ボクは脇役A   作:アップルパイ

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このままでいい、近付きすぎると壊れてしまうから。






第四話:トモダチ

 

 

 最初は楽の弟ということもあり、何を言っても噛み付かれてばかりだったけれど、次第に桐崎さんは僕に対しての態度が柔らかくなっていき、今ではペンダントを探しながら世間話までする関係になった。

 

 手についた汚れを落としきり、明日以降の楽の予定って何があったっけと思い出していれば、トントンっと背中を叩かれて振り返れば小咲さんの姿。

 

 

「おはよう、楓くん。制服ありがとう」

 

「おはよう、小咲さん。わざわざありがとう」

 

「ううん。…その、あれから大丈夫だった?」

 

「とりあえずはね。でも、暫く二人が仲良くなるのは難しいかな」

 

「…そっか」

 

「だから、まずは僕が仲良くなってみようと思うよ」

 

「え?」

 

「楽には秘密にしといて」

 

 

 ジャケットを綺麗な紙袋に入れて返してくれた小咲さんに言えば、彼女は目をぱちくりしながらも頷いてくれて、僕はその日から桐崎さんと仲良くなるために行動した。

 

 楽から隠れて朝早く来たり、楽が用事あって放課後いない日など、僕がある程度は楽の予定を把握してるのもあって、僕と関わることも嫌だったみたいだけど、それよりも桐崎さんにとっては楽に合わなくて済むというのが都合がいいのか上手くいっていた。

 

 

「…ねぇ、アンタ本当にアイツの弟なの?」

 

「うん、と言っても義理だけどね」

 

「義理?」

 

「そうだよ、僕と楽に血の繋がりは無いから」

 

「…そう、なの?」

 

「うん。ぶっちゃけさ、僕と楽、全然似てないでしょ?」

 

 

 僕が笑って言えば彼女は躊躇いがちに頷く。

 一番わかりやすい容姿はもちろんのこと、性格とかも全然似てないだろうから親戚や従兄弟なのかと良く聞かれるのだが、彼女はどうやら弟と聞いたから双子だと思っていたらしい。

 

 

「僕が6歳の時に両親が事故で亡くなったんだ」

 

「……え」

 

「親戚はワケあって頼れなかったから孤児院に預けられる事になったんだけど、僕の父と仲良かった楽のお父さんが引き取ってくれたんだ。だから戸籍上は兄弟だけど血の繋がりは無い」

 

「…そう」

 

「桐崎さん?」

 

「…ごめんなさい、無神経な事聞いて」

 

「全然気にしないで。僕こそごめん、急にこんな話困るよね」

 

「…別に。でも似てるわよ、あんたたち」

 

「え?」

 

 

 スっと立ち上がった桐崎さんは、僕の顔をちらっと見てから不満げな表情を浮かべ、何やら言いたくなさそうな顔をずっとしてる。

 何か彼女の地雷でも踏み抜いてしまったかと思ったけれど、彼女は僕から視線を逸らして空を飛んでる鳥を眺めながら口を開く。

 

 

「…お節介な優しさは似てると思うわよ」

 

「……。」

 

「何よ!そんなあほ面しないでくれる!?」

 

「ご、ごめん」

 

「ふんっ」

 

「…あっ」

 

「え、何?」

 

「いや、今カラスが何か光るものをくわえてた気がして」

 

「え?」

 

 

 桐崎さんにそんなことを言われると思わず、僕はポカーンっとしてしまうのだが偶然真上を飛んでいたカラスが何かを口にくわえているのが見え、僕は彼女にも見えるように指を指す。

 すると、どうやら彼女は目がいいのか次第に目を見開かせて、しゃがんでいた僕の胸ぐらを掴んで無理やり立たせてくる。

 

 

「桐崎さん!?」

 

「あのバカのペンダントじゃないの、あれ!」

 

「え?……あ、ほんとだ」

 

「カラスが犯人じゃない!」

 

「木の上は危ないよ、僕がとってくる」

 

「はぁ?木ぐらいどうってことないわよ、あんたはそこで待ってなさい!これ以上貸しなんて作りたくないんだから!」

 

「えぇ!?桐崎さん危ないって!」

 

 

 さっきまでくわえていたはずのペンダントをカラスが再度、飛び立つ時にくわえていなかったから恐らく巣の中に置いてるのだろうと推測する。

 ここ数日で彼女が運動神経抜群なのは知っていたけれど、だからと言って木の上は危ないし、何より今の彼女は制服でスカートだ。

 

