異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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SSから復帰、本編でうs。


34話 始闘

 もう、ここを何度訪れたのか、天子には分からなかった。途中で数えることを止めてからというもの、天子たちはここを主戦場に冒険者としての力を向上させていった。

 色々なことがあった。初依頼で偶然出会ったドスガレオスや鉱石採取などの採取系の依頼、そしてランクアップ試験の卵運び。どれもある意味で思い出深い光景で、目の前でそのときと同じように思い返すことができた。

 ロビンに助けられたのも、またこの砂漠だった―――

 

 

「………」

「…いつも以上に、緊張してますね総領娘様」

「しないわけがないでしょ。それに……それは衣玖だって同じことでしょ」

「否定はしませんね。格上の、それも二段階も上のモンスターと戦うんですから。いつも以上に身が引き締まる思いです。……本当に、失敗は許されませんからね」

「………」

 

 

 角竜ディアブロス。その名をおそらくランデルで知らぬ者は無いと言われるほどメジャーで、そして名が知られるほど恐れられているモンスターだ。かのモンスターはランデルにも時に被害を及ぼすことがあり、冒険者だけでなくその他の人にも影響を及ぼすのだ。

 それは今回のような砂漠を渡る人に然り、また直接町への被害もある。そのもっとも顕著な例が過去のロビンの一件である。

 

 かつてロビンはディアブロスと戦い、そして深傷を負わされ冒険者を引退する羽目になった。それは、ディアブロスがランデルの町に向かって大暴れし、それを食い止めんと当時冒険者ギルドランデル支部の最高ランクを所有していたロビンに白羽の矢が立ったことに起因する。

 そして結果は何とか撃退には成功するも、負わされた傷が災いして冒険者を現役引退。その後は副職のようなものだった金勘定の手腕を買われて商会へと転職した。

 

 引退するほどの傷を負ってまでディアブロスを止めた彼の話はまるで悲劇のヒーローのようだった。実際、この話はランデルでは結構有名だったりする。

 しかしここで見逃してはならないのはロビンの美談ではなく、実際Bランクの実力を持ちながらも討伐まで至らなかったディアブロスの強さである。事実上BランクではAランクモンスターには敵わないと言っているのだから。

 天子と衣玖も相手は格上のモンスターだと重々承知している。人の身ではない、などと慢心するつもりは一切ない。

 

 

「……ギルマスから聞いたディアブロスの特徴、ちゃんと覚えてるわよね?」

 

 

 天子と衣玖は砂漠へと向かう直前、ギルドマスターのアルノーからディアブロスの特徴について簡単に説明してもらった。

 体を覆う甲殻の堅固さはまるで岩石のようであり、強靭な武器と言えど傷一つつかない。地中を潜り視界から外れた地面からの奇襲攻撃は一度巻き込まれれば大ダメージは逃れられない。耳の鼓膜が裂けてしまうほどの咆哮を放ち、あまりの大音量にその場を動くことさえできなくなる。巨体ゆえの身体を使った攻撃は強力だが、ドスガレオスがしていたようなブレスは行わない。

 主にアルノーが冒険者時代に培った知識を二人に教授したのだ。こういう知識は自らの武器にもなり得るから簡単に人に話したりしないのが普通なのだが、事態が事態だったのでアルノーも何の躊躇もなく話してくれた。

 

 

「当然です。きちんと頭の中に刻み込んでますから」

「それならいいわ」

「……地中に潜るのなら、下からの攻撃に注意しないといけませんね。ドスガレオスの一件もありますし」

「地面なら私に任せておいて。衣玖よりは役に立つと思うし」

「はい」

 

 

 普段なら嫌味かと勘繰っているところだが、今の天子の言葉は純粋な役割分担の上での発言だ。衣玖も状況は(わきま)えているつもりだ。

 直射日光がじりじりと照りつけ熱気で体力を奪っていく。クーラードリンクで暑さはかなり和らいでいるはずだがそれでも元来暑い地帯である砂漠の地力を完全に防いでるとは言えず、二人の額には大粒の雫が既にいくつも浮かんでいる。ブーツ越しに伝わってくる地面からの熱さも決して馬鹿にできるものではなく、いくら耐寒耐暑に優れているものとはいえども鬱陶しいことには変わりはない。

