ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~ 作:プニたけっち
本性を現した竜王の姿、それは竜の王を名乗るに相応しい程の強大さであった。人間の大人サイズだった全身は広大な玉座の間でも狭苦しく感じる程に巨大化、鋭い爪と牙、青く頑丈な鱗に覆われた肉体、今の世に最も恐るべき存在。
ー竜王があらわれた ! ー
「これが竜王の正体か ! 」
「ああそうだとも、これが儂の本性だ……この姿になったからには」
竜王の爪がアルスに向かって振り下ろされる。
「もはや手加減できぬぞ ! 」
アルスはすぐさま横に飛びのきロトの剣を構える。とにかく攻撃だ、攻撃しなければどうにもならない。竜王も初手が回避されるのは想定内だったようで、アルスに向かって口から炎を吐く。炎はドラゴンが吐くような火炎の息ではなく灼熱のような激しい炎、床に散らばった瓦礫が赤く溶け出し玉座の間を深紅に染め上げてゆく。アルスも水鏡の盾で炎を防ぐが段々と盾の表面温度が上がってゆく。盾を持ちきれなくなってきたアルスであるが何とか竜王の足下までたどり着いた。
「くらえ竜王!」
熱くなり持つのも限界だった水鏡の盾を放り投げロトの剣を両手で握りしめ、渾身の力を込めて竜王に一撃を浴びせる。
「ぐおおッ!」
「よし効いてる!」
アルスは竜王の悲鳴を聞き続けざまに連撃を浴びせる。ロトの剣は竜王の足、腹へと何発もの攻撃を叩き込んだ……が、竜王は一切反撃をしてこない。
頭上を見たアルスは確かに見た。竜王がニタリと笑ったのを。
(まずい!)
アルスが距離を取ろうと思い回避行動に移るよりも前に、竜王の足がアルスの胴体へと直撃する。
「ぐあははは!ネズミのようにチョロチョロと動き回りおって、だが今度は逃げられなかったな!」
「ろ、ロトの剣が…………効かない」
「貴様とて気がついているだろう。ロトの剣には欠けている物がある事を。今やロトの剣とは少々頑丈なだけが取り柄のナマクラ。そんなナマクラに傷をつけられるほど、我が鱗はヤワではないわ!」
ロトの剣が不完全。足りないものとはおそらく丸い窪みの事なのだろうが……。
「不完全なロトの剣を抱きかかえたまま我が炎に焼かれるがよい!」
竜王の激しい炎がアルスを襲う。
「ぐあああッ!?」
水鏡の盾は遠く離れた場所に落ちていて拾いには行けず、アルスを守るのはロトの鎧のみ。しかしそれでも完全には防ぎきれない。
「ぐ……ベホイミ」
アルスの唱えたベホイミがたった今受けた傷を癒していく。
「ベホイミ?我が炎を受けてMPを温存するか……いや、そうか……完全回復呪文、既に失伝していたか」
竜王は一人で何かに納得し、再び息を深く吸い込む。
「ならば貴様は此処までだな、死ね!」
竜王は再び激しい炎を吐く。アルスはゴロゴロ転がりながら炎を躱す。しかし戦いの余波で床に落ちている瓦礫がアルスの行動を妨害する。
「くそ、ロトの剣に足りないものが何なのか判れば!」
「判った所で無駄よ!この世にはもう存在せぬわ!」
竜王の追撃はまだ続く、先程のお返しと言わんばかりに激しい炎がアルスを襲う。
「ちぃッ!」
回避をしながら竜王にロトの剣で斬撃を加えても全くダメージが通らない。柔らかい腹部に攻撃してもビクともしない。
「これならどうだ!ベギラマ!」
アルスの右手から放たれた雷蛇が竜王に纏わりつき爆発する。
「……今、何かしたかな?」
だがベギラマでもダメージを与えるどころか竜王の皮膚を焦がす事すらできてはいなかった。
「ベギラマでもダメなのか……」
「貴様には他に手はあるまい、燃えて崩れ落ちよ!」
戦意が消えかけるがそれでも心の炎を燃やし竜王の炎を躱すも、広範囲に渡る竜王の激しい炎は回避しきれるものではなくアルスに直撃してしまう。
「がはあッ!ぐうう、ベホイミ!」
