暗い明日に幸せな未来を   作:鞍月しめじ

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あれからアークナイツもかなり勉強してきているつもりですが、腕が無くてシナリオが進まないです(
wikiの世界観解説がめちゃくちゃ役に立ってます。


03.再上陸

 

 ロドス・アイランド、午前7時。

 日も昇り始めたテラの大地を、ヴィジョンは採血後の絆創膏を押さえつつ自身の部屋の窓から眺めていた。

 艦内の放送によれば、今日は再び龍門に接舷するとのこと。

 

「トランスポーターでも来るのか……?」

 

 移動都市という概念が最早当たり前となったこの時代。源石の干渉と、天災によって基地局が破壊され、通信は基本的に同じ移動都市の中でしか通じない。外部の都市とは『トランスポーター』という運び屋を雇うことで、手紙や物資のやり取りを行う。似た職業には『天災トランスポーター』と呼ばれる天災の接近の警告や、天災後の調査を行うという一種の予報士もいるが、幸いにして天災の予報は今は入っていない。

 

 ロドスは非常に巨大で、生産設備も整っている。しかし、定期的な仕入れなどはあるのだろう。ヴィジョンも勿論トランスポーターという存在は知っているし、トランスポーターが来ると言われても別に驚きはしない。それほど、テラの大地においてトランスポーターとは必要不可欠な役割であり、替えの利かない存在なのだ。

 早朝に受けた医療オペレーターの指示を脳内で反芻しつつ、朝食の為彼女はのそりと重たくなっていた腰を上げた。

 

 ロドス・アイランド、午前8時30分。

 少し早めの朝食の後、ヴィジョンはやることもなくロドス艦内を散策する。昨日道に迷ってから、一層案内板は気にするようになった。何がどこに通じていて、どこへ向かうのか。広大なロドスを巡るには、それを一つ一つ覚えていくしかない。

 ふと案内板に、『療養庭園』という文字があることに気付いた。移動都市であり、同時にある種の病院というからには不思議は無いのだろうが、それでもロドスは移動艦だ。療養庭園とやらには何があるのか? ヴィジョンの好奇心がそそられる。

 まだ接舷予定には時間がある。検査も起きてすぐに終わっていたし、ヴィジョンはそのまま庭園へと向かってみる事にした。

 

 □

 

 結論から言えば、そこには室内とは思えない巨大な庭園が存在していた。『療養庭園』と呼ばれるからには、セラピーの役割もあるのだろうか。遊歩道に足を踏み入れれば、そこはまるで森の中だ。

 花を愛でるという趣味は幼い頃からその身を戦場に置いていたヴィジョンには無いものだったが、ロドスに存在する自然の力には思わず圧倒されるものがある。

 

「あら……? あまり見ないお客さんね」

 

 少し庭園を歩いていたヴィジョンに声を掛けたのは、たおやかな印象を与えるヴァルポの女性だった。昨日はブレイズといい、ガヴィルといい、面倒見は良いものの、どちらかといえば粗暴な人間ばかりだった。しかし、目の前の彼女からはそんな雰囲気は感じない。それがどうもヴィジョンの調子を狂わせる。

 

「すまない、特に用事はなかった。昨日ロドスに来たばかりで、今は探検中といったところか」

 

「昨日……? そう、あなたが噂の新しいオペレーターなのね。私は調香師(パフューマー)のラナ。ここでは、パフューマーと呼ばれているわ」

 

 自らをパフューマーと名乗った女は、真っ直ぐにヴィジョンを見つめていた。純粋な興味──ロドスの新入りへの興味が、彼女をヴィジョンへ釘付けにするようだった。

 

「ヴィジョンだ。庭園というから、もう少し匂いがキツいかと思ったが……。そうか、調香師がいるならここが心地良い理由も分かった」

 

 花には独特の匂いがあるものだ。庭園クラスにもなると、下手な植え方では匂いが混ざり合い、かえって不快になることもある。パフューマーはまさにその職業の通り、見事な仕事でこの庭園を仕上げているのだろう。

 匂いが不快になることもなく、草花はしっかり手入れされており、また自然に由来する害虫の類いも勿論見られない。植物には明るくないヴィジョンでさえ、この庭園が素晴らしいものであることは理解できた。

