ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~ 作:プニたけっち
鉄の盾が掲げられたと同時に悪魔の騎士の斧が振り下ろされ鉄の盾と激突、ガライの墓に甲高い金属音が鳴り響いた。それは戦いの合図でもあり受け止めたアルスの左手に痺れが残る。
「はい。受け止めたか、反応できるようにはなったようだな」
悪魔の騎士は口など無いのだろうが、もしあるとしたら笑っていたのだろう。しかも獰猛な獣のように。アルスの成長を喜んでのものでは決してない、獲物の仕留めがいがあるからなのだろう。
(やはり強い、まだ腕が痺れる…)
アルスは間髪入れずに右手に握る鋼鉄の剣による斬撃を繰り出すが悪魔の騎士はお返しとばかりに盾で受けきる。突進してきた相手とは違いアルスは腕の力だけで攻撃をした為攻撃が軽い。悪魔の騎士の盾が鋼鉄の剣を押し返そうとしているのがわかると、アルスは後方に軽くジャンプし少しだけ距離を取り再度攻撃を行う。重装備であるにも関わらず俊敏な動きで後方へ下がり、アルスの攻撃は空を切った。
互いに近すぎず遠すぎない程の距離を保ち殺気を飛ばす。その中でアルスは薄暗い地下墓地の中で悪魔の騎士の懐から小さな灯りが漏れているのを見た。
「はい。この灯りが気になるか ? 」
余裕の現れなのか悪魔の騎士は懐から一つの赤く耀く石を取り出しアルスに見せびらかすように指でつまみ見せた。大き目の石であるそれは強い魔力を内包しているらしくそこら辺に転がっているような代物ではない。
『あれは…たしか太陽の石だったかな。彼女がラダトーム城の台所で見つけたとか言っていたよ』
ガライがアルスの横で懐かしいように口にする。どういう経緯かは知らないが、どうやら昔勇者ロトは台所にあった太陽の石を見つけ出しそのまま持ち出したらしい。
「太陽の石…あれが…」
「ほう、どういうわけかは知らないが知っていたか。そうだ、これが太陽の石だ」
悪魔の騎士は感心したように話すと太陽の石を懐に仕舞いなおす。どうやら地獄の騎士にガライの姿は見えていないようだ。兜の奥に光る瞳はただアルスだけを視界に捉えている。
「今まで勇者ロトにまつわる道具は必ず守っていた人がいた…まさかその太陽の石の持ち主も…!?」
アルスの予想は当たっていたのだろう。悪魔の騎士は間違いなく兜の奥で笑っていた。
「はい、私が殺した。ラダトームに隠れ住んでいたがな」
本当に、本当に何ともないかのように悪魔の騎士は淡々とアルスに事実を伝えた。悪魔の騎士は神出鬼没、どういうわけかラダトーム城の間取りは筒抜けであり、太陽の石は城の堀付近にある隠し部屋に存在していた。太陽の賢者が勇者の為に守っていた石は悪魔の騎士の手に落ち、賢者は斧で惨殺され隠し部屋に設置されていた精霊神ルビスを崇める十字架に磔にされてしまっていたのだ…。
「これで残すは雨雲の杖だけだ。あれを手中に収めれば虹の橋は二度とかからない。竜王様の城にたどり着く術は無くなる」
悪魔の騎士の声は耳障りであった。アルスにはたとえ事実だとしてもこれ以上敵の声を聞くこと自体が余りにも鬱陶しく拷問同然でもあったのだ。
『今ここでこいつは倒さなければならない』
アルスの鋼鉄の剣を握る力が更に増し、それでも無鉄砲に突っ込む事はせず隙を伺う。相手が強者である事には変わらないのだから。
「どうした?向かってこないのか?」
悪魔の騎士の安っぽい挑発はアルスの神経を逆撫でする。攻撃できるものならもうとっくにしている。敵はアルスを見くびっている。本当なら攻撃する機会は今しか無いのかもしれないが、先程の短い斬り合いの中でアルスは察することができた。
