中からの攻撃に対処できなかったのだから、その戦法は妥当な判断である。

 しかし、二人が揃い、主導権を手中に収めた彼女たちは冷静に対処することを覚えていた。砂飛沫を上げて地中深くに潜ってしまったドスガレオスに対して、天子はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「同じ攻撃は当たらないって言ったでしょ!」

 

 

 そう吼えた天子は緋想剣を逆手に持ち替え、腰に力を入れて剣先を砂地にぶすりと深く突き刺す。比那名居の力を緋想剣に流し込んで剣を脈動させる。緋色に煌々と輝きブルブル振動する剣の柄をしっかり握って天子は宣言する。

 

 

「大地を操る私の能力(チカラ)をお見舞いしてやる!―――『先憂後楽の剣(せんゆうこうらくのつるぎ)』!!」

 

 

 剣に蓄積させた力を深く突き刺した剣先から地中へと放射する。地中へと拡散していった力を天子は確かに感じ取った。

 大地を操る能力を持つ天子。その力は大地に対して様々な地殻変動を及ぼす。隆起、沈下は当然のこと、その力の本分は―――

 

 ―――地震だ。

 

 力を地中に流し込んだ瞬間、剣先を刺した天子を中心に半径五十メートルの範囲に小さな揺れが起こり始める。横に僅かに感じる揺れは、比那名居の力が砂の大地に影響を及ぼし始めたことを如実に証明する。

 そして、数秒のラグのあと、一瞬揺れは止み、一際大きな縦に感じる揺れが一帯を襲った。それは一秒にも満たない一瞬の揺れであるが、地震の規模を示す震度に換算してみれば震度7近くの大地震であった。

 

 

 ガァァァァァ―――!!??

 

 

 地震は地中深くにいるほどその規模は強大になる。そして、増大された地震は砂中に潜っていたドスガレオス本体まで直接攻撃をしかけたのだ。

 絶対安全と思っていた砂の中での突然の攻撃に、ドスガレオスが驚いて飛び出してきたのだ。砂中から攻撃をしかけるドスガレオスは視覚よりも聴覚などが発達している。砂中にいれば鋭くなる感覚も、今回はそれが裏目に出てしまう。

 砂中から引きずり出されたドスガレオスはこれまで味わったこともない攻撃で感覚が麻痺してしまい、砂の上で痙攣したかのようにびちびちと跳ねる。その姿は奇しくも陸に打ち上げられた魚のようだ。

 

 

「チャンス! 攻めるわよ!」

「合点承知の助!」

「江戸っ子か!」

 

 

 天子はこの好機を逃さんとばかりに大胆にドスガレオスに接近して緋想剣を斬りつける。一度ならず二度三度。びちびちと跳ねて照準がずれることも厭わず、横倒れに倒れているドスガレオスの背中を斬りつけていく。体にこびりつく砂をはじき飛ばし、比較的柔らかい鱗も剣を何度も斬りつけることによって二つに斬り裂いて体表に直接攻撃を当てる。全力で振るうたびに息が切れていく体を無視して叱咤し、歯を食いしばりながら何度も何度も剣を振るう。

 衣玖も天子の反対側で羽衣で攻撃をぶち当てていく。ギルドでゲンにお見舞いしたよりも遥かに強力な一撃を力任せにドスガレオスに向けて放ち、衝撃で飛び散る砂の塊も何のその。羽衣に電撃を纏わせた正真正銘の『龍魚の一撃』は、ギルドで見せた不完全な龍魚の一撃とは破壊力が雲泥の差である。

 ここで遠方からの雷撃攻撃でないのかというと、天子が張り付いていて巻き添えを食らう可能性があるからだ。雷撃は威力は申し分ないがそのような細かい芸当を行うには不便なのである。

 二人ともこの攻撃に全てをかけた怒涛の勢いでドスガレオスを滅さんと攻撃を加えていく。しかし、ドスガレオスもただやられているわけではなかった。

 

 

 ヴォォオオオオアアアアアアアアアア―――――――――!!!

