異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

3 / 66
タグが回収できたー


3話 短髪天子、爆誕!!

「あ、あづぅ……」

「………」

 

 

 カッッッ!! っと照りつける灼熱の太陽熱。

 体の隅から隅まで水分が蒸発してしてしまったのではないかと疑ってかかってみたくなる己の身体。頭や腋から蒸れるように流れる汗だけが体にまだ僅かに水分が残っているのだと確信させる証拠だった。

 

 

「じぬ……あぢィ……あかん、とけてまうで………」

「総領娘様……少し、黙ってください………」

 

 

 天子と衣玖は、砂漠の猛暑にやられかけていた。

 それもそのはず、彼女らは砂漠の猛威をこれまで体験したことがないのだから。日本には大きな砂丘はあれど、海のように広がる広大な砂漠は存在しない。それは日本が緑豊かな風土を持つ国であるという誇りであった。

 しかし、その誇り、いや砂漠の存在を甘く認識していた無知は二人を徹底的に叩きのめしていた。

 二人の足取りは覚束なく、まるで幽鬼そのものであった。

 

 

「どこまで行っても砂砂砂……道、間違えたのかなぁ……」

「ここで、そんな、気が滅入ること言わんでください……」

「空気は、読めないの? 衣玖」

「読めてたらとっくに言ってます……」

「ですよねー……」

 

 

 衣玖のだらしない発言にこちらもだらしない返事を返す天子。喋る気力すら熱に持って行かれたのか、二人はお互いの軽口すら生返事であった。

 この広大な砂漠の中、地図もなく方位磁石すらも所持していないのははっきり言って無謀だ。自分がどの辺りを歩いているのか、どの方角に向かって歩いているのか全く分からないからだ。

 もっとも、幻想郷からこの見知らぬ異世界に無理やり飛ばされた手前酷な話ではあるのだが。

 

 

「でっかい湖だと思って走っていったらそこにゃ何もないし……」

 

 

 蜃気楼である。

 

 

「何か地平線の向こうがゆらゆら揺らめいて気色悪いし……」

 

 

 陽炎である。

 

 

「砂に足がはまって余計に体力消耗するし……」

 

 

 重いだけである。

 

 

「うっさいバーカ!!!」

 

 

 などと突然キレた天子をよそに、衣玖は死んだ魚のような濁った灰色の目でどこか違う世界を見ていた。

 普段はひらひら舞っている衣玖の羽衣も、衣玖の体力を象徴するかのように砂の上をズルズル引きずられている。体力のない衣玖はお構いなしである。

 

 

「おーい衣玖ぅ……生きてるー……?」

「あははははははははははは」

「ダメだこいつ早く何とかしないと……」

 

 

 狂った笑い声をあげる衣玖。ハットのような帽子の中には、衣玖のとてもこの世のものとは思えないような表情があった。

 これがテレビなら、確実に少々お待ちくださいのテロップと花畑のイメージ映像が流れていることだろう。

 

 

「これは……放送できないわ……」

 

 

 天子も衣玖の表情を見て驚いていた。いつもの彼女の佇まいからは到底想像できないものであったからだ。

 

 

「あっ……桃が、桃が見えます……」

「衣玖…それは幻覚よ……桃なんてどこにも」

 

 

 ガブッ

 

 

「ってそれ私の帽子についてる桃!!」

「むしゃむしゃ」

「さり気なく食うな!!! わたしのっ、私の非常食ーーー!!!」

 

 

 非常食だったのか…というどこからかの声を天子は無視して、帽子にへばりついた衣玖をふるい落とそうとした。しかし、如何せん身長が違い過ぎる。衣玖の方が体格が上のため、天子は衣玖ののしかかり攻撃を振り払うことは困難であった。

 そして衣玖が離れたときには、天子の帽子から桃は無くなっていて、ただの帽子に成り下がっていた。

 

 

「うう、私の非常食兼ファッションが…」

「かぴかぴで、ぱさぱさで、全然美味しくない……ぺっぺっ」

「はっ倒すぞお前…」

 

 

