ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~ 作:プニたけっち
時は大魔道がメルキド攻略を開始した頃に遡る。
その日は至って静かな朝だった。男は仕事の準備を始め、女は朝食の支度をする為かまどに火を入れる。セシールが住み込みで働いている酒場でも早朝から料理の仕込みが始まっていた。唯一違っていたのは犬や鶏等の動物がけたたましく吠え始めた事、うるさい!と男の怒鳴り声がラダトームの街中に伝わるも鳴き声は一向に止まず飼い主も難儀していた。
それからしばらくの事だった……平和だったラダトームが地獄に変わったのは。
「GiiAAaaaa ! ! 」
朝陽を背にして竜王城から一匹のドラゴン率いる魔物の群れ、海を挟んだ限りなく近い距離から大群が押し寄せてきた。キメラが耳障りな金切声を上げながらラダトームの家屋を破壊し野生動物対策の柵を軽々と焼き尽くす。歯向かった男は殺された。女は何故か傷こそ負っているものの無事だったが。
「な、なななんだこれは ! ? 」
仕込みをしていた酒場の店主が慌てて外に出るとそこにあったのは僅かな時間で無残にも破壊されたラダトームの町だった。遅れて外に出てきたセシールも魔物によって殺害された町人の姿をその目で見てしまい思わず口を覆う。
「セシール見るな ! 」
店主がセシールを自らの身体で隠し惨状を見せないようにするがそれを押しのけるようにセシールは前に出る。
「お、おいセシール ! 」
「だ、大丈夫……大丈夫です。この光景から、私が目を……背けるわけにはいかないのです」
ごく普通の町人なら失神しても不思議ではない光景なのだがセシールはその光景を目に焼き付ける。事情を知らない店主にはセシールが何故ここまで気丈にふるまうのかわからないが、セシールはラダトームの姫である。全ては負けた国の末路なのだ、それがたとえ魔物相手であったとしても。そして狙いはおそらくセシール……否、ローラ姫なのだから。
* * *
野生ドラゴンによって城門が破壊され城内にいた兵士や文官女官らが悲鳴を上げる。兵も訓練を受け一端の装備を身に着けてはいるがそれは精々リムルダール北部辺りまでの魔物までしか通用しない。竜王の島に生息するドラゴン連中を相手にするには力が足りない。絶望的に足りない。彼らに出来るのは魔物に怯えながら道を開ける事しかできないのだった。
「……ラダトームの王よ出てくるのだ、我が前に」
先頭に立つドラゴンが首からぶら下げた宝玉から不気味な声が聞こえる。心臓に刃を突き立てられたような錯覚に陥る程の圧力を表すその声の主は宝玉を通じ遠い場所から声だけを伝えていた。
「出てこなければこの城の人間を皆殺しにする」
謎の言葉にいよいよ恐慌状態になる人間たちは窓から逃げ出そうとするもドラゴンの巨体によってさえぎられてしまう。
「……余はここじゃ。その声……竜王か ? 」
「その通り。さすがはラダトーム王、今逃げ出そうとしていた腰抜け共とは違うらしい」
竜王はさもおかしいと言わんばかりにラダトーム王を褒める。先日の襲撃で国王は真っ先に逃げ出そうとしていたのを配下から聞いていた、そして今回も兵士に守られながら逃げ出そうとしていたのをドラゴンによって逃げ場を失ったが為にやむを得ず要求に従い出てきたにすぎない。竜王にはラダトーム王のそんな事情などお見通しだった。
「さてラダトーム王、わしの要求は一つ。ローラ姫を渡せ」
「ローラを……?あれはお主の軍勢が連れて行ったではないか。余の娘はローラ一人、他に娘なぞおらん」
