異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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タイトルが適当すぎて自分でも変過ぐると感じてしまう。


19話 ザックと夜

 さて服を選び終わった二人は、ドスガレオスとの戦いで消耗した持ち物の補充にティアの店にやって来た。

 

 

「そういえばここの店の名前ってなんて言うの?」

「え、外に看板立ててあったでしょ」

「……もしかして『冒険者御用達』?」

「もしかしなくてもそうだけど」

「客寄せのキャッチコピーかと思ってた……」

「もう少し名前を捻った方が……」

 

 

 天子と衣玖は、カウンターの前でティアと何気ない会話に勤しんでいた。ティアは、一応店員らしくカウンターの棚から注文のあった品を取り出していく。

 

 

「回復薬、と……二人分で、前買ったときより追加でもう二本欲しいんだっけ? 一昨日買ったばかりなのに、もう回復薬使い果たしたの?」

「面目ないです」

「いやいや、店側からしたら儲かるからいいんだけどね。でも、何でそんなに一気に無くなったか気になるじゃん? 何の依頼に行ったの?」

「ジャギィ十五体討伐」

「雑魚じゃないですかー。そんな相手に回復薬を浪費したの……?」

「いえ、実はですね。帰る途中にドスガレオスというモンスターに襲われまして」

「ドスガレオス!?」

 

 

 ティアはガタンとずっこけるように椅子からずり落ちた。商品は流石に落とさなかったが、下手すると落ちていたかもしれない。それほど見事なコケっぷりだった。

 漫才に出るといい線行くかもしれない。

 

 

「ドスガレオスってCランクの?! アイツに会っちゃったの!?」

「やはり、有名なのですか?」

「そりゃ、砂漠の境の町にいる以上絶対一度は耳にするモンスターだよ。砂を泳ぐモンスターで“砂竜”って呼ばれてるんだけど、砂漠にしか生息していないのね。普段は大砂漠の方で遊泳してるんだけど、この時期になると繁殖期でこっちの砂漠にやってくるんだ」

「繁殖期……だからあれだけ凶暴だったんですか」

「子供を産むために神経質になるからね。冒険者に対して凶暴になるんだよ。……だから回復薬が無くなったんだ」

「ええ」

 

 

 なるほどねー、と納得したようにティアは椅子に座り直す。買い物に来たというよりはお話をしに来たようにも見えるが、店員であるティアは何も言わないし、客も二人だけだから気にしていないのかもしれない。

 店員が店員らしくしていないからこの店は繁盛していないのかもしれない。

 

 

「よく逃げ切れたね。ドスガレオスがそんな状態だから逃げるのはなかなか至難の業なのに」

「いや、討伐しましたので逃げる技術なんて要りませんよ」

 

 

 衣玖の言葉に、ピタと固まるティア。

 

 

「……聞き間違い? 討伐したって聞こえたんだけど」

「はい。だから、ドスガレオスを討伐したと」

「…………ええ!? 嘘でしょ?!」

「本当ですよ。証拠の素材はギルドで売り捌いて手元には無いですけど、ギルドが今頃事実確認で砂漠に派遣部隊でも送っているんじゃないですかね」

「だって、貴方たち一昨日に新規登録したばっかりでFランクでしょ? FランクがCランクのモンスターを討伐したなんて聞いたことないわ!」

「なら私たちがその先駆者になったわけね。私と衣玖の伝説がこの町から始まる!」

「伝説は言いすぎでしょう……ドスガレオスとの戦いだって、本当にギリギリだったんですよ。最初に不意を突かれて私はいきなり全部回復薬を使う羽目になりましたし、帰りは町の入口で気絶してたらしいですし」

「倒すこと自体有り得ないんだって……」

 

 

 ティアは驚きの溜め息を吐いた。有り得ないって、と何度も繰り返している辺り本当にありえないことなのかもしれない。

 しかしこの辺りの感覚が、異世界出身である天子と衣玖には理解できなかった。有り得ないと言われても、ドスガレオスは普通に強かったくらいの感慨しか抱けないのである。

 

 

「何者なのよ貴方たち……」

「砂漠でぶっ倒れていた一文無しの二人組ですよ」

「何それ……まあ、いちいち聞かないけどさ」

 

 

 聞かないでくれたことに露骨にホッとした天子と衣玖であった。異世界人だとか、言うわけにはいかないからである。言ったところで信じてもらえないだろうが……。

 

 

「それで、ドスガレオス討伐で潤った懐でアイテムの補充というわけです」

「へいへい。んじゃ、多めに入れとくね」

 

 

 回復薬やその他の必需品を前よりも多く入れてもらい、衣玖はお金を支払った。服を買ったせいか残金がそれほど多くない。やはりどこの世界でも服は高いと再認識した衣玖だった。

 

 

