ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~   作:プニたけっち

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今までに比べると短いですが…ローラサイドも書いておかないと入れ替えの意味が無いので。


余談〜( ローラ)から( セシール)

「…はぁ」

 

アルスがラダトームを旅立ちそろそろ一月経った頃でしょうか?竜王の軍勢がラダトームを襲撃する事は無く一目見ただけでは平和が脅かされていることなど嘘のように感じられます。ですがロトの剣も、光の玉も、私の身代わりとして拐われたセシールも敵の手に落ちている今魔物達が手加減する必要はありません。

 

アルス…あなたは今何処にいますか?私の為に戦ってくれると誓い、あなたを死地へと追いやってしまった私を恨んでいますか?

 

私にはわかっていました。あなたが私に好意を寄せていることを。私とて王女の前に女、私を口説こうとする男性は何人もいました。私の外見を褒め讃え私の立場を利用しようとする者もいることも存じていました。

 

あなただけは私に純粋な好意を寄せてくれたのです。

 

でも…あなたはローラだった頃の私を知らない。あなたが知っているのはセシールと身体が入れ替わった後の私だけ。

 

もし…もし、私が元に戻れたら、この身体をセシールに返すことができたら、それでもあなたは私に好意を寄せてくれるでしょうか。あの汚れ無き瞳を私に向けてくれるでしょうか。

 

ああ、まだ昼だというのに空から一筋の光が降っている…流れ星に願いを言えば願いが叶うとセシールが教えてくれていました。

 

『アルスに会いたい』

 

胸の前で手を重ね願いを唱える。無事に帰ってきて下さい。

 

その刹那、ドン!と大きな音が私の前に轟きました!

 

目を閉じていたから何が起きたかわかりませんが、何かが空から落ちてきたようです。

 

流れ星に願いを唱えれば望みが叶う。セシール、あなたの言う通りだったようです。落下物の衝撃で起きた土煙が晴れたその先には、たった今会いたいと願ったアルスがいたのですから…。

 

※ ※ ※

 

「うん美味い!やっぱり親父さんの作る飯は美味いや!」

 

「おお、お前に作るのも久々だからな。遠慮はいらん、たらふく食えや」

 

私がお世話になっている宿屋の店主さんもアルスが帰ってきたのが嬉しいようで、この日は宿屋を貸し切りにしてアルスに腕によりをかけて作った料理を振る舞ってくれました。

 

「特にこのチキン料理なんて最高だよ。でもなんだか以前と味が違うような…?」

 

あ、それは。

 

「そうかそうか、そのチキン美味いか。良かったなセシール」

 

「え、なんでそこでセシールが…あ、ひょっとして」

 

「そうよ。こいつだけはセシールが作ったのよ。最近は前よりも更に料理を手伝ってくれてな、めきめき腕を上げてるんだよ。しかしすぐわかるとは流石だなアルス。やっぱり惚れた女の料理は一味違うか!」

 

バンバンとアルスの肩を叩く店主さんに対し、私は心の中で深々と頭を下げました。いい、あなたは大変素晴らしい働きをしてくれましたよ!

 

「い、いや、何となくわかっただけだよ」

 

反論するアルスですが、顔を真っ赤にしていては説得力はありません。まだそれほど旅立って時が流れたわけではありませんが、それでもアルスが旅の中で変わらないでいてくれた事をとても嬉しく思います。

 

「セシール、ありがとう。とても美味かったよ」

 

アルスの屈託のない笑顔はこれまで私に向けられた欲望に満ちた笑顔とは違う太陽のような物でした。でもこの笑顔はセシールの姿をした私に向けられたもの、ローラとしての私に向けられた物なのかはわからない。

 

私は未だに自信が無い。アルスを想うこの思いは恋心なのか、それとも竜王を倒す戦士に向けられた期待なのか…。

 

 

「美味かったな~、久しぶりにあんな美味いもの食べれたよ。明日からまた頑張れる気がする」

 

