ボクは脇役A   作:アップルパイ

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その笑顔は僕に向くことは無い。






第八話:オシエル

 

 

 あの黒ケーキ以降、千棘さんはクラスに完全に溶け込み、楽と僕の三人で登校するも教室に入ればすぐに男女問わずに人気者になった。

 そんな彼女を見て、楽も口にはしないものの心配していたのか安心した顔をしていて、僕はやっぱり仲良いじゃないかと思ったが口にした瞬間が恐ろしいので黙っている。

 

 それから小咲さんは帰宅後、お母さんに授業のことを話したらしく、外で料理をするなと怒られたようで何度も謝罪された。

 僕にも不得意なことはあるし、デコレーションに関しては完全に苦手分野のため、今度また皆で再挑戦してみようと伝えて乗り切った。

 

 

「一条弟くん、貴方本気?」

 

「…ま、まあ僕一人は自信ないけどさ。るりさん達も手伝ってくれれば何とかなるかなって」

 

「ねぇ、忘れてるようだけど桐崎さんはどうするのよ」

 

「……あ」

 

 

 謝ってばかりだった小咲さんだったけど、何とか謝るのを辞めてくれて少しだけ元気になって立ち去ったが、るりさんは僕をジーッと見つめるから何かと思えば厳しい現実。

 料理に関しては小咲さん一人では無かったことを思い出した僕に、るりさんはこいつまじかって顔をさせる。

 

 

「私は食べないから、安全が保証されるまで」

 

「…ハイ」

 

「それにしても、どうやったらあんなケーキが……。途中まで見てたけど変なものなんて入れてなかったのに」

 

「…僕も分からないな。確かなのは見た目はショートケーキ、味は僕が今まで食べたことない味だった事はよく覚えてる」

 

「……よく生きてたわね」

 

「途中から記憶ないけどね」

 

 

 るりさんが溜息を吐きながら睨まれ、僕は苦笑して誤魔化すしかない。

 遠くからクラスの賑やかな声が聞こえる中、僕はフェンスに寄りかかり、るりさんは少し強く吹く風で靡く髪を軽く抑えているだけで僕たちの間に会話はない。

 

 それにしても少し珍しい。

 普段彼女は僕だけに用事があるとしても一言二言だけ話したら、その後は小咲さんのもとに行くのに今日は小咲さんが立ち去っても僕の前にいる。

 何か用事でもあるのだろうかと、空を眺めながら考えていれば名前を呼ばれて顔を向ける。

 

 

「一条弟くん」

 

「ん?」

 

「今日の放課後、貴方と一条兄くんって何か用事は?」

 

「特に無いけど」

 

「そう、じゃあお願いしたいことがあるんだけど」

 

「お願い?」

 

「勉強会を開いて欲しいの、貴方たちどちらかの部屋で。構わないかしら?」

 

「……へ?」

 

 

 唐突の勉強会の話に僕は首を傾げると、るりさんはどこか言いづらそうにしていて何となくその企画の趣旨を察する。

 気にしなくていいと伝えているのに、彼女は僕の立場を理解してるから言葉にしないでいてくれるのだろう。

 その優しさに心の中で感謝しながら、その企画の趣旨には気付かないフリをして構わないと伝えると彼女は申し訳なさそうな表情に変わる。

 

 

「…ごめんなさいね」

 

「僕は今日の予定がないことと、家に来ることをいいと言っただけだよ。部屋は多分、楽の方になると思うけど」

 

「そういうことにしてくれるのね」

 

「言葉にしなければ言ってないのと一緒だからね」

 

「…えぇ、本当に」

 

 

 また僕たちの間に沈黙が流れるも、彼女は屋上から姿を消して僕は黙って空を眺める。

 今日も静かに過ごすのは無理そうだなと、これから訪れるだろう賑やかな時間を想像してチャイムが鳴る前に僕も屋上を後にした。

 

 その日の最後の授業を終え、鞄に教科書とノートを詰め込んでいれば突然肩を掴まれて、何かと思えば焦った顔をしてる楽と楽しげな表情を浮かべてる集。

 何?と聞く前に僕は連行されてしまい廊下に出される。

 

 

「楓!今日、小野寺と宮本が家に来るって本当か!?」

 

「るりさんから聞いてないの?」

 

