劣等人種のテロリズム   作:聖成 家康

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4話 宴と立志

〈ミリシアズ〉。

 それは、フォルスター連邦国がアリア帝国と改められてから数年後より、その姿を現し始めた反乱軍のようなもの。

 

 構成人員は、どれも赫皇(クリムカイザ)人に迫害されてきた民族の血を有しており、多種多様な人間が集まっている。

 

 長年、反乱軍とは言いながら目立った活動をしていなかった為に無視され続けていた。

 

 ――しかし、何もしていなかった訳では無い。

 打倒アリア帝国を掲げ、念入りなる準備と訓練を積んできた。

 

 全ては、迫害され人権すら奪われた哀れなる人間たちのために。

 

 

 ◇

 

 

 ミリシアズ基地〈アンダーグラウンド〉は、明るい賑わいを見せていた。

 蟻の巣を彷彿とさせる、無数の通路とそれに沿うように部屋が造られたそこは、ミリシアズが生活を営み、鍛錬を積む場所だ。

 

 今日はほとんどの部屋が扉を開け、通路は構成員たちで満ちている。

 皆、誰もが笑顔だった。

 

 

 一際大きな空間を有する食堂でも、それは変わらない。

 ジュースや豪勢な食事が用意されて、お祭り騒ぎ状態。

 

 アベルは、そんな食堂の壁際で騒がしさに混ざれずにいた。

 

「食べないのか」

 

 気がつけば、料理の盛り付けられた皿を持ったロビンが立っていた。

 ほくほくと湯気を立てるナポリタン。見るからに出来立てで、酸味のある良い香りがする。

 

「それ、おすすめ?」

「あぁ」

「何食べようか迷ってたんだ。でも、ロビンが言うなら間違いないね」

 

 アベルは皿とフォークを受けとり、麺を大量に巻き付けて口へ放り込んだ。

 リスのように頬を膨らませるアベルを、ロビンは肩を震わせながら見ていた。

 

「美味しい。いくらでも食べれそう」

「それは良かった」

 

 隣に来たロビンは、携えていたオレンジジュースを一口飲んでから辺りを見渡す。

 ミリシアズは、はっきり言って物資が潤沢とは言えない。肉や野菜は作ってきたが、調味料なんかはどこかから仕入れてきた物だ。

 それを惜しげもなく使うのは、少し危ない習慣ではないか、とロビンは思っていた。

 

「ひどい浮かれようだな。まだスタートラインに立っただけなのに」

「代表がやろうって言ったからね。まぁ、私は楽しいからいいけど」

 

 そう言って、またナポリタンを頬張る。

 

 戦場での彼女と、ここ(アンダーグラウンド)での彼女はまるで違う。それこそ別人のようという表現が正しい。

 年相応の可愛げのある彼女が、戦場という舞台に立った瞬間、その化けの皮が剥がれる。

 ロビンはそれを、今回の作戦で初めて目にしたのだ。

 

「……ん? どうかした?」

「いや。なんでもない」

 

 凝視していたロビンに、首を傾げて問いかけるアベル。

 やはり別人のようだ、と彼は密かに思いながら、甘ったるい汁を胃に流し込む。

 

 

 

「ロビンのやつ相変わらず料理上手いなぁ。イケメンの癖して家庭的なのかよ」

 

 ソウタはテーブルに座り、山盛りにしたスパゲッティをかきこんでいた。

 噎せ返りそうになったところを、ウルに背中を叩かれ窮地を脱する。

 

「……ねぇ、あの二人仲良いよね」

 

 病み上がりのウルは真剣な顔で、横に並ぶアベルとロビンを見つめた。

 死にかけていたソウタも、同じ方向を見る。

 

「お似合いじゃねぇか。空傑(スカイレント)深樹(ディラドル)の歴史から見ても」

 

 アベルの民族 空傑(スカイレント)と、ロビンの民族 深樹(ディラドル)(彼は空傑との混血だが)は、古くから関わりの深い一族同士。

 故に本能やらサガやらと色々説明はつくだろう。

 

「もったいないなぁアベルも……ロビンみたいないい男があんな至近距離にいるのに、色仕掛けの一つもしないなんて」

 

 他人の事で頭を悩ませる彼女に、ソウタが鋭い指摘を投げかけた。

 

「対象は違うが、お前もな」

「ぶっ飛ばすわよ草男が」

 

 きつい返しをされて、大人しく萎縮した。

 

「……でもホントにアベル恋愛とかに全然興味ねぇよな。男どもは皆ゾッコンなのによ」

「何かあったんでしょ。あんな可愛いんだから、失恋の二つや三つしてるわ、きっと」

 

 

 ◇

 

 

 場所は移り変わり、〈アンダーグラウンド〉の上に広がる廃都市。

 ここは、まだ帝国がフォルスター連邦国だった頃。多数の民族が手を取り合うアルカディアという名の都市だった地だ。

 見るも無惨な姿になったが、行き場を失った人々の、最後の故郷として残り続けている。

 

 

 アルカディア跡地が持つ、広大な広場。

 そこは、よくパレードが行われていた憩いの場所。

 

 いつもは閑散としているそこに、今日は沢山の人が集まっていた。

 

 その人だかりの中心にオーディンはいた。

 スチールの足場に立ち、意気揚々と大声を張り上げる。

 

