勉強しながら書いていますが、やっぱり難しい!
この作品は私の表現、内容強化の練習も兼ねている為、他作品より更新がスローペースになると思われます。ご容赦ください。
01.邂逅
炎国、
薄暗い街の郊外に、人が折り重なるように倒れていた。彼らは『レユニオン・ムーブメント』と呼ばれる、
この『テラ』という大地には、
都市は天災から逃げるため、源石の力を用いて都市ごと移動し、また天災を呼び寄せる。
そしてもう一つ、源石には重大な問題があった。
人が源石に接触すると、致死率100パーセントの病『源石病』に感染するのだ。
感染性の病である源石病患者は非感染者に理解されずに排他され、隔離され、人としての権利すら奪われる。そうして権利奪還の為立ち上がった組織が、レユニオン・ムーブメントだった。
しかしながら、レユニオン・ムーブメントには非感染者の人権は考慮しないという問題があった。単なるデモ行進ならばいざ知らず、とある時期から武装蜂起し、いわばテロ組織同然の扱いに変わった。
だが、このテラという大地には、レユニオン・ムーブメント以外にも感染者を有する組織がある。
「ふう。こんなモンでしょ」
女が一人、山になって呻くレユニオン兵を前にして息をつく。フェリーン族の女は巨大なチェーンソーをケースに仕舞うと、後ろに控える仲間達へ振り返る。
──『ロドス・アイランド』……これがレユニオン・ムーブメントにより敵対視される、感染者の組織。
表向きは製薬会社として、源石病の治療を目的として感染者を受け入れている。その一方で、感染者の起こす暴動などの鎮圧に戦闘員を投じることがある。
まだ朝焼けの差さない街にいる、数少ない人間たち。そのほぼ全員が感染者であり、そして戦闘員なのである。
そして今回は、華々しく輝かしい都市である龍門から外れた郊外に潜伏していたレユニオン兵を殲滅する依頼を受け、まさにそれが完了したところだ。
「さーて! 帰ったら一杯やろっかなぁ」
フェリーンの女が気を抜いたその刹那、彼女の耳に警告が飛んだ。
『ブレイズ、上だ……!』
その声に合わせるように、ブレイズと呼ばれた女は前転で回避行動を取ると共に背後に現れた敵性体と正面から向き合う。
極東式の刀を携え、金色の髪を靡かせる女。マントのように羽織っている白いレユニオン制服はボロボロで、インナーのタンクトップも繊維にほつれが見られる。カーゴパンツも穴だらけだった。
「君もレユニオン? もう全員だと思ってたけど、タイマンがご所望?」
軽口を叩くブレイズだが、その目は臨戦体制だ。しかし、彼女は背後の味方と指揮官へ向け一つだけ指示を出す。
「彼女は私に任せて、負傷者を撤退させて。一対一なら条件はイーブンだから」
『ブレイズ、危険だ。相手の情報がデータベースにも登録されていない。PRTSも撤退を──』
「いいから。ドクターも撤収する準備だけしておいて」
暫し互いに睨み合いが続く。ゆっくりと右へ歩くと、レユニオンの女は鏡のように左へ歩く。
一分にも満たない睨み合いだったが、先に動いたのはブレイズだった。自身の血を振り撒くと、辺りに炎が上がる。女のカーゴパンツにも着火したが、女は意にも介していないようだった。
「へえ。君、それ気にしてないんだ──」
身体に火が着いてなおも意にも介さない彼女の振る舞いは、素直に称賛に値した。しかし、ブレイズの言葉を遮るようにして女は刀を抜刀。キィン、と甲高い抜刀音と共に抜き放たれた刀身が光を放つ。一瞬身構えたブレイズだったが、何の攻撃も無い。
「……!? いない? いったい何処に……」
ブレイズの正面にいたはずの女は忽然と姿を消していた。見失うはずがない。抜刀以降も警戒は解いていないのに。
周囲を見渡す。レユニオン兵の姿も、撤収準備をしていた味方の姿もない。孤立した? そんなはずはない。規定の戦闘エリアからは一歩も出ていないどころか、まだ彼女は血を振りまいただけだ。
源石病がもたらす副産物『アーツ』により、ブレイズの血は発火性であるといえる。それでもまだ彼女は得物も抜いていない。
不意に、何かがブレイズの左足首を掴んだ。
ハッとして足元を見ると、ぐちゃぐちゃに腐敗した
「くっ……! このッ! 離しなさいっての!」
自由の利く右足で彼女を引きずり込もうとする怪物に抵抗するも、その腐敗しきった手は全く外れない。血を振りまいて火を点けるが、それも意味を為していないようだった。
『……イズ。ブレイズ、6時方向。真後ろだ……!』
「……ハッ!」
指揮官であるドクターの声が、ブレイズの意識を引き戻す。すぐさま武器ケースを真後ろめがけて振り上げた。何かがぶつかる手応えが確かにあった。刀を弾いたブレイズは、ケースを乱暴に開け放ち、チェーンソーのエンジンを回す。
