ドラゴンクエスト~Ars, please take me with you~   作:プニたけっち

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なんとか日をそんなにまたぐことなく投稿できました。


8.鋼鉄の剣

アルスがメルキドに辿り着いたその翌日、メルキドの朝は住民の悲鳴が木霊する朝となった。

 

 助けてくれ!

 なんであのゴーレムが暴れてるんだよ!?

 マゾットさん、早くゴーレムを止めてくれ!

 

 堅牢だったメルキドの壁が崩れる、それも魔物の攻撃ではなくメルキドの守護神であるゴーレムの手によって。

 

「ええいいったいどうしたというんじゃ!これゴーレム、止まれ、止まらぬか!」

 

 メルキド名物の展望台ではゴーレムの製作者であるマゾットが懸命に呼びかけながら妖精の笛を吹き鳴らす。普段であれば静かに眠りに就く筈の停止信号だったが今はマゾットの指示を全く寄せ付けず、今まで守り抜いてきたメルキドの壁を次々と砕いてゆく。

 

「いいぞ、その調子だ。そのままメルキドを更地にしてしまえ!」

 

 メルキドから離れた場所にいるのはゴーレムを狂わせた張本人である大魔道。自身の魔力によってゴーレムの制御を狂わせ労せずしてメルキド攻略を行わんとしていたのだ。さらに大魔道のすぐそばにはメルキド周辺に居座る魔物の群れ、これまではゴーレムに邪魔されてきた鬱憤を晴らそうと文字通り牙を剝き出しにし待ち構えている……メルキドの住民はゴーレムに叩き潰されるか命辛々外へ逃げて魔物に喰い殺されるか究極の選択を迫られつつあった。

 

 

 宿屋で熟睡していたアルスは突然の轟音に飛び起き、すぐさま身支度を済ませ宿屋の外へ飛び出すと、壁の外で暴れまわるゴーレムの姿に酷く驚いた。

 

「あれは……どうしてゴーレムが暴れているんだ ! ? 」

 

 アルスの当然の質問に答える者はいない、傍で宙に浮かぶガライも考え込んでしまっているのだから。

 

「と、とにかくあのゴーレムを止めないと。このままじゃメルキドが ! 」

 

「待つんだアルス ! 」

 

 アルスが鋼鉄の剣を抜き取りゴーレムへ駆け出そうとするとすぐにガライが静止の言葉をかけた。

 

「アルス、君の武器をよく見るんだ。今の鋼鉄の剣ではゴーレムの身体に傷一つ付けられないよ」

 

 アルスは抜き去った剣の刀身を見る。これまでの戦いで刃こぼれが目立ち素人目でも限界だということがわかる剣、だからこそ早急に炎の剣が欲しかったのだ。しかし昨日の商店へ行くための道は人で密集しており辿り着くまでどれだけの時間があるかわからない。迂回しようにもアルスは町の地理には詳しくない。最初は他の商店から武器を借りようとも考えたが住民は混乱しておりとても借りることはできないし、無理矢理持って行こうものなら逆に店主から何をされるか分かったものではない。

 

「だけど、だけどもこの状況を黙って見ていることなんてできませんよ ! 」

 

 アルスは鋼鉄の剣を鞘に納め代わりに鉄の斧を抜き取る。鋼鉄の剣に比べてまだ耐久力が残っている鉄の斧ならばまだ戦えるはずだと判断したのである。

 

「いくぞゴーレム……恨みはないけど、ここで君は止めなければならない ! 」

 

 混乱する人ごみの中をかき分け壁の外へ出たアルスはゴーレムへと駆け出す。

 

(だけど、能力で劣る鉄の斧でどこまで戦えるか……)

 

 ガライは決死の特攻を仕掛けるアルスを横に自らの考えを言葉にはしなかった。そんなことなど他でもないアルス自身が良く分かっている筈なのだから。

 

* * *

 

 ゴーレムの傍まで走り抜けたアルスは以前編み出したゴールドマン対策を実行する。手足の関節を鉄の斧で攻撃し地面へ崩していくというものだがあの時と決定的に違う点がある。それはゴーレムの大きさである。ゴーレムの全長は町の壁とほぼ同じに対しゴールドマンはゴーレムの半分程しかなく、アルスの攻撃ではビクともしない。

 