アルスはベホイミを唱えてダメージを回復するが、竜王が吐く激しい炎はベホイミの回復量を上回り傷を癒し切れていない。
(どうすれば、どうすればいい。ロトの剣では倒せない、炎の剣に魔力を溜めてもこれ以上攻撃力は増やせない)
焦るアルスに対し竜王の炎が迫りくる。間一髪の所で回避し距離を取り思考の時間を稼ぐ。
「ちょこまかと動き回りおって、鬱陶しいアリめが ! 」
今度はアルスの行く手を遮るように炎を吐いてくる。ギリギリの所で回避するアルスだが次第に体力が限界を迎えてしまう。回避している途中にカツンと何か音がした。そこには妖精の笛と旅立ちの際にセシールからもらった赤い小さな玉が転がっていた、どうやら戦いの中で懐の袋から落ちてしまったらしい。拾い上げたくても回収に行く余裕が無く心の中でガライとセシールに謝罪しやむなく諦め物陰に隠れた。
(俺をいたぶるつもりか、鬱陶しいのはこっちのセリフだぞさっきから炎ばかり……ん ? )
アルスの脳裏に一つだけ、たった一つだけ打開策が閃いた……が。
「逃げてばかりでは勝てぬぞ」
「ぐああああッ ! 」
打開させる機会など竜王が与えてくれるわけもなく、竜王の炎が物陰に隠れていたアルスに直撃し身を焦がす。
「……ベホイミ」
「いつまで持つかな?」
竜王は激しい炎を吐いた。
「ぐ……ベホイミ……」
竜王は激しい炎を吐いた。
「べ、ベホイミ……」
竜王は激しい炎を吐いた。
「べ……ベホイミ……」
しかしMPが足りない!
「ここまでだな。勇者よ、炎に包まれながら後悔するがいい。儂に歯向かった愚かさをな!」
竜王は激しい炎を吐いた。
(ここまでなのか……セシール ! )
______________________________________
玉座の間へと接近すればするほど暑さが私を襲う。おかしい……さっきはこんなに暑くなかったはず。のども乾くし、さっきから第六感のようなものが何度も近付いてはならないと警鐘を鳴らしてくる。後ろから私の見張りにつかせられているセシールも辛そうだ。セシールには悪いけど私は行かなければならない。この光の玉をアルスに届けなければ……。
玉座の間へ到着した私の目に映ったのは衝撃の光景だった。巨大なドラゴンが炎を吐きアルスを追いつめている。少しでも助けになるかと思っていた私の考えがとんだ自惚れであると実感させるには十分すぎました。私が行けばその時点で邪魔になってしまうと。
何か……何かないのか、アルスを手助けできるものが。
懐にあるのは先ほどから急に光が強くなってきている光の玉と銀色の竪琴のみ、こんなものでどうしろと……光の玉は使い方がわからず竪琴は使ったらどうなるかわからない。
「はあ……はあ……」
後ろにいる私の身体を使うセシールの息も荒い。炎による暑さの他にも意識の外で生命の危機を感じ取っているからなのかもしれない。ここから離れる必要が……。
"光の玉が強い光を生み出し邪なる力を破壊する"
「……え、あ、あれ ? 」
「せ、セシール……意識が ! ? 」
「え、あ……姫様、私はいったい何を……ってか熱 ! ? 」
光の玉が一際輝き、気が付けばセシールの意識が竜王の術から逃れ元に戻った。ピシリと何かが壊れる音が聞こえ、音が鳴る方を見てみれば私の腰にあった呪いのベルトとセシールの首にかけられた死の首飾りが粉々に砕け散った。
「セシール、貴女身体は何ともない ? どこか痛むとか……」
「え~と……何ともないみたいです。あ、この首飾り邪魔くさかったんですよね。あ~身体軽いですわ~」
どこも異常は無いみたい……よかった、セシールが無事で……。
「そ、それより姫様、何ですかアレ ! ? 」
セシールが指さす方には巨大な竜となり暴れまわる竜王の姿があった。
「逃げましょうよ姫様 ! ここにいたら絶対ヤバいですって ! 」
「セシール……本当ならばそうするべきなのでしょう。でもあそこで戦っているのはアルスなのです……」