周囲を改めて見渡すと、倒したレユニオン兵も味方の姿も確認できた。
「なるほど、そういうことね」
ブレイズには、レユニオンの女が何をしたのか理解出来ていた。いや、厳密に何をしたかのからくりは判らない。しかし、自身が幻覚を見ていた事だけはハッキリと理解した。
納刀した女は、再び刀の柄に手を掛ける。ブレイズは抜刀させまいとチェーンソーのエンジンを高鳴らせ、女へ斬り掛かった。
「……!」
けたたましいエンジン音は咄嗟に抜刀し、チェーンソーを防いだ女が鳴らした音をかき消す。
「悪いけど、私に二度同じ手は通用しないよ! 真っ二つにされる前に、投降しなさい!」
チェーンソーを真正面から受け止める女の顔に、苦悶が浮かぶ。次第に刀とチェーンソーの鍔迫り合いは、ブレイズの優勢に傾き始めた。じりじりと後退する女、それに勢い付き、更にチェーンソーの回転数を上げるブレイズ。
とうとう女の刀はブレイズにより弾き飛ばされ、地面へまっすぐに突き刺さる。防御が崩れたのを見逃さず、ブレイズは女へハイキックを見舞うと、そのまま力任せに女の身体を吹き飛ばした。
「ガハッ……!」
瓦礫に身体を打ちつけた女は血を吐き出し、地面へ崩れ落ちた。油断すること無くブレイズは暫し武器を構えたまま待機するが、女が気を失ったのを見届けるとチェーンソーのエンジンを止め、仲間へ制圧完了のサムズアップを見せた。
□
多数のレユニオン兵が殲滅されたが、今回の依頼はロドス・アイランドにとってイレギュラーがある。
後ろ手に結束バンドで縛られ、跪かされたレユニオンの女は恨めしそうにブレイズたちを見上げていた。
「今までレユニオンとは散々戦ってきたけど、彼女はなんだか違う気がする。アーミヤちゃんはどう?」
ブレイズは傍らに立っていた、栗毛のコータス族の少女に問いを投げかける。アーミヤは悩む素振りもなく、ブレイズに答えた。
「感染者に治療を受けさせることが目的ですが、彼女は明確な殺意を持って我々を攻撃してきました。とにかく、彼女の意思を聞かないと答えは出せません」
アーミヤは女の前に跪くと、真っ直ぐに彼女の憎しみが込められた瞳と向き合って問う。
「私達の事は知っていますか?」
「ロドス……。仲間が感染者の裏切り者として、その組織の名前を挙げていたからな」
女はアーミヤから少し視線を逸らす。アーミヤの見せる純粋な瞳は、今まで敵対していた相手に見せるものではない。
アーミヤにとって、感染者は平等だ。レユニオンとだって、話さえ通じるのなら戦いは避けたい。それが彼女の考えだ。だが、レユニオンではロドスの評判は違う。『ロドスは感染者の裏切り者』──それが、通説といえた。
「そうです。私達はロドス・アイランド。感染者の為の組織です」
「何が感染者の為だ。……お前らのせいで、仲間が何人も近衛局に捕まったッ! この龍門で、だ! 今頃あいつらがどんな目に遭ってるのか、想像に難しくない」
女の声が次第に震え出す。龍門は感染者差別が比較的強い街だ。感染者はスラムに隔離され、レユニオン・ムーブメントが龍門を撤退する頃には暗部のような組織に構成員は次々と殺された。
ロドス、そして一般人の視点から見ればレユニオン・ムーブメントの行いは決して許されるものではない。権利を訴えるにも、手段はあった。しかし、レユニオン側からすれば、無慈悲に殺したのは龍門であり、ロドスもそれに加担した裏切り者だ。
「ごめんなさい。私がもっとしっかりしていれば──もっと、皆さんとお話していれば。こんな結果には私がしなかったのに」
「…………」
アーミヤから伝えられたのは、謝罪だった。女には分かっていた。戦いとはそういうもので、お互いがお互いを憎むものだ。しかし目の前の少女は違った。嘘をついている眼ではない。彼女は本気で後悔しているようだった。
「もういい。ワタシだって、レユニオンを抜けた身だ。龍門に残っていれば──もう少し耐えていれば、仲間だけでも救えたかもしれない」
「君、レユニオンを抜けてたの? 味方を助けに来たわけじゃなくて?」
ブレイズから問われ、女は静かに頷いた。
「分かってる。そこの子ウサギに怒鳴ったって、ワタシだって味方を見捨てたんだ。彼らを助けに来たわけじゃない、指揮官を殺すつもりだった」
女の視線が、フードを被った人物に向けられる。その目には最早殺意などはなかったが。
「ワタシの負けだ。殺すなり近衛局に突き出すなり、お前らの自由にしろ」
女はそれだけ言うと、他には何も言うまいと項垂れてしまった。
アーミヤとブレイズ以外の戦闘員からは、戸惑いの声が上がる。近衛局に突き出すべきだとする声もあれば、彼女はレユニオンの中でも話が出来るから、ロドスに連れて行ってもいいとする声も上がっていた。だが話は平行線で、一向に纏まりそうに無い。