「硬い、予想以上だ……物は試し。ギラ ! 」

 

 アルスは一度距離を取りギラをゴーレムの顔面に向けて放つ。ダメージを与えられた様子は無いがゴーレムの注意をこちらに向けることはできた。ゴーレムは壁への攻撃を止めアルスの方を振り向く。しめたと思ったアルスだが遠くから大魔道の声が聞こえる。

 

「ゴーレムよ、そんなアリに構うな攻撃を続けよ。かげのきし、スターキメラどもよ、お前たちも行け。今やメルキドの城壁は崩壊寸前だ、今攻撃すれば堕とせる ! 」

 

 

 大魔道からの指示により魔物が動き出す。数十体もいる魔物がメルキド目掛けて動き出す。アルスが苦戦した魔物が一斉に動き出す。

 

「まずい、アルス一旦下がるんだ ! これでは勝てない ! 」

 

 ガライの珍しい大声がアルスの耳に届く。向かってくる魔物の群れにアルスも顔色を変え足が自然と後ろへ下がるが、一歩だけ後ずさりしたところで考えを改める。

 

「まだです……あの黄色いローブ姿の敵を倒せればもしかしたら……」

 

「何を言うんだ……あの魔物の群れを避けて辿り着けるわけが…… ! ? 」

 

「方法はあります……トヘロス ! 」

 

 アルスが唱えたトヘロスは自身よりも弱い敵から身を隠す呪文。今のアルスであれば敵を迂回することは可能である。現にかげのきし達は消えたアルスには見向きもせずひたすらメルキドへ進撃中なのだから。

 

「破邪呪文のトヘロス、これならいけるか…… ? 」

 

 ガライの不安な声をよそにアルスは大魔道へと駆け出す。今の攻撃で判明した通り、アルスの攻撃ではゴーレムは倒せない。あまりにも頑丈すぎるゴーレムの表面どころか柔らかいはずの関節部分ですら全く寄せ付けないのだ。町へ戻っても勝てる見込みは無い。ならばアルスは後退ではなく前進するしかないのだ。大魔道は前方を注視していて横の注意は疎かに見える。

 

 大幅に迂回しながら大魔道の立つ位置まであと僅かという所まで来た。あと少し……。

 

(今だ ! )

 

 アルスは鉄の斧を振りかざし大魔道目掛けて突撃を行う……。

 

 

 

 

 

 

「ベギラマ」

 

「 ! ? 」

 

 大魔道が突如放った閃熱呪文がアルス目掛けて放射される。咄嗟に半壊状態の鉄の盾を放り投げ空中で直撃、耐久力が限界だったとはいえあまりの熱光線に鉄の盾が溶けて荒れ地を熱し焦げ付くような独特の臭いが漂う。大魔道がこちらを向きローブの下からケラケラと不快な笑い声を響かせる。

 

「馬鹿め、気が付いていないとでも思っていたのか ! 」

 

「くそッ、演技だったのか……」

 

 不意打ちが失敗したアルスは鉄の斧と水鏡の盾を構えベギラマに備える。防具面は最高の物を揃えたとはいえベギラマの威力は脅威である。これまで敵が繰り出してきた呪文は耐えることができた。だが今大魔道が使ったベギラマはこれまでの呪文とは桁違いの威力だ。

 

「まあいい、その度胸に免じて相手をしてやろう。今もメルキドから出てこない連中とは大違いだ」

 

「……その余裕、すぐに変えてやるぞ」

 

 アルスは鉄の斧を上段に構えなおして腰を落とし突撃の姿勢を取る。対して大魔道は再度ベギラマの発射態勢に入る……。

 

「……マホトーン ! 」

 

「なにッ ! ? 」

 

 アルスは左手に持っていた水鏡の盾を手放し即座にマホトーンを撃つ。不意を突かれた大魔道はマホトーンの直撃を受けた。

 

「言ったはずだ、その余裕を変えてやると ! 」

 

「ベギラマ、ベギラマ ! おのれ……」

 

 動揺している大魔道に対しアルスは水鏡の盾を拾い上げそのまま今度こそ突撃、鉄の斧を目一杯の力を込めて振り下ろすが辛うじて大魔道も攻撃を躱す。数撃の攻防の末すぐさまアルスが大魔道を追い詰める。地面に転げた大魔道へと鉄の斧が振り下ろされる。

