ボクは脇役A   作:アップルパイ

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僕の好きな人の瞳に僕は映らない。今も昔も。






第二話:ヘアピン

 

 

 キョーコ先生が来たらいつもは落ち着くクラスメイト達が少し騒がしくて不思議に思っていれば、どうやら転校生がいるらしく、小咲さんがキョーコ先生にバレないようにこっそり教えてくれた。

 集あたりが騒いでたんだろうなと思っていれば、キョーコ先生の声と同時に入ってきたのは赤いリボンを付け、綺麗な金髪を揺らして入ってきた女子生徒。

 

 

「んじゃ早速だが、今日は転校生を紹介するぞー。入って、桐崎さん」

 

「はい」

 

 

 桐崎さんと呼ばれた子は長くてキラキラしてる金色の髪と綺麗な藍色の瞳を見て、恐らくハーフなんだろうなと察すると同時にどこかで見覚えがあるなと思っていれば、ふと視界の端にいた楽が驚愕の顔をしていたため、先程楽を蹴り飛ばした子かと納得する。

 

 教室の窓からしか見てなかった僕だけど、こうやって目の前に対面するとかなり綺麗な人なんだなぁと先程見た光景がなければ、ただただそう思えていたと思う。

 まあ、あんなことを見てなくても十分綺麗な人ではあるのだけど。

 

 

「初めまして!アメリカから転校してきた桐崎千棘です!母が日本人で父がアメリカ人のハーフですが、日本語はこの通りばっちりなので、気さくに接してくださいね!」

 

 

 すらすらと綺麗な日本語を話し、見事な自己紹介を展開した桐崎さんは最後に綺麗な笑顔でニコリと微笑んで見せる。

 綺麗な子がそんなことをすればもちろん、教室中で湧き上がる歓声が飛び交うのは分かりきっており、桐崎さんの容姿の高さに沸く男子と桐崎さんのスタイルの良さに沸く女子。

 僕の視界には一人、クラスメイトとは全く違う雰囲気を出してる男子生徒がいるのだがそれは僕の義兄である。

 

 

「じゃー、ひとまずテキトーに後ろに空いてる席に……」

 

 

 もちろん、そんな彼女のことを遠くで見ていた僕よりも覚えがある楽が黙っていられるわけもなく、唖然としてから段々とプルプル震えていくのを僕は見ながら、あぁ、平和な日常にサヨナラと心の中で呟く。

 

 目が合ったのだろう、楽だけでなく桐崎さんも次第に大きな目をさらに大きく見開いて楽は立ち上がって怒鳴り、お互いに指を指している。つまりご対面。

 

 

「貴方、さっきの……」

 

「お前!さっきの暴力女!!」

 

 

 楽、いくら何でも女の子に対して暴力女はないでしょ。

 そんな僕の独り言が呟かれたのか、それとも心内で留まったのかは分からないけれど気付いた時にはクラス中に戸惑いの沈黙が流れており、楽と千棘の口論が教室中に響き渡る。

 

 

「ちょ…!何よ暴力女って!」

 

「さっき校庭で俺に飛び膝蹴り喰らわせただろ!」

 

「ちゃんと謝ったじゃない!」

 

「はぁ!?謝っただぁ!?あれのどこがだよ!」

 

「謝ったわよ!もう、ちょっとぶつかったくらいで被害妄想やめてよね!?」

 

 

 僕の隣に座る小咲さんも唖然とし、次第に慌てて僕の方に視線を向けてどうしようって困っているのだけれど、こればっかりは僕もその場にいた訳ではなく上から見ていただけなので何も出来ない。

 

 

「ど、どうしよう楓くん…!」

 

「え、あ、んー……」

 

 

 だが、流石にこの空気は宜しくないので、僕はちらっと先生に目を向ける。先生も最初は驚いていたが、次第に何処か暖かい眼差しに変わっているのを見て、あ、この先生止める気ないし何なら楽しんでると察してしまう。

 

 そんな先生から視線を外せば、もちろん小咲さんと目が合うわけで小咲さんからのヘルプ視線を受ける。僕がどうしようかと考えている間も、楽と千棘の口論は一向に収まるどころかさらにエスカレートしていく。

 

 

