異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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27話 ランクアップ試験 前編

 その日、天子と衣玖に朗報が知れ渡った。

 

 

「ランクアップ試験の内容が分かった?」

「はい、つい先程上から通達が来ました。ランクアップ試験、ただいまから解禁されます」

「マジで? やったー!」

 

 

 両手を上げて喜ぶ天子。もうあれから三週間近くも経つのだ。ランクアップを密かに待ち望んでいた天子にとっては確かに朗報であろう。

 

 

「おおー、ようやくランクアップか。ようやくって感じだな! ガハハ!」

「これで天子ちゃんたちもCランクかー…俺たちよりも上のランカーになっちゃうんだな。もう先輩面していられないなあ、こっちがへこへこしないといけないや」

「どんな内容なんだろうな。少し気になるぜ」

「二人とも、気負わないようにね。二人なら余裕で合格できるわ」

 

 

 「琥珀のブローチ」の面々も隣で応援してくれている。思えば、この人たちとも随分と仲良くなったものだ。

 酒の飲み比べをして以来、天子とダニエルは意気投合するようになってしばしば一緒に酒を飲んだりしている。また、共にパーティを組んで全員でモンスターを討伐しに行ったこともあった。

 

 

「これで、私もようやくCランクになれるってわけね。腕が鳴るわ!」

「おいおい、まだ試験は始まってもいねえぞ? 気が早すぎるんじゃねえのよ」

「そうですよ総領娘様。調子に乗ってると足下すくわれますよ」

「ほらほら、『雷の魔女』サマもこう言ってるぜー?」

「……その名は止めてください」

 

 

 衣玖は少し困った顔で否定した。

 『雷の魔女』。その名は彼らがパーティを組んでモンスターを討伐しに行ったときにつけられた名だ。

 そもそも何故魔法使いなのか。それは衣玖が敵に遭遇したときに空中に浮かんでの戦闘を行ったことが大きな理由となっている。人間は当然空を飛ぶことなど不可能であるが、魔法使いの浮遊の魔法なら空を飛ぶことも可能になるからだ。勿論、全ての魔法使いが浮遊魔法を使えるわけではないが。

 それに加え、衣玖が使用できる雷撃攻撃も理由の一つだ。魔法には火、水、雷などの複数の種類が存在しており、その中の衣玖は雷を使っていたから自然と魔法使いと認識されてしまったのだ。

 衣玖の現在のジョブ名は「魔法使い」なっている。痛々しい二つ名はさておき、魔法使いと誤認されている状態は衣玖にとって都合が良かった。妖怪だとばれてしまえばどうなるか分からないからだ。

 だがまあ、ぶっちゃけるとこの世界に妖怪がいるのかどうか怪しいところなのだが……。見かけるのはモンスターと魔物ばかりで妖怪はこれまで見たことがない。モンスターや魔物と妖怪は全くの別物だが、代わりのようなものとでも思えばいいのだろうか。

 

 

「いやいや、衣玖ちゃんの雷魔法は見事なもんだったぜ。敵をブスブスの真っ黒焦げにしちまんだもんな!」

「無慈悲で容赦のない一撃……同じ魔法使いとして感嘆をするばかりだったわ。威力も精度も文句なし、あれなら中級魔法クラスね」

 

 

 「琥珀のブローチ」のエリカは魔法使いだ。一通りの初級魔法と一部の中級魔法が使える程度の一般的な魔法使いで、いわゆる器用貧乏というものだ。特に取柄はないが、下手というわけでもない。

 しかし、パーティに魔法使いがいるのといないのでは戦闘が大きく変わってくる。

 魔法使いはその高い魔力を活かして後方から前衛の攻撃力を遥かに上回る魔法を撃ち放つことができる。敵の特性にもよるが、基本的には魔法使いの方がただの剣士よりは重要度は高い。

 エリカも「琥珀のブローチ」ではなくてはならない存在だ。

 

 

「その恥ずかしい名前はどうにかならないんですか……」

「いいじゃん、カッコイイ名前じゃない! 『雷の魔女』……ブフッ」

「死にたいんですか?^^#」

「す、すいまえんでした; ;」

「あの~そろそろ内容お話してもいいですか…?」

 

 

 それぞれがガヤガヤと騒いでいる中で、存在を忘れられかけていたアンナがおずおずと手を上げた。

 

 

「すいません、騒がしくなって」

「いえ、冒険者の方のノリって大体いつもこんな感じですし、構いませんよ」

 

 

 ニコニコと笑顔を絶やさないアンナは受付嬢の鑑だ。そのステキな笑顔に惹かれて密かなファンがいるとかいないとか。

 声をかけたことで皆の注目がアンナに注目する。

 

 

「それで、内容はなんなの?」

「はい、それでは発表しますね……」

 