「聞いた!聞いたけどよ、何がどうしてそうなったんだ!?」

 

「勉強会って言ってたでしょ」

 

「い、言ってたけどよ!?」

 

「…それとも何、楽は女子の部屋に入りたいわけ?」

 

「滅相もございません!!!」

 

「ダーリン、何してるの〜?」

 

 

 楽の半狂乱っぷりに僕は呆れ、集はケラケラ笑ってる中で口角を引き攣らせながらも頑張って笑顔で話しかけてくる千棘さん。

 僕はせっかくなら千棘さんも誘えばいいのではと思い、楽を見れば同じことを思ったのか楽は千棘さんに勉強会の話をする。

 

 友達を欲しがってた千棘さんがそんな機会を逃すはずもなく、行くと即答して教室で待っていてくれたるりさんと小咲さんとも合流し、我が家に行くことになった。

 

 その間、るりさんは集がいることに疑問を持っていたようで、僕に何回か目で訴えていたけれど、僕はその目が恐ろしくて気付かないフリをすることで精一杯。

 我が家についたら楽が既に連絡していたのか、強面の大人たちが爽やかな笑顔で"おいでませ"なんてカードを持って出迎える異空間。

 

 

「お待ちしてやしたぜ、楽坊ちゃん!楓坊ちゃん!今日は勉強会ですってねー!」

 

「……あぁ、茶ァ頼む」

 

「了解しやしたー!」

 

「…わぁ、広い玄関だね」

 

「…えぇ、そうね。それで、何で貴方まで付いてくるの舞子くん」

 

「えー?まーまー、いいじゃないの。同じメガネのよしみでさぁ!それに楓くんがどうしても俺にいて欲しいって〜」

 

「…僕を巻き込まないでよ、集。」

 

 

 僕の肩に腕を回し、見当違いなことを言い出す集の手を叩き落とし、僕は小咲さんと楽が目を合わせて、小咲さんが目をそらす。そして、楽がダメージを受けるなんて場面を目の前で見ながら小さく溜息を吐き出す。

 

 ガチガチに固まってる人もいる中で、僕はこのまま玄関にいてもらうのも申し訳なく、一先ず僕は楽の肩を叩く。

 

 

「うおっ!?」

 

「僕相手になんで驚くのさ、とりあえず皆を楽の部屋に案内してきたら?僕は自分の部屋から教科書とか取ってくるから」

 

「お、おう。そうだな」

 

「そういや、俺も楓の部屋って行ったことねーな」

 

「おー、集やめとけ。前に俺が勝手に入って、めちゃくちゃ怒られたからな」

 

「…何かいやらしいものでも置いてたりして」

 

「置いてないよ!!」

 

 

 るりさんの言葉に小咲さんは顔を赤くし、千棘さんは軽蔑の眼差しを向けてきて、僕はあらぬ疑いをかけられそうになり、つい大きな声で反論する。

 楽の部屋まで一緒に動き、僕だけ別行動してもう少し奥にある自分の部屋に行く。必要なものだけ手に取り、楽の部屋の前まで戻れば入ったばかりだったのか皆は立ったままで、不思議に思いながら中に入る。

 

 

「楽坊ちゃん!楓坊ちゃん!お茶が入りましたぁ!」

 

「お、おお……。サンキュー、竜」

 

「竜さん、ありがとう」

 

「あ…!私も手伝うよ……!」

 

 

 竜さんがお茶を持ってきてくれて、楽が受け取り、僕もすぐ傍にいたから近寄ったものの、僕より先に手伝いに行った小咲さんと楽の手が触れ合った瞬間に飛ぶお茶たち。

 僕はすぐに動いて左手でお盆を持ち、右手で空中に浮かぶ湯呑みを掴んでお茶を受け止め、何とか全てをお盆に乗せて回収する。

 

 そんな僕に千棘さんと集、るりさんは、おーっと言って拍手してくれる中、僕はすぐにテーブルにお盆とお茶を置いて後ろにいた小咲さんに振り返る。

 お茶を投げてしまったことにも驚いていたんだろうけど、僕の顔を見てさらに驚いていて僕は彼女の肩を掴む。

 

 

「小咲さん、かかってない!?」

 

「う、うん!大丈夫だよ!」

 

「…良かった」

 

「大丈夫っすか、坊ちゃん!」

 