 泣きながら怒るという器用な芸当をこなしながら、天子は寂しくなった帽子をかぶった。その背中は悲壮感に溢れていてただでさえ小さな体がより小さく見えた。

 対照的に、不味い不味いと文句を言いながらも若干回復はしたのか衣玖の瞳は元の緋色に戻っていた。理性の瞳だ。天界の桃は地上のただの桃とは違うのかもしれない。

 

 

「さあ、行きましょう総領娘様。立ち止まっていては見えるものも見えてきませんからね!」

「元気になったなぁオイ……他人様の桃を勝手に食っておいて」

「何を言っているのですか。私と総領娘様はもはやパートナー、相棒ではないですか」

「誰がパートナーだ、誰が相棒だ」

「さっさとこの砂漠を抜けてしまいましょう!」

「もうこいつヤダ……」

 

 

 張り切り先導を行く衣玖を追いかけるように、重い足を引きずりながら天子は砂の大海を進んでいく。

 相も変わらず太陽は燦々と体力を削りにかかっていた。アホなツッコミをしていたせいか、余計に天子の体に負担が重くのしかかっていた。

 

 

「ホント、この暑さどうにかなんないかねえ……こうも汗が流れてちゃ鬱陶しいのなんの……」

「総領娘様。実は私、涼しくなる方法を一つ知っています」

「え、ホント!? マジで!?」

 

 

 途端に顔を輝かせる天子。目の中に星でも入れたのかと尋ねたくなるようなキラキラとした瞳に一瞬衣玖はたじろぐ。

 

 

「総領娘様、近い近い」

「おっと失礼」

 

 

 すっと一歩下がる天子。

 

 

「で、涼しくなる方法って何!? 私、何でもやっちゃうよ! あんなプレイやこんなプレイも―――」

「それ以上は18禁になっちゃうから言わないでください」

「wktk」

 

 

 天子は心をワクワク、肌をテカテカさせていた。もちろん、それは18禁なプレイにではなく、涼を得られる方法に対してという意味だ。

 

 

「それじゃあ、お教えします……あ、そうそう総領娘様、ちょっと緋想剣を貸してくれませんか」

「? いいけど」

 

 

 天子は腰に差していた己の武器、緋想剣を衣玖に手渡した。「気質を見極める程度の能力」を有するこの剣は本来“異変”で使う予定だったものだ。

 柄の部分は白い布が巻かれていて柄の代替を成している。刀身と柄が同じ金属で打たれており普通一般の剣や刀とは一線を画している。先端に近づくにつれて赤褐色から紅色に変化している刀身は、未だに熱を帯びているかのような印象を見る者に与える鮮やかな色だった。

 緋想剣の鞘ごと受け取った衣玖は柄を掴んで剣を抜くと、天子に言った。

 

 

「総領娘様、私がいいと言うまで向こうを向いていてもらえますか? すぐに終わりますんで」

「はいはい」

 

 

 天子は涼しくなると衣玖の言葉を信じて、衣玖の言うとおりにした。

 

 

「それじゃ、」

 

 

 衣玖は緋想剣の柄を掴み、握る部分を調整しつつ。

 

 

 ガッ、

 

 

「ゑ?」

 

 

 天子の長い青髪を掴んで剣の刀身を当て。

 

 

「涼しくなあれっ」

 

 

 ザシュッ。

 

 

 髪を肩口からバッサリ切り落とした。

 

 

「っておおおおおおおぉぉぉおおいいいいいっっっっ!!!!!!??????」

「これでよし♡」

「これでよしはあと、じゃねえええええええええええええええッッッ!!!!!! どうしてくれんの? ねえどうしてくれんの私の髪の毛ッ!!!? 何いきなりバッサリいっちゃってくれてんの!!??」

「(ふぁさっ)ふむ……東の風か、それも弱い。十番、アイアン持ってきて」

「ゴルフじゃねえよ! 聞けよ! 私の大事な髪の毛を風読みに使うなってあああああああああああ!!???」

 

 

 天子の魂の叫びは無慈悲にも東の弱風に持って行かれてしまい、長い青髪は風に乗ってバラバラに砕け、やがて見えなくなってしまった。太さが一ミリにも満たない髪の毛をこの広い砂海で探すのは、砂漠で砂金を探すこと以上に困難である。というか、不可能だ。