 二人はそんな地獄のような熱砂を歩いている。二人の顔にいつものような余裕ぶりは全く見られず、緊張で顔が引き締まりピンと張りつめた糸のような線が張られているようだ。

 ディアブロスは砂中を潜りながら移動する。アルノーから聞いたディアブロスの特徴を脳内で反芻しながら天子と衣玖は地面に注意しながら砂の大地を当てどなく進んでいた。

 

 ズズズ……―――

 

 そしてランデルの町を出てから三十分ほど経過し、そのときが訪れようとした。

 

 

「! 衣玖!」

「はい! これは…、」

「間違いなくやつのでしょうね。戦闘準備よ!」

 

 

 天子はそう叫ぶと緋想剣を鞘から抜き出し、衣玖は羽衣を頭上に小さくアーチを描くように展開して戦闘態勢へと切り替える。五メートルほど間隔を開けてどこから来られてもどちらかが対処できるようにセットする。

 地面の底から湧き上がってくるような地鳴りが徐々に大きくなり始め、二人の足下を揺さぶり続けそして―――

 

 

 ウボアアァァァァァァァァァァァァ―――!

 

 

 大量の砂塵を巻き上げ、それは姿を現す。突如出現したそれは、まるで巨大な岩山が目の前にそびえ立つような存在感を二人に抱かせる。

 それは全体的に砂色だ。まるで岩そのものと見紛うほど盛り上がった筋肉がそいつの挙動で僅かに動きを見せている。両腕の代わりに大きく広げている翼も一筋縄でいかなそうで、他の部分よりは柔らかいはずの翼膜さえも強靭なものに見えてしまう。

 巨大なハンマーと遜色ない尻尾はそのまま武器に使えそうである。二本で対になっているハンマーの頭部に当たる部分は、まるで斧の両刃をハンマーに置き換えたようなお笑いにならない凶悪さを孕んでいる。あれで殴られでもすれば重傷は免れないだろう。

 そして何より際立つ頭部の二本の角。そいつの名前に冠する部分ともいえる巨角は何重にも分厚い層が重なっており、そいつが生きた年数を間接的に示している。まるで地層のように新旧の層が分かれていてそいつが、この過酷で厳しい野生の世界を生き抜いたことを証明する生きた証拠となっている。

 

 角竜ディアブロス。

 

 二人がアルノーから聞いた特徴と符合する。まず間違いないのだが、そのあまりもの巨大さ、存在感の大きさに二人は一瞬思考が停止しかかった。

 

 

「コイツがディアブロス……なんて大きさ」

 

 

 二人がこれまで出会った一番の大きさのモンスターはドスガレオスだ。やつも相当大きかったが、しかしディアブロスはそれ以上の大きさを誇っている。

 見上げる体高の高さはまるで小高い山のよう。天子のジャンプでは背中まで届きそうにもない。

 一瞬の間。しかし、二人の気配を敏感に察知していたディアブロスは出現した次の瞬間、大きく首を振い天高く碧空を目がけて莫大な声量をぶちまけた。

 

 

 グゴガアアアァアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――!!!!!!!!!

 

 

 音の爆発。そう表現するのが似つかわしいほどの途方もない声量を帯びた咆哮だった。大気が斬り裂かれこの地域一帯が一瞬の真空状態になってしまうのでは、と現実離れした想像がよぎる。

 

 

「うぐぅぅぅぅぅぅ!!?」

「くうぅぅぅぅ!! なに……この声………! っ耳が、耳が裂ける……っ!!」

 

 

 音の爆発に天子と衣玖は咄嗟の防衛反応で耳を懸命に塞ごうとする。それでも抑えきれない爆音が外耳道に侵入し鼓膜を振るわせ、三半規管を振動して一瞬眩暈のようなものを起こさせるが、危機を感知した本能が自動的に膝を折り地面にしゃがみ込ませてそこまで至らずに済んだ。

 ディアブロスは強烈な咆哮を発すると話には聞いていたが、まさかここまでとは予想外だった。ビリビリと激しい咆哮を体で感じながら二人はただしゃがみ込むだけしかできない。

 

 体を振るわせ咆哮を止めたディアブロスは、既に己のテリトリーに侵入してきた闖入者を見定め遠いその位置から翼を広げて足を踏み出して突進を開始した。

 耳の奥を刺激され体が僅かに鈍い二人は、もの凄い勢いで近づいてくるディアブロスの線上から一目散に離れた。

 

 

「くっ……!」

 

 