ラダトーム王は嘘をついていない、これは単なるカマ掛けだったのだがラダトーム王はパルプンテの事を知らない、これは間違いない。
「言葉が足りないようだな、本物のローラ姫を寄越せ。先日頂いて行ったローラ姫、あれは肉体こそ本物だが中身は完全に別物。器はわしの城で過ごしている、ローラ姫の精神を宿した女がいるはず。その女を寄越せ」
「器……精神?何のことか知らぬが、城の女官にそのような人物は居らぬ。いれば余の大切な娘、気が付かないわけがあるまい」
親子の絆と言えばよいのか、ラダトーム王には絶対的な自信があった。妻に先立たれ王は娘のローラ姫を不自由無く、そして甘やかさず育ててきた。この子は王女だから、人の上に立つ者なのだからと愛情をもって且つ厳しく育て上げてきた。王の中には養育を配下や妻任せにする者もいるがラダトーム王の場合は当てはまらない。だからこそ、王には姫を見分ける自信があったのだ。その王が断言した。城の中にローラ姫はいないと。
「なるほど、そこまで断言できるのならそうなのだろう。では、町中ではどうかな?」
竜王のその言葉を合図として宝玉を首から下げたドラゴンは回れ右をすると町の方目掛けて言葉を発した。
「ローラ姫よ。今すぐこのドラゴンの下まで来い、今から5分以内に来なければ国王を。それから1分毎に城の人間を1人ずつ殺していく」
一度は収まっていた恐慌状態が再発、今度こそ城の人間は窓や魔物の隙間から逃げ出そうとした。中には2階から飛び降りようとする者もいた。しかし行く手を遮られるか大地へ着く前にキメラに撃墜されるかのどちらか一方を迎えるのだ。
「ま、待て竜王よ ! ならば余を連れて行け ! 余はラダトーム王、人質の価値は十分にあるだろう」
「無いな、儂の目的はローラ姫のみよ」
ラダトーム王の提案は一蹴される。一国の王よりも姫の方が価値あると、そう竜王は断言したと言える。竜王がローラ姫に固執する理由はわからないが……。
「そんな事を話している間に既に3分経過した。あと二分、二分だぞ姫……」
所々に面白そうに嗤い声が混じりながら残り時間が伝えられる。竜王にとって優先されるべきはローラ姫のみ、他の人間の命などスライム一匹にすら劣るのだ。
「やめろ……やめてくれ、余の民が……」
ドラゴンに阻まれ城から出られない臣下、キメラに囲まれ町から出られない町人、助かる為にはローラ姫が出てくるしかない。町の中にはローラが誰か探そうとする者もいた。人間は追いつめられると本性が浮き彫りになる生き物、自らが助かりたいが為に自らの国の姫を差し出そうとする。まさに人間とはこういう物だと竜王は内心感心した。
「5……4……3……2……1 ! ! 」
* * *
「くそ、誰がローラ姫をあんな魔物連中に差し出すかってんだ。こうなりゃ玉砕覚悟で突っこんでやろうぜ ! 」
「……」
勇ましくそう叫んだのは酒場の店主、中には避難してきた他の戦士も少なからずいた。同意する者は残念ながら少ない、ここにいる者たちはキメラに散々に蹴散らされた者ばかり。戦いに怯えるものが多い。だらしねえなと悪態をつく店主だが内心わかっていた。ここで戦っても勝ち目なんてないことなど。この町は自分たち一人一人が守るべき町、だが敵はあまりにも強大すぎた……。
「……店主様」
「ん、どしたセシール ? 」
セシールは店主に向かって普段とは違う『王族としての表情』で話しかけた。
「今まで……ありがとうございました。セシールとして雇っていただいた事、深く感謝いたしますわ」
「お、おい……セシール、お前……いや、まさか貴女が ! ? 」
驚く店主に向かってセシールは首から下げていたハート形の赤い水晶を外し店主に渡した。