 

 

「ぐっ?!」

「回避―――ッ!」

 

 

 突然の大咆哮を上げて無我夢中に暴れはじめるドスガレオス。体を捻らせ、爆発するかのように尻尾をばためかせる。これ以上攻撃させてなるものかと言わんばかりの暴れ具合だ。

 しかし張りついていた天子と衣玖はたまったものではない。天子は伸びてきた尻尾の先端に当たって後方に飛ばされ、衣玖は空気を読んでのギリギリの回避で難を逃れた。狙って放った攻撃ではなかったため天子も大きく飛ばされたものの、すぐさま起き上がって再び剣を構える。

 

 一通り暴れて張りついていた天子と衣玖が離れたことを感触で感じたドスガレオスは強靭な後ろ足と柔らかい体を駆使して数秒とかからず体を起こした。

 ドスガレオスは離れた位置にいる天子と衣玖を威嚇していたが、やがて二人はドスガレオスが口から白い息を吐き出していることを目で確認した。

 

 

「白い息……?」

「息切れしているのよ! あと一息に違いないわ!」

「……そうですね、たたみかけましょう」

 

 

 そしてこれまでの戦法通り天子が突っ込んで衣玖がそれを援護して気を逸らすと言う戦い方で同じく戦闘を続行する。これで決着をつける気概で挑んだ攻撃が不発に終わっても、それに屈せず引き続き戦闘を絶交する不屈の精神は称賛に値するものであった。

 

 しかし彼女たちは、ここのモンスターの戦闘経験が圧倒的に少なかった。白い息は、ドスガレオスにおける怒り状態のサインであると。

 その経験の少なさが災いした。

 

 ドスガレオスは突如大口を開け、後ろに後退しつつもの凄い勢いで砂を吸い込み始めた。そこら辺りの砂を全て吸い込んでしまうのではないかと思われるその行動に、衣玖は不審に思う。

 

 

(……? 一体何を……)

 

 

 砂を飲み込んで何を、と衣玖は天子の援護をするために電気を溜めこんでいたが、その攻撃の要であった天子がそのドスガレオスの動きを見て衣玖にサインを送った。

 

 

「衣玖、防御!!」

 

 

 天子は砂を飲み込むこの予備動作を、先程の砂ブレスに酷似したものだと直感で判断した。そしてその矛先は接近して狙いを定めにくい天子ではなく、衣玖の方であることも。

 衣玖はここぞというときには野生の勘が働く天子の勘にハッとさせられ、防御に移るために急いで羽衣を大きな円盾(バックラー)のように何重にも巻いて整える。

 

 果たしてその攻撃は訪れた。

 辺り一帯の砂が低くなるほど吸い込んだドスガレオスは、その砂を吐き出すかのようにブレスを繰り出した。

 しかし、そのブレスの威力は先程放った砂ブレスとは雲泥の差で、それは砂の塊ではなく砂嵐そのものの一撃だった。ブレスは一帯を灰燼に帰す威力を持つ竜巻のような一撃で、空中に向かって放たれたにもかかわらず地上にも暴風が吹き荒れて放射状に砂が離れて散っていく。

 竜巻ブレスは防御の盾を構築し終えた衣玖に殺到し、盾を支える衣玖をその絶大な威力で押し始めた。

 

 

「あぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!!?」

 

 

 羽衣で構築した円盾が、ガガガ! と猛烈な勢いで削られていく。刀剣の刃と同等の硬さを持つ衣玖の羽衣がブレスの一撃でズタズタにされているのだ。同時に、到底考えられないような質量をもったブレスは、衣玖の膂力を持ってしても抑えきれないものだった。

 空中は機動力に優れるが、ひとたび鍔迫り合いの場面に持ち込まれる途端に押し負けてしまう弱点も持つ。地に足をつけての押し合いが実現できないためである。

 

 

「うぐぐぅぅっっ、た、盾が、もたない……ッッ!」

 

 

 大質量の攻撃で衣玖の羽衣の盾が限界を迎えようとしていた。風そのものが刃と化し、ただの小さな砂粒が弾丸となり得る竜巻は、羽衣で出来た盾の寿命を著しく削り取っていった。あと少しすれば盾が崩壊してブレスの直撃をまともに受けてしまう。

 それだけは避けねばならない。こんなのをまともに食らえば、生きて帰れる保証はどこにもない。

 衣玖は、多少のダメージを承知で決死の覚悟でブレスから逃れることにした。

 

 衣玖は猛烈な勢いで射出されるブレスに対して円盾の角度を慎重に調整する。吹き飛ばされてもブレスの餌食にならない角度を半ば勘で計算して盾をブレスに押し切られないように僅かに上向きに構えた。

