異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~ 作:火也(かや)
さて依頼を受けた天子と衣玖の一行は砂の大地を越えて岩場へとやって来た。
依頼内容は竜骨結晶の納品。量は3キロでいいらしい。
二人は地図に記された採掘ポイントを目指し、砂漠エリアにある地下洞窟へと続く横穴に入っていった。
「ここは涼しいわね」
「水もあるみたいですからね。さしずめ、砂漠の生き物のオアシスといったところでしょうか」
クーラードリンクの涼を必要としない、地下洞窟の空間は酷く広大だった。
砂漠から砂が入り込んでいるのか地面はやや硬いが砂地で、そこに小さな池のように水が湛えられている。吹き抜ける風で風化していったのか、そびえる岩肌はゴツゴツというよりは丸みを帯びて見える。
モンスターはオルタロスが一匹。積極的に襲いかかってくるモンスターではないので二人は無視を決め込む。
「えっと……採掘できるのはここだっけ?」
「いいえ……この奥ですね」
衣玖が地図を広げ、それを二人で覗き込む。
現在地を指でさし、それを這わせるように行き先を移動させる。
「向こうに段差のある横穴が見えるでしょう? あそこを奥に進めば第一採掘ポイントに着きます」
「了解」
自分の身長よりも高い、段差というよりもはや高台と呼べるほどのところを天子と衣玖は飛んで越えた。天子はジャンプして、衣玖は文字通り飛んで越えたのだ。
狭い岩と岩の隙間を進んで行く。進む道は光が差し込んでこないため暗く、ゆっくり進まないとどこかで躓きそうだった。衣玖も飛んでいくだけの高さが無かったため今は歩いて進んでいる。
モンスターは到底通れなさそうな道を、光が点になって見える方向に進んで行く。やがて抜け穴を抜け、非常に広い空間に出た。
「広い空間ね。……って、上からなんか降ってきてるし」
「これは……砂ですよ」
「砂ぁ?」
「多分、ここは砂漠の丁度真下にあって、その裂け目の中の空間なんでしょう。ほら、裂けめあったじゃないですか」
「そういえば……」
天子は確かに砂漠の中にまるで砂漠を分かつような巨大な地面の裂け目があるのを見ている。その下にこんな広大な空間があるとは思いもよらなかった。
上空から太陽の光と共に細かい砂粒がパラパラと降ってくる。見る分にはとても幻想的な光景にも見えなくもないが、目の前にいたやつらがそれを邪魔してくれている。
ギャアッ、ギャッ―――
「ちっ、こんなところにもジャギィがいるのね」
一体どこから入り込んできたのか。この空間の中心にはジャギィが二匹、ここを支配しているかのように二人に向かって吠えかかってきた。特徴的な赤銅色と薄紫色の体色が目立つに目立っていた。
「片方は任せたわよ」
「はいはい」
走りながら緋想剣を抜刀する天子はジャギィの真正面に向かって走っていく。緋想剣はダッシュの邪魔にならないように垂れ下げるように両手で下向きに握られている。
真正面から突っ込んでくる天子を見て嘲笑ったのだろうか。ジャギィは一度嘶いて天子に向かって大地を蹴って走ってくる。
しかし無策で突っ込むほど天子は馬鹿ではない。
ズバン!!
天子ばかりに気をとられていたジャギィの一体が衣玖から発せられた雷撃に吹き飛ばされる。強力な雷を受けたジャギィは二度と立ち上がることなく一瞬で絶命した。
残りの一体は何が起こったのか分からず、歩みを止めてしまう。
それを天子は狙っていた。
「いただきぃ!」
一撃で仕留められるよう、天子は緋想剣を喉元に向かって斬りつける。以前来たときそうやって一撃で沈めた天子はどんなモンスターに向っても喉を攻撃することが常となっているのだ。
下からすくい上げる一撃は寸分違わずジャギィの喉に吸い込まれていき鮮血を撒き散らす。大量の血を噴き出したジャギィはすくい上げられた一撃に吹き飛ばされ、断末魔の声を上げたあと息を引き取った。
「ふぅ、ジャギィ程度なら全く脅威にならないわね」
「一瞬の油断が命取りですよ。気をつけないと足下掬われます」
「分かってるってば。ほら、剥ぎ取ろ」
二人は腰に差した剥ぎ取り用ナイフをサッと抜き取り、ジャギィから素材を剥ぎ取っていく。既にジャギィを何頭も狩り殺していたおかげで剥ぎ取りスキルはある程度のものになっていた。
剥ぎ取りを終えた二人は素材を天子が背負ってきたザックに詰め込み、さらにピッケルを取り出した。
「採掘場所は、あそこよね?」
「おそらく」
初めて行う採掘のポイントを瞬時に見つけることができたのは、そこに縦に走る亀裂があり、その下に大小の石ころが転がっているのが確認できたためである。
おそらく何人もの人がここに訪れて二人と同じように採掘していったのだろう。
「んじゃ、採掘開始!」
「はい。……と言いたいのですが総領娘様。掘るのは任せてもらっていいですか」
「え、何で! 二人でやった方が効率的でしょ?」
「だって疲れ……ゴホンゴホン、私は本を見ながら総領娘様が掘った鉱石を判別していきますので」
「お前疲れるとか言いかけたよな?」
「いいえ? むしろ妥当な判断でしょう。力は総領娘様の方が強いですし、鉱石判別なんて細かい作業は向きませんよね。見ろ、見事なカウンターで返した」
「お前マジでかなぐり捨てンぞ……」
「おお、こわいこわい」
そう文句を垂れていたが、衣玖の言っていることは全くの真実なので否定できないのが悔しいところだった。天子はピッケルを持って亀裂に向かって行く。