 その事を忘れてるのか慌てた止めるけれど、見当違いなことを言って本当に登り始めてしまい、僕は下に居ないと落ちた時にフォローに入れないという悩みと下手に下に入ればスカートが舞うという究極の二択状態。

 

 

 

「あった!あったわよ!!」

 

「そ、それは良かったけど……」

 

「ふんっ、これでやっと終わるわね」

 

「桐崎さん、降りるの気を付けてね。君、今スカートだよ」

 

「……い、言われなくても覚えてるわよ!それ以上近付いたら殴るから!」

 

「近付きません!」

 

 

 木の枝からトンっと軽くジャンプして、本当に女の子なのかと不思議に思うぐらい簡単に着地をした彼女に駆け寄り、僕は彼女の手にあるペンダントを確認して楽のだと伝える。

 これで何とか、彼女と楽の間にある溝が狭くなってくれたらいいんだが。

 

 

「放課後、あんたいる?」

 

「いや、今日はちょっと予定があって僕はいないよ」

 

「…そう」

 

「どうして?」

 

「…別に、あのバカに会うのが嫌だからアンタに預けようかと思ったのよ」

 

「桐崎さんって球技得意?」

 

「はぁ?急に何よ」

 

「いや、そんなに楽に会いたくないなら遠くから投げて渡せばいいんじゃって思って」

 

「名案ね、それでやるわ」

 

「え、マジでやるの、冗談だったんだけど」

 

「やるわよ!会いたくないもの!」

 

 

 めちゃくちゃ嫌われてるじゃん楽、と苦笑いしつつ、そろそろ生徒たちが通学してくる時間が迫ってきたから教室に行こうと提案しようとした時だった。

 くいっと優しく袖を引っ張られて、何かと思えば少しだけ頬を赤く染め、僕とは一切目が合わない桐崎さん。

 

 

「桐崎さん?」

 

「…ありがとう」

 

「え?」

 

「…手伝ってくれて、ありがと」

 

「ん、どういたしまして」

 

「あ、あとっ!」

 

「うん?」

 

「あいつに言ってやるわ、アンタより弟の()の方が気遣いが出来て紳士的だってね!」

 

 

 ツンデレってこういう子のことを言うんだろうなぁ。

 ほんの少し前までは、僕のことをあのバカの弟だったり、ろくでなしの弟なんて呼ばれ方をしていたけれど、彼女の中でどうやら僕との接し方が変わったのか名前で呼ばれた。

 何だか、人見知りの子が扉を開けてこっそりこっちを覗いて見ているような、こちらが来るのを待ってるような感覚だ。

 

 

「ははっ、僕が紳士って千棘(・・)さんは優しいね」

 

「…なっ!」

 

「楽と仲直りできるといいね」

 

「誰があんなやつと仲良くするか!」

 

「えぇ……」

 

「行くわよ、楓!国語でわかんないところがあるの!」

 

「楽からノート借りてなかった?」

 

「あのモヤシに借り作るなんて絶対嫌!」

 

「僕はいいの?」

 

「あ、あんたは……友達みたいなもんだからいいのよ」

 

「ふっ、あはは!」

 

「ちょっと!何で笑うわけ!」

 

「いいよ、うん、友達だから。僕で良ければ教える」

 

「…ふんっ」

 

 

 グイッと引っ張られる腕に僕は素直じゃないなと思いながら、まだまだクラスに馴染むのが難しく、そのことに悩むツンデレお姫様の勉強に付き合うことにした。

 

 千棘さんの分からない場所を教えていれば、次第にクラスメイトが登校してきて、その中にはもちろん楽もいる。教室に入って僕と千棘さんが仲良くなってることに気付いた楽が、まるで見てはいけないものを見たというような目で見ていたけれど安定にスルー。

 

 休み時間は彼女の質問に答えたり、僕の隣の席が小咲さんなのもあって3人で話す機会を設けたりしていれば、あっという間に昼休みになった。

 お弁当を取りだしてご飯を食べながら、また千棘さんの質問に答えようとすると突然父さんから電話がかかってきて、千棘さんに一言言ってから廊下に出る。

 

 

「父さん?」

 

「すまんな、楓」

 

「どうかした?学校にいる時に電話なんて珍しい」

 