 もう盾が壊れる―――そのときに衣玖は円盾に込める力を弱めた。

 

 

「――――ッッ!!!」

 

 

 呑まれる―――そう感じた衣玖は莫大な砂の奔流に押し流されて砂の大地に叩きつけられる。

 

 

「ガハ―――ッ!!?」

 

 

 背中から砂に叩きつけられ、肺からすべての酸素が吐き出されて一瞬息ができなくなる。意識が薄くなりかけるのを意志の力で打ち消してポーチから回復薬を探ろうとした。

 しかし、回復薬は最初の不意打ちで全て使い切って打ち切りである。マズイ、と感覚がなくなりかけたとき、天子が駆け寄って身を寄せた。

 

 

「衣玖!! 回復薬を……!」

 

 

 天子は衣玖の回復薬切れに気づいており、衣玖が墜落したと同時に衣玖の元へと駆け寄っていった。幸いドスガレオスは攻撃で手が出せない状況だったのですんなりと近づくことができたのだ。

 天子は衣玖の顔を膝に置き、回復薬を口に押し込む。一瞬衣玖が苦い顔をしたが無視してもう一本瓶を開けてさらに口に押し込んだ。

 

 

「うぐ―――げほっ、げほっ!……も、もう結構です」

「そ、そう……?」

 

 

 三本目まで投入しようとした天子の暴挙を衣玖は手と口で大丈夫アピールして未然に防ぐ。これ以上は天子が攻撃を受けたときの分まで無くなってしまうし、なにより不味くてもう飲みたくない。動けるからもう平気だと衣玖はよろよろしながらも自分の足でしっかりと立ち上がった。

 

 

「……まさか、あんな強力な攻撃があるなんて。あんなの、まともに食らったら流石にヤバいって」

「そうですね……私も、直撃だけはなんとか避けようとしましたから。……総領娘様、回復薬の残りは?」

「あと四本。二本衣玖に渡しておくわ。次は助けられるか分からないから」

「…助かります」

 

 

 天子は衣玖に回復薬を手渡す。衣玖はそれを大事そうにポーチに仕舞った。

 

 

「……今更だけど、こんなの新人の私たちが挑むような相手じゃないわよね」

「ホント今更ですね……奴さんは絶対に逃がしてくれないでしょうけど」

「やっぱ、倒すしかないわよね……ハァ、不幸だわ……」

「ですが、相手のあのブレスは最終兵器だと思います。相手も、相当に追い詰められているのでは?」

「そう考えるしかやってられないわよね……」

 

 

 天子は疲れたように重い溜め息を吐き、気持ちを入れ替えるように緋想剣を強く握りしめる。

 

 

「……よし! 気合入れてあの魚をぶっ叩くわよ!」

「私、この戦いが終わったらあったかい布団でスヤァするんだ……」

「ちょ、おまっ、この状況でそれだけはマジでやめて!!」

「冗談です。最後まで気を抜かずに頑張りましょう!」

「フラグって冗談で折れるものなのかな……?」

 

 

 天子は衣玖の冗談にかなり本気で心配し始めた。さっきもフラグを回収したばかりなのだから、無謀なフラグを立てないでほしい。

 そして、二人は己が場所へと行ってブレスの硬直が解けたドスガレオスに向かって攻撃をしかけた。

 

 

 

 

 

 

 太陽が地平線に近づく。巨大な太陽を湛えた夕焼けをバックに、黒い三つの影が激しく動き回っていた。

 

 

「せああぁぁああああ!!」

 

 

 元は長かった青髪を長いもみあげだけを残しバッサリと肩口で切った緋色の剣を振るい、風のごとく駆ける天子。

 

 

「く、らえっっ!!」

 

 

 空中で電撃を放ち、ときに狙われるブレスを流れるような動きで、しかしギリギリで回避する緋色の衣を纏った衣玖。

 

 

 ヴゥォォオオオオオ―――――!

