ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~   作:プニたけっち

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こんにちは、竜王が激しい炎ばかり吐いてくるのは本作での仕様です。


15.王女(セシール)の愛

 妖精の笛と銀の竪琴、二つの強力な魔力を持つ楽器の演奏により遠く離れたメルキドから呼び寄せられた砂はゴーレムとなり竜王の顎に強烈なパンチをお見舞いした。

 

「な、なんだこれは!砂……いや、岩で出来た腕、大魔道からの報告にあったゴーレムか!?」

 

 竜王が思わぬ増援に驚いている中、セシールとローラもまた行動を開始しようとしていた。特にセシールは好機だと判断しローラへ指示を出す。

 

「セシール手伝って。アルスを今のうちに安全な所まで運んで傷を癒さなければ」

 

「わかりました!」

 

 MPが尽き回復もままならないアルスは床にうつ伏せになって倒れている。光の玉による神秘の光でもセシールとローラの身体は未だ元に戻ってはいない。身体が頑丈なセシールが少しでも竜王から遠いエリアまで肩を貸して移動し、ローラは手持ちとアルスの私物である薬草を急いで取り出し傷を癒す。

 

「アルス、貴方は私を助けに来てくれた。竜王に傷を負わせる事は出来ませんが、せめて今だけは貴方を助けてみせます」

 

 薬草はそのまま使う事も出来るが煎じて液体にしてから飲ませた方がより効果的と言われる。セシールは強い苦味を感じる薬液を口に含みアルスに口移しを行った。隣ではローラが顔を紅くしながら「うわーお、姫様やるう」と呑気な言葉を口にしていた。

 

「……ぷはあ!?ハァ……ハァ……あ、あれ、ここは?」

 

「アルス!よく無事で……」

 

 薬草の力で意識を取り戻したアルスを見て、セシールはアルスに抱きついた。

 

「せ、セシール!?」

 

「よかった……貴方が私のせいで死んでしまわれたらどうしようかと……」

 

「セシール……」

 

 竜王からの攻撃は苛烈であり、ゴーレムがいなかったら今頃アルスは天に向かって旅立っていただろう。勇者を姫が助けた、まさに美談であろう。ここが城の一室であれば二人だけの世界に浸っていても問題は無かったのだろうが……。

 

「あの〜姫様、それと……アルスさん?今は竜王をどうにかする方法を考えるべきなんじゃないですかね?」

 

「「……あ」」

 

 ローラがとても言いづらそうに二人を咎める。確かに二人の世界に入るには早すぎた。

 

「そ、そうですよね……すみません。貴方は……」

 

 ローラはチラッとセシールを見る。セシールが頷いたのを確認すると、ローラは自分が本当のセシールである事を伝えた。

 

「そうか……貴女が本物の……それにあのゴーレムはマゾットさんの……」

 

「それよりアルスさん。まずはこれを……」

 

「これは、セシールが俺にくれた宝石」

 

 ローラはアルスがセシールと言うたびについ反応してしまう、だがアルスが出会ったセシールは入れ替わった後。

 

「あ、ああ……そうらしいね。竜王が私に漏らした情報だと、この宝石はオリハルコンで出来てる。コレをロトの剣にはめれば本来の切れ味を取り戻すはずさ」

 

「本当ですか!それが本当なら、ようやく勝てる可能性が生まれるぞ」

 

 アルスが早速オリハルコンで出来た赤い宝石を丸い窪みにはめる。宝石は窪みにピッタリとはまりキラリと光る。

 

「どうですかアルス、何か剣に変化は?」

 

 アルスは元の形に戻ったロトの剣を握りしめる。

 

 ロトの剣から迸る力、勇者ロトから受け継いだ武器とその重み……。

 

 

 

 

 そんな物は一切生まれなかった。変化が全く無い。

 

 

「なにぃ ! あんのクソトカゲめ、あたしに嘘吹き込みやがったな!」

 

「う、うん、そうだね……」

 

 アルスはローラの姿で乱暴な言葉を発する姿に若干幻滅しながら心の何処かで、セシールはローラに戻らない方がいいんじゃないかなとうっすら考えていた。それはさておき自分以上に竜王への怒りを表す姿に一周回って冷静さを取り戻せた。

 

「まだ何か足りないのでしょうか?」

 

「……無いなら無いで何とかするしかないよ。さっき思いついた手がある」

 

「なんだよなんかいい手があんのかよ、だったら早くやろうぜ」

 

