私は今、一ノ瀬くんに先導され、元来た道を歩いています。
先ほどの彼の発言後、なんの話でしょうか?と私はシラをきろうとしました。しかし声は震えているわ、目も泳ぎまくっているわの状態でしたので、誰が見ても、私の嘘を見抜いてしまうでしょう。これに気づかない人はよほど対人関係に難がある人か、よほど鈍感な人くらいだろう。
慌てふためく私の様子を面白がっていたのでしょう。彼は追い討ちをかけてきました。私の耳元に顔を近づけ、今私が身に着けている下着の色を囁いてきたのです。正解でした。おまけに、昨夜はとても可愛いかったですよ、なんて甘い言葉も囁いてきました。その言葉に、耳先にまで熱が籠っていくのを感じました。その時の私の顔は熟れたりんごよりも真っ赤だったでしょう。
これ以上は私が耐えきれないと彼は悟ったのか、一度彼の自宅に戻って話さないかと提案してくれました。流石に第三者が多くいる場でおいそれとできる話ではなかったので、私は承諾しました。もう少しでバイトが終わるので待っていてくださいと私に声をかけて、彼は業務に戻っていきました。待っている間に食べたサンドイッチとコーヒーの味は、味蕾から脳に伝わることはありませんでした。
道中はずっと無言でした。数刻前は数分ほどで歩き切った道のりが、今は万里の長城を歩いていると錯覚してしまうほど先が、長く感じました。
「紗夜さん、着きましたよ。」
そして遂に、ついてしまいました。見覚えのあるマンションに。万が一にも違って欲しかったが、ここまできたら諦めるしかないでしょう。
「お邪魔します。」
「どうぞ〜。そこの椅子に座ってください。」
リビングに案内され、先ほどメモが置いてあった机の椅子に座るように言われた。
「すいません、紗夜さん。今紅茶しかないんですけど、それでいいですか?」
「えぇ、お構いなく。」
「かしこまりました〜♪」
鼻歌を口ずさみながら、紅茶を入れる一ノ瀬くんを見ながら私は思う。はぁ、酔った勢いとはいえ、中学生とヤッてしまったのか….。え、酔っ払い同志じゃなかったんですか。ダメだ、メンタルが…。自己嫌悪が止まらない。え、これ社会的に死にました?これが万が一世にでて、スキャンダルとして世に知れ渡ってしまえば、バッシングの嵐は避けられない。Roseliaのメンバーにも迷惑がかかってしまう。それだけはなんとかしなければいけない。どうすればいいのだろうか。
「お待たせしました。粗茶ですが。」
「ありがとうございます。」
ティーカップを2つテーブルに置き一ノ瀬君は向かいに座る。ティーカップは中学生男子が選ぶには随分と上品なデザインであり、一口飲んだ紅茶も美味しくて、素人ながらなかなか上物の茶髪を使用していることが伝わってきた。一ノ瀬くんはティーカップを一度テーブルに置き口を開けた。
「さてと、いきなりですけど、本題に入った方が紗夜さんもいいですよね。」
「えぇ、その方が助かります。」
「お店での反応を見る限り、昨日のこと全然覚えてないですよね?」
「はい、非常に認めたくありませんが。」
「正直、記憶ってどこまであります?」
「居酒屋で飲んでいたのだけれど、出てからは正直覚えていないわ。目が覚めたらここにいたという感じね。」
私の返答にまじかぁーと少し困った様子の一ノ瀬くん。
「よし、それじゃ、僕が紗夜さんと会ったところから昨日の出来事を話しますね。」
「はい。お願いします。」
「昨日、友達との遊びの帰りですね。21時くらいだったと思います。自宅、ここの近くに公園があるんですけど、そこの近くを通った時に、ベンチで酒盛りをしている人が目に入ったんですよ。」
「…はい」
嫌な予感しかしない。
「とても綺麗な人で、そんな人でもこんなことするんだーって思って近くを通ったんですよ。すると見てびっくり、紗夜さんだったんですよ。」
私は頭を抱えた。
ーー
「んー、三月でも夜は寒いわー」
友人との遊びの帰り道、すでに周囲は真っ暗で住宅地ということもあり人通りも少ない。灯となるものといえば、街灯が光っているだけである。
公園を抜けて帰った方が早いからと、いつもと同じように公園を颯爽と駆け抜けようとしていたが、明らかに遠目からでも綺麗な女性がベンチに座っているのが見えた。缶を飲んでいるということは酒盛りか?
