異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~ 作:火也(かや)
砂漠の中の岩山の中腹で、赤い剣戟と紫電の雷が飛び交う。赤い剣戟は天子が振るう緋想剣の赤い刀身。紫電の雷は衣玖が舞っている羽衣の余波。
天子と衣玖は互いの位置関係を確認しながら戦闘を行っていた。
「よっと。おら、おらあっ!」
ドスゲネポスの噛みつき攻撃をギリギリで躱し、避け際に緋想剣をねじ込む。走りながらの振りだっため威力が低く傷は浅いが、天子は焦らず一撃ずつ確実に緋想剣を振るっていた。
取り巻きであるゲネポスはしっかりと衣玖が引き寄せてくれているため、天子はただドスゲネポスだけを見極めていればよかった。
ドスゲネポスの攻撃は単調だが、素早い。天子が剣を振るう瞬間にその剣筋から逃れることもしばしばあった。だが逆に単調であるため敵の攻撃に翻弄されないでしっかり避けつつ、こちらの攻撃を一発一発堅実に食らわせていけばいつかは向こうも体力が切れてくるはずだ。
こうした大型モンスターとの戦闘では、いかに体力を浪費せずに温存しつつ戦うかがポイントとなってくる。相手は巨大なモンスター、こちらの攻撃がいかに鋭かろうとそれをも上回る体力を有しているのだ。下手な行動は今後の動きにも差し障る。
ギャオォォォ―――!
「うおっ!?」
ちょこちょこと動き回る天子を鬱陶しく感じたのか、ドスゲネポスは勢いづけて大技を繰り出した。体を大きくのけ反らせて勢いをつけて噛みつきを行ったのだ。
緋想剣が届かない距離に丁度いた天子は、勢いづいたドスゲネポスの大噛みつきの距離を見誤った。足を大きく踏み込んできて攻撃範囲が伸びたのだ。
咄嗟に緋想剣を縦向きに構えてガードの態勢を取る。横向きに置くと刀身が細いからドスゲネポスの口に収まってしまう恐れがあるからだ。ガンッ、と刀身にドスゲネポスの頭部が衝突し、その勢いの分だけ天子は押し切られることになった。
「こんの、んな攻撃は反則だ!」
戦場で反則も卑怯も何もない。どんな手を使おうとも勝てばいいのだ。勝てば官軍負ければ賊軍とはよく言ったものである。
そもそも、ドスランポスへの攻撃に乗じて奇襲をかけようとしたのは他でもない自分たちである。
「お返しだ!」
そんなことをおくびにも出さず、足で地面を踏ん張り筋肉をバネにして勢いよく飛び出す。大技を繰り出して隙が大きいドスゲネポスの懐に素早く潜り込んで剣を横に一閃する。
ガアアァァ―――!!
既に天子も学んだ。懐は敵の死角に潜り込める安地の一種ではあるが、同時に敵の顔が見えないリスクも孕んでいることを。故に懐に潜り込むのは一瞬だけで、剣を振るった後はすぐに撤退する。それが常道というものなのだと。
右太腿に当たる部分を右に抜けていくように斬りつける。黄土色の鱗が鋭利な剣によって弾け飛び、中の地肌に傷をつけた。噴き出す鮮血が岩と砂の大地を赤く染め上げる。緋想剣の鋭い刃はドスゲネポスの装甲を易々と斬り裂いてくれた。
とはいえ、ドスゲネポスもただ一振りだけで怯むほど柔ではない。緋想剣の剣戟を無視して天子に攻撃を仕掛けた。後ろ足をぐぐっと曲げてまるで足をバネのように使い、上空から強襲したのだ。