「好きにしていいのよね? なら、ロドスに来て一緒に働かない? さっき戦った時、実は結構楽しかったんだ。歯応えがあるっていうの? 君なら採用試験も楽にパス出来るでしょ。どう? アーミヤちゃん。彼女も感染者だし、治療も目的として連れて行ってみない?」
話の纏まらない部隊で、そう切り出したのは女と直接戦ったブレイズだった。アーミヤへ振り向くと、アーミヤも小さく頷いてみせた。
「どうですか……? 私達と一緒に、ロドスに来てもらえませんか?」
最早半分決まったも同然だ。ブレイズがそう言うなら、と部隊内でも合わせる声が上がっている。それでもアーミヤは、項垂れる女へ最後の確認を取った。
「好きにしろと言っただろ。お前らがワタシにロドスへの合流を望むなら、ついて行く。案内は頼む」
「……! はい! まだ採用試験がありますが、よろしくお願いします──えっと……」
「ミシェーラ。ミシェーラ・リットン」
「はい、宜しくお願いします。ミシェーラさん」
完全に投降したレユニオンの女、ミシェーラ。とはいえ、危険がなくなったとはまだ言い難い。得物である刀はブレイズが自身の武器ケースと共に運び、輸送機に乗り込んだ。
□
移動都市、ロドス・アイランド。午後3時40分。
ミシェーラの健康診断が行われ、改めて感染者として治療プランを言い渡される。どうやら病状はミシェーラの想像よりは少し悪かったようで、暫くは医療オペレーターの厳しい監督下に置かれる事が告げられた。
採用試験は合格。戦術立案の評価は最低だったが、ミシェーラも分かっていた。それ以外は平凡か、それより少し良いかくらい。
オペレーターとして採用が決まると、最後はオペレーターとしての希望を伝えることになった。後方支援部か、前線か。これについては、ミシェーラも考えるより先に前線に出ると伝えていた。
最後はコードネーム。ロドスのオペレーターは、そのほとんどがコードネームで呼ばれる。問題なければ本名でも構わないと伝えはされたが、ミシェーラは暫し頭を捻って──それから、人事部に伝えた。
「ヴィジョン。空きはあるか?」
彼女が考えたコードネームは『ヴィジョン』。彼女のアーツ由来の名前であり、もう少し深い理由はあるものの閃きとしては単純なものだった。
結果として、コードネームも人事部により承認。ミシェーラ改め、ヴィジョンはこれでロドスの一員となる。
「フゥ……。やっと終わった」
人事部を出てすぐに、ヴィジョンは小さなため息と共に朝からの疲れに頭を抱えた。
「おっつかれー、ミシェーラ……じゃない。今はヴィジョンだっけ?」
廊下で待っていたのはブレイズ。右腕に黒い布の塊を抱えて、ヴィジョンを待っていたようだ。
「ブレイズだったな。何か用か? 模擬戦なら今日はムリだ」
「イヤイヤ。朝殺し合ったばっかでしょ? そうじゃなくて君、そんなボロボロの服じゃアレかと思って、オペレーター用の制服を申請しといたの。で、私あの後部屋でバッタリ寝ちゃってさ。これからシャワー浴びに行くんだけど、着替えるついでに一緒にどう?」
黒い布の塊をヴィジョンへ放るブレイズ。確かに、ロドス・アイランドのロゴが入ったジャケットと動きやすそうな新品の戦闘服が一式包まっていた。
しかしヴィジョンからすれば疑問もある。
「なぜワタシにそこまでする? あの殺し合いは少なくとも遊びじゃなかった。つい数時間前までは敵だったんだぞ」
ヴィジョンに言われて、ブレイズは困ったように頭を掻いた。彼女のフェリーン特有の耳もぴこぴこと動く。
「うーん、なんとなく? 戦場で芽生える友情ってのも有りかなってね。ホラ、シャワー行くよ! 私達すっかり汗臭いったら」
ブレイズはヴィジョンの肩を抱き寄せると、バシバシと叩きながら歩き始める。その力はあまりに強い。
「わ、分かった。分かったから叩くな……! お前のチェーンソーを受け止めたせいで、腕から肩にかけて痛いんだ……」
疲れはある。そのせいか、ブレイズに抗おうとしても寝起きである程度回復したらしい彼女にはヴィジョンは手も足も出なかった。
シャワールームへ連れられる間、何人もオペレーターらしい人物を見かけた。小さな子供から、大人まで。男女も問わず、ロドスにはあらゆる人間がいる。ヴィジョンに声をかけたアーミヤという少女は、本当にあらゆる人物を受け入れているようだ。少なくともヴィジョンはそう認識した。
ブレイズと仲よさげに見えるのか、ずいぶんと注目を浴びた気もしたが、今のヴィジョンにはそんなことを気にする余裕はない。
【基礎情報】
【コードネーム】ヴィジョン
【性別】女
【戦闘経験】六年
【出身地】クルビア
【誕生日】6月28日
【種族】レプロバ
【身長】164cm
【鉱石病感染状況】
体表に源石結晶の分布を確認。感染者に認定。