「でも、ドスガレオスを倒したっていうなら、ランクアップ試験もすぐだろうね」

「ランクアップ試験?」

「あれ、ギルドで聞いてない?」

「総領娘様、何か言ってましたか?」

「『聞いてないな』『何か言ってたっけ?』『私のログには何もないな』」

「何一人三役してるんですか。ともかく、言ってませんでしたよ」

「んじゃ近々説明があるかもね。ランクアップ試験っていうのは今のランクから上に上がるための試験のことだよ。それをクリアしたらランクが上がるんだ。詳しいことはそのときにギルドから説明があると思うよ」

「試験というのは……依頼ですか?」

「そうだよ。冒険者だからね」

 

 

 冒険者だから、そう考えれば確かにその通りだ。冒険者という仕事をしているのだから依頼が試験内容になるのは至極当然のことだ。これが筆記試験だったとしたら拍子抜けもいいところである。

 

 

「そんなことより、貴方たちドスガレオス討伐したんでしょ? その素材ってどうやって持って来たの? 持ってるのポーチだけだよね、もしかして手で持って帰って来た?」

「……それしか方法がありませんでしたから」

「あちゃー……いきなりそんな大物に当たるんだったら初めからザック渡しておけば良かったね」

 

 

 ザック? とハテナマークを浮かべる二人をよそに、ティアは奥でまたもやゴソゴソと何かを探していた。

 戻って来たティアは両腕で大きな鞄を抱えていた。

 

 

「それがザック?」

「まあ背中に背負う鞄の一種だよ。旅する用の大きなやつだけど」

 

 

 ティアが持って来たのは天子の体高ほどもある大きなザックだった。本体は白色で統一されており上部の蓋になっている雨蓋は澄み渡る青空のような青色になっている。前面のフロントポケットやサイドポケットも同様の配色となっていて蓋は青色である。ショルダーベルトと蓋を固定するベルトは革と金属で出来ており、年季は入っているがなかなかしっかりしたもので簡単にちぎれたりしなさそうである。

 

 

「綺麗な色ね」

「そうだね。天子ちゃんの鮮やかな青髪とよく似た色だからかな、天子ちゃんと凄くマッチしてる」

「そう?」

「なんなら背負ってみれば?」

 

 

 天子はティアから渡されたザックを背負ってみた。

 

 

「あ、似合う! 旅する女の子って感じ!」

「確かに、似合ってますね。何故か釈然としませんが」

「私は衣玖が何で事あるごとに否定するか釈然としない」

 

 

 天子はジト目で衣玖を睨むが、衣玖はもう見慣れたと言わんばかりのスルーぶりで躱した。やはり付き合いが長ければ相手の対処方法も分かるというものである。

 

 

「ポーチには大きな素材は入らないからね。これだったら余程大きいものじゃない限り大抵は入るよ」

 

 

 確かにそのザックはかなり大きなものであり、モンスターの素材もかなり詰め込めそうである。

 天子は雨蓋をぱかぱか開いたり閉じたりして中にどれくらい入るかを確認していた。

 

 

「まあ、確かに素材持って帰るのは面倒だったし……」

「買うんですか?」

「どちらにしろ必要でしょ。だったらどうせだしここで買っておきましょうよ」

「そうですね」

「毎度あり~」

 

 

 天子は空色のザックを購入した。

 これで買う必要がある物が全て揃い、今日の予定が終了した。

 

 

「これで一応予定は終了したわけですが」

「もう特に予定はないでしょ? 宿に戻りましょ。夜にはアリアを呼んでるわけだし」

「では戻りましょうか。ティアさん、ありがとうございました」

「また来るわね」

「どうぞ御贔屓にー」

 

 

 天子と衣玖はのんびりと手を振ってくるティアに手を上げて返し、宿へと戻ることにした。

 高い天辺にあった日はやや西向きに傾きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 ランデルの町に日が落ちた。世界が闇に包まれ夜が訪れた。

 天子と衣玖にとって四回目の夜となる。元の世界と同じように一つ明るい月が昇り、辺りは暗闇が支配する世界へと切り替わる。

 けれど、僅かに違う点も見いだせた。

 

 

「ここの町は、明るいね」

 

 

 天界に住んでいた天子にとって、夜は暗いものだった。それはこの世界でも変わらない。

 だが、この世界では夜でも活動している人間が多い。そんな人たちがいるから、通りにもぼやっと灯る照明が灯っているのだ。

 蛍雪の功、とは言うが雪も降らないし蛍もいない天界では活動できるのは昼間だけであった。太陽が世界を支配している間だけ、ささやかに生きていることができたのだ。

 

 

「そうですね」

「天界での宴会くらいね、夜でも明るかったのは。篝火焚いて、ね」

「………」

 

 