 不安そうなセシール、血気盛んなローラ、あまりにもアンバランスな見た目と言動にアルスも混乱してくるがゴーレムが稼いでくれている時間を無駄にはできない。一際大きな音が聞こえ振り向いてみれば一応人型を形作っていたゴーレムは既にボロボロの状態であった。胴体には爪痕が残り身体の所々が炎で焦げてしまっている。

 

「ゴーレム……方法はこれです」

 

「え、ロトの剣じゃないの ? 」

 

 アルスが取り出したのは炎の剣、剣自体に魔力はまだ蓄えられているがアルス本人のMPは残り少ない。魔力を纏わせ攻撃するという手は現状使用不可だ。

 

「もう俺のMPは僅かしかないけど、炎の剣に竜王の炎をわざと命中させる。魔力とは違うけど炎は炎、剣に纏わせることはできるはず」

 

「な、危険すぎます ! その剣の仕組みはわかりませんが、その手段を取るためにはわざと竜王の攻撃を受ける必要があります ! 」

 

「薬草だってさっきあんたの手持ちも全部使ったからもう無いんだよ、もしまた瀕死寸前まで追い詰められたら今度こそ助からないよ!」

 

 アルスを心配する二人だが、当のアルスは首を振るう。

 

「ロトの剣があてにならない今、もう他に方法が無いんだ」

 

「……仕方ない「賛成できません」ちょっ姫様!?」

 

 セシールの瞳には明確な拒絶の意思が宿っていた。アルスの考えには賛成できないと。惚れた男が死ぬとわかっていて自分だけが助かるかもなどというヤワな考えなどこの王女様は持ち合わせてはいない。

 

「アルス、その方法を使うならば炎の剣に竜王の炎を命中させれば良いのでしょう?」

 

「だけど竜王の炎を確実に命中させるには敵の前に立たないと……」

 

「……いや、何とかなるかも」

 

 アルスとセシールの瞳がローラを見据える。ローラもまた度胸は一人前、伊達に今まで竜王城で姫様の真似事をして竜王達をだましてきたわけではないのだ。だがローラが提案した方法を聞いたアルスは即座に却下した。

 

「そんな方法は取れない!第一セシール達が危険すぎる!」

 

「いえ、やりましょう」

 

「セシール!?」

 

 ローラの提案を即座に了承するセシール。驚くアルスに対しセシールは真っ直ぐに目を見合わせた。そこに立っていたのは紛れもなく王女の風格漂う女傑の姿だった。

 

「アルス、私も竜王の脅威は知っています。いえ、私の想像を超えていました。ならばなおの事アルス一人を死地には向かわせるわけにはいきません。私も戦います」

 

「アルスさん、こうなったら姫様を止めるのは誰にもできないよ」

 

「貴女はセシールの侍女なのでしょう?何故もっと止めないんですか!」

 

「そりゃあ……姫様の瞳にも炎が灯ってるからさ。しかも竜王の炎以上に熱い炎がさ」

 

 何時だって覚悟を決めた人間というのは強いし侮れない。特に命や恋愛事が絡んでいれば尚の事。セシールの瞳の奥にはアルスと共に戦うという熱と決意という名の炎がベギラマ以上に燃え上がっていた。

 

「時間がありません、アルス」

 

 勝てない、少なくともセシールには――アルスはそう実感した。

 

「……わかったよセシール、ローラ……さん。俺に力を貸してくれ」

 

 強大なる敵を前に、アルスは初めて共に戦う仲間を得たのだった。

 

* * *

 

「ふん、高々砂の分際でまとわりつくとは鬱陶しい奴め……だが」

 

 竜王は僅かに残っていたゴーレムの右腕をぐしゃりと踏みつぶした。

 

「この通りよ」

 

 ゴーレムの妨害を受けていた竜王、幾度かの攻撃を受けはしたものの傷は付かなかった。他のドラゴンとは文字通り強さの次元が違う。

 

「さて……隠れているのはわかっているぞ勇者、姿を見せよ ! 」

 

 竜王にとってこれは脅しにもならない、むしろ単なる遊びだった。炎に焼かれ回復手段を失い、みじめに隠れる事しかできない。伝説の勇者の子孫とは思えぬみっともない姿をさらさせようとしていた。王とは傲慢な生き物なのか……。

 

 竜王の地の底から聞こえるような言葉によって姿を見せたのはアルスではなかった。現れたのはセシールとローラ、炎の煤に汚れた二人の女性の片方は悠然と、もう片方は得意げに竜王を見た。