「へいへい、やればいーんでしょまったく……。あらよっと!」
ピッケルの鉄のピックを亀裂に打ちつける。ガツッと岩の隙間に嵌り、石ころがボロボロと崩れ落ちてくる。よいしょ、と抜いてもう一度打ちつける。
何度かガツガツ打ちつけていると今までの石ころとは違った色合いをしたものが転がって来た。それは砂にまみれているが、手で払ってみると灰色に光を反射していた。
「衣玖ーこれ石ころじゃないわよ」
「本当ですか。どれどれ……」
衣玖は鉱石見分け本をめくり、この色合いの鉱石が書かれたページを探していく。それぞれのページには簡単なイラストがついていて非常に分かりやすくなっている。
「あ、このページですね。……これは、竜骨結晶ですね」
「これが? いきなりきたわね」
「外側は灰色のようですが、研磨すれば違う色合いに変わるようですね。まあ私たちはこの灰色を目印にすれば大丈夫ですね」
「よーっし、じゃんじゃん掘るぞー!」
「総領娘様、ファイトー」
衣玖のわざとらしい応援を背に受け、天子はピッケルを打ちつける。そして何度も何度も打ちつけるうちにだんだんとコツを掴んできた。
腰の入れ具合、ピッケルを振るう速さ、角度。亀裂との相対距離などあらゆることを次々と試していっては試行錯誤を繰り返していく。こういうのは頭で考えるのではなく体を動かして慣らしていくのが重要なのだと天子は小さな真理に気がついたのである。
「ええと、これは竜骨結晶。これも竜骨……いや、ただの綺麗な石か。んでこの蒼い石は……マカライト鉱石? 鉄鉱石よりも良質な鋼を作り出せる貴重な品……。ふむ、ラッキーですね」
対する衣玖も天子が掘っていった鉱石を判別していく。大半は石ころだが、その中に稀に混じっている竜骨結晶や鉄鉱石、マカライト鉱石など稀少な鉱石。まるで宝探しのように鉱石を見つけていく作業はなかなかどうして面白いものがある。
これでは総領娘様のことは言えないませんね、と自嘲気味に思う衣玖だったが、面白いものは仕方ない。案外、衣玖は鑑定士の才能もあるのかもしれなかった。
そうしてしばらく単純作業が続いていた中で、天子が叫ぶ。
「うわっ! 何これぇ!?」
「……どうかしました?」
「見てよ衣玖、これ!」
そうやって天子が見せてきたのは、鈍く輝く黄金の骨の化石であった。
「これは……」
「すごく綺麗だよこの骨! ねえなんて名前!?」
「ええと……」
衣玖はパラパラと本をめくっていき、目当てのページを見つけた。
「黄金骨。太古の化石が土中の何らかの成分と化学反応を起こして金色に変化したもの。高値で取引される」
「高値!? やっぱり黄金は格が違ったわ!」
天子は掘り当てた黄金に余程興奮しているのか、かなりのハイテンションだ。
まあ人間は光物に弱いところがあるし、仕方のないことなのかもしれない。
「確かに稀少な物なんでしょうけど……」
「けど?」
「私たちの目的はあくまで竜骨結晶ですからね? それははき違えないで下さいよ?」
「……わ、分かってるわよ! ちょっと珍しかったから言っただけよ」
「……本当かなあ」
絶対目的忘れてましたね、と衣玖は思っていたがここで糾弾しても何の意味もないから衣玖はそれ以上の追及は止めにした。
そして再び採掘を再開する。ザックザックと天子がピッケルで亀裂を穿ち、それを衣玖が判別していく。一時間ほど掘りつづけ、気づくと周りには掘られた石ころの山が積み上がっていた。
「掘りましたねえ」
「もう結構取れたんじゃない? 掘って投げて掘って投げてでもう疲れた…」
「いったん休憩にしましょうか。総領娘様は休んでてください、私が重さを測りますので」
「お願ーい」
天子は岩盤に座ってもたれかかると足を伸ばして弛緩した。気を緩めて衣玖のしている作業をボーっと見つめていた。
そういう衣玖は、ポーチから簡易の秤を取り出して採掘した竜骨結晶を一つずつ計量していく。秤はよく見る天秤ではなく温度計のような細長い携行タイプのものである。重さを測るところにフックがあってそこに測りたいものを掛けるのだ。竜骨結晶はそのままでは掛けられないのでベルトで全体を締めてから掛けるようにする。
この秤はティアの店でピッケルと同様に借りてきたものだ。勿論レンタル料金は支払っている。
「どう、3キロありそう?」
「所詮素人目ですからこの中に偽物も混じっているでしょうけど、ありますよ。5キロくらいあります。これくらいあれば少々偽物が混じっていても十分本物3キロ分は大丈夫でしょう」
衣玖はそう言いながら鉱石を予備の皮袋に入れていき一杯になった袋をザックに詰め込んでいく。鉱石をそのまま入れれば尖った部分で破れてしまう可能性があるため、緩衝材として皮袋を用意したのだ。
そんな細かい豆知識を教えてくれたのはティアだ。ティアは道具屋としてはかなりできる方なのではないかと最近思いつつある。ただ商売の仕方が下手なのと立地条件が悪いというだけで。
衣玖は結晶以外の鉱石もザックに詰め終わると、秤もポーチに戻して片づけを終了した。
「さて、鉱石も採掘し終えたことですし、帰りますか」
「もうちょっと休憩させてくだしあ;;」
「……そうでしたね」
涙目で懇願される天子に衣玖は忘れてたとばかりの苦笑いの表情をした。
天子の最後の締まりのない懇願があったが、無事依頼を遂行できた二人だった。