ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~   作:プニたけっち

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1.アルスとセシール

ラルフ16世が治めるラダトーム、その城下町には多くの旅人が城に向かってうんざりする程の長い行列を作っていた。ただでさえ賑わっている城下町は連日客が入り宿屋の店主はホクホク顔だろう。ローラ姫が魔物に連れ去られてからまれにみる好景気、宿屋だけでなく武器屋も道具屋の店主を嬉しい悲鳴をあげている事だろう。

 

大賑わいの理由はラルフ16世が出したお触れである。

 

『ローラ姫を救う戦士募集。救出した者にはローラ姫と結婚する権利を与える』

 

ローラ姫と結婚するという事は次期ラダトーム王という事でもあり、何よりローラ姫は絶世の美女。このお触れに飛びついた腕自慢の若者は我こそはと国王に自らをアピールする為にこの募集に乗り出した。これこそがラダトームでもまれにみる好景気の理由であった。

 

そんな長蛇の列を横目に宿屋に入っていく男が一人。

 

「親父さん、こんにちは」

 

「ん ? おおアルスじゃないか。今日も見回りご苦労さん」

 

宿屋の店主に挨拶をしてきた一人の男性、名をアルスという。アルスは手に持つ籠に道具屋から頼まれた配達品を持ちカウンターの上に置き受領書を受け取った。

 

「うむ、確かに。お前も大変だな、今は王様のお触れで若手が不足してるから」

 

「いいよ、道具屋のおじさんも給金弾んでくれるって言ってたから」

 

今回のお触れは確かに良いこともあるのだが腕に自信のある若者、つまり働き手がこぞってローラ姫救出に応募してしまった為にどこの店も人手不足に陥ったのだ。アルスはラダトームの道具屋で働いており、こうして各家や店に品物を届けたり店先で売り子をしているのだ。だがアルスがこの宿屋に来る理由はもう一つ。

 

「そうか…ところでお前、本当はセシールに会いに来たんだろ ? 」

 

「え ! ? ま、まさか~俺は仕事でこの宿屋へ来たのであって決してそんなやましい気持ちは」

 

「ほほぅ、アルスはお前に会いたいわけではないとよセシール」

 

店主がニヤニヤしながら店の奥にいる人物へ声をかけるとそこにいたのは紫髪をした女性であった。そこまで背が高いわけではないが美人でいてどこか可愛らしさも覗かせるアルスと同い年らしき女性、それがセシールであった。そしてアルスが恋心を抱いている女性でもある。

 

「あ、えっとその…こ、こんにちはセシール」

 

「ふふ…ごきげんようアルス」

 

ドギマギしながら挨拶をするアルスに対して上品な言葉遣いで返すセシール。横で見ている店主は笑いを隠すので精一杯らしい、だがついにくくくっと含み笑いを隠せず噴き出してしまった。

 

「がはは ! すまんなアルス。つい意地悪をしちまった ! 」

 

「お、親父さん ! 」

 

顔を真っ赤にして身を小さくするアルス、それを見て思わずセシールもまた意地悪をしてしまう。

 

「アルス…私はあなたにお会いしたかったのに、あなたは会いたくはなかったの ? 」

 

「そ、そんな事は ! あるわけないよ ! 」

 

女の子のようにモジモジするアルスを見てセシール達の笑い声が宿屋のフロアに響く。

 

「ごめんなさいアルス、アルスが見てるのが楽しくて思わずからかっちゃった。一杯おごるから許してちょうだい、お仕事中だからミルクにするわね」

 

この宿屋は酒場も兼ねているので飲み物も豊富だ。セシールがこの宿屋に勤めて長くテキパキと動く。最近では店主よりも動くため巷では店主が変わったと勘違いされることもあるとかないとか…。

 

「はい、お待ちどうさま。セシール特性ミルクセーキですわ」

 

本日は雲一つない太陽が差し込む晴れの日、炎天下で働いていたアルスにとっては我慢ならないもの。チラッと店主の方を見ると『いいぜ』というジェスチャーをもらう。いただきますと言いアルスはミルクセーキを喉に流し込む。冷たく甘くてのど越しの良い"セシールの作ったミルクセーキ"はアルスの疲れをたちどころに癒してくれた。

 

「美味い ! 本当に美味しいよこのミルクセーキ。仕事の疲れなんて吹っ飛んだよ ! 」

 

「大げさねアルス、でもうれしいわ。ありがとう」

 

「おお、おお、お熱いことで ! 」

 

アルスにとってセシールと一緒にいられるこの時間は何物にも代えがたい大切な時間であったのは間違いない。だが町の外では今もなお魔物が闊歩することもまた間違いないのだ。いつこの仮初の平和が壊れることか… ? それはこのラダトームに住む者たちが無意識の中で考えているに違いない。

 

時代が勇者を…勇者ロトの再来を待ち望んでいる。それは紛れもない事実なのだ。

 