店主さんに今回の宿代は無料でいいと言われ早速用意された部屋に通されたアルスでしたが、当然のように私も通されました。

 

『上手くやれよ』そう店主さんは言っていましたが…ごめんなさい。私にはまだそんな勇気は無いのです…。

 

仕方無く無難なお話としてアルスの旅話を聞かせてもらう事にしました。

 

道を間違えてマイラへ行った事から始まり雨爺さんという名の雨の賢者からの修行、リムルダールでのお金稼ぎ、そして…謎の戦士に殺された虹の賢者様。アルスがルーラで飛んできたのもその戦士との戦闘を避けたかららしい。確かにアルスはラダトームにいた頃よりもずっと強くなってきている。そのアルスでも勝てないと言わしめる敵がいる…。

 

「あの時俺は逃げるしかなかった。だけど今度こそは…」

 

拳を握るアルスから感じられるのは…怒りと後悔、そして恐怖。逃げを選ぶしかなかった自分への怒り、虹の賢者様を助ける事ができなかった後悔、強大な敵に対する恐怖なのでしょう。

 

私の手は私も知らないうちにアルスの手の上に重ねていました。アルスの手の震えが幾分か和らいだような気がします。

 

「アルス…その、実際に旅をしていない私の言葉など説得力が無いとは思いますが…命を落とさないで下さい」

 

アルスの目が私を見る。

 

「私達人間は命を落としたらそこまでです。アルスが無謀な行いをしても良いことは一つもありません。アルスの帰りを喜んでくれた店主さんも、アルスを鍛えてくれたご老人も、そして…私も」

 

今まで群がる男性をあしらってきた(ローラ )のやり方ではなく、アルスが慕う( セシール)のやり方で伝えなければならない。おそらく私の顔はサウナで茹でたように真っ赤になっているでしょうが、それでも伝えなければならない。

 

「ですから…その…竜王討伐を頼んでおいて何をと思うかもしれませんが、生きて…私の下へ戻ってきて下さい」

 

竜王を倒してほしいと言ってしまった姫である( ローラ)、アルスに帰ってきて欲しいと思いもする女である( セシール)、どこまでも身勝手で都合のよい私を使い分けアルスに想いを伝える。

 

そんな地獄に堕ちるに違いない私の手をアルスは握り答えてくれました。

 

「大丈夫だ…必ず帰って来る。俺は必ず帰るから…その時は、セシール…」

 

アルスの言葉は最後まで口にされることはなく、おやすみとだけ話し部屋を出る事になりました。当然ながらアルスは私をセシールと言った。今までは何とも思わなかったのに今だけは胸がチクリと傷んだ。

 

「私は…アルス私は…ローラなのです…セシールではないのです…」

 

私の今の身体は借り物の身体、パルプンテによるものだとしてもセシールが私に貸してくれた大切な身体…。

 

部屋に戻った私は姿見の前に立ち私を映す。細すぎず、かと言ってふくよかでもない丈夫で健康的な身体。肌が白く重い物など持ったことがない、男が好むローラの身体とは全く異なる生命力に溢れる身体…。

 

 

「アルス…」

 

鏡の前の私は一人の男の名を呼び酷く醜く笑っていた。アルスの望みに応えるためには、この身体をセシールに返すわけにはいかない。ローラに戻ってしまったらアルスはきっと私から離れてしまうから。セシールに取られてしまうから。

 

私は自分の身体を抱きしめ、今まで肌見放さず首から下げていた宝石を初めて外した。

 

おそらくこれは私の最初で最後の我儘。彼女の信頼を裏切る最低の我儘。でもこれだけは、これだけは絶対に手に入れたい。

 

「セシール…大事にするから…だから…」

 

私の唇が三日月のように曲がる。

 

「この身体…私がもらうわ」

 

アルスを手に入れる為に…私はセシールを裏切った。




お読み頂きありがとうございました。
最後の方書くの楽しかったです。
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