ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~   作:プニたけっち

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ようやく竜王戦まで来れました。私も迷走している感はありますが、お付き合いください。


13.呪いのベルト

玉座裏の隠し階段の先は陽の光が一切差し込まない長く暗い洞窟だった。レミーラの呪文を使いようやく周辺が見渡せる敵の本拠地にアルスは足を踏み入れる。踏み入れた瞬間アルスは自らを刺すような視線に一度足を止める、アルスの命を奪い取ろうと睨む悪しき眼はこれまでに戦ってきた魔物とは一線を画す程の重圧を感じさせる。思わず懐のロトの印を握りしめる。無機物であるはずのエムブレムはアルスを勇気付けるかのように暖かさを感じさせた。

 

 敵から襲撃を受ける前にロトの剣を二度三度振る、伝説の名剣は子孫の手に渡り空を切る。アレフガルドのどんな武器にも勝る名剣であり勇者ロトの時代で名匠によって鍛えられた当時でも最強クラスの武器。感慨に浸る間を与えず魔物は暗闇の中からアルスへと襲撃をかける。手に握るロトの剣を使いアルスは斬る。ダースドラゴン、ストーンゴーレム、本来であれば苦戦するであろう強敵達はロトの剣の前に倒れ屍と化した。敵の爪や拳はロトの鎧が身を守ってくれる。魔法の鎧よりも高い守備力、厄介な青く光る邪悪なバリアも防ぎ、歩くことでアルスの体力を回復してくれる。まるで魔法の鎧を強化したような代物だった。

 

 アルスは剣を振るい、そして思った。

 

『確かに強い。でもロトの剣とはこんなものなのか ? 』

 

 正直言って拍子抜けだった。伝説の重みだとか斬った魔物の数だとか、そのような感覚ではなくただ単に、伝説の剣にしては神秘性が無い。武器として優れているのは間違いないが、ただそれだけだった。これならば使い慣れてきた炎の剣の方がまだ使えるかもしれない。非常に罰当たりな考えだが、これがアルスの率直な感想だった。やはりロトの剣に空いている丸い窪みが原因である可能性が高い。だがこの窪みにはまる物を探す時間も手掛かりも無い。アルスは魔物を斬り捨てながら暗闇の地下洞窟を進むしかなかったのだ。

 

 

 暗くジメジメした洞窟を潜り抜けると、そこはラダトーム程とはいかないが王宮のような作りをしている建物だった。毒の沼地があちこちにあるのは、この建物を造ったのが魔物だからなのか。

 

「我が居城へようこそ勇者よ」

 

 アルスが声のした方を向くと、そこには青い肌に法衣のようなローブを身に纏いドラゴンの杖を持った魔物が玉座に座っていた。値踏みをするようなその視線はアルスに少なからず不快にさせる。

 

「お前が竜王か?」

 

 今での魔物とは異質な雰囲気を漂わせる法衣の男、アルスはこいつこそが此度の混乱の元凶である竜王だと考えた。そしてその予想は正しい。

 

「如何にも。儂が竜王じゃ」

 

 玉座から立とうとせず、ただ質問されたから自己紹介しただけなのか、何ということはないように竜王は答えた。

 

「セシールと姫は何処にいる?」

 

「奥の一室にいる。無論返すつもりは無いがな」

 

 互いの間に見えない火花が散った。

 

「アルスよ、儂は待っておった。お前のような強い人間が来るのを。是非とも儂の配下に加えたい」

 

「俺がそんな取引に応じるとでも?」

 

「まあ聞け。何もタダでとは言わん、よく働く者にはそれなりの報酬を与えるのが王というもの。儂の配下となれば、この世界の半分とローラ姫をお前に渡そう。どうじゃ、悪い話ではあるまい?お前が欲してやまない女を戦うこと無く手に入れることができるのだ」

 

 竜王の耳障りの良い言葉がアルスの聴覚を刺激する。相手の心の中にある小さな綻びに入り込む、それが竜王の口撃なのだ。

 

「もし儂の配下になれば 世界の半分とローラ姫を そなたにやろう」

 

 アルスの答えは決まっている、ロトの印が警告するまでもなく。

 

『もし儂の配下になれば セカイのハンブンと ろーらひめを そなたにやろう』

 