単純にレベルが足りない。今のアルスではまともに戦えるだけの力が足りないのだ。捨て身で戦ったとしても勝てるかどうか…?せめて仲間がいればどうにかなったのかもしれないが今ここにいるのはアルスと幽霊のガライだけであり打開策など一つも思いつかない。どうすれば…と悩むアルスに対し横からガライが声をかけてきた。
「ふむ…アルス、一計があるんだけどのるかい?少々、いや、かなり危険な賭けになるんだけど」
「な、なんですかガライさん。今はそれどころじゃ…いえ、一計?それはいったい…」
ガライはボソボソとアルスに対しその一計とやらを話す。アルスの顔が一瞬曇るがそれはほんの僅かな間だけであり、コクンと頷いた。
「はい。誰と話しているかは知らないが、余計な事はさせぬ。貴様が逃げれば町の人間は皆殺しだ。それは変わらぬ」
悪魔の騎士は油断せず斧をアルスに向け再度残酷な宣告を伝える。一方でアルスもそれはわかっており戦闘態勢を崩すことは無い。ただ、アルスの懐にあった銀の竪琴が独りでに宙を浮き動き出した。悪魔の騎士には銀の竪琴が空中浮遊しておるようにしか見えないがアルスには見える、ガライが銀の竪琴を持ち構えたのだ。
「さて、僕の正真正銘最後の演奏会だ。楽しんでくれたまえよ愚かな騎士クン」
ポロンと銀の竪琴の弦が音を立てて墓に響いてゆく…悲しげな音と共にガライの演奏する銀の竪琴の力がこの周辺に染み渡り異様な空気を生み出す。音の力は魔力を産み、魔力は良からぬ者を次から次へとガライの演奏会場へと運んで来るのだ…。
「…ふん、魔物か」
このガライの墓に出現している複数の魔物が銀の竪琴に向けて集結し始めたのだ。銀の竪琴の音色は魔物を呼び寄せる。演奏した者は魔物に襲われ命の危険にさらされる。そう、本来であればの話しだが…。
「来たか…行くぞッ!」
アルスは出現した魔物目掛けて攻撃を開始。竪琴の音色に釣られてきた魔物を鋼鉄の剣で一撃のもとに倒していき、終わったらまた次へと直ぐに戦闘を行っていく。
「はい。魔物退治?私との戦いを避けるつもりか?」
悪魔の騎士は独りでに動くように見える銀の竪琴には目もくれずアルスから視線を離さない。アルスの行動には何か狙いがあるはずだと確信を得ていたからだ。だがガライの最後の演奏の前には悪魔の騎士も無関係ではいられない。
「…なにっ!?」
悪魔の騎士は視覚外から魔物に攻撃され、遅れて今のこの状況に気がついた。自らも魔物に囲まれ攻撃を加えられているのだ。本来であれば魔物は人間しか襲わない。だが銀の竪琴の前にはそんな事は一切関係なく近くにいる者を攻撃するのだ。本来なら演奏者を襲うのだが、その演奏者は幽霊であり魔物も攻撃ができない。ならばと近くにいる悪魔の騎士を襲い始めたのだった。
「ええい鬱陶しい!」
悪魔の騎士も懸命に斧を振るい魔物を蹴散らす。さすがは悪魔の騎士、この墓の魔物程度ではダメージが通らず一撃で魔物を倒す。しかしガライの演奏は止まらない。次々と新しい魔物が供給され一匹づつ倒していってもきりが無い。
倒しても倒しても、どれだけ倒しても群れてくる魔物の群れ。いったい何匹いるのかわからない。いくら銀の竪琴が安置されていた部屋が広い空間だとしても限度がある。いい加減痺れを切らした悪魔の騎士は斧で横一閃、魔物の腹を一気に切り裂き自分が動ける空間を作った。
「その演奏を止めろオッ!」
