ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~   作:プニたけっち

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第二話です。セシールの名前は小説版ドラゴンクエストのヒロインからお借りました。


2.セシール( 王女)の愛

「…私はセシールではありません。セシールはこの身体の名前、私の本当の名は…名はローラといいます。ラダトーム王ラルフ16世の娘です」

 

アルスはセシールが最初何を言っているのか理解できなかった。セシールが本当はローラ姫で、でも身体はローラ姫ではない。

 

「セシール、君はいったい何を言っているんだ…?もっとわかりやすく説明してほしい。それだけじゃ俺にはわからない」

 

「その通りですね…詳細を説明します。どうして私がセシールになったのか…」

 

セシール…ローラは語る。竜王の軍勢がラダトームを襲撃した日のこと…。

 

※ ※ ※

 

セシールは私の侍女をしていました。姫である私傍には礼儀作法などの教育を受けた女性しかいません。何か粗相があっては事だからです。ですがそれだけでは私の侍女という仕事は務まらなかったのです。何しろ体力勝負の仕事でしたから、行儀が良いだけでは駄目だったのです。仕方なく父王は数名だけ平民から侍女の斡旋をする事にしました。当然審査は厳しい物でしたが、その審査を通ったのがセシールだったのです。

 

セシールは要領が良く仕事内容をすぐに習得し、体力自慢を活かし朝から晩までよく私のために尽くしてくれました。行儀はどうしても良くなりませんでしたが、それでも私にとって必要な存在だったのです。私が今こうしていられるのもセシールのおかげなのです。竜王の命令を受けた魔物がお城を襲撃した時…。

 

 

「姫様、ローラ姫様、ご無事ですか!?」

 

「セシール、あなたもよく無事で…」

 

「へへ、私は体力が自慢ですから」

 

自室の外を魔物に襲撃され逃げ場を失った私の下へ来てくれたのはセシールだけでした。力こぶを作り私を励ましてくれるセシール。筋肉質で町で別の仕事をしていた時は漢女と言われていたと自虐気味に教えてくれたセシール、線の細い私にとって彼女の健康的な身体は羨ましく思っていました。

 

「セシール、他の侍女達は…いえ、父王は無事でしょうか?」

 

「すみません姫様、多分他の侍女は魔物の襲撃にビビって逃げ出しました…国王陛下はどうなってるかさっぱり…とにかく急いでここへ来たものですから…ただ、兵士の方々は…」

 

「…そう」

 

申し訳なさそうに頭を下げるセシールに気にしないよう言いました。城の外壁を魔物が攻撃しいつ魔物が城内に入り込んでくるかわからない状況の中、私の元まで来てくれただけでも感謝の念を隠せません。

 

「でも魔物が人間の言葉を話していたのが聞こえました。ローラ姫と何かの玉と…何かの剣を差し出せば引き上げると」

 

セシールの言葉を聞いて私は何となく魔物の狙いが読めたような気がしました。おそらく魔物の狙いは光の玉とロトの剣。光の玉はかつて勇者ロトがアレフガルドの闇を払った宝玉、ロトの剣もまた勇者ロトが巨悪を討伐した際に用いた伝説の剣、両方ともラダトーム王家の国宝です。私を狙うのは人間の反抗を防ぐ為。

 

私は民からの人気は高い、それは自覚しています…いえ、自覚しなければなりません。私の存在はこのラダトームに生きる者達の活力、この恵まれた美しさも着飾るドレスも装飾品も、全ては私が美しく、民を支える為。誇張ではなくこれは事実、魔物の侵略に怯える民を勇気づける偶像。たとえ本来の私が今すぐにでも魔物や責任感から逃げ出したくなるような臆病者だとしてもそれはできないのです。

 

全ては人間の勝利のため。いつの日か勇者ロトの末裔が竜王を討ち滅ぼす日まで私はその責務は投げ出せないのです。

 

「…姫様、何かありませんか?せめて姫様だけでもこの場から逃げ出せるような魔法の道具とか」

 

時代の流れや竜王の侵略によっていくつもの優秀な魔法や道具が失われた。例えばアレフガルド最強の呪文ベギラマ…勇者ロトの時代ではもっと強力な呪文もあったと聞きます。私には常人よりも高い魔力があります。もし私が戦闘訓練を受けていれば魔物とも戦えたのでしょうか…?

