ボクは脇役A 作:アップルパイ
何度でも僕は自分に嘘をつく。
その先に、君が笑う幸せな未来があるのなら。
あの後、先生は店番をしながら偶に僕の様子を見たりとあっという間に時間は過ぎ去り、僕の前にはお世辞にも綺麗とは言えない見た目の練切に溜息を吐く。
いくらなんでも壊滅的過ぎないか、僕の手先の不器用さ。
「んー、今回も不合格ね」
「…はぁぁぁ」
「元気出しなさい、初めよりはだいぶ形になってきたわよ」
「そうなんですけど……。やっぱり材料費払いますよ、何個も無駄にしちゃってます」
「気にしなくていいわよ〜、そのかわり早く私に認められてバイトしてちょうだい。出来るだけ早く」
「は、はい!」
「あ、そうだ。楓くん、その練切そのまま置いといてね」
「え、分かりました…?」
「後で、うちの娘に食べさせるからっ」
「……はい!?」
「にょほほほほ!うちの未来の職人だもの、娘にも確認してもらわないとね〜!」
「菜々子さん!!」
ニヤニヤしながらまた店番に戻ってしまった先生に溜息を吐くも、材料費を出してない僕の立場では置いておけと言われたら従うしかない。
使い終わった器具たちを洗い、事前に教えられた場所に片付けながら僕は僕の作った歪な形をしてる練切を眺める。
あれを食べてもらうって思うと色々と僕も感じるものがある。
もっと綺麗に作れてるならいいんだけど、もうどうせ食べられることが確定してしまってるなら持ってきた小分けのわらび餅も一緒に置いて行くべきだろうか。
借りたお店の制服を脱いで畳んで僕はタッパーの中に入れていた小分けのわらび餅を4つ、練切の傍に置いてから畳んだ制服とリュックを掴んで店番してる先生のもとに向かう。
「今日もお忙しい中、ありがとうございました」
「ふふ、どういたしまして。制服はこっちで預かるわね」
「何から何まですいません……」
「いいのよー」
「お口に合うか分からないんですが、わらび餅も置いて置いたので良かったら」
「あら、気が利くわね。娘と食べるわ」
「…本当に娘さんと食べるんですか」
「ちゃんと感想も聞いとくわね!」
「勘弁してください……」
「それと今日は何か買っていく?」
「あ、はい。みたらし団子を」
「いつもありがとね〜」
数って何本あれば足りるんだろう、もう10本ぐらい買ってけばいいか。
何人来るのかとか、いくつ必要とか聞いてなかったなとぼーっとしながら考えていれば、菜々子さんはみたらし団子を包んで僕の前に置いて声をかけられる。
ハッとして財布からお金を取りだし、渡そうとすると僕の顔を見て少し待っててと言って奥に行ってしまった。
「はい、これ。今度来る時かメールで感想ちょうだい」
「もしかして新作のどら焼きですか?」
「そう、少し前に娘と新作を考えた試作品。まだ改良中なんだけどね。昔、桜子と話して思い出したことがあって参考にね」
「…母さんと」
「うちの娘は料理はからっきし駄目なんだけど手先は器用でね〜。見た目はあの子にやってもらったけど、味は私が作ったから問題ないと思うから感想よろしく!」
「わ、わかりました」
「ねぇ、楓くん。たまには思いっきり、ぶつかってみるのもいいんじゃないかしら?」
「…え?」
「何に君が悩んでるか分からないけれどね。まだ高校生なんだから、少しは周りを巻き込むぐらいやりたいようにしても文句言われないわよ?うちに突撃してきたぐらいに」
「…うっ、それネタにしないでください」
「澄まし顔もいいけど、たまにはそういう顔も大切よ〜」
「…頑張ってみます。今日もありがとうございました」
「ふふ、いいえ。また予定がわかり次第メールするわね」
「はい、失礼します」
菜々子さんに口で勝てる人っているのだろうか。
