空のような気高き一族。
そういう意志のもと生まれた〈
〈ミリシアズ〉は、そんな迫害されて住処を追われた人間で構成された、寄せ集めの民兵組織。
反乱組織〈ミリシアズ〉の揚陸艇内。
高度二千メートルともなると、いくら静かであっても、空気のどよめきがうるさかった。
〈
確かな膨みのある胸、健康的な白い脚。
普通なら学生を営む筈の年齢の、可憐な彼女が纏っていたのは味気の無い戦闘用の服。
「アベル、あたしが奪還予定〈アングリフ〉だけどさ……あの写真にあった紫の奴でいいのよね?」
そう言いながら歩み寄るは、
艶やかな白髪の輝きに、アベルは眼を細めた。
「……うん。ロビンは緑ので、ソウタは赤。リュウタ君は青い機体」
「で、アベルは白……と。上手くいくかな、この作戦」
ウルが眉を八の字にしながら言うと、アベルも同様にしながら微笑んだ。
「……上手くいかなくても、死ぬときは一緒だよ」
「怖いこと言わないでよ」
早口に彼女がそう返すと、アベルはその可笑しさからか、ぷっ、と吹き出してしまった。
「少尉殿〜? 作戦前に笑うとは何事ですか〜?」
「だって、だってね……私、友達とお喋りしたことなんてなかったもん」
瞳に涙を浮かべ、アベルは言う。
「……お父さんに、軍人の事を教わってる頃も、収容所にいる頃も自由とか希望とか、無かったからさ。お友達と話せる、って事がすごく楽しいの」
笑顔でそう言うアベルは、途端に声音を変えて続ける。
柔らかった瞳は急激に鋭さを増し、凍てつく眼光が迸ったようにも思えた。
「だから、帝国を潰す。潰して……そんな生活を続けてみせる」
その豹変ぶりは、眼の前にいたウルでさえ、寒気を覚えるほどだった。
「もう奪わせないように。だからこの作戦は上手くいくかいかないかじゃない。
◇
国土面積が、世界の四分の一を占める超巨大国家 アリア帝国。その高貴さと暴力を持ってして、全世界に力を証明してきた偉大なる国。
その首都 ウォーリンでは、何やら騒々しい行事が行われている様子であった。
ある軍事拠点。それなりに広い敷地を持つそこでは、出店が立ち並び、カラフルな飾りつけが施されたりしてすっかりお祭り気分。
式典用に武装を解除した〈アングリフ〉が多数行き交っており、騒々しさは絶えることがない。
そんな中、一際人が集まるのは舞台の前。
豪勢な飾りつけがされる反面、質素な台が置かれただけの舞台に、国民一同釘付けになっている。
黒を基調とした軍服に身を纏う、高貴なる男女が五人立ち並ぶ。
五つの刃が一斉に掲げられ、何者かが舞台に現れた時、国民たちは歓喜の声を上げた。
五人と似た軍服。されど、レオタード風にされた豪華な衣装を身に纏った男。
国民が絶対的国家元首とする、アリア帝国皇帝――アスルト・アリア。
真紅の髪に、真っ赤に燃え盛る鮮血にも似た瞳。貫禄のある面立ちをきり、と構えれば、国民は一気に静まった。
――見れば、国民全員、彼と同じように、赤い髪と赤い瞳を有していた。
それは、後ろ五人も例外ではない。
「誇り高き
拳を天に掲げ、声を張り上げるアスルト。
後ろに立つ彼の親衛隊は悠々と構えている。
「明日、長年の祈願であった〈忘却戦〉がついに実行に移されることになった!! 汚らわしく、我々に劣る人間どもを抹殺し、人類をさらなる進化へと導く、神聖なる戦いが幕を開けるのだ!!」
そう言い切れば、国民達がどっ、と湧き上がった。
それはまるで信頼――否、崇拝というべき熱量を持った歓声を、アスルトと親衛隊はその身に受ける。
「我が国の誇る最強の兵器〈アングリフ・リッター〉。この兵器を、
蒼炎を散らし、上空から舞い降りた二機のアングリフ――機体名は〈バーク〉。
古代の戦士を思わせる、白銀の装甲に包みこまれたボディと巨大スラスター。
マゼンタ色のモノアイがギラリと輝き、携えていた国旗を華麗に振りまわす。
