思いつき短編集   作:邪魔者パラダイス

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多分続かない。いや続くかもしれない。
全ては作者の気分次第。


始まりとも言えるし、終わりとも言える。そんな噺

曇天の空。

分厚い雲が視界一杯を覆わんとするその光景は、今朝の天気予報通りと言える。

予報によると午後からは晴れるとのことだったが、こんな空模様ではそれも怪しい。

 

「──なんで」

 

縋りつくような声が鼓膜を叩いて、無理矢理に意識を現実へと引き戻す。

視界を空から正面に戻せば、見知った顔の少女が端正な顔を歪ませているのが目に入る。

紅色の瞳が揺れていて、唇が震えている。感情の揺らぎが手に取るように分かる。

常日頃から表情筋が鈍い彼女が分かりやすく狼狽えている姿に、多分の罪悪感と少しばかりの新鮮さを覚えてしまう。

 

「なんでって言われてもな。お前なら分かるだろ。賢いんだから」

 

言葉を紡ぐ度に、目の前の少女が悔し気に頰を強張らせていく。

自分でも嫌という程理解している現実を、遠回しに突き付けられているから。

理想を求めて戦ってみたものの、現実は思ったより辛辣で。

積み上げてきたものが崩れ落ちる瞬間というものは、こんなにも呆気ないものなのかと。

 

「連邦生徒会長が失踪したんだ。まず間違いなく此処は閉鎖されるし、多分俺達はヴァルキューレ辺りに入れられる。でも俺達の正義はあそこには無いし、相容れない。だからその前に消えてやろうって」

 

「だったら、私達が……!私達の存在を知らしめれば良い!学園の閉鎖を撤回させれば、まだ……!」

 

「どうやってよ。連邦生徒会に襲撃でもしてみる?」

 

「────」

 

言葉に詰まったのか、或いは言葉にするのを躊躇ったのか。

目の前の少女が何かを言おうと口を開いて、結局何も言わずに口を閉ざす。

 

「SRTが閉鎖される以上、俺達の正義はもう貫けない。俺はここで降りるよ」

 

「……そんなの──」

 

「理に適ってないのは承知してる。ごめんな、こんな幕引きで」

 

鮮やかだった瞳から光が消え、視線がアスファルトへと向けられる。

髪色と同じ焦茶の狐耳は力無く下がっており、覇気というものが感じられない。

普段の凛とした佇まいは何処にもなく、ただ目の前の現実を受け入れられないとばかりに立ち尽くしている。

 

「他の皆によろしく言っといてくれ」

 

「────」

 

「じゃあな、ユキノ。元気で暮らせよ」

 

返事を待たず、背を向けて歩き出す。

未練や後悔が心にへばり付く。今すぐにでも振り返って触れ合いたいという衝動に駆られる。

そんな甘い誘惑を切り捨て、ただ前だけを見て歩む。

 

「……」

 

しばらく歩いたところで、鼻先に冷たいものが滴り落ちる。

ぽつり、ぽつりと水滴がアスファルトを濡らしていく。やがて雨脚は勢いを増していき、全身が雨粒に打たれていく。

 

「……風邪引くかもな」

 

未だ晴れぬ空を見上げて、独り呟く。

当分の間晴れないだろうなと予感しながら、鉛色の雲を仰ぎ続けた。

 

******

 

雨音が全身をたたく。

しとどに濡れた体を包む熱を奪い去り、冷たい風が肌を撫でる。

 

「────」

 

雨が降るのは知っていた。午後から天気が崩れるという予報があったのは分かっていた。

それでも雨宿りをする気にもならず、ただ呆然と灰色の景色を眺め続ける。

視界に映るのは降りしきる雨粒と、激しく揺れる木々の姿と、去り行く友人の背中。

頬を濡らす水滴が涙か雨粒かも区別が付かなくなってきた頃には、その背中も消え失せてしまった。

 

「……はは」

 

己を嘲る笑い声が、口端から漏れる。

ずっと一緒だと思っていた。この先も、同じ道を進んでいくのだと思っていた。

当たり前の日々が、当たり前に続いていくのだと信じて疑わなかった。

けれどその当たり前は崩れ去った。

SRT特殊学園の閉鎖。あまりに唐突に訪れたソレが、この景色を作り出した。

 

雨の冷たさが、身に沁みる。

凍えた心が、軋む。

 

「────」

 

どうすれば良いのか分からなかった。

この感情をどう受け止めれば良いのか、未だに把握しきれていない。

ただ、心が──痛い。

 

「───ぁ」

 

去来する苦しみの中、脳裏にふと過る。

何故、彼が去るような事態に陥ってしまったのか。

答えは明白で、SRTが閉鎖するから。己の正義を貫き通せる組織が無くなるから、消える。

あまりに単純明快だ。単純過ぎて反吐が出る。

 

「──復活、させれば」

 

ぽつりと、呟く。

天啓を得たと言わんばかりに、溢れ出る感情で口端が歪む。

 

「そうだ、そうしよう。SRTを復活させる。そうすれば、きっと──」

 

瞳に活力が戻ってくる。萎えていた魂に炎が灯る。

 

これから為すべきことが、頭の中に浮かんでいく。

どう行動すれば良いのか、どうすればSRTを取り戻せるのか。

その全てを思い描きながら、少女はゆっくりと立ち上がる。

 

「また、一緒に──」

 

紡がれた言葉には、仄暗い感情が見え隠れしていて。

喉を震わせる音は、どこか不吉な甘さを孕んでいて。

 

降りしきる雨の中、少女は嗤っていた。

ただただ、嗤っていた。




PROFILE:阿食リク
学園:SRT特殊学園3年生
部活:CHAMELEON
ヘイロー:二重丸に十字を重ねた紫色のシンプルなデザイン。
武装:グロック34+銃身と銃床を切り詰めた水平二連式散弾銃。SRTから持ち出した光学迷彩

基本情報
SRT特殊学園の諜報員の一人。コールサインはCHAMELEON。
キヴォトス内に蔓延る不正や汚職疑惑のある企業や団体を単独で調査し、場合によってはその場での制圧を行うことを役割とする。
支給された光学迷彩に自前の隠密技術を掛け合わせることで、ほぼ無音かつ完璧なステルスを体現している。
また本人も厳しい訓練を通過してきた以上その戦闘技術も卓越しており、並の集団では太刀打ちできない。
誰が言ったか付いた渾名は『SRTのオ〇ナズチ』。本人はキレた。

当人の性格は軽薄。基本的に剽軽な印象を相手に与え、普段の言動もそのイメージに違わない。
一方で思考は合理的。己が感情より与えられた任務を遂行することを第一とし、一切合切を機械的にこなす。
FOX小隊とは長い付き合いで共に任務に駆けずり回ることも多く、互いの性格も十分に熟知しているため連携も申し分ない。
SRTから離脱後は各所を転々とした後、シャーレに居座る。多分。

PROFILE:七度ユキノ
皆大好き縞パン先輩。
リクとは一番長い付き合いの同僚。
リクに対して友情以上の何かを抱えてはいたが、具体的にソレが何かをフレームワークしていなかった。というかしたら今までのような関係を保てないと理解していたが故に意図的にしなかった。
ずっと一緒にいるものだと思っていたのにSRTの閉鎖によってリクが失踪、SRT復活に対する熱量が原作以上になる。
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