 

「竜王よ、ロトの剣の秘密は掴みました」

 

「へん、甘いよ。あんたがほったらかしにしておいた光の玉が呪いを消してくれたのさ」

 

 宝物庫にしまっていたアレフガルド最高の宝である光の玉、闇を剥ぎ太陽を取り戻させた玉が呪いを消せぬという通りは無い。

 

「光の玉……そうか、何とも手癖の悪い女達だ」

 

 自らの呪いを与えた装飾品が無い事に少しだけ驚く竜王だが、ただそれだけだった。

 

「で?勇者が倒れた今、ロトの剣の使い手はもういない。まさかとは思うが、姫が剣を持って戦う気かな?もしそうなら物語の読み過ぎだな。いくらロトの剣と言えど軽々と持てる代物ではない。戦いも知らぬ女に使いこなせるわけがない」

 

「たしかに、でも光は我々の手にあります。そして勝利の鍵もここに」

 

 そう話すとセシールとローラは一振りの剣を持ち上げた。そこにあるのはロトの剣、窪みに赤く光る宝玉を埋め込まれた状態の剣を視界に捉えた竜王は今度こそ演技ではなく本気で驚くことになった。

 

「なにッ!その宝玉は!」

 

「貴方がセシールに渡した情報のおかげで正解に辿り着けました。礼を申し上げますわ、愚かな竜王サマ」

 

 王は傲慢である。セシールとローラに呪いと情報を与え苦しむ姿を見ようとし、その結果ロトの剣が正しい形になってしまった。壊れたのか外れたのか不明だが行方もわからずにいた、剣の強さの一部でもあるとされるオリハルコンでできた宝玉がまさか最初からセシールが持っていたとは考えもしていなかった。

 

 アルスをいたぶる為に最初は様子見をし、本性を現して完膚なきまでに叩きのめした。ロトの剣という最後の希望がただの仮初だと理解させ絶望する姿を見たかった。だから最初はロトの剣の攻撃を受けて見せた。しかしロトの剣が元の形になったのなら話は変わる。竜王の表情がローラにもわかるほど、真剣な眼に変わったのだ。

 

「……気が変わったわ。ロトの剣の性能を十全に発揮できるのなら」

 

 ズンと竜王が一歩前に出る。城が揺れ、ローラが思わずヒエッと小さな悲鳴をあげる。セシールは悲鳴こそ悲鳴をあげなかったものの汗が一筋滴り落ちる。

 

「ここで葬らなければなるまい。姫の命は惜しいが……もうよい。あのモンスターを倒す為に、別の方法を考えるとしよう」

 

 竜王が手加減を止めて炎を吐く態勢に入る。息を深く吸い込み激しい炎をセシールとローラに向かって襲い掛かった。思わずローラが目をつぶった瞬間、物陰で息をひそめていたアルスが激しい炎に向かって炎の剣を投げつけた。

 

「竜王!」

 

「勇者、そこにいたか……ムッ!? 」

 

 セシール達と竜王の間に投擲された炎の剣はアルスたちの狙い通り、竜王の激しい炎を吸い取り己の炎を増幅させてゆく。剣の刀身からは真っ赤に燃え上がった炎が力の行き場を求めて暴れ狂っている。

 

「まさか、儂の炎を利用したのか?」

 

 床に落ちてくる炎の剣を握りしめた途端、アルスの手が炎に襲われる。力と炎が暴れまわり持ち主であるアルスを痛めつけようとするが、アルスが身に着けているロトの鎧がそれを防いでくれる。激しい炎を何度も防御してくれた伝説の鎧がアルスを守ってくれたのだ。

 

「これなら……いける、いけるぞ ! 」

 

 改めて炎の剣を握ったアルスが竜王目掛けてとびかかる。

 

「このくたばり損ないめがッ!」

 

 竜王が腕を大きく振りかぶりながら爪と腕力でアルスを襲う、だがスピードならば巨体の竜王よりもアルスの方が上であった。さらに。

 

「な、コイツ、まだ動けたのか ! ええい放せ ! 放さぬか ! ? 」

 

 床に散らばったゴーレムの残骸とも言える砂が最後の力を振り絞り人型へとなり竜王を羽交い絞めにし行動を封じる。それは大魔道によって操られた事による恨みか、それとも自身を守護神へと戻してくれたアルスへの恩返しか、あるいはその両方かもしれない。