 超重量のそれが近づき、天子の僅か二メートル後ろを通り過ぎたディアブロス。地響きが鳴る地面の振動に冷や汗をかいた天子は何とか避けられたことに安堵した。

 

 

「こんなのに直撃したらひとたまりもないわよ!!」

 

 

 もし巻き込まれれば、重傷どころの話ではない。下手をすれば―――

 

 

「―――ッ! くそっ!」

 

 

 浮かんできた悪い想像を舌打ちして振り払い、緋想剣を構える。相棒である衣玖もひとまず無事のようで、天子と反対側にいた。アイコンタクトを交わし、お互い頷いた後衣玖は上空へと舞い上がって臨戦態勢を整える。

 アルノーのもたらした情報が確かならば、ディアブロスはブレス攻撃は持っていないはずだ。ならば、常に空を飛び続けられる衣玖は非常に効果的である。空への攻撃手段がないのだからこちらから一方的に攻撃できるのだから。

 しかし、空からの攻撃には一つ大きな穴がある。

 

 天子は緋想剣を下段気味に構えて突進の終えたディアブロスへと向かって行く。もの凄い速度で走って勢いを相殺できないのか、ディアブロスは砂埃をあげて制止していた。しかしかなり距離があいてしまいすぐには距離を詰めることができない。

 しかし天子の今の役割はディアブロスに一撃を入れることではない。少しでも気がこちらに分散すればそれでいい。

 本命は衣玖だ。二人の連携は遠くから狙撃できる衣玖が先手を務めることが多いのだ。

 

 

「まずは先程の洗礼の一発!」

 

 

 ディアブロスの後方へと位置どった衣玖は上空から雷を発動しディアブロスへと仕向ける。手加減は一切無用の、幾本にも分たれた蒼い稲妻がディアブロスへと命中し、激しく雷光を瞬かせる。

 しかし、衣玖の放った雷はディアブロスの重厚な甲殻に阻まれてそのまま反射するように弾かれてしまう。当のディアブロスは少しもダメージを負った風には見えない。

 

 

「……弾かれますか。大型のモンスターは『魔法耐性』が高いと聞き及んでいましたが……」

 

 

 モンスターには『魔法耐性』という魔法防御が存在する。これはどれだけ魔法耐性が高いかという数値を示すもので、魔法耐性が高ければ高いほど魔法攻撃の効果が薄くなっていく。今のように攻撃が通らず弾かれてしまうのだ。

 魔法耐性はモンスターによって千差万別で、一般に大型で強いモンスターになるにつれ魔法耐性も高くなるという寸法だ。

 そして魔法耐性にはもう一点重要なことがあり、それは魔法攻撃には有効射程距離があるというものだ。読んで字の如く、魔法攻撃には最もダメージが通る距離があり、その射程距離を越えるとモンスターの魔法耐性の高さに阻まれ威力が全くなくなってしまう。

 

 つまり、今ディアブロスに電撃が弾かれた要因は二つ。元々やつは高い魔法耐性を持ち、その上距離が少し遠かったことにある。

 威力を上げることは得策ではない。持久戦になったときのために少しでも魔力は温存しておく必要があるし、これでも温存した中では全力で撃った一撃だったのだ。必然的にとれる作戦は、

 

 

「やつに近づくよりほかない、か…!」

 

 

 魔法攻撃に射程距離が存在するのは撃ち始めてから威力が下がっていくためである。そのために有効射程距離を越えた場合に魔法が敵の魔法防御を貫けず弾かれてしまう。

 これ以上威力を上げられない以上、ディアブロスの魔法防御を撃ち抜くためには敵に近づいて威力が下がる前に当てるしか方法はない。勿論、その分敵に狙われる可能性も上がるわけだが、そこは今もディアブロスの周りを走っている天子に任せるしかない。

 衣玖はディアブロスにさらに近づき、流石にここまで来ればダメージが通るだろうと思われる距離を維持しつつ僅かに電撃の威力も高めて雷を放った。

 青白い一閃が砂漠を奔り、ディアブロスの元へと一瞬で到達し奴の魔法防御を撃ち破り―――

 

 バシン!!