みたらし団子と試作品のどら焼きを受け取り、僕は会計を済ませてお礼と挨拶をしてから来た道を戻る。
普段はお店が閉店するギリギリまでお世話になっているから、月が見える夕暮れに帰るというのも少し久しぶりで空を見ながら僕は帰り道を歩く。
夕食の時間だからだろうか、いい香りが漂ってきて今日の夕飯は楽の担当だったけれど何の予定なんだろうか。
遠くで烏の鳴き声が聞こえ、僕は自宅に一番近いコンビニでお茶を購入し飲みながら帰れば、まだ玄関の中に入っていないというのに家の中が騒がしい。
「…18時半に来るとは言ってたけど、結構ギリギリになったな」
携帯で時間を確認したらちょうど5分前。
みたらし団子だけでも竜さん達に預け、お客さんに出してくれと頼もうと考えながら玄関に入ってスニーカーを脱いでれば、奥から何やら騒がしい声が聞こえてきて僕は首を傾げる。
そういえば、帰ってくればすぐに誰かが玄関に顔を出すのに誰も来ないことに不思議に感じていれば奥から父さんがやってくる。
「おぉ、帰ってきたか楓。ちょうど良かったわい」
「…え?」
「今から詳しい話をする、来てくれ」
「うん」
「楓、お前さん楽に恋人がいるとか聞いたことあるか?」
「え、いや、聞いたことないけど……」
「んじゃ問題はねぇな、悪ぃが荷物は邪魔にならないそこら辺にでも置いといてくれ。茶菓子は預かる」
「わかった」
何が問題ないのだろう。
父さんの考えがよく分からず、僕は嫌な予感をしながらも案内された部屋に入れば見慣れた金髪ロングの後ろ姿。
その金髪ロングを見て連想した子は最近転校してきて、楽とは絶賛大喧嘩中だったあの子だけれどヤクザの我が家に何故いるのか分からず、僕は自分の家だというのに唖然とする。
「楓!?」
「おせーよ!お前、どこいってたんだ!」
「どこって、和菓子を先生に教わりに……」
「よりによって今日だったのかよぉー!」
「と、父さん。いったい何があったの?」
楽と千棘さん、それから千棘さんのすぐ隣に立つ外人さんを見ながら、僕はニヤリと笑っている父さんに視線を向ければ、どうやら詳しい話は本当に今からするらしい。
既にまた喧嘩が始まりそうな中、楽と千棘さんの間に立たされてる僕は居心地が悪くて仕方がない。
「実ァ、俺達は古い仲でな。楓も帰ってきたとこだから改めて紹介だ。こいつがギャング"ビーハイブ"のボス、アーデルト・桐崎・ウォーグナーと桐崎千棘お嬢ちゃんだ。そんでだ楽、おめぇ、千棘お嬢ちゃんと恋人同士になってくんねぇか?」
「はぁー!?何回聞いても意味わかんねぇんだけど!」
「さっきも言っただろーが、フリだけでいいんだ。互いの組の二代目が恋仲とあっちゃ、若ぇ連中も水指すわけにゃいかねーだろ?」
「だったら!俺じゃなくて楓でもいいだろ!」
「そうよ、パパは知らないのよ!私たち学校じゃすっごく仲悪いんだから、なんでこんなモヤシと!楓ならまだしも!」
「んだとコラ!そうだぞ親父!俺とこいつが上手くいくわけねぇ!楓ならまだしも!!」
何故か唐突に僕の名前が出てきてるけれど、二人は気付いていないのだろうか。
父さんは二代目と言ってる時点で、僕は二代目じゃないのだから恋人同士の候補にすら上がってない事に気付いていない。
二人が必死に自分たちの親に説得しようと試みてるところ申し訳ないが、そこはハッキリさせておかないと戦争が起こってしまう。
「二人には悪いんだけど、そもそも僕は無理だよ」
「なんで!?」
「楓さん!?」
「だって僕、二代目じゃないし」
「……え?」
「……は?」
「僕も一条だけど二代目じゃなくて、ただの一員。そんな僕と千棘さんがお付き合いしても納得どころか戦争の引き金じゃない?」