「いやー、お前さんに話してなかった事があってな。竜たちに最近騒ぎになってるギャングのことは聞いたか?」

 

「ちょっと待って移動するから」

 

 

 まさか裏の話だとは思わず、僕は残りの休み時間だけを確認してまだ余裕があることを確認してから小走りで人気の少ない場所に移動する。

 それから父さんに移動したことを伝えれば、どうやら竜さん達が前に言っていたギャングとの状態があまり良くないということ。

 本来であれば、僕に先に話をしておきたかったけれど最近の僕は家を出ることが早くてなかなか話せずにいたこと。

 

 

「それで、その相手側さんと進展があったんだ」

 

「あぁ、今度こそ戦争になるかもしれん。お前さん今日って和菓子屋に行く日だったか?」

 

「うん」

 

「んじゃあ、わりぃが18時頃には帰ってきてくれ。向こうには18時半頃に来てくれるように頼んだからよぉ」

 

「わかった。何か買って帰るものは?」

 

「……茶菓子ぐらいだな」

 

「先生のとこで買ってくよ」

 

「あぁ、頼んだぞ楓」

 

 

 携帯を耳から話して通話を切り、僕は深い溜息を吐き出す。

 今日の為に徹夜しながら楽の話を聞く時間を作らずに、ひたすら作った先生からの課題で出された和菓子を見せて、今度こそ認めてもらおうと思っていたのにタイミングが悪い。

 

 でもギャングとうちの組が戦争となってしまったら、それこそ不味いから仕方ない。

 集英組の一人から送られてきたメールの内容を確認し、僕はまた溜息を吐きながら戦争なんて起きたらどうするんだよと、何故か戦争することに乗り気のメールの主に心の中で文句を吐き出す。

 

 

「……戦争になんかなったら、小咲さんまで危ないだろ」

 

 

 銃弾が飛び交い、人が人を傷つける血で汚れた裏社会なんて彼女は知らなくていい。

 僕は今日会う約束をしていた先生に、家の用事で18時までになったとメールを送って携帯をポケットに突っ込む。

 教室に向かいながら、落ちていく気分をどうにか顔に出さないようにしようと無理やり自分にいいきかせた。

 

 今日最後の授業が終わり、僕は鞄の中に教科書とノートを突っ込んでいれば視界に人影がチラついて顔を上げる。

 そこには、何処か不安そうな顔をしてる千棘さんで、僕は首を傾げれば彼女はボソッと声を出した。

 

 

「…あいつ、英語できる?」

 

「得意では無いね」

 

「ふーん、じゃあこれ読めないわよね?」

 

 

 ぐいっと目の前に出されたのは2文ほどの英文。

 英文の訳は、義理は果たした。今後私に話しかけて来ない事、クズ野郎!と楽のことをめちゃくちゃ嫌ってる文が書いてあって、僕は唖然としながら彼女を見つめる。

 

 

「…多分?」

 

「ふふ、そう。わかったわ、じゃあまたね楓!」

 

「あ、うん、また明日。でも何で英文…?」

 

 

 英語が得意だと聞いたことはないから、恐らく読めないだろうけど彼女は何処か楽しそうに笑って行ってしまった。

 

 今更だけど、僕の冗談で言った投げて渡すを彼女が本当にやるのだとしたら、あのペンダントって一部が鋭利になってるから楽に刺さらないといいなと他人事のように僕は祈っておく。

 

 変なところに当たらなければ痣になる程度だろうし、どんな理由でも女の子に怒鳴って怖がらせてしまったのだから、それぐらいは罰としていいか。とボディーガードとしては相応しくないが勝手に判断して教室から出る。

 

 

「あっ、楓くん!」

 

「小咲さん」

 

「今日は早く帰るんだね」

 

「うん、予定があって。……あっ」

 

「どうしたの?」

 

「小咲さんって今日も残る?」

 

「う、うん。そのつもりだけど」

 

「…じゃあ、楽がまたペンダントを探し始めたらさ。千棘さんの所に行ってくれないかな」

 

「……ぇ、あ、桐崎さん?」

 

 

 僕の言葉が予想外だったのか、小咲さんは目を見開かせて驚いた顔をして固まってしまい、僕は何か変なこと言ったかなと思いつつ会話を進める。

 

