迷弓愛歌   作:マーグナー

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4話:飛ばした記憶(後半)

 晩酌に付き合うと返すと、紗夜さんは少し驚いていた。まさか本当に付き合ってくれるとは思ってなかったのだろう。少し待って欲しいと紗夜さんに断りを入れてから僕はとりあえず、冷蔵庫からジュース、戸棚から、せんべいとポテトチップスを取り出し、席に運んだ。おつまみ無しに飲み続けているのも怖い。これでもつまんで貰えばいいだろう。これで夜ふかし晩酌セットの準備は整った。席につき紗夜さんに声をかける。

 

「おまたせしました。紗夜さん、気が済むまで付き合いますよ。」

 

 僕の言葉を聞いた彼女は微笑み、ゆっくりと語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おしゃれしても、褒めてくれなくなった。彼女が目の前にいるのに街中で可愛い子がいたら視線で追うんですか?私の方が断然可愛いです。あと胸の大きい子についても同様です。ジャンクフードが好きなのを分かってくれているはずなのに、あまりそういうお店に連れて行ってくれないのは何で何ですか?お仕事があるから無理と誘いを断ったら、過剰なまでに拗ねないでください。やめて欲しいと言っても、友人とギャンブルに行くのも腹が立ちます。こっちの返信が遅いとすぐいろいろ言ってくるのに、こっちが遅いと言うと束縛が激しいだの文句をいうのはおかしくないですか?お菓子を作って渡しても、対して感想を行ってくれない。作りがいがありません。ライブに一度も来てくれたことがない。多少は私の音楽に興味を持って欲しかった。かと言って友達には私たちの知名度だけ自慢する。私はあなたのステータスじゃない。ゲームをしないかと誘っても、ネットゲームはオタク趣味で自分向きじゃないと全否定してきましたよ。趣味を馬鹿にしないでください。歩くのも待ってくれないし。歩幅の違い考えて欲しかった。あともっと手を繋いで欲しかったです。出席日数もギリギリまで休むし、注意しても無視されました。それなのに課題やテスト前に頼ってきて、正直ウザかったです。出先でも人が多くなると、すぐ不機嫌になるし、子供ですか?そっちが行きたいって言って場所に行っても、リサーチ不足すぎです。私が調べた話をしても、反応が薄いのは何ですか?本当に行きたかったのか疑いたくなりました。夜も自分が満足したらそれで終了してて、自己中心的すぎです。私も満足させてほしかった。というかそもそも成人式で恋仲ってそれって浮気じゃーー

 

 という感じで愚痴が一生止まらない。油田のように湧いてくる。聞いていて、何でそんな人と付き合っているんだろうという感想しか出てこなかった。

 たまっていたストレスが、お酒を飲むペースを加速させていた。1缶開けるたびに僕は水を差し出して飲んでもらっていたが、気休め程度にしかなっていなかったと思う。本当に心配になってきた。

 そんな状態での愚痴話が3時間ほど続いたタイミングで、紗夜さんの雰囲気が変わった。

 

「それでも…、初めて…できた彼氏だったんです。本当に大好き…だったんです。」

 

 紗夜さんは目に大粒の涙を浮かべ、嗚咽混じりに言葉を漏らしはじめた。

 

「ぜったい…、わたしの…….ほうがいいのに。なんで…うわきなん、…かしたん…ですか…。ふるなら…、もっと…、はやくに、ふって…くれたほうが…楽だった…。」

 

 紗夜さんの嘆きが静かな部屋に広がる。僕は彼女にティッシュを差し出し、近くに寄る。そしてそっと背中を撫でた。

 

「紗夜さんは魅力的な女性です。振った男も絶対に後悔しますよ。だからこそ、今は思いっきり泣いちゃいましょう。全部出し切って、この悲しい気持ちを乗り越えるんです。みんなそうやって強くなっていくんですから。」

 

 その一言で完全にダムが決壊したのだろう。彼女は赤子のように声を上げて泣いた。外からは予報外れの雨音が聞こえてくる。彼女の泣き声に呼応するかのように、雨音は次第に強く大きくなっていく。まるで彼女の涙を世界から隠すように。僕はその間ずっと彼女の背をなでていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして泣き止んだ紗夜さんは、目元が赤く腫れていた。先ほどまでうるさかった雨も、知らぬ間に止んでいた。

 

「落ち着きましたか?紗夜さん?」

 

「はい、おかげさまで。すっきりしました。」

 

「それならよかったです。」

 

 とりあえずは一安心だろう。

 

「もう日も跨いでいますし、寝ましょうか。流石にこんな時間ですから、紗夜さんを外には出せないです。今日はうちに泊まって行ってください。」

 

「えぇ、それではお言葉に甘えさせていただきます。」

 

「今は使ってない父の部屋があるので、そこを使ってもらいますね。シーツとかお布団とかはちゃんと洗濯とかしてるので大丈夫だと思いますけど…」

 