 

ですが今は無い物ねだりなどできる状況ではない、あるもので窮地を脱しなければならないのです。ですがあるものといえばこの宝石くらい…。

 

「姫様、それは?」

 

私が取り出したのは先日お城の宝物庫から見つけた赤い小さな宝玉。お城の魔術師曰く、これはある特殊かつ非常に頑丈な金属でできていて魔力も内包している。ただこれはこの宝石本来の持ち主が何処にいるのかわかる探知機のような物ですと話していた。少なくともこの場では意味をなさない。

 

他には、一つだけ使える呪文がある。ただし『使っても何が起きるかわからない』と言われる禁断呪文と古文書には書かれていた。曰く、巨大な化け物が現れた、天から流星が降り注いだ、何も起こらなかったとも。

 

その時バリンと窓が破られた

 

「姫様、その呪文使いましょう。どうなるかわからないと言うけれど、もういつどうなるかわかりません」

 

しかし何が起きるかわからないというのはどうしても使うのをためらってしまうもの、この呪文を使った時何が起きるか…しかし私の肩を掴んでセシールは言いました。

 

「姫様、あんたの事はしっかり守るからさ!」

 

本当はセシールも怖いのに、それでも私を勇気づけてくれるその姿を見て私も覚悟を決めました。魔力を解き放ち、一か八かの賭けに撃って出る事にしました。

 

でも呪文の力は私やセシールの想定を超えていたものだったのです。

 

「パ・ル・プ・ン・テ!」

 

私が呪文を唱えた途端どこか浮遊感を感じました。まるで本当に空中に浮いているみたい…思わず私が下を見ると、そこには呪文を使う為に両手を上げている私と緊張するような眼差しで見つめるセシールの身体がありました。私の眼の前にはセシールの姿も見え彼女も状況が呑み込めていないような感じです。すると今度は私はセシールに、セシールは私の身体に吸い込まれて行きました。私もセシールも自身の身体に移動しようともがきますが吸い込む力は強く、私達は互い違いの身体に入り込んでしまったのです。

 

意識が戻った私が見たのは、驚くように私を見る『私の姿』でした。

 

「え…へ!な、なんで私がそこに!?」

 

私の身体が私を指さし普段の私ならば使わないような言葉遣いで驚いています。ドレスをまくし立てがに股に…そんな下品な格好をしないでほしいものです。

 

「落ち着きなさいセシール!」

 

「す、すみません姫様!」

 

姫様と言ったローラ、セシールと言った私…鏡を見なくてもわかるわ…私は今セシールの姿になっている。

 

「…ひょっとしたらさっきのパルプンテとか言う呪文でこうなっちゃったんですかね?」

 

「多分…いや、きっとそうね」

 

どう考えてもそれしか考えられない、パルプンテの効果で私とセシールの身体が入れ替わったとしか。

 

ミシミシと割れた窓が軋みついに壁にもヒビが入る。もう時間が無い…事態は余計に悪化した。慣れない身体ではもうどうすることも…それだけではない。ローラの身体になったセシールの身が危うい。このままではセシールが私の代わりに魔物の手に…。

 

「…へへ、ならチャンスじゃないですか。姫様、私の身体を使って逃げてください」

 

セシールが突然私を押してドアへ近づけていきます。

 

「セシール!あなたは何を言ってるの!?ローラは私なのよ、ここにあなたが残ったらあなたの身が…」

 

「でも見た目は私が姫様です。普段から姫様のお世話をさせて頂いている私なら姫様になりきれます。普段から鍛えてる私の身体ならきっとここから逃げ出せます」

 

「で、でもセシール、私はあなたを置いては…」

 

本当は逃げるのが王族として正解なのはわかっている。しかし仲の良かったセシールを置いて一人だけ逃げるのは理性が許してくれない。

 

「…姫様、私達ってなんだか顔が似てますね。私のほうが背が高くてちょっと筋肉質だけど、髪の色が紫と金髪で、なんだか他人の気がしなくて…なんだか妹みたいで…」

 

「何を…言ってるのセシール?」

 

「私の身体も捨てたもんじゃないですから…もし戻れなくても、目一杯おめかしして、恋して、そうすれば、漢女とかって言われた私の身体でも元の姫様の身体みたいになれますから…多分ですけどね。なんとか姫様の身体は守り通しますから…」