「でも姫様 ! 」
「私の頼みを聞いてくれた人なの ! 私の、私だけの勇者なのよセシール ! 」
手を強く引き離れようとするセシールですが、私は引けない。身体の強さの問題ではない、たとえこの身体が元に戻っていたとしても引くわけにはいかない。私の願いでアルスはここまで来てくれた。私の願いでアルスは竜王討伐に来てくれた。私を助ける為にここまで来てくれた。そのアルスがやられようとしている、だからここは引くわけにいかないのだ。
「で、でも……あ、あれ ! 」
「あれは……笛 ? 」
セシールの指先の方には1本の笛と赤い玉が転がっていた。あれは私がアルスに贈った玉……。
「ちょっ、姫様 ! ? 」
体力のある今の身体であれば瓦礫まみれの部屋でも炎や瓦礫を避けながら移動できる。私は走りながら笛と玉を拾い上げセシールの元へ戻った。
「なんて無茶を……でも姫様、それは ? 」
「……わかりません。でも大事なものだと、それにこの玉はアルスに贈った品ですから」
「はあ……でもあれ ? むむむ……」
私が回収してきた玉を見てセシールが何か考えこみました。するとアッと声を上げながら声を出しました。
「そうですよ、これオリハルコンですよ ! あのトカゲがロトの剣に足りないって言ってた」
「オリハルコン ! これが ! ? 」
セシールは先ほど竜王の術にかけられたと同時に情報も与えられていた。竜王の情報が正しいという確証は無いけど、アルスが勝つためにはこの情報をアルスに渡さなければ !
「でもこれじゃあ無理ですよ ! いくら何でもあの戦いの中じゃあ ! 」
「……」
考えなさいローラ、思考をセシールではなくラダトーム王女ローラに戻しなさい。私たちがアルスの所へ行くにはどうしたらいい、アルスをこちらへ来させる事はできない。神経を集中させれば何かが聞こえる。
『奏でるんだ、笛を……竪琴を』
……幻聴かもしれない……でもこの声を、男性の声を私は信じましょう。
「セシール、笛を吹いて。私は竪琴を奏でます」
「いきなり何言ってるんですか姫様 ! そんな事言っても私曲の演奏なんてできないですよ ! 」
セシールの疑問はわかる、でもこのままではアルスが殺されてしまう。
『心配いらない。僕が助ける、君たちはただ奏でればいい。吹けばいい。君たちが、身体が入れ替わり、別々の心と身体が混じりあっている君たちじゃないとダメなんだ』
「え、今の声どこから…… ? 」
セシールの疑問には答えず私は竪琴を奏でる。どこか哀し気な音色が空気を通して漂い、いずこかへと流れていく……。
「ええいもうどうにでもなれだわ ! 」
セシールもまた慣れないまでも笛に空気を送り音を出す。私たちが鳴らした演奏とも言えない音は少しずつ形となっていく。指が勝手に動く、まるで一流の吟遊詩人が演奏しているみたい……。
"銀の竪琴と妖精の笛。二つの音がデュエットとなり城の外へと飛び出す"
"遠く離れたメルキドの大地。大魔道によって竜王の手先として変化させられたゴーレム、この残骸は大地と一体化していたがこの時ある変化が生じた"
"大魔道によって送り込まれた魔力はゴーレムの内側を変化させたが、身体と心の変容という意味ではローラ姫とセシールと一致している部分があった"
"心と身体、別々の人間が奏でるデュエットは大地に眠る守護神を呼び覚ます。砂は数えきれないほどの塊となり、風に乗って竜王城へと飛んでいく"
「死ねいアルス……ぐおおッ ! ? 」
アルスへととどめを刺そうとしていた竜王ですが、突然現れた巨大な砂の腕によって殴り飛ばされました。
「姫様、あれは ! ? 」
「あれは……巨人 ? 」
戦いの中でできた城の穴から次々と砂が集まっていき、人型の形をとっていきます。やがてその砂は二つの目を持った大きな巨人、ゴーレムへと合体したのです……。
お読みいただきありがとうございました。後二話……だと思います。