 

「とどめだッ ! 」

 

 大魔道の右手が鉄の斧の攻撃を防ごうと攻撃射線上に向けられる、アルスは構うものかとそのまま攻撃を続行。というよりも斧で攻撃態勢に入っている為今更キャンセルはできないのだ。それでも攻撃の絶好の機会、逃す手は無い。防ごうとした大魔道の手が会心の一撃で宙に吹き飛ぶ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だろうな、そう来ると思ってたよ。ベギラマ」

 

「なッ、ぐああああッ ! ? 」

 

 事は無かった、むしろ大魔道の右手から突如発射されたベギラマは鉄の斧を熔かしアルスに直撃、逆にアルスが大ダメージを受けてしまった。至近距離からベギラマを受けてしまったアルスは吹き飛ばされ大きく距離が開いてしまう。無残にも熔けて崩れた鉄の斧は鉄の盾と同じ末路を辿った。

 

「ど、どうしてベギラマを……確かにマホトーンが効いたはず……」

 

「愚かな、マホトーンを受けても必ず効くとは限らん。滑稽だったぞ、マホトーンがかかったと勘違いして意気揚々と攻撃してくる貴様の姿はなあ ! 」

 

 マホトーンやラリホーは必中攻撃ではない。かけられた本人でもなければ本当に効き目があるかはわからず、術者や第三者は相手の反応を見て予測するしかない。今までは耐性が無い敵に対して使用してきたからアルスも勘違いしてしまったのである。結果として、アルスは二度も大魔道相手に不覚をとった事になる。

 

「まだ、だ……まだだ。ベホイミ ! うおおッ ! 」

 

 アルスはベホイミで傷を回復すると水鏡の盾を正面に構えて鋼鉄の剣を鞘から抜き取り突撃する。先ほどとは違い大魔道へ円を描くようにして駆け抜ける。

 

(呪文はその性質を変えることはできない。ベギラマは強力な熱光線を直線上にしか撃てない)

 

 アルスの読みは正しく、いかに大魔道と言えどもベギラマの軌道修正をすることは不可能。それは竜王でもできない事、それは間違いない。今のアルスに出来ることは鋼鉄の剣による会心の一撃を浴びせる事だけだった。ガライはアルスに余力があるうちの撤退を勧めようとしたがその口を閉じた。ガライが生存していた時代と違いルーラは弱体化してしまい、一度行った場所ならすぐに飛んでいける便利魔法ではなくなってしまった。敵と接敵してしまった今撤退はできない。生き残るためには大魔道を倒すしかないのだ。

 

 「ほう、少しは頭が回るようだな」

 

 鉄の斧や盾と違い大魔道の余裕は崩れない。アルスがベギラマの弱点に気が付いた事に気が付くとアルスをニヤニヤと褒めた。当然この笑みは強者が浮かべる傲慢な笑みだが……。

 

 (そこだ ! )

 

 大魔道の無防備な左側。ベギラマを撃っていた右手ではなく左側に移動したアルスは確かな自信を持って攻撃を仕掛けた。今の鋼鉄の剣では攻撃できても精々一撃のみ。勝負は一発……アルスの右手が鋼鉄の剣による攻撃を大魔道へと叩きこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 命中したと思った。否、確かに命中した。だが攻撃によって吹き飛んだのは大魔道の首ではなく鋼鉄の剣の剣先であった。

 

「ば……馬鹿な……鋼鉄の剣が……」

 

「ハハハッ ! この大魔道をそこら辺の"まほうつかい"や"まどうし"と一緒だと思ったか ! 腕力でも他の魔物と引けを取らぬわ ! 」

 

 吹き飛んだ鋼鉄の剣に目を向けた瞬間アルスは大魔道の直接攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「アルスッ ! ? 」

 

「無駄だ、死ねいッ ! 」

 

 大魔道が次にしてくる攻撃はわかっていた。アルスが水鏡の盾を構える前に大魔道の右手からあの呪文が発射される……。

 

 まだあきらめていないアルスだが武器を全て失い対抗手段はもう無い。

 

 

 死

 

 

 アルスの横でガライの脳裏にその言葉がよぎる。

 

「ベギラマ ! 」

 

 大魔道から無慈悲な一撃が繰り出された。

 




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