「えぇ、泊めさせてもらう側ですから、何も不満はありませんよ。」

 

 そこからは紗夜さんにシャワーを貸し出し、ジャージをパジャマ代わりに提供し、自分もシャワーを浴びた。少し悶々としたのは内緒である。そこからはお互い部屋を別れて就寝する流れとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーはずだった。

 

 夢の世界へともう少しで旅たてそうなタイミングで、自分の布団に潜り込んできた存在に気づく。紗夜さん、眠れなかったのかなーと呑気に考えていると後ろから腕を腰に回された。そして、背中に当たる柔らかい感触により意識は落雷の早さで覚醒した。

 

「何してるんですか紗夜さん?」

 

「一ノ瀬くん私を抱いてくれませんか?」

 

 そう言いながら、彼女は抱きしめる力を強めた。表情はわからない。

 

「何で服を着ていないんですか?」

 

「あなたに抱かれたいから、それに服は必要ないから、です。」

 

 さらに紗夜さんは、抱きしめる力を強めてくる。一枚の布越しに慎ましいが、確かにそこに存在する柔らかな双胸が僕の本能を刺激する。

 

「紗夜さん、あなたは今メンタルが参っているだけです。こんな、なし崩しで関係をもっところでうまく行きませんよ。お互いが後悔するだけだ。」

 

 僕は少し強い口調でそう言い、彼女が腰に回している手を剥がそうと掴んだ。

 

「やはり、私はそんなに魅力がないですか?だから…振られて…しまったのでしょうか?」

 

 彼女の声は震えていて、また今にも泣き出しそうな弱い声だった。僕は覚悟を決めた。

 彼女の手を掴み、抱きしめられている手を剥がした。あっ…と弱々しい声が後ろから聞こえた。彼女の方に体の向きを反転させる。

 

「紗夜さん」

 

 彼女の名前を呼ぶ。

 

 呼びかけに反応し、紗夜は顔をあげる。

 

 彼女の目を見て、伝える。

 

「あなたが欲しい。」

「えっ…ンッ」

 

 困惑を見せる彼女に口付けを落とす。触れ合うだけのキス。困惑している彼女が非常に愛おしい。

 

「誘ってきたのはあなたでしょ?」

 

「え、だけど、さっきこt…ンッ」

 

 もう一度、唇を奪う。さっきの触れ合うだけのキスより少し長めのキス。とりあえず、僕の気持ちを彼女に伝える必要がある。覚悟を決め、口を開く。

 

「紗夜さん、あなたのことがずっと好きだった。羽沢珈琲店で初めて会ったあの日から。一目惚れだった。でも彼氏がいるって聞いてずっと我慢してた。だから、別れたって聞いて正直嬉しかった。最低ですよね。好きな人の幸せすら祈れないなんて。だから、誘われたら我慢なんて出来ませんよ。でも、なし崩しで関係は持ちたくなかった。弱みに付け入るようなことをしたくなかった。だから断ろうとした。でもその選択が、あなたを傷つけしまうなら、僕は迷わずあなたを抱きます。」

 

 明らかに困惑している紗夜さん。

 

「答えは今じゃなくて良いです。また、酔ってない時に告白しますから。今は、誘ってきた責任をとってくださいね。もう自分を卑下できなくなるくらいには、愛させてもらいます。」

 

 そう言い、僕は、紗夜さんにもう一度キスをする。彼女も拒まずにそれを受け入れる。息が続く限り、お互いの唇を重ね合う。息継ぎのためキスを中断し、離そうとする僕の顔を、彼女は両手で優しく包み込みながら引き留める。辞めないで、続けてくださいと、潤んだ瞳で僕に催促してくる。もう一度唇が重なり合うと、彼女は僕の首に両手を回してきた、そして次第にキスはより激しく濃厚なものとなっていった。お互いが求め合う、本能が赴くままに行われる貪り合い。快楽を求め合う、男女の営み。そうして、夜は深まっていったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー目を覚ます。隣には想い人である、紗夜が隣でぐっすりと眠っている。ここまでの人生でこれほどまでの幸福感は味わったことのない。寝顔も可愛いなーとかそんなことを考えていると、自然と昨晩の行為を思い返された。ちと虐めすぎたなぁと反省をしつつも、あんなにも向こうも求めてくれたのならば男冥利に尽きるものだ。

 

「紗夜さん、大好きです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、以上が、僕の主観込みの昨晩の記憶です。」

 

「なるほど、わかりました。ありがとうございます」

 

 あぁ、何も考えたくない。私は、とうに紅茶が飲み干されてあるティーカップを手に取り口に運んだ。当然口の中に流れてくるものは何もない。自身に呆れて、ため息をつく。彼はこの様子を見て吹き出していました。上品にティーカップを手に取る私がえらく、滑稽でした。




これで、プロローグに当たる部分が終わりました。ここから頑張って話広げていきます。
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