「嘘でしょ!?楓、アンタ今すぐにでも候補になりなさいよ!」
「そうだ!楓は俺より強くて向いてんじゃねーか!」
「…本当は仲良いでしょ、2人」
良くない!と同時に怒鳴られても、息がピッタリなんだよなぁと僕は流石に口にはしないけれど心の中で思う。
まあ、父さんと千棘さんのお父さんがどうにかするだろうと他人事に思っていれば、外から嫌な殺気を感じて僕は咄嗟に楽の前に出て、置物として置かれていた刀に触れて構える。
「楓?」
「…僕の後ろから離れないで」
「お、おう……っ!?」
「…ほぉ。私の殺気にいち早く気付き、刀を向けるとは」
「…人の家を壊すって、いったいどういう教育を受けてるんですか」
「く、クロード!」
「お嬢を守るのがビーハイブ幹部としての私の役目。不肖、このクロードめがお迎えに上がりました」
「いや攫われてないから私!」
「大丈夫ですか組長!楓坊ちゃんも!」
「おぅおぅ、ビーハイブの幹部さんよぉ。こいつぁ、ちょいとお痛が過ぎやしませんか?」
「か、楓!どうにか抑えられないのか!?」
「あんたならどうにか出来るんじゃないの!?」
「…だから、僕ただの一員だってば」
さっきまでは相手が分からなかったから刀なんてものを構えてしまったけれど、相手の顔が分かれば僕も対応を変え、既に抜いていた刀を鞘に戻している。
さっきまでの僕には唖然としていた楽と千棘さんだけど、このままじゃ戦争になると分かったのか肩を捕まれ、どうにかしてくれと頼まれるけれど、僕なんかよりもこの状況を変えられる人が二人の後ろにいる。
「……父さん、どうするの?」
「んなこたぁ、決まってる」
「…俺にはわかるぞ、嫌な予感がする」
「楽、男なら決めるべきだね」
「他人事だな…!」
「頑張って、命は守るよ。ボディーガードだし」
「命!?お前、サラッと怖いこと言うなよ!!」
父さんと千棘さんのお父さんが二人の肩を掴んだ時点で、僕はお察しである。
何も無いとは思うけれど、楽と千棘さんがすんなり恋人のフリをしてくれるのだろうかと思っていれば、僕の心配など知らんと言わんばかりに父さんがハッキリと告げた。
「嬢ちゃんを攫ったなんざ、とんでもねぇ誤解だぜ?なんせ、コイツらぁラブラブの恋人同士だからね」
「…なっ」
「なぁにぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「ぼ、ボス、本当ですか…?」
「あぁ、僕らが認めた仲だ」
「そ、そりゃスゲェー!坊ちゃんついに彼女出来たんすね!」
「か、楓坊ちゃん!本当ですかい!?」
「うん、とっても仲良いんだよ」
強面野郎が一気に楽に押し寄せる中、僕にももちろん来るから満面の笑みで答えれば楽から物凄い視線を向けられるが頑張っていただこう。
戦争になんてなってしまったら、小咲さんにまで被害が飛んでしまうかもしれないのだから。
念の為、僕は刀から手を離さないでいれば、やはり千棘さんと楽が納得できてるはずもなく、お互いにお互いの悪口ゴリラ女とモヤシ男と言ってしまって殺伐とした雰囲気に変わる。
僕はすぐに刀を鞘から抜いて、楽に向けられた銃口から飛び出された弾丸を僕は刀で弾き、楽の前に立つ。
「……弾丸を弾いただと?」
「そちらこそ、誰に向かって銃口向けてるんでしょうか」
「…貴様」
「これでも、集英組二代目のボディーガードやらせてもらってますからね。これくらいは出来ますよ」
「……集英組の紅葉か」
「それにちょっと強い言葉を言えるぐらい気を遣わずに済む、こんなにもラブラブなカップルを僕たちの憶測だけで壊すなんて出来るわけないじゃないですか!ねぇ、千棘さん、楽!」
その紅葉って渾名、呼ばれ始めた理由が不名誉すぎるから嫌いだし、冗談抜きでダサいからやめて欲しい。
