異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~ 作:火也(かや)
※32話の次に挿入されていた今話を一章の終わりに繰り下げました。
「くっそ不味い!」
「喉の奥にこびり付くような苦味と鼻腔を刺激する臭い……おえぷ」
「いつ飲んでもこの味……吐きたい」
「おい馬鹿やめろ。確かに不味くてたまらないがどうしようもねえだろうが」
それはその風味と臭いで多くの冒険者を絶望の淵へと追いやった。魔法が使えない者やパーティにいない者らは必然と使わざるを得ず、皆不味い不味いと連呼しながらも手に取るしかない。非常事態にはそれは唯一のものとなるのだから。
誰もがそれを理解しているが、理性では分かっていても体がそれを拒否してしまうのは致し方ない。
そんな、天使の皮をかぶった悪魔のような代物。それは―――
「あーーーーーーまっずいわねホントこの回復薬!!」
◇
「そんなわけで味の改良を提案します!」
「何がそんなわけなのか知らないけど……」
ここは雑貨店「冒険者御用達」。そこに天子と衣玖、そして店の主人であるティアが店の奥のテーブルでお茶を飲んでいた。
「まあ、私もこの回復薬の味はどうにかした方がいいと思ってたけどねー」
「でしょ!? 良薬は口に苦しっていうけど苦過ぎたら飲めないし! 何とかして味を改良してー;;」
「それができたら苦労しないんだけどなー…もう色んな人が試してるんだけど、尽くそれの改良に失敗して改良の余地はなしって思われてるんだよ」
そういうとティアは戸棚から乳棒と乳鉢を引っ張り出す。
「それは?」
「調合用のキット。これでいろんなものを作ったりできるんだ。勿論、回復薬もね。試しに作ってみよか」
カウンターの方から濃い緑色をした葉っぱと青白いキノコを取り出し、キノコを乳鉢に入れて乳棒で磨り潰し始める。十分ほど行った後、予め水を煮立たせておいた鍋に葉っぱと粉末になったキノコを投入し、火加減を調節する。やがて葉っぱの緑が溶け出したのかお湯は緑色に変化し、独特の臭気を辺りに漂わせるようになった。
「う……」
「これは……」
「んであとは冷まして瓶詰したら回復薬の完成。キノコのエキスが薬草の治癒効果を高めてくれるんだ。……その分苦味と嫌な臭いも増幅されるけど。……飲む?」
「「【せっかくですが遠慮します】」」
「まあせっかく作ったんだし、どうせなら売り物にしておこっと。それで話戻すけど、結局のところこの苦味をどうやって取り除くかがネックなんだよね」
「甘くしたらいいんじゃないの? まあ一般論でね?」
「ところがどっこいその方法はとっくに試されてるんだよね。砂糖を入れて試したらしいけど、余計に不味くなったったらしいよ」
「……マジで?」
「マジっす」
「では他のもので甘くしてはいかがでしょう?」
「他のもの? 砂糖以外に甘いものなんて見当つかないけど、何かあるの?」
「それは………あ、そういえば」
衣玖はポーチの中から、小瓶に詰められたものを取り出す。それはどろっとして黄金色に輝いていた。
「砂漠の洞窟で偶然見つけたものなんですが、蜂蜜です」
「蜂蜜? 砂漠に蜂いたっけ?」
「私たちも偶然見つけまして。蜂と交渉(物理)して取って来たんです」
「あったわねそんなこと。これなら甘くできるんじゃないの?」
「…試してみるわ!」
嬉々として蜂蜜を受け取ったティアは冷ましている途中の回復薬を小瓶に詰め替え、その一本に蜂蜜を注いだ。細長いティースプーンでかき混ぜていくうちに蜂蜜は分離することなく液体に溶け込んでいった。
濃い緑色をしていた回復薬は淡い緑色へと色を変化させた。優しい色合いだ。
「よし、じゃあ試しに飲んでみて! ちょっと熱いから気をつけてね」
「……じゃ、じゃあいただくわ」
天子はおそるおそる口元に近づけ、覚悟を決めて回復薬を飲んだ。
「どう……?」
「……………………………………………………」
「総領娘様?」
「…………………………う」
「う?」
「――――――――――美味いっ!!!」
ガタンと椅子から立ち上がり、大声をあげる天子。その行動に二人は戸惑う。
「なにこれ蜂蜜入れただけでこんなに味が変わるものなの!? すっごく美味しい!」
「そ、総領娘様本当ですか……?」
「ホントホント! 騙されたと思って飲んでみなさいよ!」
天子が促し、衣玖とティアも口につけた。そしてその味に二人は驚愕した。
「ホントだ、美味しい……」
「苦味が蜂蜜の甘さとコクの深さで消えて、なおかつそれを上回って表に出て、同時に臭いまで消して淡い甘美な香りまで漂わせて。……以前の回復薬とは思えませんね」
「これすっごいわよ! 売りだしたら凄いことになるんじゃないの?!」
「そうですね……他の冒険者の方々も回復薬の味の不味さには辟易していましたから、この新しい回復薬が売り出されたらとなると是が非でも買いに来るでしょうね」
「やったわねティア! これで商売繁盛間違いなしよ!」
「え? あ、そうね。……………あれ、それって凄いことなんじゃ……」
ティアは事の次第の重要さに遅くながら気づき、三人で手を取って喜びを分かち合った。
天子と衣玖は回復薬の不味さのジレンマ脱却から。
ティアは客足の少なかったこの店に一つの光明を見出して。
そしてティアの店は大繁盛し、ランデルの町の特産品として「回復薬グレート」が全国に広まっていくことになるのだが、それはまだまだ先のお話。
はい、宣言通りのSSでございます。時間足りなかった。許してくだしあ;;
中身は回復薬Gのお話。みなさんきっとお世話になっているはず。グレートですよ…こいつぁ…。
それと前書きでも書いてますが、風邪ひきました。熱はそんなになくて、喉の痛みとだるさと頭痛がありますね。実のところこのSSも風邪っぴきの最中に書きました。時間足りないからせめてつなぎを書こうって言ったのに、それすら反故にするのはどうかと思いまして…。気合で書きました。体力が……。
今日は祝日ですけど、うちの大学は祝日でも関係なく毎回授業があるんですよ;;何でも生徒総会で昔大学に意見したとか。昔の奴らは馬鹿すぐる。
では、みなさんもどうかどうか風邪にはお気をつけて。受験生とかは特にね!