「お、おう…!小野寺大丈夫だったか!?」

 

「私は全然、それよりごめんなさい…!楓くんと一条くんは大丈夫…?」

 

「僕たちの事はいいんだよ、小咲さんに火傷跡が残る方が不味いんだから。楽にはかかっててもテキトーに水かけとけば済むから」

 

「あぁ、そうだぜ……って、楓さん!?」

 

 

 男である僕たちが火傷して跡が残る分には構わないけど、女の子の顔に火傷の跡なんて残っていいわけが無い。

 楽も僕の言葉に頷いていたけど、自分の扱いの雑さには気付いたらしく抗議してくるが僕はスルー。

 

 その後ソワソワしっぱなしの楽を座らせ、僕達は各自に勉強を始めて僕もノートと教科書を取り出して課題を取り組む。

 僕の傍には小咲さんとるりさんがいて、小咲さんは何か問題に躓いているのか手が止まっており、数分唸ってからるりさんの名前を呼んだ。

 

 

「…ねぇ、るりちゃんここ解ける?」

 

「んー?ねぇ、一条兄くん。ここ、小咲に教えてあげて欲しいんだけど」

 

「る、るりちゃん!?」

 

「あーゴメン、私これ全然わかんないから」

 

「この前もっと難しそうなの解いてたじゃ」

 

「いいから行け、そして二度と戻ってくるな」

 

「か、楓くん…!」

 

 

 ここで僕に助けを求めてくるのか、小咲さん。

 必死に僕に助けてと訴えてくるのだけど、僕も斜め前から来る無言の圧力が怖くて下手に頷けない。

 

 一応、僕もその問題を見てみると、課題の1つだった数学で先程解いたばかりの問題だったけど僕も時間がかかった問題だった。

 楽から数学得意って言う話は聞いたことないけど、多分このくらいなら楽も解けると思う。

 

 

「…あー、小咲さんごめん。上手く説明できる自信がないから楽に教わった方がいいと思う」

 

「楓くん…!?」

 

「…行ってらっしゃい」

 

 

 僕は困り顔の小咲さんに笑って言えば、るりさんに背中も押されたようで渋々小咲さんは立ち上がって楽の方に移動した。

 よそよそしい二人を遠目から覗き、楽の手が動き出したのを見て解けそうなら問題ないかと思っていれば、予期せぬ人から声がして僕とるりさんは目を見開く。

 

 

「あー、それ?先にaに代入しないと解けないわよ?」

 

「…なんだよお前は、自分のやれよ」

 

「もう終わった」

 

「は!?バカ言え、今日の宿題ってプリント三枚も……」

 

「ほら。それにプリントだけなら楓も終わってるじゃない」

 

「楓くん!?」

 

 

 千棘さんの暴露によって、小咲さんと目が合うものの僕は視線を逸らすものの内心焦る。

 完全に盲点だった。千棘さんって確かに日本語は慣れてないからか国語は苦手そうな感じしていたけど、他の教科で何か躓いたとかは聞いたことがなかった。

 勉強では勝てると思っていたのだろう、楽が尋常じゃないほど落ち込んでるけど僕もフォローに回れないほど驚いてる。

 

 

「桐崎さんて、向こうで成績どうだったの?」

 

「だいたいAかな」

 

「すげー、楓といい勝負なんじゃないか?」

 

「さ、さぁ、どうだろ。僕も苦手教科はとことんダメだから」

 

「ねぇ、小野寺さん!勉強だったら私が教えようか?」

 

「え?」

 

「ここをこうして、それでここ!」

 

「わー!凄い、解けた!すごく分かりやすいよー!」

 

 

 これはもう諦めた方が良さそうだと僕は苦笑しながら、集に答えていれば僕の斜め前にいるるりさんも頭を抱えている。

 今も、教えられずに悲しむ楽とそんな楽を鼻で笑ってドヤ顔をしていて、僕もるりさんと同様に頭を抱えてしまう。

 こうも色々と上手くいかないものかと思っていれば、千棘さんが満面の笑みを小咲さんに向ける。

 

 

「ねーねー、ところで小野寺さん!小野寺さんは好きな人とかいないの?」

 

「っ!?」

 

「…なっ、お前いきなり何聞いてんだよ」

 