 

 

 二人の怒涛の攻撃をときに受け、ときに攻撃するドスガレオス。

 

 三者の攻防は最初の出会いからすでに一時間近く経過していた。その間にも彼らは休むことなく常に気を張り詰め、一瞬一瞬の攻防に全ての気力を振り絞っていた。

 疲労はとっくの昔に限界を迎えている。手足の感覚は既にどこかに行ってしまったし、今動いているのはおそらく気力だけをエネルギー源にして動かしているのだと思う。何を考えているのか、思考が自分の意識から離れて自動操縦に切り替わっているため把握すらままならない。

 とにかく自分の今成すべきこと、ただそれだけを第一原理に据えてこの体は動いているのだろう。

 

 この場で成すべきなのは、目の前のドスガレオスを倒すこと。

 ただ、それだけ。

 他のことなど、考える必要などない。

 

 天子はドスガレオスの尻尾振り回しをかいくぐり、後ろ足目がけて剣を振り下ろす。当初こそあまりの硬さに辟易していた天子だが、剣を鱗と鱗の境目にいれて傷つけることによって硬い鱗を剥がしやすくなることを覚えた天子は専らそれを実践している。

 喉元は鱗が少なくて斬りつけ易いものの、やはり頭部に近いということもあって危険が伴う。とうに回復薬などきれてしまった今の状況ではリスキーな行動には出られないのだ。

 

 稲妻のような鋭い雷撃を放つ衣玖は、あくまで天子の行動を阻害しないように同時攻撃をしていた。疲労も限界に近い今の状況でチマチマと攻撃していくには幾分体力が少ない。

 故に、一応天子の援護をしつつ自らも雷撃攻撃をドスガレオスに直接当てていたのだ。相性の問題なのか、雷撃攻撃はドスガレオスに有効なダメージを与えているようにもみえた。だから、ドスガレオスもブレスで衣玖を積極的に狙っていた。

 

 

「はあっ、はあっ……!!」

「ぜえ、ぜぇ……!!」

 

 

 二人とも肩で息をしつつも攻撃の手は緩めない。

 剣と雷。斬撃の雨に電撃の暴風。

 異なる種類の攻撃をドスガレオスのどす黒い体に既に数えきれないほど叩きこみ、何重にも傷を重ねさせた。それにもかかわらず一向に倒れる素振を見せないドスガレオスは、正真正銘の化け物であった。

 

 ここまでくれば意地の張り合いだった。

 どちらが先に倒れるか。どちらが先に体力の限界が訪れるか。

 

 天子と衣玖のタッグが凶撃に倒れるか。ドスガレオスが小さきものの執念にやられるか。

 

 沈みかける夕日が地平線の底に消えていくまでには勝負はつく。天子と衣玖は己の疲労蓄積度を考えてもそうなるだろうと思っていた。

 天子は取り落しそうになる緋想剣を気力だけで握り直し、もはや敵の攻撃など関係あるかと言わんばかりの決死の特攻をかけた。

 

 

「負けて、たまるかあぁあぁあああああああああああ!!!!」

 

 

 それはこの持久戦を負けたくない、そのただ純化された想いだけが乗せられた一撃だ。勝ちたいのではなく、負けたくない。ただ目の前に現れた壁にへこたれたくないという諦めの悪い根性、草根の食んででも負けてたまるかという泥沼の精神から起こるものだった。

 天子の純化された想いが乗せられた一撃はこれまでのどの斬撃よりも鋭く、真っ直ぐな剣となった。残り少なかった後ろ足の鱗を真上から叩き割り、守るものが無くなった体表を深く深く斬り裂いたのだ。

 

 鮮血が迸るとともに、ドスガレオスは疲労の蓄積により足のバランスを崩して横に転倒した。天子の純粋な想いが、最期の粘りを見せたのだ。

 しかし、それが全力の最後だったのか、天子は緋想剣を地面に取り落し、自身も膝を折って砂地に座り込んでしまった。立とうとしても力が入らず、どうすることもできない。

 

 天子は残りの力を振り絞り、叫んだ。

 残された、最後の希望を。

 

 

「衣玖ぅぅううううううううううっっ!!!! とどめをぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

 

 

 空に向かって吼える。

 それに衣玖は、呼応した。

 

 

「『エレキテルのッッ龍宮(りゅうぐう)』ッッッ!!!」

 

 

 衣玖は残っているありったけの魔力を全て電撃に変換し、ドスガレオスの頭上目がけて電流を流した。空気を伝った電流は即座にはじけて電撃となり、ドスガレオスの頭上で爆発するように四散した。

 四散した電撃はドスガレオスに向かい、体全身を莫大な電流の束が襲った。空から鋭い槍が降って来たように、ドスガレオスは電撃の槍に縫いつけられる。

 

 

 ヴゥオガアアアアアアアアアアアアアアア―――――!!!