「ジャンプか!」
ドスゲネポスのジャンプ攻撃を天子は左に転がることで回避した。受け身を取り、即座に起き上がって行動する。
ジャンプ攻撃が不発に終わり、ドスゲネポスが着地した震動が伝わる。奴は一際大きく発達した足の爪を突き立てていたのだ。
「危ねー危ねー…」
衣玖の話だとあの爪には神経性の麻痺毒があるらしい。もし下手をして爪に当たってしまったら、と考えると薄ら寒い想像が浮かび上がってくる。直接攻撃には耐えて我慢すればいいが、毒となれば流石の天子もどうしようもないからだ。
是が非でも攻撃を食らうわけにはいかないな、と天子は冷や汗をかく。こちらのを無効化する攻撃を持っている分、これまでの雑魚モンスターより遥かに強力な敵だった。
「けど、こちとらCランクもぶっ潰す力があるのよ。今更Dランクが怖いなんて臆病風吹かせられるかっつーの!」
しかし、天子もドスガレオスを倒した実績がある。確かに麻痺という面倒な攻撃を持つドスガレオスであるが、素早い動きに翻弄されず回避主体で事に当たれば対処できない敵ではない。
縦斬り、回避。袈裟斬り、回避。横薙ぎ払い、回避。
一撃離脱を基本理念に天子は猛攻撃を繰り返す。そんな当たらない攻撃と積み重なるダメージでドスゲネポスは白い息を吐き出しながら天子に威嚇した。
「おっとその白い息…モンスターが怒った証拠だってね! 以前みたいにへましないわよ!」
以前のドスガレオス戦で天子と衣玖は白い息を吐くドスガレオスを疲労した証拠だと勘違いしてしまい、手痛い反撃を受けたことがあるのだ。それを経験に、その後きっちり確認もとって白い息は怒りの証拠だと二人は覚えたのだ。
人間でもそうだが、モンスターは怒ると一段と素早くなり、攻撃の重さが増す。その分精度が若干粗くなったりもするのだが、スピードと攻撃力が上がっている分いつも以上に気をつけなければならない。下手な被ダメージは即戦闘不能に陥りかねない。
とはいえ、天子はそのことを理解しているから、怒り時の対応も素早く切り替えた。
一つ一つの攻撃が素早くなるが、その分粗くなるのだから、今まで以上に動きを見極めればいいだけのこと。
「その程度じゃ、私は掴まらないわよっ!」
彼我の隙間を埋めるように大きくジャンプしてきた天子は左に抜けるように前転で回避し、即座に起き上がって緋想剣をドスゲネポスの右太腿に突きつける。
天子はここまでの戦闘でドスゲネポスの右足を重点的に狙って攻撃していた。それには当然理由がある。
ガアァ―――!?
傷が蓄積し右足を支えられくなったドスゲネポスは横に大きく転倒した。天子はこの状況を待ち望んでいたのだ。
「待ってましたっ、と――!!」
ニヤッと笑みをたたえた天子はドスゲネポスの頭部に向かって緋想剣を叩きつける。何度も何度も、大量の血が噴き出してお構いなしだ。
生き物は総じて頭部が弱点であることが多い。故に硬い頭蓋骨で脳を守っているわけだ。つまりそこは硬い部分ではあるが大きな弱点なのだ。
そこを叩けば効果的なダメージを与えられることは分かりきったことだ。
「おらおらおらおらーーーーッ!!」
ガアアアアアアアア―――!?