 きっと千棘さんのことだから、楽に直接話しかけるなんてしないだろうし、クラスメイトの小咲さんに迷惑をかけることも嫌がりそうだ。

 でも、どこかで彼女と楽が同じ場所に行かないと彼女はいつまで経っても渡せなさそうだから僕が勝手にお節介をする。

 

 

「うん、実は楽のペンダントさ。今朝見つけて千棘さんが持ってるんだ」

 

「そうなの!?」

 

「でも、ほら、千棘さんって楽と色々とね……」

 

「う、うん、そうだね」

 

「だから、素直に渡せるとも思えないんだ」

 

 

 僕が苦笑いしながら言えば、小咲さんもすぐに想像できたのか同じように苦笑いしてしまう。

 それから僕の言いたいことが伝わったのか、小咲さんはこくんっと頷いた。

 

 

「ふふ、うん、分かった。いい感じに二人を会わせればいいんだね」

 

「ごめん、僕がやればいいんだけど」

 

「ううん、実は私も桐崎さんが探してるところを何回か見てたんだ」

 

「え、そうだったんだ」

 

「うん、一条くんに言うなって言われてたから楓くんにも内緒みたいな形になっちゃったけど」

 

「千棘さん、ほんとにツンデレだなぁ」

 

「ふふ、私もちょっとだけ思ってた」

 

「…じゃあ、二人のこと頼んでもいいかな」

 

「うん、私に任せて。楓くんもずっとお疲れ様」

 

「ありがとう、小咲さんもお疲れ様」

 

「ふふ、じゃあまたね、楓くん」

 

「うん、また。小咲さんも気を付けて」

 

「ありがとう!」

 

 

 手を軽く振られ、僕も振り返してから横を通り過ぎる。

 一瞬立ち止まって僕が振り返れば彼女は既に歩き出していて、きっと楽のいる場所に向かってるんだと気付き、僕はすぐに前を向いて歩く。

 こうやって今も、楽はペンダントと約束の女の子ばかり見てると言うのに、小咲さんはそれでも楽のことだけを見てるのだと実感させられると僕は義兄に言いたいことも出てきてしまう。

 

 

「…ちゃんと見てないと、後悔しても知らないよ楽」

 

 

 ずっと相談を受けてきたのだから、この程度で小咲さんが諦めるわけないことはわかっている。そして、僕はそんな彼女を応援すると決めて自分の恋心には蓋をしたというのに未練がましくて笑ってしまう。

 

 楽の好きな食べ物、楽の趣味、楽の好み。

 彼女に聞かれるたびに答えた楽の情報は、彼女の中にある僕の情報とは比例にならないほど多くて価値だって違う。

 

 歩き慣れた通学路だと言うのに、何だか今日は家までの道のりが遠く感じてきて少し早歩きで向かい始め、最後は走って帰宅する。

 竜さん達が家を出てるのか、静かな家に帰宅して、真っ直ぐに自室で鞄を置き、制服を脱いで私服に似替え、リュックを手に取ってキッチンに向かう。

 

 作った和菓子を詰めたタッパーを手に取り、形が崩れないように慎重にリュックに入れてからスニーカーに履き替えて家を後にする。

 商店街を通り抜けて、混雑ピークの時間帯だと言うのに人気があまりない道を超え、僕は見慣れた暖簾の和菓子屋さんの前に辿り着く。

 店内を覗いてお客さんがいないことを確認し、中に入ればにやりと笑った僕に和菓子を教えてくれる先生。

 

 

「来たねぇ、楓くん」

 

「課題のわらび餅、作ってきました」

 

「ほぉー、ちょうどキリもいいし試食してあげる。こっちに持ってきな」

 

「はい」

 

 

 これでまたダメと言われたら今度こそ不貞寝する。

 この課題であるわらび餅も、実は三回目だったりで僕は先生に見せるのを緊張してしまう。

 震える手をどうにか抑え、リュックの中からタッパーを取りだして、先生の前に出せば先生は真剣な顔をしながらわらび餅を手に取る。

 

 

「……形よし、食感も問題ない。だいぶ腕上げたね」

 

「ほんとですか…!ありがとうございます」

 

「うん、なかなかいいじゃない?」

 

「……はぁ…!」

 

「ふ、ふふっ、そんな緊張したんだ」

 

「そりゃ緊張しますよ!先生のダメ出し、何回も受けたんですから」

 

「君は筋はいいのに手先が壊滅的に不器用すぎるのよ、味は美味しいのに勿体ないのよね〜」

 