 

 

「なっ!?」

 

 

 ―――撃ち破れなかった。

 間違いなく撃ち破るだろうと確信していた一撃は衣玖の思惑を大きく違え無慈悲にも弾かれてしまう。ディアブロスの甲殻には、僅かに焦げた黒い跡がもの哀しく残るだけだ。

 

 

「そんな…この距離で弾かれるなんて!? どれだけ耐性が高いんですか!?」

 

 

 愕然とした。少なくとも通りはするだろうと最低限思っていたのが、その予想を上回り同じように弾かれてしまった。いや、焦がしはしたのだから全く同じというわけではないのだが、そんなものは些事だ。ダメージが通っていないことには変わりない。

 予想の斜め上の結果に驚愕としながらも、衣玖は敵に隙をさらす愚行を起こさない。顔をしかめながらディアブロスの頭上を回遊し、一か所に留まらないようにしていた。

 

 天子は衣玖の攻撃が放たれた瞬間にディアブロスに接近した。緋想剣を構え、ディアブロスが衣玖の方へと一瞬注意を向けるその瞬間を待ち構えた。

 しかし、その瞬間はついぞ訪れず、ディアブロスは衣玖の電撃が着弾したにも関わらず接近する天子に向かって首を伸ばして噛みつこうとした。

 

 

「くっ!?」

 

 

 予想が外れた天子は、最悪の可能性も考慮していたため何とか噛みつきを横に転がって回避には成功した。焼けるように熱い砂が天子の短髪に絡まるが、気にする余裕はなくそのまま足をバネにして足元へと潜り込んだ。

 小山の如き巨体を誇るディアブロスの脚はさながら建築物の太い柱のようだ。樹齢何百年の巨木の幹のように太い脚はディアブロスの強靭な筋肉がよく見える。隆々と発達した筋肉は甲殻の隙間から覗いて見えその圧倒的存在感に一瞬飲まれそうになるが、理性を保ち天子は緋想剣を素早く上段から下段へと斬りつけた。

 しかし、斬りつけた剣はまるで岩そのものの甲殻に阻まれて弾かれる。

 

 

「く……! なんて硬さなの!? 緋想剣が全然通らないなんて…!」

 

 

 その感触は僅かに傷つけた、とさえも呼べない。まさに完全に弾かれた、そう呼ぶに相応しい手応えが天子の剣を握る手に伝わってくる。幸い刃が欠けるようなことはなかったが、こう何度も打ちつけ続ければその可能性も考慮しなくてはならない。

 足元で動き回っている天子が鬱陶しいのか、ディアブロスは暴れるように尻尾を回転し始める。ただの足踏みが大怪我になりかねない体格差では一か所に留まることは愚策でしかなく、天子は尻尾に当たらないようにディアブロスの元から離れる。

 一度離れた天子は入れ替わるように衣玖が放つ電撃をチラッと横見したが、電撃も思うようにダメージが通っておらず、ディアブロスは衣玖の方に見向きもしていない。天子は衣玖が位置しているポイントが普通よりかなり近いことに若干焦りを覚えた。

 

 

(あの場所からじゃないと攻撃が通らない、ってこと? 今は私の方に向いているからいいけど……)

 

 

 衣玖は傍目から見てもかなり地面に近い位置で攻撃をしている。あの場所では下手すれば攻撃が届いてしまう可能性がある。

 衣玖は遠距離攻撃の要だ。援護射撃が無くなってしまえば厳しい戦いになることは目に見えている。

 ならば、と天子は強く緋想剣を握りしめて己の役割をもう一度頭の中で反芻した。

 

 

(私がやるべきことは、敵の注意を引きつけること…!)

 

 

 大きくカーブを描くように回り込み、尻尾を叩きつけ小さな口から漏らすような声をあげて威嚇するディアブロスの側面に接近する。威嚇をしているディアブロスは余裕の表れなのか、隙だらけに見えた。

 この好機を逃すわけにはいかない。

 危険を承知の上で天子はディアブロスの頭部に接近した。生物の共通の弱点で、天子が好んでよく狙う喉元あたりならいくら硬いディアブロスといえどダメージは通るはずだ。

 

 

「せやあああああっ!!」

 

 

 裂帛の気を込めた縦斬り。上段から振り下ろされた斬りは天子の気合を込めた力がみなぎり、剣の柄がぎり、と締まる。鍔の機能が取り払われた緋想剣はその刀身をギラリと陽光を反射させてディアブロスの喉元へと吸い込まれる。

 今度こそ通ったと思われた一撃は、しかし、天子の手に強烈な振動を残して弾かれる。

 これには、流石の天子も驚きが隠せない。

 

 

「ウソっ、ここも!?」

 

 