ドスゲネポスが嫌がるように悲鳴じみた雄叫びを上げるが、天子は止まらない。これで全てを終わらせるという天子の気概が注ぎこまれた剣戟がドスゲネポスの頭部に次々と深い傷を負わせていく。
ドスゲネポスは天子の連続攻撃を振り切るように両足に力を入れてむくりと起き上がった。
その立ち上がる隙を、天子は突いた。
「せやああああああっっ!!!」
神速の一撃。
かつてロビンに対して放った技が目の前で再現される。
起き上がる直前に一旦攻撃を止めた天子はこの戦いで存分に溜まった集中力を爆発させるように剣技として解放する。放たれた力は剣技となり、その一撃は神速の速さを持つ。
隙が見え見えだったドスゲネポスの喉元に、天子は瞬間のすれ違いざまに縦に斬り裂く。
斬り裂かれた喉元は今回で一番大きく、深く抉っていた。鱗をバラバラに引き裂いた斬り裂きは見事の一言に尽きる。
ガアァァァァァ―――………
短い断末魔を上げて倒れ込むドスゲネポスの最期。倒れた拍子に砂塵が舞い上がり、小さくない震動が地面を揺さぶる。
口を開けて倒れているドスゲネポスはピクリとも動く気配を見せない。既に息絶えているはずのドスゲネポスだが、倒れる最期まで、惨めな姿を見せることはなかった。
最期まで一体のモンスターとして天子に立ち向かって死んでいったのだ。
「まあ、隙を突いた最期の攻撃だったけど……戦場だから文句ないよね」
そんな言い訳じみた言葉を横たわるドスゲネポスに投げかけ、天子はもう一人戦っているはずの衣玖に声をかける。
「衣玖ーそっち終わった?」
「とっくの昔に終わってますよ」
衣玖はドスゲネポスが呼び寄せるゲネポスと相対していた。
天子と共に戦わなかったのはドスゲネポスの身体がそんなに大きくなく、雷撃攻撃では天子を巻き込むことが懸念されたからだ。当たらないようにするのは可能だが、今回は取り巻きが現れつづけていたのでそっちを優先的に片付けていたのだ。
既に衣玖は倒したゲネポスから剥ぎ取りを終えており、素材を持って来たザックに詰め込んでいる最中だった。
「とっくの昔に終わったんなら手伝ってよ……雷使えなくても羽衣使えたでしょ」
「私は接近戦はニガテですので。総領娘様のような素早い動きはできませんもの」
「…そりゃそうだけどさ」
「完全に論破して終了したので以下レス不要です。それより…」
衣玖はザックに素材を詰め込み終わり、詰問調で天子に問う。
「どうしてあそこで飛び出したりしたんですか? きちんと説明してくれるんですよね?」
「ええ、するわよ。でも、その前に……」
天子は緋想剣を鞘に仕舞い、衣玖に背を向けて壁際で倒れているドスランポスに歩み寄った。
ドスランポスは立ち上がる力も残っていないようで、ただただ天子と衣玖を金色の瞳で弱々しい光を放つだけであった。その瞳も、片方は怪我をして閉じられていた。
「………」
「グアァ……」
近づく天子に力限りの精いっぱいの鳴き声を上げるドスランポス。もう、まともに威嚇する力も残っていないのかもしれない。緋想剣の射程圏内に入っても、ドスランポスは攻撃してこなかった。
それでも目の前のドスゲネポスを葬り去った脅威は危険なのか、ドスランポスは反抗的な瞳を揺るがない。
「……そうよね、私は冒険者。アンタはモンスター。お互い……狩り狩られる間柄だもんね」
そう独り言ちると天子は腰に差していた緋想剣の鞘の金具を外し、緋想剣を後ろに投げ捨てた。
ガチャ、と落ちて天子は無防備な状態になる。
「総領娘様、何をしているんですか!?」
「………」
衣玖の問いかけにも答えない。
今の天子は、目の前の自分と同じ存在のことだけを考えていた。
「…武器は捨てたわ。私に、アンタを狩る意志は無い」
「…」
「モンスターにこんなこと通じるか分かんないけど……それでも、私はアンタを殺す気はない。信じられないなら、襲いなさい」
「…」
「私とアンタは似てる。他の天人から疎まれ蔑まれ陰口を叩かれて居場所がなかった私と、群れを亡くして居場所を無くして他のモンスターに蹂躙されるアンタ。私と同じような存在だから、私はアンタを放っておけなかった。同じような苦しみを背負うものだから、アンタを見過ごせなくて、衣玖の作戦に心では合意できなかった」