 木枠にはまった窓ガラス越しの風景を見ながら、天子は今となっては遠いものとなってしまった世界を思い出していた。

 どこまでも続く空に浮かぶ悠久の大地。大海のごとく見下ろせば広がる雲海。享楽に耽る天人、天女たち。天界を統べる、総領がおわす豪邸のごとくそびえ立つ自分自身の屋敷。

 そして、そんな、極楽ともいえる世界のさらに恵まれた地位にいる、退屈そうに自室で鏡を見つめている自分……。

 

 

「総領娘様、」

「何?」

「帰りたいですか、向こうに?」

「………」

 

 

 天子は振り返らない。後ろから声をかけてくる衣玖に、振り返ろうともせずただ外の暗闇に視線を投げかけ続けている。

 宿屋街の通りは入口に掛けられた照明以外、真っ暗だった。大通りと違い、夜になれば完全に客が寝静まるからこの辺りは静かなものだった。

 

 

「…今のところは、そうは思わないわね」

「理由を伺っても?」

「単純よ。こっちの方が、退屈しないもの。不良天人って呼ばれて蔑まれ疎んじられて退屈な生活を送るくらいならこっちの方がよっぽど有意義で健康的だもの」

「ですが、ここは天界のように危険が無い安全な場所ではありませんが?」

「それこそ、願ったり叶ったりよ。私が何のために“異変”を起こしたと思ってるの」

「……そうですね。総領娘様はそういう方でしたね」

「そういう衣玖はどう思ってるのよ? 帰りたいの?」

「永住したいかと聞かれたら謎ですがね。総領娘様と同じですよ、基本的に。ドスガレオスのときには酷い目を遭わされましたが、何だかんだ言ってここの人たちは一部を除いていい人たちでしたし」

「ロビンの家族とか、ティアとか、受付のお姉さんとかね。皆優しかったもんね」

 

 

 特にロビンのところには短い間でもとてもお世話になった。困ったことがあればすぐにでも駆けつけようと二人に思わせているほどに、あの家族には良くしてもらったのだから。

 ティアもお人好しが過ぎるが、とても素直な子だったし、受付嬢のアンナも交わした言葉はそう多くないが悪い人ではないのが分かる。

 人間にほとんど触れたことがない天子は、彼らの、人の温かみにとても暖かいものを心に感じていた。

 

 

「………」

「どうしました?」

「いや………幻想郷の人間も、ここの人たちみたいに良い人だったのかなって思って。もしそうなら、“異変”なんて起こして、ちょっと酷いことをしたかも」

「おや、帰りたい理由ができました?」

「まさか。ちょっと思っただけよ、帰りたい理由にはなんないわよ」

 

 

 天子は窓際を離れ、自分のベッドに腰かけた。木でできた骨組みに布団を掛けただけの簡素な造りのベッドは、現代のベッドと違って柔らかくもないし科学の精密な計算で生まれたバネなんかも無い。

 向かい合うように腰かけた天子はぼふっと後ろに倒れてベッドの心地に身を委ねた。

 

 

「それに、仮に帰りたくても帰る方法が無いんじゃどうしようもないじゃない」

「それもそうですね。あの妖怪がこちらに放り投げたせいでこの世界に飛ばされる羽目になりましたからね」

「ホントよ! 帰ったらあの妖怪、緋想の剣でボコるわ……」

 

 

 思い出したかのように怒りを奮闘させる天子。ベッドに倒れた態勢で剣を振り回そうとするモーションを取りつつ、天子は会話の中でたどり着いた自分自身の目的を言葉に出す。

 

 

「……とりあえず、この世界を楽しみつつ、暇があれば元の世界に戻る方法を探るって感じかしら」

「帰るのは二の次なんですね……」

 

 

 そう衣玖が言葉を漏らしたとき、部屋をノックする音がした。

 

 

「天子さ~ん、衣玖さ~ん、約束通り来ましたよ」

 

 

 アリアの声だ。仕事が終わったら部屋に来ると夕食のとき言っていたので、その言葉通り二人は寝ないで待っていたのだ。

 

 

「これから若い女子のトークが繰り広げられるのは確定的に明らかね」

「むしろそれ以外考えられませんから」

 

 

 そんな応酬を広げつつ、衣玖は「今鍵を開けますね」とベッドから立ってドアの近くに寄って行く。鍵は当然内側からかけるもので、現代のようなオートロックは当然ない。

 ここで働いているアリアならマスターキーがある場所も当然知っているだろうが、今アリアはここの従業員ではなく部屋に遊びに来た友人扱いであるから宿屋とは一切無関係だ。

 

 天子はベッドの上でこれからこのことを漠然と妄想して、まずはアリアとの女子トークだなと結論づけて部屋に入って来たアリアと夜のお話を始めるのだった。

 




女の子ばかりでるのは仕方のないことだけど、同年代の男キャラもなんとか出したいなあ。今のところおっさんばっかりになってる^^;
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