「最後のお願いです……アルスが戻ってきたら、これを……王女の愛を渡してください」
「王女の愛……これは」
「……信じていると、そうお伝えください」
「ひ、姫様 ! 」
セシールは最後にスカートの両裾をつまみ上げ優雅に一礼するとドアを開けて出て行った。その動きは町の女ができるような、一朝一夕でできるような動きでは無かったのだ。
* * *
「お待ちなさい ! 」
広場に出てきたセシールに向かって全員が視線を動かした。
「竜王よ、ローラはここにいます」
ドラゴンの前に現れたのは接客用のエプロンドレスを身にまとった紫髪の女性セシール。活発そうな印象とは裏腹に気配り上手で時折見せる清楚で可憐な雰囲気を醸し出す、酒場の売り上げに大きく貢献している女性。男を虜にする笑顔の前に男は無力だった。
「ほう……その身体で随分苦労したようだな。姫らしからぬ頑丈そうな身体、日焼けした肌、中々お似合いぞ ? 」
「あら、お世辞を言いにわざわざここまで配下を派遣してくださったのかしら。竜王サマも物好きですのね」
セシールとドラゴンの首にかかった宝玉の間でバチバチ火花がぶつかりあう。二人の間だけは温度が数度下がったような気がするのは気のせいではないのだろう。
「姫よ、貴様には我が居城まで来てもらおう。ドラゴンの宝玉に触れるがいい、貴様をすぐさま瞬間移動させるだろう」
「あなたの要求に従えば……いえ、指示に従いましょう」
「聡明なローラ姫じゃ、理解が早くて助かる」
セシールがごねたとしても結果は変わらない。ドラゴンとキメラによってラダトームは壊滅するだろう、それならば万が一のラダトームが助かる可能性に賭けた方がいいと判断した。
「本当にローラ……なのか、お主は…… ? 」
セシールを見つめるラダトーム王の眼はやや細かった。最初は本当に本物のローラ姫なのか半信半疑だったのだろうが、次第にセシールを見る目が変わっていく。
「ローラ……ローラ、何故帰ってこなかったのだ……」
「申し訳……ございません。信じていただけないかと……セシールの、全く別の身体に入ってしまったので……」
思わずセシールに抱き着こうとしたラダトーム王だったがドラゴンによって遮られた。
「さて感動の対面はここまでだ」
「わかってます、行きましょう」
「ロ、ローラ…… ! ? 」
セシールがドラゴンの宝玉に触れると一瞬の内にセシールは竜王城へと転送されていった。後に残されたのは呆気にとられたラダトームの面々と魔物の軍勢。それはちょうどメルキドでの決戦が決着を迎えた時の事だった。
セシール拉致から数分後、街中のドラゴンとキメラが活動を再開、再び攻撃を開始したのだ。ラダトーム王はすぐさま兵士に命令し非戦闘員を守るよう指示を出す。
「わかっておった……目的がローラの身柄を連れ去る事ならば、もはや我々は用済みという事」
ラダトーム王は戦う力を持たない、だがその場から逃げずに指揮を執る。逃げ場が無いと言われればそれまでだが彼は最後まで王族の責任を果たそうとしたのだ。兵士は懸命に槍を振るう。鋼鉄の剣、鉄の斧、ある物は何でも使い戦った。
「王様、早くお逃げ……ぐあああッ ! 」
国王を守っていた一人の兵士が倒れた。槍はドラゴンの硬い皮膚を通さず先端がひしゃげていた。
「ぎゃあああッ ! 」
一人。鋼鉄の剣は砕けた、鉄の斧は根本から折れた。
「死にたく……ねえよ」
また一人倒れた。ある者はキメラの嘴に貫かれ、ある者はドラゴンの炎に焼かれて殺された。仮にセシールが要求を飲まなかったとしても結果は変わらなかったであろう。いよいよラダトーム王の命が落ちると思えた時だった。