「…」
「…そんなこと言われても、アンタには理解できないでしょうし、そもそもアンタが居場所なんて無くしてないかもしれないけどね。けど、これは私の我儘だから」
天子はしゃがみ、ドスランポスと同じ目線で話しかける。
「私の我儘だから、私の勝手にする。衣玖には凄く迷惑かけるかもしれないけど、それについては怒られてもしょうがないけど、たとえそれが偽善でしかなくても、それでも私はアンタを助けたい」
「…」
「私と似た奴を見捨てるなんてできない。そんなことをしたら、私も他の天人たちと同じになっちゃうから……」
陰で嗤う天人たち。表面では取り繕う彼らは、天子に直接には何もしていなかった。
何もしない、
だから、天子は何もしないのは嫌だった。
「自分勝手なことばかりする不良天人だけど、守りたい矜持ぐらい持ってるのよ」
天子はポーチを開き、その中から回復薬の小瓶を取り出した。
しかし、小瓶とドスランポスを交互に見合わせ、天子は首を傾げた。
「……回復薬って、モンスターにも有効なのかしら。なんとなく、効果ないような感じがする」
「仮に飲ませても、多分私たちみたいには効き目はないと思いますよ」
「うえっ! い、衣玖!?」
天子の後ろには、衣玖が立っていて、長い影が天子に覆いかぶさっていた。
「剣を投げ捨てて何をするかと思えば……回復薬を取り出して、治療でもする気ですか? 野生のモンスター相手に治療なんて、ギルドが知ったらどうするつもりですか」
「うう……。お、お願い衣玖、このことはギルドには内緒にしてて」
「………」
衣玖は必死に懇願する天子を冷徹な表情で見る。
どう見ても、この天子の行動は赦されるものではない。バレてギルドに見つかりでもしたら冒険者の資格を剥奪されかねない。最悪、町を出て行く羽目になったゲンたちの二の舞になってしまう。
衣玖は、必死な表情の天子を見続け、その瞳が全くブレないことを見届けて「はあ……」と溜息を吐いた。
「…包帯に、回復薬を染み込ませて傷の箇所を巻いたらどうです」
「……え?」
「回復薬の主成分は薬草です。磨り潰して軟膏の材料にもなりますから、直接傷口につけても多少の効果はあると思います。もっとも、人間とはやはり勝手が違いますし、皮膚も分厚いですから、どうなるか分かりませんけど」
「え、えぇ? い、衣玖? それって、つまり……」
「私は何も見ていませんし何も聞いていません。多少、
衣玖は髪をくしゃくしゃにしながら、言う。そっぽを向いてこちらを見ないようにしていた。
天子は初めキョトンとしていたが、やがてそれが衣玖の優しさだと気づいた。
「衣玖……ありがとう」
「……私は手伝いませんからね」
「うん、分かってる。これは……私の問題だから」
そう天子は再びドスランポスに向かう。ドスランポスは、今までの出来事をただじっと見つめていただけだった。
天子はポーチから治療用の包帯を取り出し、回復薬の液を落として染み込ませていく。薬草を磨り潰した緑色の液体が白い包帯を緑色に染め上げていく。
「これを、巻きつけるわけね……」
ドスランポスは足に大きな噛みつかれた傷がある。おそらくそれが、体力を奪っている理由だと天子は睨んでいる。
包帯一枚だけでは到底足りるものではない。予備の包帯を全て使い切って何重にも巻きつける必要があろう。
天子は回復薬を染み込ませた包帯を掴んで大きく広げ、傷口に当てた。
「ギャウゥ!!」
傷口が回復薬で沁みたのか、ドスランポスは悲鳴を上げて、元凶である天子の右腕に噛みついた。
「ぐうっ…!」
天子の細腕など問題にならないくらいの大口が、右腕を横から噛みついている。一本一本がカッターナイフ並みの大きさの鋭く尖った牙が何本も天子の腕を貫いている。
つつ、と天子の右腕から血が溢れだす。何本も突き刺さっているせいか、がっちりとホールドされて右腕が動かせない。
「総領娘様! 今、」
「来ないで衣玖。羽衣を仕舞いなさい」
「な……!?」
衣玖の介入を拒んだ。それどころか、羽衣を仕舞えとさえ言った。
天子は苦痛に顔を歪めながらも、決して抵抗しようとしない。ドスランポスに噛まれたままの態勢でじっと耐えている。