「どこがちょっとだよ!こっちは気絶しかけたんだぞ!」

 

「へー!?あんた血圧低いんじゃないの!?こっちは謝ってるんだから許してくれてもいいでしょ!?女々しい人ね!!」

 

「女々…!?それが謝ってる奴の態度かよ!この……」

 

 

 本格的にどうしようか、クラスメイト達も驚愕を通り越してぽかんとして固まっている中、とりあえず楽だけでも止めようと思って立ち上がる。

 心配そうにする小咲さんに大丈夫だと微笑み、僕は楽の名前を呼ぼうとした瞬間についに楽が言ってはならない一言を口にする。

 

 

「猿女!!」

 

 

 あのバカ、女の子に暴力女もアウトだと言うのに猿女はもっとダメだろう。

 楽の声が響き渡った直後、対面していない僕達でもわかるぐらい教室の中にいる全員の耳に何かがひび割れるような音が届き、僕は大きな溜息を吐き出すことしか出来ない。

 

 

「誰が……」

 

「…き、桐崎さん落ち着いて。楽も女性に対して何言って」

 

「楓!元はと言えばコイツが!」

 

 

 すると、桐崎さんが腕を大きく後ろに振りかぶり始め、僕は不味いと思って駆け寄りつつ、二人に対して声をかけるけれど彼女がキレた原因は楽の口の悪さでもあるため、ボディーガードとしては良くないけど気持ち遅めに動き出す。

 流石に男子である楽が吹っ飛ぶわけないし、下手に殴らせると桐崎さんの手を怪我させてしまうかもなんて思っていたのだけど杞憂だった。

 

 桐崎さんは慣れたように体勢を低く取り、鋭い眼光は楽を捉えて桐崎さんの綺麗な左足が大きく踏み込まれ、振りかぶっていた腕がぶれる。

 見事なその体重移動と姿勢に思わず、僕は女の子なのに凄いと場違いなことを思ってしまう。

 

 

「誰が……猿女よ!!!」

 

 

 真っ直ぐに完璧な体重移動によって勢いと威力が乗って振るわれた拳は、楽の頬にクリーンヒットし、僕の目の前で楽の顔面が歪む。

 本当に生身で、しかも女の子が殴ったのかと疑いたくなるほど大きな音が教室に響き渡って楽の体が宙へ浮いて飛ぶ。

 楽はその勢いのまま、僕と違って鍛えていない楽が受け身の姿勢なんて取れる訳もなく、教室の扉を通り抜けて廊下の壁に背中が打ち付けられて動かなくなる。

 

 

「……あ」

 

「……え」

 

 

 止めに行こうとしていた僕も、まさか楽が吹っ飛ぶなんて想像してなくて驚いて固まってしまって桐崎さんと目が合う。

 僕と目が合ったことで桐崎さんは我に返り、さっき自分が何をしたのか自覚したようで固まっている。

 そしてもちろん僕や桐崎さんに限らず、こんなカオスな状況を共に見ていたクラスメイト達は動くこともできず呆然と僕達を眺める。

 

 

「…あー、えーっと、怪我はない?」

 

 

 吹っ飛んだ楽は男だし、きっと無事だろうと勝手に予想し唖然としてる桐崎さんに手を出しながら聞けば一応頷かれた。

 とりあえず、平凡な日常はサヨナラだということは確定した。

 

 僕は吹っ飛ばされた義兄のもとに歩を進め、確認してみれば殴られた頬は赤くなってる。けど唖然とした表情を見る限り、まあ意識も大丈夫そうであることは確認できた。

 襟元を掴んで起き上がらせ、僕は廊下から教室の中に入って楽を椅子に強制的に座らせ、キョーコ先生の方に目を向ければ頷かれる。

 

 お願いします、先生。

 ここでどうにかこの空気を変える一言を。

 

 

「うむ、仲良くてよろしい」

 

「……先生?」

 

 

 なんてこった、僕の想いは全くと言っていいほど伝わってなかった。

 誰がどう見たってカオスな状況だというのに、先生はケラケラ笑って以上だと言わんばかりにホームルームは終わった。

 

 

「どうしてくれんのよ、恥かいちゃったじゃない!」

 

「何で俺が怒られる側なんだよ!?」

 

 