そんな綺麗な人でも公園で、酒盛りなんかするんだなぁ。と最初はそれでスルーしようとした。酔っ払いに絡まれるのは嫌だし。しかし近づくにつれ、見覚えのある人に似ていることに気づく。そして真横を通る頃にははっきりと誰かを認識できた。思わず声をかける。
「紗夜さん!?」
「あ〜、一ノ瀬くぅん?どうしたの〜かしらこんなところれ〜?」
酒盛りの主は、羽沢珈琲店の常連客であり、Roseliaのギター担当の氷川紗夜だったのである。普段の厳格な性格からは到底こんなことするなんて考えられない。しかし、座っている近くにはコンビニ袋が置いてあり、数本のお酒が入っていることを確認できた。袋以外にも空き缶がすでに数本積まれており、紗夜さん自身も限界が近いのか、少し眠たそうにしていた。知り合いが、こんなところで寝てしまって警察沙汰なんてたまったもんじゃない。それに彼女はデビューしているプロのバンドマンだ。スキャンダルなんてことになったら…。それに彼女に変な輩が手を出してきたりしたら…。そんなことを考えるだけでも恐ろしい。とりあえず話を聞くことにした。
「どうかしたのかはこっちのセリフですよ。」
「彼氏に〜振られちゃいまして〜。やけ酒れ〜す!」
すでに滑舌とキャラが崩壊し始めている返答が返ってきた。普段なら絶対にしないであろう、ピースのおまけ付きで。放って置けない。
「とりあえず、飲むの一旦やめましょう?」
「いやれす」
「すごく酔ってるじゃないですか」
「よっへまへん」
「いや、酔ってますって」
「よっへないれす!もっと飲みます!」
そう言って彼女はさらに、新しい缶を開けようとしていた。しかも高アルコールのやつだし。一向に飲むのをやめてくれない。かと言って放置してこのままここで寝られても困る。
「わかりましたから、とりあえず僕の家近くなんでうちに来てください。外で飲むのはやめましょう?」
「一ノ瀬くん家?そうれすね。さすがに少し寒くなっへきまひたひ。」
とりあえず外で飲むのはやめてもらえるみたいだ。一安心である。
「こっちです。歩けますか?」
「はーい。あれ〜、フラフラします。」
「…、肩貸します。」
「ありがとーございます。」
家に招き入れて、本当に大丈夫かなこの人。普段とのギャップが激しすぎて頭が痛くなってきた。これがお堅めの人がお酒飲んではっちゃけるってパターンなんだろうな。そんなことを考えながら、紗夜さんに肩を貸しながら、マンションへと向かった。
「着きましたよ。」
「お邪魔しまーす。」
肩にほぼ全体重をかけてきているが軽すぎる紗夜さんをつれて部屋にたどり着いた。声をかけると靴を脱ぐなり、パタパタと小走りでリビング入って行き。椅子に座る。家主ガン無視で手に持っていた袋から、お酒をテーブルに置いて酒盛りを再開しようとしていた。ジト目で見ていると、それに気づいた紗夜さんが、一ノ瀬くんにはまだ早いですよー。20歳になるまで我慢してくださいねーとか言ってくる。普段と違う一面で可愛くもあるが、なんか腹立つな。とりあえず水を飲ませないとなーと考えていると紗夜さんが話しかけてくる。
「一ノ瀬くん、少し私のお酒と愚痴に付き合ってくれませんか?」
先ほどまでとは違い、少し真剣味をました声音である。この酔っ払い具合にびっくりして忘れていたが、彼氏に振られたと言っていたのを思い出した。愚痴の一つや二つあるだろう。失恋後にはそう言ったケアが必要だ。そう思い、彼女に少し付き合うことにした。
調子乗ってキャラ崩しすぎたかもしれん。