「何って、ただのガールズトークじゃない。え?何か変だった?」

 

「わ、私は今はそういう人は……」

 

「そっかー、じゃあ楓は?」

 

「僕!?」

 

 

 天然って怖いなーと他人事のように思ってたら突然名前を出され、しかも聞いてきた本人は満面の笑みである。話題が話題なのもあり、僕は驚いて思わず身構える。

 

 そんな僕に千棘さんはキョトンっとした顔で首を傾げ、集はここぞとばかりに嫌な笑みを浮かべ、楽は目を見開かせ、小咲さんも心做しかワクワクしてる。

 るりさんはただ一人、ジーッと無表情で僕を見るのみ。

 

 

「…僕も別にいないかな」

 

「ふーん、私もまだそういう人いなくてさー。早く素敵な恋とかしてみたいんだけどねー」

 

 

 場が凍りついたって言うのは今を言うのだろう。

 唖然とする皆の中で楽は焦りだし、僕は終わったと机に寄りかかる。小咲さんもある程度は説明してるけど、ポカンっと固まって微動だにしない。

 こんなのどうやっても防ぎようがないし、どう足掻いても僕には誤魔化せない。

 

 さすがの僕もめちゃくちゃ焦って、声にならない声を上げてる楽をフォローする気にもなれない。

 そして、そんな僕と楽の様子を見てた千棘さんは、自分がやらかした事を気付いたのか千棘さんも焦りだす。

 

 

「じょ、ジョーク!ジョークです、今の!」

 

「こ、こら!酷いぞハニー、僕という人がありながら…!」

 

「…僕の兄がいるのに、千棘さんはイタズラっ子だなー」

 

「ご、ごめんねダーリン!楓の言う通り、ちょっとイタズラがしてみたくなったの〜!」

 

「ま、まったくこいつ〜!」

 

「なんだなんだ、お前ら仲良しだな〜」

 

 

 完全に僕に関しては棒読みで小咲さんは僕の様子を見つつ、知らないフリでいてくれてるし、集は普通にしてるからとりあえず何とかなったと千棘さんと楽が安心してるところを僕は見ながら溜息を吐く。

 これ以上やらかしてもフォローしないという意味を込めて、千棘さんと楽を見れば二人の顔色が悪くなっていく。

 

 

「なぁなぁ、桐崎さん。オレもちょっち聞いていい?」

 

「へ?」

 

「お前らってぶっちゃけどこまで行ってんの?」

 

「ど、どこまでとおっしゃると…?」

 

「そりゃあもちろん、キ……っ」

 

「お前ちょっと来い…!あと楓も!」

 

「はいはい」

 

 

 集の口を抑えて廊下に引きずり出そうとする楽に呼ばれ、きっと全部話すんだろうなと思い立ち上がれば小咲さんと目が合う。

 僕は大丈夫という意味を込めて微笑み、前を歩く二人を追いかけて外に出れば楽の部屋のちょうど裏側に位置する縁側。

 

 楽がメインで話すだろうし僕はいるだけでいいだろうと思って、二人が話してるのを壁に寄りかかりながらるりさんにはどうしようかなと考える。

 小咲さんには僕が話したとはいえ、千棘さんももう一人ぐらい女の子で知ってる人はいた方がいいんじゃないだろうか。

 僕が小咲さんを信用して言ったように、楽だって信用して集に言うんだし、彼女に信用出来る友達には話していいという事ぐらい伝えておいた方がいい気がする。

 

 

「だよなー、楓」

 

「え?ごめん、聞いてなかった」

 

「小野寺が楽のこと好きって話だよ」

 

「…さぁ、僕はそういうの疎いから」

 

「まじ?楓ならとっくに気付いてると思ってたわ〜」

 

「なっ、なっ!?ば、バカヤロウ!そんなことあるわけねぇだろ!?」

 

「いやいや、んな事あるって。だってお前、小野寺がお前以外に優しく絆創膏あげたりするとこなんて見た事あるか?」

 

 

 下手に嘘をつけば間違いなく集に問い詰められることが分かってるから、曖昧に返事を返しておく。

 狼狽えていた楽は集の言葉にピタッと動きを止めるものの、すぐに僕の顔をじーっと見つめて来るもんだから僕は嫌な予感がして一歩後ろに下がる。

 

 