 竜王の口車に乗ってしまったが為に命を落とした者をアルスは知っている。

 

「さぁ、どうす……!?」

 

 竜王の言葉を最後まで聞くこと無くアルスは駆け出した。ロトの剣を振り抜き、真正面から竜王に向かって振り下ろした。竜王は空中にふわりと浮かび上がって攻撃を躱し、アルスの攻撃は玉座を粉々に砕いた。

 

「それが答えかアルスよ?」

 

「……お前が言った対価は間違いだ」

 

「む?」

 

「お前はアレフガルドを制圧なんてできちゃいない。お前はラダトームとメルキドの攻略に失敗したし、マイラもガライもリムルダールも健在だ。俺が行った町は皆魔物の進行を食い止めている。半分どころか全然制圧できていない。精々城一つしか持っていないじゃないか。そんな奴が世界の半分なんて用意できるはずがない

 

お前は王などではない。ただのペテン師だ」

 

 ピシリと何かにヒビが入ったような音がした。アルスが壊した玉座なのか、それとも竜王の中にあるプライドなのか?

 

「そうか……では仕方あるまい」

 

 竜王はドラゴンの杖の先端に魔力を溜め始めた。

 

「王をペテン師呼ばわりしたその言動、万死に値するぞ!」

 

「本当の事を言われて怒ったか竜王!」

 

 竜王はドラゴンの杖を持っていない左手で、呪文を唱える素振りを見せず呪文を唱えた。

 

「ギラ、ギラ、ギラ」

 

 通常一度に撃てる呪文は一つだけであり一呼吸置かなければならない。だが竜王は威力が弱いとはいえギラを三発ほぼ同時に唱えて見せた。古来呪文の威力は術者の実力によって変動するもの、竜王のギラは大魔道のベギラマ程ではないが相当な威力である。対するアルスも三発のギラに対しロトの剣を床に刺し素早く炎の剣を抜き取る。自身の魔力を剣に吸い取らせギラの力を増幅させると横一文字に剣を振るう。炎の剣から放出されたギラが一発目を相殺、水鏡の盾が二発目を防ぎ、三発目を炎の剣で切り払う。

 

「「ベギラマ ! ! 」」

 

 遠距離からほぼ同時に両者のベギラマが発射される。アルスのベギラマと竜王のベギラマが互いの中間地点で激突する。雷蛇対熱光線、竜王のベギラマが勢いを失うことなくアルスに接近していく。魔力に優れる竜王に分があるように見えたこのベギラマ対決だったがアルス側に近い空間で爆発を起こす。愚直なまでに真っ直ぐ飛ぶ竜王のベギラマだがアルスのベギラマは対象にまとわりつくという通常とは異なる型であり、まとわりつかせて爆発させることで竜王のベギラマを誘爆させたのだ。魔力勝負では竜王が上であるがベギラマの質ではアルスの方が上回ったようである。

 

「きしゃあッ ! 」

 

「ちいッ ! 」

 

 ドラゴンの杖に魔力を集中させた竜王は呪文を撃たず杖で殴り掛かる。アルスも炎の剣を上空に放り投げると床に刺したロトの剣を抜き取り迎え撃つ。複数の物質がぶつかる際に生じる耳障りな金属音が互いの耳に届く。驚くべきなのは腕力に優れるアルスに負けず劣らずのパワーを持つ竜王、ラダトームでの戦いでは多くのドラゴンを剣で切り倒してきたが竜王には届かない。

 

「くくく……純粋な魔力だけではなく腕力でも儂には勝てぬか ? 」

 

「勝てない…… ? それはどうかな ! 」

 

 アルスはわざと全身の力を一瞬だけ緩める。突然の脱力によって竜王のバランスが一瞬だけではあるが崩れる。

 

(これで意表を突いたつもりか、甘いわ)

 

 バランスが崩れた際にロトの剣で攻撃を仕掛ける、そう竜王は読んでいた。だからアルスが攻撃に転じた瞬間にドラゴンの杖の切っ先を眉間に突き付けてやろうと考えていた。だがこれまでの戦いで戦闘経験値を積んだアルスの攻撃は竜王の読みを上回る。

 

