異世界緋想天 ~天子と衣玖の異世界旅行紀~   作:火也(かや)

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これまでの反動か、今回は凄く短くなった……内容も薄い(泣)


52話 上目遣い

「見えるの、って言われても……」

 

 

 そもそも、この発光体が何なのかすら知らないのだが。

 

 

「そもそも精霊とは?」

「精霊というのは、魔力エネルギーで体を構成している一種の精神体のこと。現世とは異なる別世界に生息しているんだけど、世界に満ちる魔力を媒介にしてこの世界に顕現しているの」

「別世界の生き物?」

「生き物って言い方は少し語弊ね。彼らには基本的に死ぬという概念が存在しないから」

「…なるほど」

 

 

 つまり幻想郷で言うところの妖精に近しい存在だということだろうか。向こうの妖精は魔力ではなく自然環境に依拠した存在だったはずだが、妖精ははっきりとした姿が見える辺りこちらの精霊の方がさらに曖昧な存在だということなのだろうか。

 

 

「精霊はエルフ以外その姿を見ることはできない! 高潔な我々エルフではない貴様ら人間が見えるようなものではないのだ!」

「それは間違いよアル。エルフにしか見えないんじゃなくて、精霊を可視できる条件を持つ者を私たちがエルフ以外に知らないだけよ」

「つまり同じことじゃないか!」

「いいえ、全然違うわ。だから今回みたいに……そうね、貴方たち二人はその条件に当てはまっていたから精霊が見えたのね」

 

 

 納得してうんうん頷いているフィオナに対して、アルは少し不満げな表情だった。

 まあ、侵入者の天子と衣玖をフィオナが遠回しに弁護したようなものだから不満があるのは致し方のないことかもしれない。

 

 

「精霊が見える条件、とは?」

「仮説なんだけど、精霊を視認するのに適合した性質の魔力を多量に保有していることなんじゃないかなって思ってるの。エルフの中にも見える精霊の数で個人差があるみたいだから、エルフに均等に見える力というわけではなさそうだしね。」

「つまりフィオナさんたちエルフが精霊を可視できるのはその性質の魔力を持っているからで、人間はその魔力を持たないから見えないと?」

「エルフに個人差があるように人間にも個人差はあると思うから、もしかしたら見える人間もいるかもしれないわ。貴方たちのように、ね」

 

 

 感慨深く頷くフィオナの思考は、まるで学者のような理論立てであった。将来は学者に向いているのかもしれないなと衣玖は勝手な想像をしたが、どうも学者とは机に向かってばかりで大量の書物と格闘している姿が思い浮かぶ。そんな陰湿な雰囲気とフィオナが持つ明るい雰囲気とは異なっていて、もの凄いギャップを感じた。

 一人でうんうん頷くフィオナをよそに、アルは尻に付いた土を払い落しつつピリピリする足をひっぱたいて立ち上がった。

 

 

「あ、そうだ。アル」

「……何だ?」

「お父様にかけあってこの二人を里に入れるように取り計らってきて」

「………はあ!!?」

 

 

 これ以上の驚きはないだろう、と言わんばかりの表情で、対照にフィオナはあっけらかんといった表情で、お互いの真剣さというか必死さというか、そういう違いが色濃く表れていた。

 また何か無茶でも言うんじゃないだろうな、と遠巻きに思った天子と衣玖は、それが間違いでなかったことを知ることになった。

 向こうは侵入者扱いしてきたのに、いくらなんでもその容貌は無茶苦茶だろうと天子でさえ思うほどだった。

 

 

「無理に決まってるだろ! 結界を越えるだけでも一大事なのに、ましてや人間を里に入れるなど言語道断だ!」

「私の名前を出してもいいから! それに、この二人には人攫いに助けてもらった恩があるの。誇り高きエルフとして、礼儀はキチンと尽くさなきゃダメでしょ?」

「人攫い……!? だ、だからあれほど外は危険だと何度も! ……いや、そうじゃなくてだな、た、たとえどんな理由があってもエルフ以外の輩を里に入れるわけにはいかない!」

「エルフ以外の者が精霊を見れるなんて前代未聞の出来事なのよ? 二人に同行願って実際に検証する必要があると思うわ。後学のためにもね」

「実際に検証したとして僕たちに何のメリットがある!?」

「だから言ってるじゃない。目の前に脅威になる可能性を秘めた二人がいるんだから、対策の方法とか今後考えなくちゃいけないでしょ。未知に対して無知は最悪の脅威になるわよ?」

「里に入れてしまったら本末転倒だろ?!」

 

 

 アルの説得はもっともである。エルフ以外の者を里に入れてはならないという規則が決められているのならば、それを破ることは許されないであろう。

 フィオナも二人に対してそう説明していたはずなのだが、強硬までに連れて行こうとするのは何故だろう、と二人は思った。何かを打破したい、そんな思いすら感じられる。

 フィオナとアルの意見は交わることのない完全な平行線の上を走っている。埒が明かない、と感じたフィオナは強硬手段に出ることにした。

 

 

「ねえ、アル?」

「何―――」

 

 

 フィオナはアルの手を掴み、両手でそれを包んだ。突然握られた手の温かさに、アルの顔は微かに赤く染まる。

 

 

「…お・ね・が・い♡」

「っ!!??!」

「私とアルの仲でしょ? ちょっとぐらい……ね?」

 

 

 とどめの上目づかい。下からアルを見上げるような感じで、フィオナは女性としての最終兵器を使用した。

 ただでさえ威力の高いその攻撃は、フィオナの端正な顔で行えば十倍にも百倍にも膨れ上がる。十人いれば十人がそのハートを射抜かれているに違いない。完全に色仕掛けのそれである。

 そしてそれはその技を受けたアルも決して例外ではなく、頬を真っ赤に染めてこれでもかとばかりに狼狽していた。

 

 

「~~~分かったよ!! 行けばいいんだろう行けば!!」

「やった♪ だからアルって大好き♪」

「う、うるさいっ!! 僕は行くからな!!」

 

 

 耳元までリンゴ色に染めたアルは、フィオナの追撃から逃れるようにしてその場を去っていく。全力疾走で駆けて行ったアルの姿は、一瞬にして見えなくなっていった。

 残ったのは天子と衣玖、それとフィオナ。「チョロイチョロイ♪」と腰に手を当ててニヤつくフィオナの後ろ姿は、有史以来のどんな策士よりも狡猾で恐ろしく見えた。

 

 

「……フィオナ、なんて恐ろしい子!」

 

 

 まるで何かのセリフのつぶやくような声が闇に落ちようとしている森の中に響いたのだった。

 




テスト終わったことだし、これからできるだけ毎日投稿したいと思います……が、何気に予定も山盛りなのでちょくちょく更新が途切れる、かも?
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