「……え、何?」

 

「……ある、けっこーある。何なら俺より楓の方が」

 

「……すまん、よく考えたら俺も貰ったことあるし、楓の方が距離感近かったわ」

 

「そ、それにだいたい小野寺も好きな奴いないって言ってたし……」

 

「バカだなぁ、楽。その好きな奴が目の前にいるのに言えるわけねぇだろ?」

 

「お、俺よりも楓の方が可能性あるだろ…!」

 

「……僕らはただの友達だし」

 

「だってよ?」

 

「うっ……」

 

「…とりあえず一旦戻らない?残してきた千棘さん達が遅いって思ってるかもしれないし」

 

「だな〜」

 

 

 ブツブツ言ってる楽を引っ張るようにして歩き、僕達は楽の部屋に戻ってくれば三人は僕たちがいない間に仲良くなったのか会話が広がっていた。

 未だに一人でブツブツ言ってる楽を座らせ、集の言葉でおかしくなってるのを僕は横っ腹を軽く殴って正気に戻させようとするものの、今度はテーブルに額をぶつけ始める。

 

 どうにかして小咲さんの前から楽を離れさせないと、いつまでもこんな半狂乱になりかけてる義兄なんて見たくないと思っていれば、竜さん達が千棘さんと楽に頼み事をしていて二人は部屋を出ていく。

 

 

「集、二人は?」

 

「んー?何でも取りに来て欲しいものがあるって呼ばれてったぜ〜」

 

「ふーん」

 

「…楓くん、ちょっといい?」

 

「ん?」

 

「あのね、ここの問題なんだけど……」

 

「あぁ、うん、いいよ」

 

 

 遠慮がちに僕に聞いてきた小咲さんが持つノートを見れば、どうやら今日の古典の授業の場所で解説を聞いてもイマイチ分からなかったらしい。

 僕は自分のノートを探すものの、なかなか見つからなくて自室に置いてきてしまったと気付く。

 

 

「ごめん、小咲さん。僕、ノートを部屋に置いてきたみたいで取りに行ってもいいかな?」

 

「う、うん!あ、私も行っていいかな…?」

 

「…え?」

 

「その、正座ずっとしてたから足が痺れちゃいそうで少し歩きたくて」

 

「ははっ、うん、いいよ」

 

 

 確かに長時間正座をしていれば足が痺れてくるし、ここは僕たちの家だから勝手に出歩くのも気が引けてしまうのも分かる。

 僕は集とるりさんに少し部屋に行ってくることを伝え、小咲さんと一緒に楽の部屋を出てから僕の部屋へと向かう。

 そこまで離れてるわけじゃないから迷うことはないけれど、僕がここに来た時は広すぎてしょっちゅう迷っていたのは今ではいい思い出である。

 

 

 

「ここが僕の部屋、ちょっと待ってて」

 

「うん、わかった」

 

「古典のノートどこやったっけな……」

 

 

 小咲さんに一声かけてから部屋に入り、僕は自分の鞄からノートを探す。

 その間、僕たちの中で会話はなく沈黙の時間が流れているけど、特に気まずいわけでもなく、僕は黙々とノートを探し続ける。

 

 目当てのノートを見つけて手に取り、小咲さんに見つけたことを伝えようと振り返ると小咲さんは部屋の前ではなく、僕の部屋の中に入っていたようで何かを手に持って固まってる。

 

 

「小咲さん?……あっ」

 

「ぁ、ごめんね…!外で待ってようと思ってたんだけど……」

 

「い、いや……」

 

「…これ、飾ってくれてたんだ」

 

「っ!」

 

 

 何を持ってるかまでは見えなかったから、てっきり小説か何かを見てるもんだと思ったら彼女の手にあるのは僕の机に置いていた黒色の写真立てで僕は目を見開く。

 すぐに取ろうとしたけれど、彼女が両手で持ってみてるものだから取る事が出来ず空中に手がさ迷うだけ。

 

 

「……ごめん、気分悪いでしょ」

 

「え…?」

 

「…いや、その、ただの男友達の部屋に自分が写った写真を飾られてるの嫌だよなって思って」

 

「嫌じゃないよ!」

 

「…え、嫌じゃないの?」

 

「うん、嬉しい。私もこの写真、凄くお気に入りだったから」

 

 