 

「心地良いと言ってくれて嬉しいわ。良かったら案内しましょうか?」

 

「……いや、気持ちだけ受け取っておく。また来るから、その時に頼む」

 

「そう……? なら、その時までにもっと心の安らぐ空間にしないといけないわね」

 

 案内出来ず、少し落ち込む様子を見せるパフューマー。ヴィジョンも流石に申し訳無さを覚えるが、今は見に来ただけだ。時計を見れば、接舷が近い。

 パフューマーへ会釈すると、ヴィジョンは庭園を後にする。再び通路へ出ると、接舷の準備に走るスタッフたちが確認できた。

 龍門に出るのなら、少し出掛けられないものか。外出許可を取るか迷いながら、艦内を歩く。接舷完了の放送を聞き、気付けばロドスの巨大な入口まで出てきていた。

 

「あ、ヴィジョンさん。おはようございます」

 

 ぼうっと立っていると、アーミヤがヴィジョンへ声を掛けた。接舷にあたって、代表である彼女も様々な準備があるようだ。しかし、それならば丁度良い。

 

「おはよう。アーミヤ、少し外出の許可は取れないか? 龍門にいるなら、少し見たいところがある」

 

 ヴィジョンの提案は難しいものではないが、アーミヤは少々難色を示した。

 

「まだヴィジョンさんが来てから一日です。私はあなたを信じますが、恐らくまだ単独での外出許可は出ないかと……」

 

 ヴィジョンは元々レユニオン兵だ。アーミヤの考えは、そのまま人事部がヴィジョンに対し抱えるであろう問題である。彼女をそのまま外に出すには、まだ日が浅すぎる。アーミヤは考えていないようだが、ヴィジョンが逃走を図り、レユニオンへ再合流する可能性は組織として一パーセントたりとも見過ごすわけにはいかない。

 

「……なら、適当に甲板にでも──」

 

「待ってください。私も龍門市街には用事があります。ドクターと私の護衛としてなら、許可は下りると思いますよ」

 

「護衛か……。つい昨日、殺そうとした相手の?」

 

 ドクターを殺害する目的でヴィジョンはブレイズと戦う羽目になった。そのような人物に護衛の任を任せてくれるものだろうか?

 ヴィジョンの問いに、アーミヤは自信あり気に頷いた。

 

「ヴィジョンさんの決断は、決して裏切る為のブラフではない。そうですよね?」

 

 アーミヤは彼女なりに、ヴィジョンを理解しているようだった。ヴィジョンに内部からロドスを破壊するようなつもりはないと考えていた。

 アーミヤは昨日のブレイズ、そしてガヴィルとのやり取りを見ていた。無論、ガヴィルに本気でげんこつを食らった姿も見てしまっていた。もしロドスを裏切るなら、情報は多く残さない方が良い。しかし、ヴィジョンはあらゆる事に協力的だった。検査も試験も、何もかもだ。

 そこまでして、彼女が最後に全てを放り出すのか。アーミヤにはそうは思えなかった。

 

「……レユニオンとはもう関係ない。昨日話しただろ。ワタシはお前達に死ではなく、職を与えられた。護衛が指示ならそう言え」

 

「あくまでも自由意志ですよ。ですが、これを口実にでもしないと、今は外出許可を出すわけにはいきません」

 

 外出はあくまでも護衛のため。ならばヴィジョンもそれで構わない。アーミヤの指示を承諾しつつ、彼女がまだ誰かを待っている事を知る。恐らくはトランスポーターか何かか。

 暫く待って、出入口に現れたのは緑髪の大柄な鬼族の女だった。

 

「おや……? ロドスが接舷すると聞いて、向かっていたのは小官だけではないと思っていましたが。どうやら一番乗りしてしまったようですね」

 

「ホシグマさん、お久しぶりです。お変わりはありませんか?」

 

 アーミヤが一歩前に出ると、二人は互いに握手で再会を祝った。ホシグマは苦い笑みを浮かべると──

 

「ええ。全く仕事が減らないことも含めて、変わりはありません。平和そのものです」

 

