「酒は飲んでも呑まれるな」
こんな言葉自分とは無縁だと思っていた。楽しいからとついつい飲んでしまった昨日への後悔が一気に襲ってくる。
「落ち着きなさい氷川紗夜。落ち着くのよ」
そう自分に言い聞かせることで心を落ち着かせる。まずは状況を確認しよう。あたりを見渡す。勉強机とベッドが置いてある簡素なお部屋で、勉強机にはタブレットとスティックアロマが置いてある。カーテンやベッドは紺色に統一されており、こまめにシーツも変えているんだろう。柔軟剤とお日様の香りが布団からした。元彼のお部屋も汚くはなかったがそれよりも清潔と言えるお部屋だった。ふとゴミ箱が視界に入った。ここで紗夜は絶望する。明らかに事後ですよと主張するティッシュの山と使用済みのアレ。ワンナイト確定!死にたくなった。ベッドで布団にくるまりのたうち回る。声にならない声が出る。
「…………$%+#@&&&¥&&¥)&〜…」
10分くらい経ち、少し落ち着いた。正確には無理やり落ち着いたことにした。ヤッてしまったことはもうどうしようもない。
まずは服だ。服を着よう。だが探そうにもこの部屋では見つからない。とりあえず複数の部屋があると仮説を立て、部屋を出ることにした。誰もいないことを望みながら、恐る恐る廊下を歩き、リビングにつながっているらしき扉をゆっくり開けた。
幸いにもリビングにも誰もいなかった。家主は不在なのだろう。テーブルに自分の携帯が置いてあることに気づく。時間を確認すると13時を超えていた。随分と身も知らずの、赤の他人の家でぐっすり寝たものだと自己防衛の低さに幻滅する。
テーブルにはメモも置いてあることに気づいた。とりあえず読んでみることにした。
・起こしたけど、起きなかったのでメモを残します。
・服はソファの上に置いています。
・シャワーを浴びるなら浴びてください。
→タオルは洗濯機の隣の棚にあるので自由に使ってください。服は洗濯してませんが、下着は洗濯してあります。乾燥機能付きなので乾いてると思います。
・お話ししたいので、家で待ってください。住民は今僕1人なので、誰かが来る心配はありません。
「綺麗な字。とりあえず体がベタベタして気持ち悪いので、お言葉に甘えましょうか。」
シャワーを浴びて、汗を流し、サッパリすることができた。それに二日酔いもほんの少しだが軽減することができた。
またメモの通り、下着もしっかり乾いていた。ひょっとするとお相手さんは、そんなに悪い人ではなかったのかもしれない。メモも残してくれていましたし。そんな思考がよぎるが、よろしくない人の可能性も捨てきれない。先ほど自己防衛の意識の低さを痛感したばかりだ。縁を切れるなら切った方が間違いなくいい。それがワンナイトというものだろう。メモの通りに律儀に帰りを待つのは邪道といえよう。お互いお酒を飲んだ結果こうした関係になったのだろうし。
流石に何も残さず家を出るのは気が引けたので、シャワーありがとうございましたと置き手紙だけを残し、私は家を出た。
「立派なマンションでしたね。綺麗なエントランスでしたし、鍵をかけずに出たことが心配でしたが、これなら問題もないでしょう。」
少し安心したらお腹が空いてきた。地図アプリを開くと羽沢珈琲店が自宅よりも近いことがわかった。羽沢珈琲店でとりあえず小腹を満たすことにしましょう。
地図アプリに導かれながら、数分歩くと、すぐに羽沢珈琲店に到着した。ドアを開けると香ばしい香りと、いらっしゃっいませと元気な声に声に迎え入れられる。
私を見た店員、一ノ瀬くんは一瞬驚いた表情をしていたが、すぐにいつもの席に通してくれた。私は案内してくれた、一ノ瀬くんに声をかける。
「一ノ瀬くん、今日は二葉さんもお休みですか?」
「そうなんですよ。今日はMorfonicaの練習があるそうで。あと羽沢さんもお休みです。今日帰ってくるらしいんですけど。」
「そうなんですね。羽沢さんの方は知ってます。」
「お二人仲良いですもんね。」
「えぇ。それはそうと最近よくシフトに入ってますね?」
「はい、春休みなんで、稼ぎに来てます。家にいても何もしないんで。」
「良いですね。家で何もしないより、ずっと良いです。ですが、学生の本文は勉強ですよ?そこだけは忘れずに。」
「はい、もちろんです。注文は決まっていたりしますか?」
「えぇ、それでは、いつものブレンドとサンドイッチをお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。お水もすぐ入れてきますね。」
爽やかな笑顔で接客をこなす、みるからにも好青年といった店員は一ノ瀬そらくん。彼は中学3年生で、一年前からここ、羽沢珈琲店で働いている。中高一貫の私立に通っているらしく、この春に高等部に進学するそうだ。マスター、羽沢さんのお父さんも、その学校の生徒さんなら優秀だし、中学生でも働いても安心だろうということで、雇用してもらったらしい。
身長は175センチほどだろうか、明るめのブラウンの髪のセンターパート。ブルーグレーの瞳。顔立ちも整っており、多少あどけなさが残るものの大人びた顔つきだ。彼目当てに通う叔母様たちもいるとかどうとか。というのを羽沢さんから聞いたことがある。確かに中学生には見えない。下手な大学生より大人びている。
そうこう考えているとサンドイッチとブレンドを持った一ノ瀬くんがこちらに来た。
「お待たせしましたー、こちらサンドイッチとブレンドのホットです。
「ありがとうございます。」
「ピーク過ぎたから休憩行ってきなーってことで許可もらったんで、ご一緒してもいいですか?」
彼がさわやかな笑顔で訪ねてくる。
えぇ、かまいませんよ。と断る理由もなかったので承諾する。
「やった!それじゃあ失礼しますね。」
一ノ瀬くんは、そう言いながら向かいに座る。
私はカップを手に取りまず臭いを嗅ぐ。あぁ、いい匂いだやはり、ここのブレンドが1番好みだ。そして一口含む。頬が綻んでしまう。ここのコーヒーを飲むと落ち着く。色々あったから余計に落ち着ける。もう一口と、口に含んだところで彼が言葉を発した。
「なんで家で待っていてくれなかったんですか?」
その一言に、私は思わずコーヒーを吹き出てしまった。耳を疑った。なぜそのことをあなたがと困惑せずにはいられない。
「あぁー、大丈夫ですか、おしぼり使います?」
そう言っておしぼりを差し出す笑顔に、私は恐怖を感じざるを得なかった。
ここまではプロット考えてました。ここからどうしよう。