こんな場面でそんな文句を口に出せるわけも無いから心の中で零しながら、今にも燃え上がって戦争起こしそうな大人たちを鎮めるために後ろにいる二人に笑顔を向ける。
僕が必死に笑みを作って、何とか怪しまれないように一芝居売ったことを二人は感じ取ってくれたのか、二人は僕の目を見てから何かを話し、そして笑顔を作った。
「ラブラブに決まってんじゃねぇか〜!さっきはゴリラみたいに力強くて優しいって言いたかったんだよなぁ〜!オレたちが並のラブラブ具合じゃないって分かって欲しくて〜。な、ハニー!」
「もー、ダーリンったら!楓は私たちのこと知ってくれてるからいいけれど、紛らわしい言い方しちゃダメじゃない!そんなところも大好きだけど、もやしみたいに真っ白な肌のダーリン!」
僕の口角、引き攣ってませんように。
二人の方が間違いなく疲労感やストレスが凄いのは分かっているけれど、僕はもう巻き込まれるのは勘弁して欲しくなったので、父さんに預けていた茶菓子だけ受け取ってバレないように部屋を後にしてキッチンに向かう。
部屋を出る瞬間、クロードと呼ばれていた人物の目付きや雰囲気が怪しく感じたけれど、今この瞬間で何か行動に起こすことはボスがいる前でないだろう。
きっと今頃、質問という質問が飛び交って瀬戸際に立たされてるだろう二人が一息つけるようにお茶と、さっき買ってきたお茶菓子ぐらいは準備しておくかとお湯を沸かす。
暫くして人の気配を感じ、振り返れば千棘さんのお父さんであるアーデルトさんの姿。
「やあ、楓くん」
「えっと、楽達はここにはいませんが」
「あぁ、君に用があってね。さっきはすまなかったね、クロードは少し千棘を大切にしてしまうところがあるから」
「…いえ、僕も刀を構えてしまったので」
「あの身のこなし、流石だった。僕も驚かされてしまったよ」
「ありがとうございます」
「…君は若い頃の惣一によく似てるね」
「え、父を知ってるんですか」
惣一とは、僕の実の父親の名前だ。
まさか父の名前が出てくるとは思わず、僕は目を見開きながら千棘さんのお父さんであるアーデルトさんを見つめれば、優しげな顔をされて頷かれる。
そういえば、さっき父さんが古い仲だと言っていたから僕の父とアーデルトさんが知り合いだったとしてもおかしくないのかもしれない。
「あぁ、惣一も良く巻き込まれて苦労していたよ。でも、容姿は桜子さんに似ているね」
「…あはは、ありがとうございます」
「娘をよろしく頼むよ、君には迷惑をかけるかもしれないけれどね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
千棘さんのハーフ要素はアーデルトさんから遺伝されてるんだなと思いながら、僕は立ち去っていくアーデルトさんを見送って、疲れ果ててるであろう二人にお茶を用意してキッチンから離れた。
あの後、二人にお茶とお菓子だけ届けて僕は離れたけれど二人の中で何か変わったのか帰る頃には落ち着いた雰囲気で僕はホッとしたのは内緒だ。
次の日、学校が休みということもあって最近は朝早く起きたりしていたこともあり、ゆっくりめに起きたのだが家の中が騒がしい。
今日の朝食担当は僕ではなく、今日は楽だったから騒がしい朝のはずなのに誰もいない。
「父さん」
「楓、起きたか」
「どうかしたの?何か誰もいない気がするけど」
「あぁ、楽のやつが嬢ちゃんとデートに行ったぞ」
「そうなんだ……え、デート?誰が?」
「楽と千棘お嬢ちゃんだな」
ニヤッと笑っている父を見て、昨日の今日で何が起きたんだと困惑しながら脳裏に浮かんだのは、昨日僕が部屋から抜け出す前に一人だけ異様な空気を出していたクロードの存在。
