異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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東方成分なくなっていくぜー!ここからは東方じゃない何かとして見てください。


2話 気づいたら異世界

 目が覚めるとそこは砂漠だった。

 

 

「いや、何でやねん」

 

 

 自分の遥か上空に位置する太陽。燦々と照りつける直射日光は、足下の砂粒を焦がして鉄板を焼き付けたような熱さを感じさせる。

 本来なら涼を運んでくる風も今ばかりはただの熱風に成り下がっており、全くと言っていいほど貢献していなかった。

 先程までの楽園のような風景からのあまりの落差に、天子は帽子ごしに鬱陶しげに太陽を見やった。

 

 

「おいおい、何なんですかこれはぁ? このありさまはぁ?」

「異世界トリップモノですね分かります」

「おい衣玖自重しろ」

 

 

 足を踏むと得られる感触は砂がずぶりと沈み込む感覚。これまでほとんど味わったことのない感覚に天子は若干ながら興奮した。

 

 

「ねえねえ衣玖。私、砂の感覚なんて凄く久しぶりなんだけど! それにこんな細かい砂初めて!」

「そうですね……天界には砂の土地なんてありませんし、幻想郷はそもそも海がありませんからね。かく言う私も砂の大地は初体験ですよ、普段飛んでばかりですし」

 

 

 右足と左足を交互に踏みしめ、砂の感覚を確かめる衣玖。その顔は僅かながら緩んでいるようにも見える。

 天子は「きゃっほ~」とはしゃぎながら目の前の砂丘を上りだしていた。

 ザクザクと鳴る足音が心地よい。比那名居一族の者として、また自ら大地を操る能力を持つゆえか、大地の変化はとても喜ばしく感じられる。自分でも分からない胸の内がポカポカと温まっていくのだ。

 砂に沈んでいくブーツに足を取られてよろめきながらも天子は砂丘を一気に駆け上っていく。高熱を持った砂に手をつけないように注意しながら長いロングスカートを捲し上げて走る。

 そして、砂丘の天辺から見た景色は。

 

 

「うわあ………」

 

 

 見渡す限りの砂の海。

 うねりを示す高波のようなものは全てこれと同じ砂丘。風の影響を受けながら少しずつ形を変化させていく。

 蒼穹の青空の青色と限りなく続く砂海の砂色。二つの色のコントラストは並みの海なんかよりもずっと美しく映えて見えた。

 

 

「すっごく、壮大だ……」

 

 

 天子は意図せず感動していた。

 何もない、ただ砂ばかりが永遠と広がる海が、全てにおいて満ち足りていた天界よりも、ずっとずっと美しく見えた。

 

 

「これは…何とも筆舌に尽くしがたい光景ですね」

「って、衣玖! アンタ何飛んで上ってきてるのよ! 自分の足で上ることに意味があるんでしょうが!」

「嫌ですよ靴の中に砂が入りますもん」

「現代っ子か!」

 

 

 きーきーと目の前の壮大な景色を無駄にして騒ぐ天子。自分は足で上ってきたのに一人だけ飛んできたことが不満なのだろう。その証拠に、天子のブーツの中には微小の砂が入り込んでいていた。

 しばらくぶー垂れていた天子だったが、衣玖が相手をしてくれないことを悟るとぶつぶつと独り言をつぶやきながらようやく静かに(?)なった。

 

 

「……ねえ衣玖?」

「何ですか、総領娘様」

「ここ、日本……なのかな?」

「……」

 

 

 日本は四季に恵まれ、夏は暑く冬は寒い。時折日照りや長雨、台風などの自然災害も多く起こるけれど、基本的には一年中穏やかな気候が続く湿潤な地域である。

 日本に砂漠があるなど、聞いたこともない。それになにより日本は狭い国土しか持たない。そんな狭い国がこんな広大な土地を持っているはずがない。

 

 

「いいえ。ここは日本ではありませんよ」

「そう…よね」

 

 

 天子は薄々感づいていたことだった。自分の決して鈍くない勘がここは日本ではないと告げていたのだ。

 

 ならばここはどこなのか。

 

 その答えは決して鈍くない勘でも答えることができなかった。なんとなく、予想はつくのだが。

 

 

「日本じゃないってんなら、ここはどこか遠い外国かねぇ」

「違いますよ総領娘様。ここは、別の世界ですよ」

「……は?」

 

 

 衣玖の突然の発言に驚いた天子は、呆れ顔で衣玖を見やる。衣玖は眼前の砂海を視線に捉えて離さない。

 

 

「さっきの異世界トリップってやつ? んなメタ発言はいいって―――」

「いえ、違います」

 

 

 衣玖はきっぱりと、否定する。

 

 

空気(・・)が違うんです。幻想郷、元いた世界と空気の質が完全に違っているんです」

 

 

 衣玖によると、同じ世界なら空気の汚れで淀んでいたり、高山による空気の薄まりなどがあるが質は同じ物らしい。ただこの世界は、そんな空気が全く異なっているらしい。現代的な言い方をすれば、空気中の成分構成が異なっているとでも言おうか。

 

 

「ここに来たとき、すぐに分かりました。ここは日本ではない、ましてやどこか異国の大陸ではない。……世界を越えた、世界なのだと」

「………」

 

 

 天子はいつもより三割増しに真面目な衣玖を見て、素直に感心していた。

 

 

「…衣玖がそう言うんなら、そうなんでしょうね」

 

 

 天子は、ことにこういうことに関しては衣玖を信頼していた。能力の「空気を読む程度の能力」は、空気の些細な変化まで詳細に感じ取ることができる。発達した雷雲の中で常の空気の流れを読んで生活している龍宮の使いならではだった。

 

 

「はあ~。しっかし、異世界かー。なんか想像もつかないわ」

「想像力に乏しいんですね(プッ」

「おいこらテメエ今“プッ”って言ったろ。“プッ”って笑ったろ」

 

 

 語尾の“プッ”に気を取られ過ぎて前半の暴言に気づかない天子である。知らぬが仏という言葉もある。衣玖は黙っていることにした。

 

 

「そんなことよりこれからどうします? こんな砂漠のど真ん中に突っ立っているだけだとそのうち干からびちゃいますよ」

「え、衣玖が決めてよ」

「私、総領娘様の部下だしぃー、上司の指示に従いますぅー」

「こんなときだけ下っ端面しやがってこの野郎……」

 

 

 衣玖は掠れた音しか出ていない下手な口笛を吹きどこ吹く風だ。なんかもうヤダなーこいつ、とか天子は心の中で罵りながら適当にビシッと指さした。

 

 

「こっち! こっちに行きましょ。何かにぶち当たるかも」

「……えーそっち? 向こうの方がいい感じが」

「お前さっき私の指示に従うって言ったばかりだろいきなり反故すんな! 文句言うな! ほら、行くわよ」

 

 

 ずんずんと大股で砂丘をさっき来た道とは逆の方向に進んでいく。

 どの方向も見渡す限り砂海が広がるだけで目印や目標になるものは何一つない。ここは天子の言う通り勘で進むしかないのだ。

 空気を読む力を持つ衣玖も、永遠と続く砂漠の中では同じような気流を感じ取ることしかできなかった。故に、仕方なく天子についていくことにした。

 

 

「分かりましたよ総領娘様。待ってくださーい」

 

 

 右も左も分からぬ異世界。天子と衣玖の旅が火蓋を切って落とされた……。

 




明日の行方すら覚束ない異世界。はたして天子と衣玖はこの大砂海を抜けることができるのか……!?
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