 

 天子と衣玖の隣でダララララララララララ、と太鼓を叩く音……を声真似したダニエルがいた。気分を盛り上げるための演出なのだろうが、誰もそのことに突っ込まない。

 アンナも若干勿体つけるようにチラチラと二人を見ている。なんだかんだで彼女も楽しみながらやっているようだ。

 天子はわくわくが止まらないといった風に、衣玖は努めて冷静にアンナの言葉を待っていた。

 

 

「試験内容は、『草食竜の卵運搬』です」

「「「「あーーー……」」」」

「何その四人同時のハモり!? なんか怖いんだけど!?」

 

 

 「琥珀のブローチ」の面子は試験内容を聞いた瞬間、自分たちに何か思い当たる節があるのか何とも言えない表情をとった。

 

 

「いやな、卵運びはな……いい思い出が一つもないんだよなあ」

「……そんなに難しいの、卵運びって?」

「冒険者でもなかなかやりたがらない依頼ではありますね」

 

 

 アンナが補足するように続ける。

 

 

「草食竜が産む卵を割らずに特定の場所まで守って持って行くというのが基本的な要旨です。しかし草食竜の卵は非常に巨大で重く両手で抱えるように持たなければなりません」

 

 

 アンナはこのくらい、と手を使って大きさをジェスチャーした。

 

 

「……そんなにデカいの?」

「はい。片手では大の大人でも不可能ですし、大きさ上脇に抱えることもできません。両手で持つしか方法がないのです」

「草食竜っていうとあれよね、アプトノスがそうよね。……ならそれぐらいの大きさも納得できるわ」

「それと、ここが冒険者がやりたがらない所以なのですが……卵を運んでいるときは両手が塞がっているので物理的に武器を握ることができません。つまり、敵と遭遇したとき対抗する手段を失うわけです」

「それって、つまり、逃げの一手?」

「逃げるしかありませんね。卵は重いのでいつものように速く走れませんし、運搬している最中はこれまで歯牙にもかけなかったモンスターが恐ろしい悪魔に変貌してしまいます。攻撃されて落としてしまえば、当然卵は割れて納品対象にはなりません」

「うげ、無理ゲー……」

 

 

 敵と遭遇しても戦う手段がない、というのは非常につらい。丸腰どころか重い枷を付けて歩いているようなものなのだ。

 今まで片手間のように倒してきたジャギィやオルタロスなどの雑魚モンスター達が一気に脅威になり得る。それは単純に危険になるという意味もあるが、そんな相手に手間取らせるという意味でプライドを抉るという意味でも厳しいものがある。

 

 

「だがまあそう悲観することはねえよ」

「そうそう! 一人が卵を持ってもう一人が敵の攻撃から守ってやればいいんだよ」

「なるほど……」

 

 

 卵運搬の鉄則はソロで依頼を受けないことに尽きる。

 確かに卵運びは面倒な依頼だが、片方がモンスターの注意を引きつけて守ってやれば難易度は格段に減少する。二人以上で挑めば決して達成できない依頼ではないのである。

 

 

「……というより、私が卵を抱えて飛べばあらゆる問題が解決されるのでは?」

「確かに……ここいらのモンスターは飛べない奴ばかりだから飛んでしまえばそれで万事解決ね! あれ、ひょっとしてランクアップ試験って楽勝!?」

「そのことなのですが……今回は“二人同時に卵を運搬することを達成必須条件にする”とあるんです」

「「えっ」」

「それと“浮遊魔法を含む空中からの輸送は一切認めない。地面を歩いて指定された場所まで指定の数運搬すること”」

「「………」」

「数は四つ。二往復する計算ですね。指定の場所は、地図ですと……この岩山の陰に当たる場所に分かりやすい納品箱を設置していますのでここまで運んでください。割った場合それは無効となりますのでもう一度やり直しとなります。無論ですが、不正を行うと無効になります。ランクアップ試験には監査員が遠くから見張っていますから、ルールを破って飛んで運んだりしないようにしてください。それと草食竜の巣ですが―――」

 

 

 アンナの次々に打ち出される無慈悲な宣告に言葉を無くす天子と衣玖。淡々と話される言葉は脳に残って意味を咀嚼する余裕すらなく、耳から耳へと貫通していくだけだ。

 他の面子は「…ご愁傷様」みたいな憐れみを含んだ視線を投げかけていた。

 

 

「あ、卵の僅かな匂いを嗅ぎ寄せて普段より多くのモンスターがやって来るので注意してくださいね」

 

 

 何気なしに言われた言葉が、最後のダメ押しとなって二人にとっての死刑宣告となったのだった。

 




モンハンをプレイしたことのある人は卵運びの辛さがよぉく分かるのでは?
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