「うぐっ……」

 

「それにしても、うちに突然来て和菓子の作り方教えてくださいなんて言いに来た小学生が高校生なんて早いわぁ」

 

 

 ケラケラ笑いながら、僕の持ってきたタッパーから小分けにしたわらび餅を手に取って食べ進める先生の攻撃に致命傷を受けながらここに来た時のことを思い出す。

 

 和菓子を教わる事になったきっかけは、僕にはどうしても自分の手で作りたい和菓子があったのが最初だ。

 それもただの和菓子ではなく、亡くなった両親が好きな和菓子屋さんの練切で、それを知っていてもたってもいられなくなり、僕は小学生の時に何の連絡も無しに突撃したことが始まり。

 

 とはいえ、先生だって趣味で和菓子を作ってるわけでもないし、ましてや小学生が作れるわけもなく。

 僕は高校生になるまではダメと言われ、念願叶ってやっと教わり始めたが、先生に先程言われたように僕の手先の不器用さが酷かった。

 和菓子は見た目も大事だと言うのに、僕の壊滅的に酷い手先の不器用さによってなかなか綺麗に仕上げられない。

 

 

「あの時はすみませんでした」

 

「ふふ、今じゃ笑い話だし愛弟子が出来たからいいわよ〜。さて、んじゃ、時間も限られてるから早速挑戦しなさい」

 

「…っ!」

 

「楓くんのお母さん、桜子が好きだった練切。うちの味でね」

 

「はい!」

 

「それで、いつウチに婿に来る?愛弟子の君なら大歓迎よ?」

 

「…菜々子さん、また娘さんに怒られますよ。この間の春休みの時だって、娘さんめちゃくちゃ怒ってたじゃないですか……」

 

「にょほほほほほ!春にはまだ早かっただけよ〜!」

 

 

 あの手この手で僕を婿にしようとする先生のせいで、僕はこの前の春休み中に娘の春さんに凄く睨まれ、関係が解消されるのに時間がかかった苦い思い出しか無い。

 

 僕に和菓子を教えてくれてる先生は、僕の実の母である桜子の幼馴染であり、両親が好きだった和菓子屋"おのでら"の店長。

 そして、僕の好きな人である小咲さんのお母さん。

 

 このことに気付いたのは、中学2年生の頃で小咲さんに実家が和菓子屋さんという話を聞いたのと、先生から同い年の娘さんがいると聞いて僕の中で繋がったのだ。

 

 最初は本気で焦ったし、一歩間違えたらストーカーだと言われるんじゃないかと焦り、何を血迷ったのか僕は父さんに相談した。

 もちろん、父さんが真剣に聞くはずもなく大笑いされ、ろくなアドバイスは貰えなかった。

 

 悩みに悩んだ末、お店で小咲さんに会うことがあれば話すことにしたし、僕が話すより先に先生から小咲さんに話が言ってるかもしれないと思っていたけれど一向に小咲さんからその手の話が来ることは無い。

 恐らく、先生の性格上黙ってた方が面白そうとかで黙ってる可能性が否定できないところ。

 

 

「でも、本当に楓くんならウチは大歓迎なのよ〜」

 

「あ、あはは……」

 

「ねぇ、楓くん。君の好みは同い歳?それとも歳下?」

 

「ノーコメントで……」

 

「桜子の息子でしょう、ハッキリしなさい。あの子とは昔から良く喧嘩したけど、そこら辺はハッキリしてたわよ」

 

「僕の好みに母さん関係ないですよね…?」

 

「あ、もしかして年上派だったかしら?悪いわねー、私もう既婚者なのよ」

 

「僕は何も言ってませんが!?」

 

「あら、楓くん必死じゃない〜!いつものツーンって澄まし顔はどこにいったのかしら!あ、もしかして好きな子いるの?」

 

「娘さんにまた怒られますよ!?」

 

 

 意図的に話してない部分もあるけど小咲さんは知らない。

 僕が和菓子を教わってる事も、親同士が幼馴染だったということも、僕がこのお店の和菓子が好きなことも。

 

 どんな偶然なのか、ここで教わってたり買いに来ても、僕は一度だって小咲さんに会ったことがないのだから、きっとそういう運命なのかもしれない。

 

 でも、この距離感でいい。

 脆く壊れやすい上で成り立った友達という枠を超えない、今の距離感が僕にとっては救われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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