もし、クロードがボスの言うことであっても二人の雰囲気を怪しんで、嘘だと思って疑っていたら、今日のデートの異様さも納得してしまう。
僕は父さんに少し外に行ってくると伝え、かき込むように用意されていた遅めの朝食を胃の中に突っ込んで、自室に戻ってクローゼットを開いて服装を考える。
もし、クロードが何かやらかした時に対応出来るように、動きやすさ重視の服装が一番だ。
テキトーにカラーシャツとパンツ、それから羽織れる上着を引っつかみ着替え、真剣はバレたら面倒になるから代わりに木刀を掴んで剣道の竹刀を運ぶ時に使う布袋で隠し、スニーカーを履いて外に出る。
「…何もされてないといいけど。二人の関係性を炙るためなら何でもやりそうなんだよな、あの人」
楽は僕と違って、そういうことに遭遇した時の対処法や鍛え方なんてしていないただの男子高校生だ。
ヤクザの息子である以上、そこら辺のチンピラ程度なら睨めば何とかなるけれどビーハイブの幹部となると話は変わってくる。
どこに出かけるのかぐらい聞いてくればよかったと自分に舌打ちしながら、僕は走りながら楽が行きそうな場所を考える。
確か、昔、集と楽が好きな人が出来た時にどんなデートコースを考えるかと彼女なんて居ないくせに考えて話していた時があった。
── なぁ、楽と楓はデートするとしたらどこ行くよ?
── はぁ!?
── 相手いないのに?楽なんてデート以前に告白すら怪しいのに。
── 楓さん!?俺になにか恨みでもあんの!?
── まあまあ、とりあえず考えてみろって。
── じゃあ楽は?
── しかも俺!?
── 小野寺さんと行くならどうすんだよ〜、らくぅー?
── と、とりあえずオシャレなカフェ行って、昼はレストラン、その後一緒に映画。んで最後は公園行くとかじゃねーの…?
「…この時間なら公園か」
カフェやレストラン、映画館といった場所から行きやすい公園は、奇遇にも僕が今いる場所からそう遠くはなく、さらに走る速度を上げて向かえば、楽らしき人影がベンチに座ってるのが見える。
近くに千棘さんの姿は見当たらないから、もしかしたら御手洗にでも行ってて離れてるのかもしれないが、クロードより先に僕が着けば何でもいい。
「楽!やっと見つけ……えっ」
「あれ、楓くん?」
「……。」
そこに、彼女がいなければ全てが上手く回る予定だった。
ベンチに座って王手まで追い込まれましたという顔をする楽と何やら戸惑ってる小咲さん、そして全てを何となく理解してしまった僕。
どうしよう、ここで小咲さんに会うなんてタイミングが悪すぎる。
まだ千棘さんと楽だけであれば、それとなくコソコソ隠れてるクロードやうちの組の人達に怪しまれない程度に僕が介入することは出来た。
だけど二人の特殊な関係性について何も知らない、それも楽に恋する小咲さんがいるとなるとどう足掻いても無理ゲーである。
そして、負の連鎖というのは続くもので僕は視界の端からやってくる人物を見て終わったと思った。
「ダーリンお待たせ〜!ゴメンね〜!思ったよりも時間がかかっちゃって〜!」
「き、桐崎さん…?今、一条くんのことダーリンって……」
「……。」
「え、えーっとダーリンってことは、つまり、二人はその付き合ってる…?」
僕はこのとき、小咲さんの顔を見て動けなくなってしまった。
だって、その表情は毎日鏡で見るどっかの誰かさんと似たような表情で、僕はそんな顔だけはして欲しくなかった。
だから僕はずっと彼女にとって頼れる友達でいようと過ごしていたのに、どうしてこんなにも上手くいかなくなってしまうんだろう。
必死に言い訳をしようとするもクロードたちの姿を見つけたのか、恋人のフリを続行する楽と千棘さんのフォローに僕は回らなきゃいけない。