「ほいやああッ ! 」
一人の老人が杖を振り回しながらラダトームの入り口から飛び込んで戦闘に乱入。町を襲うキメラを一匹ずつ倒してゆく。思わぬ乱入者の登場に気付いたキメラは目標を老人に変更し攻撃を行う。滑空しながら嘴による波状攻撃、杖による打撃攻撃なら一体ずつ攻撃すればダメージは蓄積するとキメラ達は判断した。
カラン。
老人は杖を地面に放ると魔力を練り上げ右手を掲げる。
「……ベギラマ!」
「KU!KUKeee!?」
老人から発せられたベギラマ、強烈な熱光線はキメラを次々と焼き尽くしていく。それはドラゴン達に殺された兵士や町民の無念の炎のようでもあった。
「そなたは雨の賢者殿!?」
「国王陛下、到着が遅れて申し訳ない。マイラから急ぎ駆けつけたのだが……」
「いえ、助かります賢者殿!」
瞬間移動呪文ルーラ、これは決められた一箇所にしか飛ぶことができない。アルスの場合はセシールがいるラダトームだったが雨の賢者の場合はマイラの町だった。全盛期のルーラであれば救援に間に合ったのだろうが現実は非情なもの。雨の賢者はラダトームの異変を知りマイラから走って来たのだった。
(キメラは何とかなるが、ドラゴンは……)
雨の賢者は今もなお暴れ回るドラゴンを見て自問自答する。町のキメラはベギラマで粗方焼き尽くした。残りのキメラも町の戦士達が相手をできる。だが問題はドラゴン、硬い皮膚は並大抵の武器を通さず、高い生命力は普通の呪文も跳ね除ける。おそらく勝ち目は……。
「いや……それでもやらねばなるまい」
雨の賢者はリーダー格でもあるドラゴンに向かって再度ベギラマを放つ。キメラを一撃で倒した閃熱呪文であれば並大抵の魔物なら一撃で倒せる事だろう。
並大抵の魔物なら。
「OOOOOーーN!」
ベギラマを寄せ付けないドラゴンの雄叫びによってラダトームを襲撃していた他9体のドラゴンが一箇所に集結、一斉に燃え盛る火炎を放つ。
「ぐッ……」
ベギラマの炎に対抗できるもの、それは同じ出力の炎。ベギラマに個の出力で劣っていた炎を数の力で補ったのだ。合計10体のドラゴンが放った燃え盛る火炎は激しい炎となりベギラマをあっという間に押し返してしまう。
「ぐ……ぬあああッ!?」
雨の賢者が身につけている法衣は魔法の鎧に負けずとも劣らない炎耐性を持つ衣類である。だがあくまで軽減できるだけで完全に無効化できるわけではない。咄嗟に無防備だった顔面部分を腕で守ったものの大ダメージは免れなかった。
「賢者殿!?」
救世主になると思った雨の賢者の敗北に驚きを隠せないラダトーム王、その場に居合わせた全ての人間が死を覚悟した。焼かれるか喰われるか、或いはその両方か。ただそれだけの違いでしかない、そう皆思った。
ドラゴンが大口を開けて一番の厄介者である雨の賢者を始末しようとかかる。ダメージを受けすぎた賢者は身動きが取れない。
ここまでか。
アレフガルドの三賢者最後の生き残りが息絶える瞬間だった。
リーダー格のドラゴンは直感的にその場を下がった。何か来ると。
とどめを刺そうとしていたドラゴンの頭上から光が飛んでくるとそのまま首を切断、一撃のもとに一匹のドラゴンを倒した。何が起こったかわからないドラゴンに構わず魔法の鎧を着た男は一匹のドラゴンの背に飛び乗る。
「ベギラマ ! 」
男性が放ったベギラマらしき呪文は雷の蛇、素早く4匹のドラゴンに絡みつくと爆発しトカゲの丸焼きが出来上がる。
「あ、アルス ! ? 」
「オヤジさん、雨爺さんを連れて下がっていてくれ ! 」