国民達は、その見事な芸に歓喜し、黄色い歓声を飛ばした。
「我々こそが人類最強の人種であることを、世界に思い知らそうではないか!! 今こそ奮起の時だ、
突きつけられた拳が、陽の光を覆い隠す。
されど会場は、凄まじい熱気で溢れかえっていた。
「ジーク・アリア!!」
「「ジーク・アリア!!」」
皇帝を、そして国民に流れる血を称える言葉が狂ったように青い空へと響き渡る。
アリア帝国。
それは、貴族血統 アリア家によって紡がれてきた”血と暴力の国”。
真紅の髪と瞳を持つ〈
◇
暫く、歓喜の声は続いた。
皇帝が去ってから、親衛隊の者たちは式典の後始末に入る。
「信じられないな、本当に、本当に我々の時代が来るなど」
「あぁ、アスルト様の――いや、俺達の長年の夢が果たされるんだ」
親衛隊のヴェルクとエルンストは、口々にそう言った。
彼ら
「なぁカール。お前もそう思うだろ?」
「……え? えぇ、そうね」
髪をツインテールに束ねたカールは、言葉を詰まらせながら返事を返した。
親衛隊は皇帝直々に選抜された精鋭部隊。
それぞれに専用のアングリフ・リッターが与えられ、戦場で栄光を残す。
――加えて、全員が筋金入りの愛国者である。
三人がせっせと掃除に勤しむ中、片付けもせず、空を見上げる
軍服はコートタイプで、軍帽を深々と被っている。顔面に巻かれた包帯から覗く片方の瞳は、恐ろしいほど鋭く、真っ赤だった。
「マティアス。掃除も真面目にできねぇのかよ」
そんな彼をエルンストが注意すると、ヴェルクが笑い捨てた。
「よせ。〈白い悪魔〉は戦争のことで頭がいっぱいなんだ、放っておいてやれ」
「お、おい……」
マティアスの血塗られた眼が、凍てつくような悍ましい空気を張り詰めさせる。
エルンストは顔を歪めて彼らを説得しようとするも、上手くいかずに終わった。
「俺はあっちの片付けを手伝いに行く。せいぜい仕事をしてくれよ、
〈白い悪魔〉を睨んでから、ヴェルクは彼らに背中を見せて去っていく。
エルンストはやれやれ、と言った感じでカールは苛立ちを見せていたが、マティアスだけは頑なに感情を表に出さない。
「やれやれだ……こんな仲で戦争なんてやっていけるのかね」
――その箒が、どこからともなく発生した、爆発を伴う凄まじい揺れによって勢いよく倒れる。
「な、なんだ!?」
「地震……?」
二人が困惑する端で、再び視線を空に移したマティアスは、その蒼き輝きに瞳を細める。
「……戦いか」
◇
パラシュート降下の余韻が抜けぬ中、アベルは薄暗い地下通路を駆け抜ける。
アサルトライフルを構え、その銃身を防護アーマーで包まれた腕に預けてクリアリングを行う。
それは年端もいかぬ少女が覚えている筈も無い、洗練された行動だった。
爆弾は調整した筈だが、想定よりも激しく爆発した。
ここからは、時間との勝負である。
「人っ子一人いねぇな。怖えくらいだぜ」
深緑の髪と瞳を持つ〈
「無駄口を叩くな。撃ち殺すぞ」
「こっちの方が怖かったわ」
鋭い瞳を一際尖らせて、ロビンが言う。彼の青みがかった緑の髪と瞳は、
「爆弾に気づかれたかもしれない。なるべく急ごう」
アベルはそんな二人とウル、もう一人
「……クリア。次の突き当りが格納庫」
「イエッサー。相変わらず頼りになるねぇ」
た、た、た、た。
複数人で走っているにも関わらず、通路の虚空は一定のリズムで震えながら、彼女らの緊張感を煽った。
息が荒くなる最中、彼女らの視界には、微かな光が差し込んでくる。
暗闇を抜ければ、そこはアングリフの格納庫に通じていた。
赤髪に赤眼――
四人は、一斉に射撃を開始。
当然、作業員ゆえに抵抗する手段さえもたない彼彼女らは、無惨に撃ち殺されていった。
ばたりばたり、と髪色と同じ色の液体を噴き出しながら死んでいく作業員。
全員が息絶えた頃、四人は血眼になって周囲を確認する。