それなのに、僕の頭は上手く動いてくれなくて、空回りしてる2人を呆然と立って見てることしかできない。
結局、僕が動けるようになったのは二人が空回りした結果喧嘩して何処かに向かう千棘さんの姿を見送った後で、楽が小咲さんに何かを話そうとした瞬間に僕は咄嗟に小咲さんの手を掴んだ。
「へ!?か、楓くん!?」
「……楽は、千棘さんを追いかけなよ。彼女を放ったらかしにするのは良くないから」
「あ、あぁ、頼んだぞ楓!」
自分でも無意識にやって焦ってるのに、変に冷静な自分がいて僕はとにかく楽をこの場から遠ざけることを選んだ。
楽の事だから僕が上手く小咲さんに説明してくれると思い、頼んでくれたんだろうけど、僕が一番自分の行動に理解出来てないのに頼まれても困ってしまう。
今ここで二人が恋人ではないのだと、本当の事を言わずにいたら……なんて、馬鹿な考えが浮かんでしまって僕は自分の醜さに笑ってしまう。
そんなことしても、小咲さんが幸せになるわけじゃないのに。
「…楓くん?」
「ごめん、腕掴んじゃって。痛くない?」
「ううん、腕は全然大丈夫だよ」
「…これから予定とかある?」
「…ううん。帰るだけ、かな」
「そっか、途中まで送るよ」
咄嗟に掴んでしまった腕を離し、赤くなっていないかだけ確認した後、僕は笑って公園を出ようとした瞬間、僕の名前を呼ぶ声がして歩を進めていた足を止めて振り返る。
そこには、苦しそうな顔をした小咲さんがいて僕は目を見開く。
「…ねぇ、楓くん。二人は、いつから付き合ってたのかなぁ」
「……小咲さん」
「…るりちゃんの言う通りだね。ごめんね、楓くんにも沢山相談に乗って貰ったのに。私にもっと勇気があれば……」
「それは違う!」
普段、大きな声なんて滅多に出さない僕が出したもんだから小咲さんは驚いた顔をして僕を見つめてくる。
一歩、彼女の方に進んで離れていた距離を詰め、ギュッと強く握りしめてる手を僕は掴む。
そんな悲しい事を言わないで欲しい。
だって僕は知ってるんだ、小咲さんがずっと勇気を出して楽に話しかけていたこと。
楽と同じ高校に行くために、僕とるりさんの3人で沢山勉強して受験を受けたことも、バレンタインだって料理が苦手なのにギリギリまで頑張ってたことを知ってる。
小咲さんよりも勇気がなくて動けてない楽の方が僕からしたら早く動け、男だろって思ってしまうぐらい、小咲さんがずっと頑張ってるのを僕は知ってる。
沢山頑張ってるのに、それを自分で否定してしまうことだけはして欲しくなかった。
「僕は知ってる、小咲さんは自分なりに勇気を出して頑張ってること。だから、そんなに自分を責めないで」
「っ、どうして楓くんはずっと私に優しいの…?」
「僕は優しくないよ。そうだなぁ、でも……」
「……?」
「── 僕たちは友達でしょ。友達には幸せになって欲しいから、それじゃ理由にならないかな」
「っ、ううん、嬉しい」
「それにこれからだよ、小咲さん」
「え…?」
「とにかく、まだ諦めるのは早いってことさ!」
「楓くん!?」
君が好きな人だから、なんて言えない。
それに彼女の言うように、僕が本当に優しいのなら一瞬でも楽と千棘さんの秘密を小咲さんに言うべきか悩むことなんてなかった。
暗い顔の彼女に向かって僕は笑い、今も僕の言葉に困惑し立ち止まってる彼女の背中を軽く押す。それから一歩踏み出させて彼女の手首を掴み、気分を軽くするために走る。
いつか、君を友達だと言えるその日まで僕は嘘をつき続ける。
誤字報告ありがとうございました。
赤バー早すぎてびっくりしてます、さらに日間ランクインまで。
そしてこのタイミングでニセコイのMVだと…?