 とはいえ、ホームルームが終わったところで二人の言い合いが落ち着くはずもなくクラスメイトが騒然としている中でも続いてる。

 困った顔の小咲さんに苦笑いしか出来ない僕の気持ちになって欲しい。というか、楽。君は好きな人の前でそんな荒々しいところを見せて良いのか。

 

 そろそろ落ち着いて欲しいと僕は頭を抱えながら、巻き込まれるのは勘弁なので深い溜息を吐きつつ、扉の出口の方へ避難すれば小咲さんと宮本さんが少し心配そうに僕のもとに来てくれて、集も何処か違和感を感じますって顔で僕のもとに来る。

 

 

「楓くん、大丈夫?一条くんも何だか大変そうだけど……」

 

「…貴方も大変ね」

 

「…うん、大丈夫。2人が気にかけてくれるだけ十分だよ」

 

「なぁ、楓。もしかして、あの子がさっき楽が言ってた膝蹴りの?」

 

「多分、僕もこの教室から見てたから断言は出来ないけど金髪ロングだったし」

 

「へぇ〜」

 

 

 僕たちがこうやって会話してる間も、ホームルームが終わってから全く止まる気配もないまま、教室のど真ん中で今も尚白熱してる楽と桐崎さんの口論に僕達は遠目から見ていれば、突然僕の隣にいた集が体を捻って回り始める。

 しかも、その回転速度はどんどん早くなって行くものだから僕は口角を引きつらせ、咄嗟に変態行動中の集から離すため、小咲さんの前に手を出して僕が間に入る。

 

 

「でも俺!あんな可愛い子だったら膝蹴りされても~!」

 

「…集、君は相変わらず、女の子が関係すると残念になるね」

 

「…キモイ」

 

「楓くん?」

 

「楓よぉ!何で俺から小野寺さんを遠ざけるんだよ〜!」

 

「今の集は誰が見ても変態で危ないからだよ、るりさんは既に離れてたし」

 

「酷い!」

 

「一条弟くん、そのまま舞子くんを摘み出してちょうだい」

 

「あ、あはは……」

 

 

 明日から、いや今日からいったいどうなって行くんだろうと少し未来に不安を抱いていれば、先程まで黙っていたキョーコ先生に名前を呼ばれる。

 一条と呼ばれてしまえば、このクラスには僕だけでなく楽もいるので二人で返事すれば、キョーコ先生はここに一条が二人いることを思い出したのか、あ、すまんっと一言だけ言う。

 

 

「一応、一条兄の方なんだが」

 

「俺っすか?」

 

「あぁ、弟の方でもいいんだが。桐崎さんも丁度よかった」

 

「え?」

 

「僕もですか?」

 

「はい?」

 

 

 流石にずっと口論を繰り広げる楽と桐崎さんも、担任であるキョーコ先生が声をかければ黙って先生へと視線を向ける。

 未だに回り続ける集と口論してる二人を見ていた僕と小咲さん、宮本さんも口論に参戦してなかった僕の名前も呼ばれたことで気になったのか皆でキョーコ先生に視線を向ける。

 

 

「あんたら知り合いだったんだろ?だからさ」

 

「えええええええええっ!?」

 

「……僕、もう帰ろうかな。疲れた」

 

「まだ学校始まったばっかりだよ〜!」

 

 

 キョーコ先生は何を勘違いしたのか、楽と桐崎さんの二人の席を隣同士にするという火に油を注ぐような行動を行い、僕はもう頭痛を覚えて近くにあった机に腕を着く。

 あの二人を静かにさせるどころか、それがもう不可能である事に今日この後から騒がしい未来しか見えなくて頭が痛い。

 

 さらに、先生は桐崎さんを楽が担当してる飼育委員にさせるとまで言い出して僕は隠す気もない深い溜息を吐き出せば、宮本さんに肩を叩かれて頑張れと目で訴えられる。

 

 見た感じ、恐らく歯車さえあってしまえば仲良くなれるのだろうが、如何せんその歯車が合うまでが胃にダメージを与えそうなのだ。

 僕は頭をかき、くしゃくしゃと髪の毛を掻き分けながらどうやってあの二人を落ち着かせようかと思っていれば、小咲さんに名前を呼ばれて顔を上げる。

 