 

それから数日後の夕方、アルスが道具屋で店番をしていると城の方が騒がしくなるのを感じた。

 

勇者が見つかったと店の外で誰かが騒いでいたのを聞いたアルスは店の入口から顔だけを覗かせると、まるでパレードのように多くの人々が城から町の方へ歩いて来ている。その中央には何処かの王子様のようにも見える金髪の男性が歩いてきていた。

 

鋼鉄の剣、鉄の鎧、鉄の盾という立派な装備に身を固めた男性。彼が身につけた装備は一人前の証とも呼ばれる装備で、それだけで彼が一流の戦士である事が見て取れる。いったい

 

「…俺もあれくらい強ければもっといい生活ができるんだろうか」

 

ポツリと呟いたアルスの一言は人々の喧騒に飲み込まれていった。アルスとて男の身、強さや武勇には憧れている。だがアルス自身生まれてこの方碌に剣など持ったこともない。持った武器らしき物と言えば武器屋で売られている最も安価な竹竿だけである。そんな自分がどうして竜王討伐などと大言壮語を吐けるだろうか ?

 

ふう…と一息つき店番に戻ろうとすると誰かが店のドアを開ける音が聞こえた。

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

アルスが声を出すと、そこにいたのはセシールであった。

 

「セシール ! ? どうしてここに、何か親父さんに言われて買いに来たのかい ? 」

 

思わぬ来客に声が上ずってしまうアルスであったが、セシールの表情は至って真剣であった。

 

「アルスごめんなさい、今日はお買い物ではないの。今日の夜、私の部屋に来てください。あなたに大事なお話があります」

 

今までに見せたことのないセシールの張り詰めた表情と凍りつくような空気を感じ取ったアルスは、これが桃色じみた漢のロマン溢れる展開ではないのだろうと雑念を振り払った。

 

「お願いします。頼れるのはあなたしかいないのです」

 

それだけ言うとセシールは店から出ていきアルスだけが残された。

 

「…なんだったんだ ? それに話って…」

 

先ほどアルスに話しかけたセシールは本当にセシールなのか ? アルスはいつも接しているセシールと今のセシールが同一人物だという確証が持てなかった。女は化粧で化けるとはよく言ったものだがあれは全く異なるものだ。今までのセシールは演技だったのか ? アルスの中で考えはまとまらず堂々巡りに入った。こういうときは目の前の事を片付けるに限ると店番に集中するのであった。

 

 

 

その夜、アルスは道具屋の店主にお疲れさまでしたと話し仕事を終えるとそのまま宿屋を訪ねた。セシールから話は通っているらしく、宿屋の店主からは「しっかりやれよ」とエールを送られた。その意味はまぁ…そういう事なのだろう。男女の仲と勘違いされたアルスは心臓をバクンバクンさせながらセシールの部屋をノックする。すぐさまドアが開けられセシールによってアルスは部屋の中へ引っ張りこまれた。セシールはまるで娼婦が着るような派手な薄着を着ており酷く緊張しているらしく顔も妙に紅い。

 

(まさか、本当にそうなのか ? こんなに強引だなんて…さっきは緊張していただけ ? そういう事なのか ! ? )

 

アルスは普段と違うセシールを見て、先ほど違うと考えた雑念を再度呼び起こす。

 

『ゆうべはおたのしみでしたね』

 

そんな言葉を宿屋の店主に言われるのか ? そんなまだ若き青年の悶々とした考えはセシールの凛とした声によって現実へと引き戻された。

 

「アルス、いえ…アルス様。本日はあなたにお願いしたい事がございます」

 

セシールはアルスの前で平伏し言葉を繋げた。

 

「あなたに…竜王を討伐していただきたいのです。私にできることであればなんでも致します。どうかこの国をお救いください…お願いします」

 

アルスは何故セシールがこんな事をしているのか、何故こんな事を頼んでくるのかわからなかった。だがセシールの様子は並大抵ではなく、これが本気なのだとアルスに告げてくる。

 

「ち、ちょっと待ってセシール、なんでそんな事を俺に ! ? 」

 

「…そうですよね、まずは事情を説明しなければならないでしょう。私のことも全て…」

 

セシールは平伏をやめ今度は床に正座をしたまま続けた。

 

「…信じていただけないとは思いますがお聞きください。私はセシールではありません、私の名は…」

 

アルスはセシールを見つめる。目を瞑り次の言葉を話すことをためらうセシールの肩に自らの手を当てた。

 

「セシール、君が何を話すのかわからないけど…俺は信じる。だから話してほしい。何を思い詰めているのかを」

 

アルスの顔をじっと見つめたセシールはついに意を決して言葉を出した。

 

 

「…私はセシールではありません。セシールはこの身体の名前、私の本当の名は…名はローラといいます。ラダトーム王ラルフ16世の娘です」

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