 取り返しのつかないことになった、と天子は愕然とした。天空に手を伸ばした状態で硬直し、やがて項垂れるように肩を落とした。

 

 

「うう…私の髪の毛………せっかく頑張って伸ばしてきたのに」

「そんなの、生きてきた年数に比べれば微々たるものでしょう?」

「そうだけど! 髪の毛は女の命っていうでしょ!」

「……ボソッ(見せる相手もいないくせに)」

「聞こえてるぞコラ」

 

 

 天子は溜め息を吐き、すっかり短くなってしまった己の髪の毛を弄ってみた。

 

 

「うわ、短いなあ……ホントどうすんのよコレ」

「大丈夫です総領娘様! もみあげは残してあります」

「あっ、ホントだ良かった……ってぜんっぜん良くねえよ!!」

 

 

 天子の髪は、腰まで伸ばしてあった長髪をバッサリと肩口で切られて、唯一もみあげだけが元の長さのままで何とも不思議な髪形となっていた。

 しかし、衣玖も鬼ではなかったのかなんとか女の子と見た目で分かるくらいには髪は残してあった。後は無造作に一直線に切った髪をちょっとだけ調整すればなんとか体裁は整えられるだろう。まあ、無断で髪を切ること自体もはや鬼の所業のような気もするが……。

 

 

「でも、涼しくはなったでしょう? 長髪は何かと鬱陶しいですからね」

「……そりゃそうだけど、でもいきなり他人の髪を切るなんて」

「ですがその髪型、非常によく似合ってますよ?」

「え?」

 

 

 確かに、天子の短髪はお世辞などではなく非常に似合っていた。これまでの長髪は、無理に大人ぶって見せようとしていた魂胆が見え見えで、似合わなくはなかったがどこかちぐはぐな印象が見受けられたのだ。しかし、髪を切ったことでそのちぐはぐも無くなり、むしろ小柄な身長とベストマッチしている。

 元気で活動的な娘の印象だ。騒がずに静止していれば、一級品の肖像画としてオークションで高値で取引されてもおかしくない姿だった。

 

 

「そ、そんなに綺麗? 可愛い?」

「ええ、勿論」

「全世界の男を魅了できるくらいに可愛い?」

「特殊な性癖を持つ人たち以外なら軒並」

「衣玖自身と私なら、どっちが可愛いと思う?」

「そんなの私に決まっているじゃないですか」

「そこは嘘でも『総領娘様』って言えよ。読めよ空気」

 

 

 しかし褒められて嬉しくないはずがない。天子は衣玖の言葉が七割お世辞ということに気づかず、上機嫌で前髪をくるくるといじくっていた。

 

 

「んー……じゃあ、もうしばらくこの髪形でいこうかな」

「それがいいと思いますよ」

 

 

 衣玖の言葉はあまりにも軽かった。だが、衣玖としては本気でどうでもよいことだったし、無断で切ったことの報復だけを避けれればそれでよかったのだ。

 それに、七割はお世辞でも、残り三割は本気なのだから。

 しかしそれを言うのはなんか恥ずかしいし、言うのも癪だ。調子に乗った天子の姿を見るのも腹が立つし、衣玖はそのことは言わないでおくことにした。

 

 衣玖にツンデレの萌芽が始まっていることは誰も気づいていない。

 

 

「それでは早速行きましょう。早くしないと日が暮れてしまいます」

「何かモーレツに疲れたなあ、はあ」

 

 

 まだまだ高い太陽。日差しが強い状況はまだ続くと予感させながら、二人は道なき道をあてどなく進んでいった。

 




皆さんは髪が長い天子と短い天子、どちらが好きですか?私は短髪天子が断然好きです!池に天子を落として女神さまが、

女神「貴方が落したのはこの普通の天子ですか? それとも短髪天子ですか?」

と聞いてきたら迷わず短髪の方を選びますね。キレイな天子はいりません。

短髪天子という単語がイマイチ分からない人は、「天子の旅」でググってみてくださいな。私が影響された同人誌に天子が出てきますから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。