 

セシールの言葉や様子から私は感じた。セシールが死を覚悟している事を…震える手からそれが伝わってきた。

 

「逃げなさいセシール、これはラダトーム王女ローラの命令です!」

 

ドンッと私を押したセシール、私の胸には探知機だと言われた赤い宝石がありました。私は宝石を手にしついに部屋から飛び出し、私を守る為に戦った兵士の骸を飛び越え、魔物の手を逃れ、城から逃げ出したのでした。

 

「…ごめんなさいセシール…」

 

ローラ姫と宝は頂いた!というドラゴンの言葉を背中で聞きながら…。

 

※ ※ ※

 

長いセシールの話しを聞いたアルスはかける言葉が思い浮かばなかった。どう慰めればいい?気にするなと、きっとローラになったセシールは生きているとでも、そんな簡単な言葉をかければよいのか?アルスの口からは空気しか出ない。

 

「私には生まれ持ったもう一つの特技があります。王族ならば必ず持つ特技、『相手のレベルがわかる』のです」

 

セシールが話す特技、レベルがわかる。それはそれぞれの人間が生まれ持つレベルの限界がわかると同じなのである。

 

「アルス、あなたが持つ最高のレベルは30。これは今まで私が見てきた中でも最高の数値なのです。本当は勇者ロトの末裔が現れたら竜王討伐をお願いしようとしました。しかしセシールが連れ去らわれもう半年、猶予がありません。私にできる事ならば何でもします。どうかラダトームを…」

 

セシールは一息ついて、言い直した。

 

「…セシールを、助けてください…ッ!」

 

涙を流しセシール…ローラはアルスに懇願した。

 

女の嘘泣きではない本気の懇願、アルスの心の天秤がシーソーのように揺れる。今まで生活を楽にしたいと考え生きてきた。確かにアルスは普通の人よりは強い。だが魔物と戦った経験は無い。誰もが魔物と戦うのは初めて。動くならいつなのか?動くべきだと考えた時。両親はもう亡くなり天涯孤独、普通の人だった。ではお祖母ちゃんは?とても強かったのかもしれない。

 

頭でごちゃごちゃ考えていても始まらないし纏まらない。明日まで待ってと頼んでも決まらないに決まってる。結局動く動機なんて何でも良い。惚れた女が助けを求めたから、結構なことだ。これ以上無い理由だろう。

 

では戦うために必要なのは何なのか?勇者に必要なものは何なのか?そんなものは決まっている。

 

「ローラ姫…いえ、セシール」

 

勇者の武器は…。

 

「俺は…俺はッ!」

 

一欠片の勇気である。

 

「俺…やるよ。本当に竜王を倒せるかなんてわからないけど、それでも…やれるだけやってみるよ!」

 

それは男の意地かハッタリか、それでも構わない。勇気がアルスを動かしたのだから。

 

「…ありがとう…ございます…!」

 

セシールの涙は流れる涙から大粒の涙へと形を変えた。セシールは両手で顔を覆い嗚咽を上げながら声を押し殺していたのだった。

 

※ ※ ※

 

それから数日後、ラダトームから少し離れた丘には旅に出たアルスの姿があった。

 

腰には銅の剣、今まで着ていた布の服から皮の服に、左手には皮の盾を持ち懐には薬草を束ねる。

 

そして道具屋の店主からは餞別として竜の鱗を貸し出された。

 

『生きて返しに来い』

 

そう言いながら…。

 

『身体には気をつけろよ』

 

そう言いながら見送ってくれた宿屋の店主。

 

『私がこんなことを言えた立場ではありませんが、ご無事で…せめてこれをお持ちください。私が持ち出せた唯一の品です』

 

アルスの手にはセシールから託された赤い宝石がある。これが探知機だというのは信じられないが、まだこの宝石には大事な何かがあるとアルスの直感が伝えていた。

 

「…行ってくるよ、みんな…ローラ姫…いや、セシール」

 

アルスにとってはローラではなくセシール。たとえあの凛とした姿が本当で、店で働く元気な姿が演技だったとしても…。

 

アルスはみんなの勧めに従い、まずは北に向けて歩きだすのだった。

 

 

 

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