「通報……なし。良かったぁ」
純白の髪を血で濡らしたウルが、その安堵から膝から崩れ落ちる。
そんな彼女を横目に、男二人は格納庫に聳え立つ鉄の巨人へと駆け寄った。
「これが〈ゲディア〉……なかなか趣味の良い見た目じゃねぇか」
「子供っぽい。こんな見た目な物が兵器でいいわけあるものか」
悠々と構える五機のヒトガタ。
白、青、紫、緑、赤――いずれも、兵器と呼ぶには奇抜な見た目で、さながら、幼い頃誰もが憧れたヒーローのようなフォルムのアングリフが立ち並んでいた。
――それよりも、アベルはそこら中に倒れる亡骸の方に視線を寄せていた。
鼻息が荒く、華奢な手は震えている。
今にも暴発しそうな銃口を、アベルは足元の屍に向ける。
「アベル、何をしてる。お前も早く乗れ」
「お先にな!」
二人に声を掛けられ、アベルは欠けていた冷静さを取り戻す。
ロビンは、翡翠の装甲纏いし
〈ミリシアズ〉が今日、危険を冒してまでここに来た理由は、この機体に他ならない。
この特殊な機体――〈ゲディア〉。
盗んだ情報によれば、機体そのものに
「アベル、あたしも乗るね」
「うん」
「俺も乗ります」
「お願い」
ウルと青年が、〈ゲディア〉に乗り込もうと、床に転がる亡骸を跨ぎながら、ゆっくりと機体に歩み寄った。
焦りと緊迫を覚えながら、自らも残された機体に向かおうとした、直後のことだった――。
「……?!」
頭に電流が走るような感覚を覚え、咄嗟に足を止めて視線を急変させた。
視線の先は格納庫の入口――そこに、帝国軍人らしき人影が立っていた。
「っ!! 二人とも!! 走れ!」
悪寒を覚えた時にはもう、遅かった。
二度の発砲音。
まず、青年の額から血が吹き出た。
続いてウルが短い悲鳴を上げ、肩から鮮血を漏らしつつその場に倒れる。
血の湖にダイブする二人を見て、アベルはがむしゃらに銃を乱射した。
当たったかどうかは分からない。
だが、確認するより前に生きている方を救出するほうが先だった。
適当な亡骸を盾にし、ウルを抱き寄せる。
「ウル……!!」
「あたしの事は置いてって!!」
涙ながらに言うウル。まだ、助かる余地はあった。
「……見捨てないよ。絶対」
そう言って視線を上げる。
――そして、戦慄した。
例えるなら”悪魔”。顔面を包帯で覆い尽くし、片方の目は傷で失われている。
悪魔という異名が相応しい人間が、身の毛もよだつ形相で彼女を見下ろしていた。
「助からない。そいつも、お前も」
「このっ……!!」
終わった――そう思う前に身体が動き、彼女を抱えたまま回避に成功。
そして互いに銃を構えるが、アベルはまた、電流の走る感覚に一瞬悶えた。
「「!!」」
アベルと男は、互いに頭を抑える。
彼女のほうは軽かったが、男はといえば目を見開いて頭を抱えたまま、拳銃を下に向けていた。
「……なんなんだ……お前は……!!」
顔を歪ませる、隻眼の男。
片方だけ覗く瞳。鮮血に染まったそれは、純血の
「お前たちが好き勝手迫害してきた、可哀想な人間の一人だ!!」
アベルは怒りに身を任せ言い放つ。
あの赫い眼を見ただけで、寒気と殺意が湧いてくる。
相手が額に汗を滲ませるのを見て、チャンスと捉えたアベルは純白の機体へと乗り込もうとする。
されど、男の射撃によって妨害されて足を止めた。
「何か他に――」
焦燥に駆られたアベルは、ふと、格納庫の隅に横たわるアングリフへと視線を寄せた。
牽制射撃を行いながら駆け出し、その機体の影に隠れる。
それは、帝国の量産機〈バーク〉だった。
しかし色が通常と異なり、蒼く染められている。他の〈バーク〉とは一線を凌駕する何かを、その機体から感じた。
胸部のボタンを押すと、コックピットが露出。仄かな白光にチェアが照らされる。
「こいつ、動く……」
アベルは、決死の覚悟でそれに乗り込んだ。