 アルスは水鏡の盾を竜王にたたきつける。水鏡の盾を使用したシールドバッシュ、アレフガルド産最高の守備力を誇る盾はドラゴンの杖をはじき返し竜王の身体をふらつかせるまでの力があったようだ。

 

「ちっ、ベギラマ ! 」

 

 姿勢を低くしたアルスの鎧と盾に守られていない右腕を狙いベギラマを放つ。放射とほぼ同じタイミングでカランと音がする。竜王が音の方を見ると床の上にロトの剣が転がっていた。右手が空いたアルス身体を捻らせベギラマを躱した。

 

(バカめ、自ら武器を手放すとは……なッ!?)

 

 竜王はアルスの取った回避手段を暴挙だと断じたが、直後左肩から魔物特有の青い血が飛んだ。見ればアルスの右手にはいつの間にか剣が握りしめられていた。

 

(い、いつの間に剣を……あれは、ロトの剣ではない!)

 

 そう、アルスが持っていたのはロトの剣ではなく炎の剣であった。ベギラマを放った後上空へ放り投げた炎の剣を掴み取り竜王の不意をついたのである。

 

 今度は水鏡の盾を背中にしまい左手に炎の剣を持ち直すと同時にロトの剣を拾い上げ竜王の右肩から一気に斬撃を加えた。

 

「ぬ……オオオッ!?」

 

 盾に使ったドラゴンの杖はロトの剣による会心の一撃により真っ二つに切断され、杖諸共竜王の右肩に鋭い傷痕が残った。

 

 咄嗟に竜王はアルスに向かってベギラマを放射しジャンプ、アルスもまた背中から水鏡の盾を持ち直し防ぐ。

 

(ぬかったわ……ロトの子孫、あの悪魔の騎士が本命なのかと思いきや、こちらの方が厄介であったわ)

 

 肩で息をする竜王と、まだ余力を残した状態のアルス。戦いの状況はアルスが有利のようだ。

 

 アルスはロトの剣と水鏡の盾を装備し直し竜王を見る。額に汗をかき疲労困憊の竜王を見ると、このまま勝てるのかと考える。

 

(確かに竜王は強い。だけどこれなら大魔道や悪魔の騎士の方が強かったように感じる)

 

 アルスの脳裏に感じた疑念は不安へと変わる。竜王にはまだ何か秘策があるのかもしれないと。しかし竜王を倒す絶好の機会を逃すわけにはいかないと追撃を加えようとした。

 

「く、クククッ、強いな。流石はロトの子孫というところか、これなら大魔道共が倒されるのも頷ける。だが……惜しいな、これでは儂は倒せぬ」

 

「立っているのもやっとの状態で強がりか、竜王」

 

「強がりだと?違うな、様子見は終わりだということだ」

 

 竜王の強気な態度を前にアルスの朧気な不安は段々と確信に近くなる。竜王から感じた強大な魔力は目に見える程の覇気へと変貌していく。

 

「覚悟せよアルス……儂をペテン師呼ばわりした事を後悔せよ、儂に本性を現させた事をこの上ない栄誉だと思いながら……」

 

 竜王の身体が見る見るうちに膨れ上がる。肌の色こそ違えどもまだ人間のように見えた皮膚は頑丈な鱗へと変わり、口からは鋭い牙が伸びる。膨れ上がった身体はアルスの身長をあっという間に超え、遂には大きな玉座の間をも破壊しかける程にまで……竜王の、地獄の底から鳴り響くような声がアルスを襲う。

 

 

「あの世に逝け!!!」

 

 

 竜王が本性を現した!!

 

______________________________________

 

 剣の音、呪文の音、壁が崩れる音、遠く離れた部屋の中でも聞こえてくる戦いの音。間違いなくアルスと竜王が戦っている。私を助ける為にアルスが来てくれた。私が竜王にあの質問をした時、私を連れ去った理由を聞いた時に確かに竜王は答えはした。私とセシールを元に戻し私に竜王との子どもを産ませると、だがこれだけが答えだとは思えなかった。私に考える時間だけはあった。見張りは私の身体に閉じ込められたままのセシール、配下の魔物はアルスの撃退に向かわせたのだろう。それにこの忌々しいベルトがある限り逃げることは不可能だった。