 

 

 衣玖の最後の攻撃を受け流すこともできずに直撃した。雷撃の雨はドスガレオスの体内を暴れまわり体内の器官をズタズタに内部から破壊していく。凶悪すぎるその攻撃にドスガレオスは絶叫ともいえる咆哮をあげた。

 最後の爆発的な衝撃にドスガレオスの近くで座り込んでいた天子は呆気なく吹き飛ばされて起き上がれなくなる。唯一動く顔だけを僅かに動かして事の成り行きを見逃すまいと網膜に焼き付ける。

 

 やがて電撃が青い余波をバチバチ鳴らして消え去る。大量の砂塵を巻き起こした攻撃にドスガレオスは一体どうなったのか、衣玖はもはや空中に浮かぶ体力も失って砂の上で膝をついた。

 これでドスガレオスがまだ立っていれば、自分たちの負けだ。攻撃を続ける力もなければ逃げ帰る力もない。悔しいが、弱肉強食が象徴するようにドスガレオスの胃袋の中に収まって終わるだけだろう。

 

 横風に煽られ、砂塵が晴れる。

 砂塵の向こうに見えたのは、片足のみで膝立ちをし、断末魔の叫びをあげる強者の姿だった。

 

 

 ヴォォォォォ――…………

 

 

 切ない最期の咆哮を天に掲げ、この世に受けた生を全うし、やがて勢いよく頭から地面にへと倒れた。

 シン、と久々の静寂を取り戻す砂漠。夜の訪れを告げる東の夜空に、星々がひらめき始める。そんな幻想的な光景を背景に、ドスガレオスはピクリとも動かない。

 

 二人はしばらく呆然としていたが、数秒経ってもドスガレオスが起き上がらないことからドスガレオスがこと切れたことをようやく知った。

 

 

「………………やっ、た…………?」

「…………倒した、んですか……?」

 

 

 息が止まるような感覚。

 真実であってくれと切に願う自分がいる。

 

 

「衣玖……わたしたち、」

「やったんですよ……アイツを、とうとう倒したんですよ」

 

 

 砂漠に横たえるドスガレオス。遺体となってもなおその巨大さはあまりにも克明で、明確だ。

 自身の手で、己の力で、この砂漠の強者を倒した。食物連鎖の頂点に近い存在のこの最強の一角をFランクの自分たちが屠ることができた。

 体は疲れ、痛みと疲労で苦しめられ、綺麗なものとは呼べないかもしれないが、それでも勝ったのだ。

 

 衣玖は天子の元へ這い寄るように近づき、天子も匍匐前進の要領で衣玖に近づく。

 互いに拳を出し合い、それをゴツンと軽くぶつけ合った。

 

 

「……お疲れ衣玖」

「そちらこそ、総領娘様」

 

 

 砂漠の夕暮れが、終わりを告げようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に夜の帳が降り、大地と太陽が静かな眠りについている夜中。

 

 篝火を焚いていた不眠の砦において、夜警の任に就いていた駐屯兵が砦の門付近で気絶して倒れている二人を発見した。

 

 その二人は少女で何故か着ていた服がボロボロであった。

 

 事情有りと見た兵士は少女二人のポーチを探り、その中から大量のモンスターの素材とギルドカードを発見して冒険者だと判断した。

 

 二人は一向に目覚める気配が無く、その兵士はモンスターにやられて命からがら戻って来たのだろうと思い込み駐屯兵の詰め所で上司に事情を説明してそこで寝かせておくことにした。

 

 取り調べは後日目覚めてからという判断の元、夜中に目覚めて勝手に街を徘徊しないように女性兵士を見張りにつけておくということになった。

 

 そうして天子と衣玖の長い一日がようやく終わろうとしたのだった。

 




MHFぷれいしたことある方ならお分かりでしょうが、このドスガレオスは通常種のくせに変種の動きが混ざっています。竜巻ブレスですね、2ndGではそんなのありませんから。
ドスガレオスって攻撃パティーンが少ないでしょう?だから他から取り入れたんです。こまけこたぁいんだよ!
そのために天子と衣玖が苦労する羽目に。ハハッ


天子・衣玖「「私の怒りが有頂天になった」」


ちょ、やめt
アーーーーーッ!!
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