 その写真は中学三年生の時に行った修学旅行で撮ったもの。

 僕と小咲さんは同じ班で、自由時間の回る場所は女の子達が食べ歩きで行きたい場所を中心に回ったその時の写真。

 

 有名な抹茶シュークリームを食べながら目線だけカメラに向けてる僕と、そんな僕の隣で片手に同じようにシュークリームを持ち、空いた手でピースして笑う小咲さんとのツーショット。

 

 同行していたカメラマンさんに声をかけられ撮ってもらったもので、学校で写真を購入できるとなった時にこの写真を見つけ、僕は凄く嬉しくて真っ先に番号を書いたのだ。

 当時写真を見つけた時、小咲さんともいい写真だって笑って購入し、手元に届いてから写真立てに入れて飾っている僕の宝物だった。

 

 実は、楽が勝手に部屋に入って欲しくない理由がこの写真だったりするのだが、楽は僕の部屋に壊してはいけない何かがあると勝手に勘違いしてくれてる。

 

 

「わぁ、懐かしいなぁ」

 

「…そうだね」

 

「ねぇ、楓くん。どうして、この一枚だけ飾っててくれたの?」

 

「……え?」

 

「あのとき、班のメンバーと撮ったものもあったから」

 

「…僕もその写真、気に入ってたから」

 

「ふふ、そっか」

 

 

 ことっと静かに元あった場所に小咲さんは写真立てを戻し、さっきまで写真を見ていた優しい眼差しが僕に向いてくるも、僕は何だか恥ずかしくなってきて咄嗟に視線を逸らす。

 

 さっきまで気まずいと思わなかった沈黙に違和感を感じ、顔を伏せれば手に持っていたノートを見てここに来た目的を思い出す。

 そろそろ戻らないと、楽たちも戻ってきて心配させるかもしれない。

 

 

「こ、小咲さん、そろそろ戻……」

 

「待って、楓くん」

 

「え……っ!?」

 

「動かないで」

 

 

 いつもと同じように声をかけたはずなのに、小咲さんは真剣そうな顔で僕を見つめていて何故か頬を触れられている。

 待って欲しい、いったい何が起きてるんだ。さっきまで僕達はいつもと同じようなやり取りをしていたのに。

 髪に触れられた時と同じように、僕は目を合わせられなくなって目を逸らしていればクスッと微笑んでる小咲さんが視界に映る。

 

 

「ふふ、はいっ、取れたよ」

 

「……え?」

 

「睫毛がついてたんだ、ゴミ箱ってこれで合ってる?」

 

「……あ、うん、ありがとう」

 

 

 今の数分か、それとも数秒か分からないけど、今この瞬間でどっと疲れた気がする。胸に手を置かなくても心臓が忙しなく動いてるのが分かるし、頬も熱くなってるから僕は彼女の目が見れない。

 そんな僕が彼女は気になったのか、僕の顔を覗くように見てきて目が合い、先程まで距離が近かったことを彼女も気付いたのか顔を赤く染める。

 

 

「…ご、ごめんね!近かったよね…!?」

 

「い、いや!」

 

「……ご、ごめんなさい」

 

「……僕こそごめん」

 

 

 ずっと互いに謝っていれば、次第に笑えてきて僕達は僕の部屋を後にして楽の部屋に戻るものの、どうやらまだ戻ってきてないようで集たちと探しに行くことになった。

 

 二人は蔵に行ったらしく、僕が案内して向かった場所には何故かクロードが扉を開けた状態で、もしかして閉じ込められた?と僕達も焦って中を覗けば、暗闇の中で押し倒されてる千棘さんとその上に乗る楽。

 

 

「か、楓…!」

 

「……何してんだ愚兄」

 

「ぐっ…!?お、小野寺…!」

 

「…お」

 

「小咲さん、何で僕の腕掴んでっ!?」

 

「お邪魔しましたーーーー!」

 

「えええええ!誤解だー!!」

 

 

 普段の小咲さんからは考えられない力で、僕とるりさんは引っ張られ、僕は何故か自分の家なのに飛び出す形になり、そのまま二人を途中まで送った。

 

 帰宅後、僕が少しばかり愚兄に説教したのは言うまでもない。

 

 

 









一部、書き足りてない部分があり修正しました。
大変失礼しました。

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