 

「……はぁ、気が合いそうではあるけどなぁ」

 

「楓くん」

 

「うん?」

 

「はい、前向いててね」

 

「え?」

 

「治してあげる!楓くんせっかく綺麗な髪なんだもん、ぐしゃぐしゃにしちゃったら勿体ないよ」

 

「……。」

 

 

 いつの間にか片手に持っていた櫛を使い、慣れた手つきで僕がぐしゃぐしゃにした髪の毛を整えてくれる小咲さん。

 そんな小咲さんの行動に宮本さんは目を見開かせているし、集も驚いているのだが、僕は何となく小咲さんが僕に対してこういう行動を取れる理由を察しているので複雑だ。

 小咲さんにとって僕はただの友達だ。

 

 

「楓くん、少しくせっ毛なんだね。一条くんも?」

 

「…どうだろ、楽も僕もあんまり気にしないから」

 

「ふふ、やっぱり兄弟だね」

 

「…そうかな」

 

「うん!はい、治ったよ」

 

「ありがとう」

 

「あ、待って。楓くんまだ動かないでね」

 

「え、うん」

 

 

 ふわりと笑い、櫛を持って僕の髪全体を見回し満足気な顔をしていたのに、何かを見てから気付いたのか僕にそのままでいるように言う。

 どうしたのだろうと思っていれば彼女はポーチから何かを探していて、探し物が見つけたのか彼女は僕の顔を何回か見てから頷き、彼女はまた僕の前に戻ってくる。

 

 突然、指先が僕の頬に触れて驚き、彼女に声をかけようとするものの真剣な目でジーッと見つめられ、流石に恥ずかしくなってきて目をそっと逸らせば、彼女の指先が少しだけ荒れてるのが目に入る。

 そういえば、小咲さんの家は和菓子屋さんでその手伝いをしていると前に聞いたことがあるから、もしかしたらその手伝いで荒れやすいのかもしれない。

 

 そんな全然違うことを考えていれば、髪を触れられてることに遅れて気付いて動こうとするものの、動かないでと言われてしまっては僕も動くのを辞める。

 

 

「はいっ、いいよ?」

 

「…えっと」

 

「楓くん、授業中とかに髪が邪魔なのか良く気にしてるでしょ?」

 

「う、うん」

 

「だからね、編み込みにしてヘアピンで止めたら邪魔にならないだろうなって。どうかな?」

 

「……え?あ、目に入らない」

 

「ふふ、良かった〜。編み込みなんて人にしたの初めてだったんだ、ヘアピンはあげるね!」

 

「…え、そんな貰えないよ!すぐに返す」

 

「ううん、私が持ってても今の長さだと耳にかけられるから使わないんだ。だから気にしないで」

 

「……あり、がとう」

 

「うん!」

 

 

 ── でも、男の僕に編み込みは似合わないんじゃ。

 

 ポーチのチャックを締める彼女を僕はボーッと見つめながら、ふとそんなことを思っていれば鞄にポーチを片付け終わった彼女と目が合う。

 キョトンっとしていた顔はニコッと笑顔に変わり、今度は僕の髪を治し終わった時のような満面の笑みを浮かべ、まるで僕が考えてることが分かったかのように言葉を紡ぐ。

 

 

「凄く似合ってるよ、楓くん」

 

「────っ」

 

「……小咲、貴方」

 

「…わーお」

 

「へ?どうしたの、るりちゃん、舞子くんも」

 

「…ごめんなさいね、一条弟くん」

 

「い、いやっ」

 

「こりゃ、楓くん、楽が知ったら嫉妬されるぜ?」

 

「え?え??」

 

「…ありがとう小咲さん、ヘアピン大事にするよ。僕、ヘアアレンジとか詳しくないから今度教えて欲しいな」

 

「ふふ、うん!」

 

 

 楽と違って僕は中性的な顔だし、名前も中性的で昔は女の子によく間違われがちだったけれど、彼女が似合うと言ってくれるのなら嬉しい。

 

 楽が何やらまた桐崎さんと揉めているけれど、ごめん、今だけでいいから彼女を独り占めすることを許して欲しい。

 1時間目のチャイムが鳴るこの数分だけ、それが過ぎたらまた。

 

 

 

 

 

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