 刃が通らず弾かれてしまった天子は反動で大きく後ろに後退して無防備な姿を晒す。驚きを隠せない驚愕と物理上仕方のない反動で天子は一瞬気が逸れてしまう。

 それを好機だと思ったかどうかは分からない。ディアブロスは、そんな天子の隙を突くかのように足を曲げて体を捻り、攻撃の態勢を整える。

 その攻撃の方法に天子は見覚えがあり、真下にいるのは不味いと本能が訴えかけたが反動を受けて自由の利かない天子は成す術がなかった。

 ディアブロスはその大きな身体を溜めこむように静かに引き、そして溜めこまれたパワーをはじき出した。それは、ぐいぐいと引っ張った輪ゴムが指から離れて遠くに飛んでいくような、そんな溜めであった。

 所謂体当たりと言われるその攻撃をガードする間もなく全身に受けた天子は莫大なその力に押され数メートルほど宙に浮かんで地面に転がった。

 

 

「ガハッ―――!?」

 

 

 二転三転と受け身も取れず天子の軽い体が転がり、砂丘の坂になっているところでようやく止まった。

 

 

「総領娘様! くっ、このぉ―――!!」

 

 

 天子が吹っ飛ばされたと見るや否や、衣玖はすぐさまディアブロスに接近し素早く、そしてできる限り高威力の電撃を放つ。まさに電光石火と呼べる衣玖の行為は功を奏し、結果的に衣玖にターゲットを向けることに成功した。

 至近距離からの電撃。二メートルと空かないその距離から撃たれた電撃に流石のディアブロスも無視できなかったのか、僅かに身じろぎ衣玖に狙いを定める。

 その僅かな間に衣玖は羽衣の形状を変化させる。右腕に円錐状に絡まる羽衣は、まさしくドリルの形のそれ。紫電を纏わせながら構えるその姿は、まるで一本の槍のよう。鉄の如き堅固さを得た羽衣を、紫電を纏わせながら放つそれは「龍魚ドリル」と衣玖は呼んでいる。

 

 

「はあっ!!」

 

 

 空気に風穴を開けるように一点に集中したドリルは、丁度ディアブロスの尻尾の付け根に当たる部分を突き刺した。弾かれることを覚悟していた攻撃は、しかし弾かれることなく甲殻を僅かに砕く。雷を乗せた攻撃はさらにダメージを加速させ、通電した電線の要領でディアブロスに電気が流れ込む。

 

 

 ウボォァァァァァ!!?

 

 

「入った!? ここは、どうやら攻撃が通りやすいようですね……!」

 

 

 突然の電気に驚いたのか、ディアブロスは身体をよじらせ後退する。追撃するか否か逡巡した衣玖は、ひとまず態勢を整えることに専念した。

 ディアブロスの尻尾の付け根は比較的攻撃が通りやすい部分らしい。頭とか喉が無駄に硬いのにどうしてそんなところが、と衣玖は思う。

 

 

「頭硬くして尻硬くせず、みたいな感じですか」

 

 

 冗談を呟けるくらいには落ち着いたようだ。攻撃が通ったことで若干余裕ができたのかもしれない。

 しかし、所詮突破口が見出せただけにしか過ぎず、その穴をどう上手く広げていくかを工夫しない限り打倒はかなり厳しいものになる。そもそも尻尾の付け根なんて高い位置にある上に狙いづらいことこの上ない。電撃のような精密射撃が厳しい攻撃では難しいだろうし、天子の剣でもジャンプしない限り届かない。

 そう言えば、と衣玖は天子の姿を探す。

 

 

「くぅ…飲んでもすぐに痛みが消えるわけじゃないのよね……それに不味い」

 

 

 既に天子は起き上がって回復薬を飲んでいた。相変わらずの不味さに顔をしかめていたが、感情を露わにできるほどには回復しているようだ。

 あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、天子は緋想剣を離さなかった。剣士の魂とも呼べる己の分身を、たとえ攻撃を受けても手放さないその根性は評価できる。

 濡れた口元を服の裾で拭き取り、天子は衣玖と目配せする。

 

 やるべきことはたった一つ。

 目の前の、この砂漠に君臨する暴君を倒すこと。

 

 何度も砂漠で依頼をこなし、連携を体で染み込ませた二人はほぼ同時でディアブロスへと駆けてゆく。

 大地を駆ける青と、空を駆ける赤。天地無双の二人の攻防が再開する。

 

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