悪魔の騎士は走る。目標は銀の竪琴。とにかく勝手に演奏を続ける銀の竪琴を止めなくてはならない。乱戦状態の中で銀色に輝く竪琴はよく目立った。
悪魔の騎士が銀の竪琴を強引に掴むとようやくガライの演奏は中断された…否、終了した。
「僕が今演奏したのは心滾る戦いの歌でもなければ彼女に贈る愛の詩でもない」
乱戦状態だった戦いの場で目印は2つあった。銀色に輝く竪琴。そしてもう一つは…。
「鎮魂歌さ。君へのね」
ガンッと金属がたたっ斬られる音が鳴り、悪魔の騎士の鮮血が床を汚した。
「ガアッ!?…な、何が…」
銀の竪琴を使い乱戦状態にした理由は2つ。一つは悪魔の騎士の注意を銀の竪琴に向けること。もう一つは…アルスの純粋なレベルアップの為である。悪魔の騎士を倒すだけの実力が足りない。
ならば、今ここでこの場で強くなればいい。
銀の竪琴を使い魔物を大量に呼び寄せとにかく敵を倒しまくる。突拍子の無い行動を取れば相手は思考を停止し時間が稼げる。
魔物で悪魔の騎士の足止めをしつつ、そして他の魔物をアルスが倒す。当然アルスも疲労やダメージは蓄積されるが、アルスには魔法の鎧がある。動けば体力は回復するので問題点は無い。超短期間でアルスのレベルアップを行い不意打ちでもいいから強烈な一撃を叩き込む。悪魔の騎士は大柄なので乱戦でも場所が判れば攻撃は外れない。目印は銀の竪琴ともう一つ、レミーラの効果が薄れ暗くなっていく空間の中で紅く光る点。力強く輝く小さくも確かな点…それは太陽の石の光であった。
「レミーラ ! この隙は逃がさない ! 」
奇襲に成功したアルスが照明を確保するとすぐさま悪魔の騎士に連続攻撃を浴びせる。この限られた時間でレベルを16から18まで上げたアルスの攻撃は一味も二味も違っており、背後の鎧を砕いた後に盾を弾き飛ばし肩、小手、胸、腹と部品を砕き次第に鎧の中が見え騎士の肌が見える。
「おのれ…調子に乗るな ! 」
悪魔の騎士は初めて怒気を滾らせアルスに向かって斧を振り下ろす。その攻撃は今までの軌道修正が可能な攻撃ではなく完全に力任せな単調な一撃であった。
「当たるかそんな攻撃 ! 」
「ぐ、オオッ ! 」
振り下ろされる斧に対しアルスは離れるのではなくあえて突っ込み体当たりを試みる。密着状態となった悪魔の騎士の攻撃は空振りに終わりバランスを崩す。よろめいた悪魔の騎士の顔面に鋼鉄の剣が直撃、会心の一撃を浴びせたのであった。兜が砕けた箇所から見えたその顔は端正な顔立ちをしながらも血まみれになり憎悪の表情でアルスを睨む金髪の男であった。
「オ…ご…よくも…」
悪魔の騎士は懐からキメラの翼を取り出し空中へ放り投げた。急いでいた為に太陽の石が転げ落ちてしまったが、追い詰められた悪魔の騎士には拾い上げている暇などなかった。
「はい…ドムドーラで待つ…そこで決着をつける…」
キメラの翼は悪魔の騎士を本拠地である竜王城までその身を運ぶ。天井に身体をぶつけながらも貫通しながら、罅だらけの鎧がさらに壊れ、破片を辺りに散らばせながら…。悪魔の騎士が開けた天井からは太陽の光が射し込みガライの墓石を輝かせていた。銀の竪琴は悪魔の騎士に持ち去られてしまったが、アルスは悪魔の騎士の撃退に成功し太陽の石を手に入れた。たとえそれが薄氷を踏むような勝利だとしても…。
「あいつは…」
「知っているのかい ? 」
アルスには悪魔の騎士の正体には心当たりがあった。あの男はあの日ラダトームのパレードで見た…勇者として送り出された金髪の男だったのだ…。
悪魔の騎士とは今回では決着つかず次回に持ち越しです。では、お読みいただきありがとうございました。