 

 私には呪いのベルト、セシールには死の首飾りが身につけられている。ラダトーム王家では『呪われた者はたとえ肉親であろうと人間とは考えるな』というしきたりがある。これがある限り私たちは城に帰る事は出来ない。

 

 竜王が話さなかった別の理由とはおそらく、私を連れ去る事で決戦時期を早める事だろう。竜王はロトの子孫が複数いる事は想定していたようだし、強くなる前に事前に仕留める事もできたはず。だが誰がロトの子孫かわからないから手当たり次第に始末する事はできない。

 

 私を竜王の立場に置き換えるなら『標的を向こうから来させる』それも強くなる前に……という所でしょう。ローラ姫を餌にして、勇者の子孫が自らを倒せるほどの力を得る前に始末する。

 

 竜の王を名乗る男にしては随分と小心者ですこと。この世界で単純な力だけなら最強と言ってよい程の力を持つ種族の頂点を名乗るならば、どのような相手でも迎え撃つくらいの器量を見せてほしいものです。

 

 さて、ラダトーム王女としての考えはここまで。ここからは町娘セシールとして考えましょう。

 

 扉の前には虚ろな目で私を見るセシール……いえ、今はローラと呼びましょう。ローラは私が部屋から出ようとすると邪魔をしてくる。おそらく私が力尽くで出ようとすれば死に物狂いで邪魔をしてくるでしょう。ローラがいる限り私は一人で部屋から出られない……。

 

 

 甘いわね竜王サマ ?

 

 

「セシール、私は少しこの城をお散歩しようと思うの。一緒に来てちょうだい」

 

 ピク、とローラが反応する。思った通り、竜王の命令は『私の見張り』それなら脱走ではなく私について来させればいい。

 

「セシール、早く支度を」

 

 ローラは慌てたように私に従う。ローラは私の側付き、ラダトーム城にいた頃は普段から私に付き従っていた。意識の中では私の命令に従うように考えてしまうのでしょう。こうして私は難なく軟禁部屋から脱出した。

 

 私が部屋から出てしばらく歩くと頑丈そうな扉に守られた部屋があった。扉のほんの小さな隙間から光が漏れ出している。この光……気になる。

 

「セシール、この扉を開けてちょうだい」

 

 ローラは悲しそうな表情をしてオロオロしだす。どうやら開け方がわからないようだ、まあそれも考えてはいた。単に開け方を知らないのか、私の指示が悪いのか。しばし考えた末一つの方法を思い付いた。

 

「セシール、扉に向かって『アバカム』の呪文を唱えなさい」

 

 私の命令に従いアバカムの呪文を唱えると侵入者を妨げていた扉はいとも簡単に開く。アバカムはラダトーム城の古文書に記載されていた失伝された呪文の一つ、どのような鍵がかけられた扉でも開錠できる呪文。私がパルプンテと同じく習得できたもう一つの呪文だった。この呪文は世に広まったら悪用されることは間違いない、世に広めなかったご先祖様の判断は間違いなく英断だったでしょう。

 

 今の私はセシールの身体なので呪文を何も唱える事はできない。でも私の身体を使うセシールなら可能なのではいかと考えたけど、使えたみたいでよかった。

 

 中に入ると部屋の中は淡く輝く光の球体があった。

 

「これは……光の玉 ! 」

 

 光の玉……勇者ロトが大魔王を討伐する際に用いた道具、闇に包まれたアレフガルドに太陽の光を取り戻した神秘の宝玉。竜王がラダトームから持ち去ってここに閉まっておいたのね。王家の至宝を取り戻せたけど、竜王を倒せなければ意味が無い。これは持っていきましょう。

 

 他には……銀色の竪琴があるわ。触れると確かに流れてくる魔力、並大抵の道具じゃない。これも持って行くとしましょう。

 

 部屋の中にはほかに目ぼしいものはない。竜王の弱点を見つけられればよかったのだけど、光の玉を見つけられただけよしとしましょう。部屋を出ようとしたとき突然城全体がグラグラ揺れだした。何か途轍もない何かが現れたような、そんな気がしました。

 

 行かなければ。

 

 私はローラに命じ共に走りだします。今も戦っているアルスの元へ……。

 




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