 ──少しの皮肉を含めつつ、そう語る。

 ヴィジョンが思わず見上げてしまうくらいには大柄だが、その態度は温厚そのもののようだ。しかし、ホシグマのことは、ヴィジョンは一方的に知っていた。

 龍門でのレユニオン活動時、ほんの少しだが龍門近衛局を相手にしたことがある。当時はフードとスカーフで顔は隠していたから気付かれてはいないだろうが、ホシグマたちに追われたことはあった。

 

「新しいオペレーターの方でしょうか? ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。小官はホシグマと申します。以後、お見知り置きを」

 

「ヴィジョンだ。そんなにかしこまらなくていい。ワタシにそんな価値はない」

 

「価値がないなど……。そんなこと、簡単に言うものではありませんよ。小官も今は職務中ですから、少々堅いのは目を瞑っていただければ」

 

 本当に真面目を絵に描いたような人物。それが、ヴィジョンによるホシグマの第一印象。極東の鬼族は初めて目の当たりにしたが、彼女に喧嘩を売って締め上げられたレユニオンが哀れにも思えてきた。終わった話ではあるが、本当にそう思えた。

 

「チェンさんをお呼びしましょうか? 今は恐らくジムに居るかと……」

 

「いえ。先程述べた通り、職務のついででしたから。彼女が元気だと判れば、小官にはそれで──」

 

「なになにー? 久々にロドスに来たら、なんか盛り上がってるねー?」

 

 ホシグマの背後から、更に声がした。ホシグマとは真逆のハイテンションで、女はヒョイと身体の大きなホシグマの横から顔を出す。

 赤い髪のサンクタだ。龍門では知らない人間は居ないだろう。勿論、ヴィジョンも名前は聞いていた。サンクタの女はエクシアという。予想通りではあるが、彼女はトランスポーターだ。

 

「では、小官はこれで」

 

 ホシグマは小さくお辞儀をすると、エクシアに次いで入ってきた黒髪のループスに会釈をして立ち去った。

 

「すまない。道が混んでいて遅れてしまった」

 

「いえ、とんでもありません。今ドクターが荷物を持ってくるらしいのですが、遅いですね……。ヴィジョンさん、すみませんがここを任せてもいいですか?」

 

「……は?」

 

 思わず素っ頓狂な声が漏れた。確かにロドスの内部を把握しきっていないヴィジョンでは、ドクターを探しても自分が迷子になるだけだろう。アーミヤの考えは間違っていないのだが、少なくとも素顔では初めての顔合わせであるトランスポーター相手は荷が重い。

 

「すぐに戻りますから! ペンギン急便の皆さん、少し待っていてください……!」

 

「おい……!」

 

 ヴィジョンが手を伸ばすより早く、アーミヤはドクター捜索へ駆け出していった。その背中は艦内へ向けてどんどん小さくなっていく。

 いきなり見ず知らず──厳密に言うなら、ヴィジョンは知っているが──の客人にもてなすなど、無茶ぶりも良いところだ。

 

「キミ、見ない顔だね? 新しいオペレーター?」

 

 うつむき加減にコミュニケーションを避けようとしていたヴィジョンを放置するかのように、エクシアは下から顔を覗き込む。頭の光輪がヴィジョンには一際眩しく感じる。

 

「昨日来たばかりだ……」

 

 黙っていても質問責めにされそうな雰囲気をエクシアから感じ取って、ヴィジョンは渋々と応える。下手を打たない自身はあるが、何しろ相手もプロだ。仮に元レユニオンとバレれば、ロドスに迷惑がかかる可能性もある。

 緊張が滝のように押し寄せる。エクシアの深いことまでは見ていないような笑顔すら、裏があるように思えてしまう。

 

「なんか緊張してない? 大丈夫大丈夫、ただのトランスポーターだから! あ、もしかして後方勤務の子だったかな? だとしたらグイグイ行ったら怖い?」

 

「大丈夫だ。ただ、話には慣れてない」

 

「そっかそっか! あ、そうだ。自己紹介まだだったよね? あたしはエクシア。そっちの無愛想なオオカミはテキサス。ペンギン急便のトランスポーターで、ロドスとは協力関係ってやつかな」

 