 

「「行けエエエッ!!」」

 

「うおおおおッ!」

 

 アルスの雄叫び、応援するセシールとローラ、ゴーレムの援護、四人の作戦により生まれた大きな力は激しい炎を上回る灼熱となり竜王の胴体へと突き刺さる。

 

「ぐおおおオオオッ ! ? 」

 

 この時竜王は初めて痛みによる声を出した。演技ではない、本物の苦痛による声であった。

 

「姫様、あいつに攻撃が効きましたよ ! いけますよコレ ! 」

 

「ええ、これなら勝て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったな」

 

 希望を見いだせたのはほんの一瞬だけだった。竜王は痛みを無視し攻撃を行ったのだ。力任せの腕力と尻尾による殴打がゴーレムを完全破壊し、竜王の拳がアルスを炎の剣諸共殴り飛ばした。アルスの身体が宙を舞い、炎の剣は本来の耐久性以上の力を奮った代償に加え竜王の攻撃によって折れてしまった。

 

 竜王の言葉が空気によってセシールとローラの耳へと届いた時には全てが終わっていたのだ。

 

「そ、そんな……アルスッ!?」

 

「正直言って見事だったぞ。ロトの剣ではなく市販品の武器で我が身体に傷を付けたのだ、この竜王の鱗にな」

 

 竜王の傷は瞬く間に塞がっていく。炎の剣で与えられた傷跡から通された荒ぶる炎が竜王の体内に回るが大したことは無いと竜王は判断した。

 

「ぐ……うう」

 

 殴り飛ばされたアルスは辛うじて動けるようではあった。ゴーレムの砂がクッション替わりとなり受け止めてくれたのだ。

 

「さあ、ここまでだ。勇者の命脈は尽き、アレフガルドは再び闇に閉ざされるのだ。ぐあっはっはっは ! ! 」

 

 万策尽き、勇者は倒れ、魔王は高らかに嗤う。勝利を確信したまま……。

 

 王は傲慢である、だからこそ光の玉の淡い光に気が付かなかった。光に呼応するかのようにアルスが持つロトの印、王女の愛が光を帯び始めた。

 

 

* * *

 

心の中とは本人の本性がさらけ出される。王女の愛は心を繋ぐ。この場にいない者同士でも……アルスの心とブルーメタリックの鎧を着た女性の魂が同調する。

 

 

勇者とは何をもって勇者なのか?大魔王を倒したからか?いやいや、そんな物は結果にすぎない。では何か?

 

"そんなものはわからない。"

 

答えは出さなければならない。何時だって答えのない答えというものは己の中にあるのだから。

勇気を振り絞れ。

絶対に勝てないと思う相手でも戦わなければならない時がある。逃げてはいけない時がある。これから先もきっとある。少なくとも今はお前が戦う時だ。

 

立て。

斬れ。

守れ。

勝ち取れ。

お前の剣は何のためにある?

 

"酒場で働くあの姿。陽だまりのような笑顔。あの笑顔を彼女の隣という特等席で見ていたかった。だから俺は旅立ったんだ。

俺の剣はセシールを守る為に……。"

 

女の為か?

"そうだ。"

 

自信を持って言えるか?

"勿論だ。"

 

この世界の王がセシール、いや、ローラ姫を諦めろと言ったら?

"彼女を、頂く。頂いて、この大陸を去る。"

 

セシールが泣くかもよ?

"笑顔にしてみせる。"

 

だったらまずする事は?

"……竜王を倒す。"

 

力が足りないぞ?

"力を貸してくれ。"

 

私が誰か知ってるか?

"おそらく。"

 

では聞こう。勇者とは?

"……守ると誓った彼女を守り抜く、そんな存在だ。"

 

世界の平和は?

"守れたら守るよ。"

 

……よろしい。私も世界なんざどうでもいい、けど息子の為に大魔王を倒したんだ。あんたも女の一人くらいは守り抜きなよ。

"はい。"

 

一度だ、一度であのトカゲを仕留めるんだ。

 

使いな。私の剣、王者の剣を。

 

 

宝玉オリハルコンに輝きが宿る。

血が通うかのように同じ物質で出来た刀身に魔力が伝達されてゆく。

剣に風が吹いた。

剣が輝く、その剣は勇者の為に……。

 

 

 

ロトの剣が力を取り戻した!!!




ここまでありがとうございました。次回最終話です。
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