ルーラでメルキドから飛んできたアルスがあっという間に5匹のドラゴンを倒した。知人は皆アルスの達人のような、物語に登場する英雄のような戦いに一瞬呆けるもすぐさま我をとりもどし指示されたように動く。力が無いなら無いなりに行動しなければならない局面なのだから。
リーダー格のドラゴンは今まで遭遇したことの無い人間の登場に血が滾る思いであった。このドラゴンは竜王の配下の中でも間違いなく幹部級であり、単純戦闘だけなら大魔道よりも上だ。世界の中でも最強種と言えるドラゴンにとって戦いとは娯楽そのもの。やはり戦いを、強者との戦いを欲している。それが最強種である自身のアイデンティティなのだから。穴倉のような竜王城に閉じこもっていてはいけない、この広い場所で尻尾を振るい炎を吐き、爪で敵を引き裂き、牙で噛みちぎる。ドラゴンとはそういう生き物だ、少なくともこのドラゴンは。
アルスは大魔道との戦いを終えたばかりでありほとんど休息無しの戦いである。本来なら休息が必要な所だが逆にアドレナリンが分泌され興奮状態の彼は五感が研ぎ澄まされ戦闘力が増していた。残り五体のドラゴンがどのように動くか手に取るようにわかる。
まず左右から挟み撃ちにしてこようとしているドラゴン二匹、後方に飛び退き攻撃を回避し炎の剣に内包されている魔力でギラを作りドラゴンの眼にぶつける。どれだけ頑丈なドラゴンの身体でもむき出しになっている眼球まで頑丈なわけではない。予想外の痛みに苦しむドラゴンの首を炎の剣で一刀両断にする。
「残り3匹」
アルスの攻撃を一旦止めて他の人間を攻撃しかける2匹のドラゴン。アルスは即座にベギラマを唱え一匹を捉え丸焦げにする。残りの一匹は相手にする事は無かった。その一匹は最後に残ったリーダーによって八つ裂きにされたからだ。
ドラゴンは最強種であるが為にプライドも高い。他の魔物からは煙たがられる事もあるが、彼等には強さから来る誇りがある。であればこそ、彼等が強い敵から背け別の弱い敵を攻撃する事などあってはならない。それがドラゴンの矜持である。ドラゴンに撤退は許されない。弱者には死を、それがドラゴンの掟。だからリーダーはアルスに怯え逃げたドラゴンを制裁したのだ。
アルスとドラゴンは町の中央で対峙、アルスは炎の剣と水鏡の盾を構える。ドラゴンは牽制として口から火炎の息を吐きアルスの動きを観察する。最初は水鏡の盾で炎を防ぐが途中から転がっていたドラゴンの死体を盾にし目標のドラゴンに接近してくる。
ドラゴンは考える。この男は強い。攻撃力だけでなく呪文の威力、何より『戦い慣れている』。この手の相手は非常に厄介だ、ただ力がある敵なら力を発揮させなければいい。呪文を使う相手なら呪文を使わせる前に葬ればいい。だが厄介なのは自らのペースを崩さずに戦う相手。この人間はあるものは何でも使う、剣、呪文、環境、全て使ってくる。そうなると我慢比べだ、相手が潰れるか、自らが力尽きるか。
オモシロイ
ドラゴンの尻尾が走ってくるアルスに向かって横一閃。回転ジャンプし回避すると尻尾の付け根に炎の剣を振りぬく。ドラゴンは重そうな図体から想像出来ないほどの身軽さからジャンプ。攻撃を空振りしたアルスへボディプレス。ベギラマを真下から撃とうとしたが瞬時に諦め回避。何キロあるかわからない巨体が地面に落下した影響で地響きが起きる。地面は割れ遠くにいた人間が振動で動けない程だったがドラゴンが地面と接着する瞬間にジャンプして回避。
マダダ
互いが攻撃態勢に入るのはほぼ同時だった。アルスはベギラマを唱えドラゴンは炎を放射、互いの遠距離攻撃が空中で激突し技の押し合いとなる。アルスへドラゴンへと押して押されての結果空中で大爆発を起こし目を開けていられない程の風が吹き埃が飛ぶ。
ココダ !