 ──知ってる。ヴィジョンの脳裏にそんな言葉がよぎって、霧のように消えた。わざわざ墓穴を掘ってどうする。初対面を演じなければ。幸い、本当にペンギン急便のトランスポーターに顔は割れていないようだった。初対面なのは、どちらにせよ本当だろう。

 

「ヴィジョンだ。一応前線に出るよう申請したが、まだ分からない」

 

「ふぅん。ここには治療に来たんだよね?」

 

「……」

 

 エクシアの問いには、すぐには答えられなかった。ロドスとの協力関係があるのなら、感染者への偏見や差別も無いのかもしれないが、すぐに打ち明けようとは思えなかった。ましてや、彼女たちにはロドスと敵対し、敗けたと共に入職したとは絶対に漏らせない。

 ヴィジョンは返答の代わりに頷きながら、その心中でアーミヤたちに早く戻ってくるように祈る。

 

「……ヴィジョン、か。どこかで会ったか?」

 

 壁に寄りかかっていたテキサスは、チョコ菓子をかじると真っ直ぐにヴィジョンを視線で射抜く。

 

「いや、初めてだ」

 

 まさか、気付かれたか。努めて冷静に返したつもりだが、テキサスは変わらずチョコ菓子を咥えたままヴィジョンをポーカーフェイスで見つめるだけだった。下手な感情を感じない分、それがなお不気味だった。

 

「──そうか。ならいい」

 

「なになに? テキサス、この子知ってるの?」

 

「仕事に集中しろ、エクシア。荷物が来た」

 

 テキサスも追求を諦めた様子だった。ヴィジョンの視界に、ようやくアーミヤと荷物を抱えたドクターが映る。あまりの緊張からか、半日はかかったのではないかと錯覚してしまう程に疲労を感じるヴィジョン。彼女の仕事はまだ始まってすらいないのだが。

 

「お待たせしました。ヴィジョンさん、護衛をお願いするにあたって非武装というわけにはいきません。ですが、目立たないようにケースにだけ仕舞わせてもらいました」

 

 アーミヤからはナイロン生地のバッグが渡される。受け取ったときの重みと形状から、ヴィジョンの刀が仕舞われているようだ。ジッパーを少し開けてみるが、間違いはない。彼女の刀が存在している。

 

「荷物は預かった。仕事が済んだらまた連絡する」

 

 ドクターから立派な強化プラスチックケースを預かったテキサスが告げる。中身についてはドクターから説明があったようだが、ヴィジョンには良くわからない。

 ペンギン急便の二人と共に、ヴィジョンたちは龍門へと降り立つ。

 一日ぶりだが、移動都市とはいえ地に足がつくのは安心出来るというものだ。

 

「では、私達も行きましょう。ヴィジョンさん、護衛をお願いしますね」

 

「あぁ。行きたい場所に行ってくれ、後ろから付いていくさ」

 

 ペンギン急便と別れ、アーミヤを先頭にヴィジョンはドクターを真ん中にするように後をついて行く。彼女の武器から考えれば先頭を歩くほうがいいのかもしれないが、視野も広い方が良い。どちらにせよ武器はソフトケースの中だ、即応性は無いに等しい。それならば視野を広く取り、護衛対象を視認できる位置に置く方がよほど効果がある。

 龍門市街からはまだ離れている。アーミヤたちの向かう先には、ヴィジョンも覚えがあった。

 

(スラムか。感染者に会いに行く気だな)

 

 龍門のスラムは感染者の住処だ。いくら表向きを取り繕えても、市民一人一人の思考まで急激に変わるわけではない。故に、未だ龍門での感染者の扱いは劣悪と言えるだろう。

 レユニオンの一人として赴いた時とは真逆の立場だ。彼らはコントロールを失い、同調しない感染者をも手に掛けた。今度はロドス・アイランド製薬のオペレーターとして赴くとは、ヴィジョンも夢にも思っていなかった。

 護衛任務としては難易度は高くない。散歩としても、ヴィジョンにとっては悪くないリフレッシュになりそうだった。




エクシア を 外すなんて もったいない !
弊ロドスはエクシアと特殊テキサスのおかげで先に進めています。
あとパフューマーのラベンダー改も便利ですね。

前衛 が 足りない !
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