「言ったでしょ、こいつは、私と同じだって。私と同じだから、差し伸べられた手を信じられないのよ。闇の先から照らされた光が、眩しすぎて、暖かすぎて、疑いを持ってしまうのよ」
「総領娘様……」
「そう、私と同じ……」
天子はもう片方の左手で、ドスランポスの頭を撫でた。抵抗するのではなく、怒るのでもなく――――痛みを、受け入れたのだ。
かつて天子は差し伸べられた手に疑いを持った。今まで自分を貶す奴らばかり見ていたから、その手も自分を馬鹿にするものなのだと勘繰ったのだ。そして、その手を天子は
だから、この痛みは、その差し伸べられた手の本人の痛み。
「私も、昔は疑っていたもの。自分に救いなんて有り得ないって思ってた。けど、
「…」
ドスランポスは噛みついたまま、天子を睨んでいた。天子はその眼を逸らさず、一身にその眼光を受けていた。
「……だから、私のときと同じように、今度は私がアンタに手を差し伸べる。どこにも逃げないわよ、私は」
今までの天子では有り得ないような真摯な瞳。その瞳に宿る意志の光は、紛れもなく本物。貫ぬいた腕の痛みなど気にする素振を見せず、ただただドスランポスと視線を交錯させる。
その意思が伝わったのかどうかは分からない。言語を解するはずのないドスランポスが天子の覚悟を理解できるはずなどない。
いや、モンスターだったからこそ、天子の覚悟が如実に伝わったのかもしれない。
ドスランポスは、天子の右腕から、牙を抜いた。
「……ありがとう」
天子は右腕で頭をさらに撫でた。ごわごわした鱗の感触が今はとても心地よかった。
「総領娘様…血が!」
「こんなのあとでもできる。今は、こいつの治療を先に済ませる」
ズキズキと痛む右腕など気にせず、包帯を手に取って傷の箇所をぐるぐるに巻いていく。やはり傷口は沁みるようでドスランポスは何度も身じろぎしたが、天子に噛みつくことはなかった。
太い足に対して包帯を何重にも巻きつけ、動くのに差し障りがないぐらいに巻く。傷口から滲み出る血が包帯を赤く染め上げていく。
天子は痛む右腕に顔をしかめながら、包帯を巻き終えて最後にギュッと結んで治療を終えた。
「これで、治療は終わり、かな? 痛ぅ…」
「無茶しすぎです。……心配させないでください」
他にも噛まれたり傷がついている箇所はあるが、致命傷ではなさそうだ。残りはドスランポスの自然回復力に任せるとしよう。
衣玖は天子の右腕に同じように回復薬を染み込ませた包帯を巻きつける。天子は「いてててて!」と叫んだが、衣玖はお構いなしに包帯を巻き終える。
「あと、直接回復薬も飲んでおいてください。少しは変わるでしょう」
「うげ、飲まなきゃダメか……」
「当然です。どのみちその怪我じゃしばらく戦えないでしょう?」
傷はかなり深い。しばらくは療養に努める必要がある。すぐにこの深い傷が癒えるとは思わないが、それでも何もしないよりはマシだろう。天子は諦めて回復薬を飲んだ。やはり不味い。
不味さに顔をしかめつつも、天子はドスランポスの頭を撫で続けていた。
「……こいつはもう大丈夫ね」
「ええ。そのうち立てるようになりますよ」
「そっか、んじゃコイツに食われる前に退散しますか」
天子は立ち上がり、離れ際に「…達者でね」とつぶやいてドスランポスのもとから離れた。途中で投げ捨てた緋想剣を拾い、雑に扱って悪かったと心の中で謝罪する。
忘れかけていたが、今回の討伐対象はドスゲネポスである。こいつを剥ぎ取らなければ終わらないのだが、右腕が使えないのでドスゲネポスの剥ぎ取りは衣玖に任せた。ぶつぶつと文句を垂れていたが、心の底から嫌なわけではないのだろう。怪我については衣玖も相当心配しているようだから。
素材を全てザックの中に詰め込み、天子が背負う。怪我人に持たせるのはどうかと思うが、逆に衣玖が持った場合敵が現れたら天子では荷が重いからだ。
二人は岩山の広場を下りた。空はまだまだ青く澄み渡っている。
ドスランポスは、そんな二人の後ろ姿をずっと見続けていた。
金色の瞳を、好奇の色に輝かせて―――
今週の土曜日にはモンハン4Gが発売されますね。楽しみです!
ああ、久しぶりに先生に会える(渇望)