ドラゴンは右手を振り上げ一気に下す。ドラゴンは読んでいた、アルスが自らの胴体を狙ってくると。やがて爆風と砂塵の中から
アルスが飛び出してきた。
「 ! ? 」
ドラゴンは自らの読みが当たった事に喜びを感じた。人間が自分の手に当たった確かな感触、このまま握りつぶせば勝てる。そう考えたのだ……が、読み違えた。
「やっぱり攻撃してきたか ! 」
最初は何を言っているのか理解できなかった、或いはただの負け惜しみかと思った。だがドラゴンの眼には見えた、アルスが水鏡の盾を文字通り盾として使い攻撃を軽減しわざと吹っ飛ばされた、水鏡の盾は衝撃で吹き飛ばされたがアルスは空中でそのままベギラマの発射態勢に入っていたのだ。
ヨケナケレバ !
ドラゴンの回避とアルスが発射したベギラマ、勝利の女神が味方したのはアルスのようだった。たとえ身軽といえどもドラゴンは巨体、執拗にまとわりつくベギラマはドラゴンにまとわりつき爆破、全身を焼き尽くす……否、まだ生きている。ダメージを受けたとしてもドラゴンの生命力は膨大であり、特にこの個体のドラゴンは他の個体よりも上。ベギラマを一発当てただけでは倒せない。
コイ、コゾウ
ドラゴンは動かずアルスを見据え両手の鋭い爪に全身の力を込める。ベギラマを撃ち終え着地したアルスもまた炎の剣を剣を両手で持つ。動いたのはアルス、ドラゴンにはまだ燃え盛る炎があり遠距離での戦いは不利だと判断。ではどうするか、単純ではあるが剣で戦うしかないのだ。
「いくぞドラゴン ! 」
大地を力強く踏みしめドラゴン目掛けて突進、ドラゴンは炎を吐かずに迎え撃つ。武器を振りかぶるのはほぼ同時、アルスが攻撃射程内に入った瞬間ドラゴンは右手の爪を振り下ろす。
ドラゴンは更に一手読み違えた。アルスが突然軌道を変えドラゴンの右肩目掛けて跳躍し炎の剣を振りぬいた。斜め切りはアルスの攻撃力に加えてドラゴンの一撃が空振りした事による一瞬の脱力にて、ドラゴンの右腕を吹き飛ばした。さしものドラゴンも右腕が無くなった痛みにもだえ苦しむ。アルスの本命はドラゴンの柔らかい腹部、しかし危険なのはアルスも同じ。単純な腕力勝負ならドラゴンの方が上なのは判りきっている。一撃だ。一撃で倒さなければならない。
メルキドの武器屋は言っていた。炎の剣は魔力を内包している、道具として使えばギラとしての効果があると、現に先ほどもこれで別のドラゴンの顔を攻撃した。では、ギラを発射するのではなく『発射せずに魔力を刀身にまとわりつかせたら』、そう考えた。アルスは魔法戦士ではあるがやはり本分は戦士、呪文ではなく剣で戦う方が性に合っている。
ようはベギラマと同じ。炎の剣を更に燃え盛るイメージで振りかざす。真っ赤な炎の剣は内包していた魔力とアルスの魔力を吸い取り疑似的な炎を発現させた。右腕を失ったドラゴンは右側のガードが甘い、燃え盛る炎や左腕の攻撃が届くよりも前に炎の剣がドラゴンの腹部に突き刺さる方が早かった。
クヤシイガ……ミゴトダ。
ドラゴンの胴体が真横に倒れた。断末魔を挙げる事もなく、勝者に悪あがきをする事もなく、ドラゴンは勝者を称え絶命した。
その瞬間、ラダトームの生き残りは皆勝利に湧いたのは言うまでも無い。自分たちの命が助かった事、ドラゴンを倒せる勇者の到来を祝福したのだった。
魔法の鎧に微かなヒビが入っている事に気が付いたのはアルスだけだった。
戦闘シーン書くの本当に難しいですね(;'∀')
では、ありがとうございました。