「皆聞いてくれ!! 我がミリシアズの優秀なる戦士が、残虐なる帝国軍から三機のアングリフ・リッターを持ち帰ってきた!! これは、立派な前進だ!!」

 

 彼の声音はよく通る。それもその筈、周りの人々はありえないほどに静まり返っているからだ。

 荒涼とした静寂の中、オーディンは熱烈に自らの意を語る。

 

空傑(スカイレント)深樹(ディラドル)純雪(ピュスノ)焦龍(ヴァントバー)……ここには、それ以外にも沢山の人間がいると思う。皆髪の色も目の色も、生まれ持った才すらも違う。だが、手を取り合えば、それは何人にも破れぬ強大な力になる!! そうは思わないか!?」

 

 一人熱くなるオーディン。

 だが、それは大きな誤りだった。

 

 そこにいる誰もが、彼の言葉に心を動かされつつあった。

 

「迫害され、人権までも奪われた。そんな帝国を許していいはずがない!! だから皆、手を取り合おう!! 我々ミリシアズも一歩一歩進んでゆく!!」

 

 一際大きく息を吸ってから、言い放つ。

 

「共に、悪しき帝国を打ち倒すことを、ここに誓おう!!」

 

 勇ましい言葉とともに突き立てられた拳。

 橙の輝きを背に掲げられた拳と共に、街中から歓声が湧き上がる。

 

 アベルは、少し離れたベンチに腰を掛け、ほんの少しどよめきを孕んで聞こえる歓声を浴びていた。

 

 住処を追われ、大切な人を奪われ、希望をも失った人々。

 そんな人間たちにとって、彼はきっと救世主か何かに見えるだろう。

 実際、ミリシアズはそんな彼を激しく慕う人間たちが多い。

 彼は慕われるに相応しい人間だと、誰もが思っている。

 

 

 けれどアベルは、皆と同じような感情を抱けなかった。

 自分が抱えるどす黒い何かが邪魔して、彼を慕いついていき、共に戦うような人間にはなりきれない。

 

 こういう時、疎外感を覚えてしまう。

 

 アベルは一人だけ颯爽と、〈アンダーグラウンド〉へと戻った。

 

 

 ◇

 

 

 〈アンダーグラウンド〉の格納庫は、帝国軍の小綺麗な物とは違い、殆ど倉庫と呼ぶに近いような内装だ。

 整備用の機器はたくさんあるが、とにかく錆臭い。

 軍人気質な彼女にとっては、それはお気に入りの匂いでもあったが。

 

 格納庫には、数年間、ミリシアズが奪ってきたパーツで造られたバークが数十機ほど並べられてある。

 そして新たに、〈トルネイド〉と〈アレス〉、本来予期せぬバーク・カスタムが格納されてあった。

 

 共に生き延びた機体に近寄り、その装甲に触れる。

 

「……ありがとう。君のおかげで生き残れた」

 

 追い込まれた時、バーク・カスタムが無ければあの男に――〈ブリーチ〉のパイロットに撃ち殺されていた。

 

 バークが元になっているにも関わらず、性能が良い。多彩な武装を装備できる反面耐久性と火力、機動力に劣る量産機であるバークを、カスタマイズ性はそのままに、火力や機動力の向上がされた機体といったところか。

 帝国軍製というのが気に入らないが、なかやか良い機体だった。

 

「アベルー? どうしたのー?」

 

 ウルの声が耳に入り、彼女は振り返った。

 思ったより至近距離に立っていたウルに、アベルは少し声を上げて飛び跳ねてしまう。

 

「騒がしいのキライだっけ」

「……うーん。どうだろう。そうなのかも」

 

 曖昧な返事を返す。

 見れば、彼女は腕を布で固定していた。

 

「……動かないの」

「いやいや。痛いからこうしてるだけ。痛みはすぐ引くってさ」

「良かった」 

 

 くしゃ、と笑顔を綻ばせた。 

 ウルは口を尖らせながら、彼女と一緒にバーク・カスタムを見上げる。

 

「アベルは何に乗っても強いんだろうけど……この機体でよく〈ゲディア〉なんかと戦えたわね」

「まぁ運が良かったからね。バタフライに気づいてなかったら、ただの消耗戦だったから」

 

 〈ゲディア〉は生半可なアングリフを一網打尽にできる性能を持つ機体。チューンナップされているといえど、量産機で生き残れたのは奇跡に近い。

 

「ところでさぁ。代表もだーれも教えてくれないから聞くんだけど、〈ゲディア〉って何? ”すっごく強い機体”ってイメージしかないわ」

 

 ウルはそう聞いてから、すぐに後悔した。

 

 可愛く、お淑やかだった彼女の表情が、恐ろしく冷徹で冷酷な戦士のものへと変化したからだ。

 

「…………〈GEnome DEstroy Assault system〉――それを搭載したアングリフを、総称してそう呼ぶ」

 

 声音までも冷たさを増した彼女は、瞳を細めながら続けた。

 

 

「パイロットの遺伝子と敵の遺伝子を照らし合わせる事で――()()()()()()()()()()()()()()()()事を効率化した機体。それが〈ゲディア〉」

 

 彼女の小さくて華奢な拳が、力強く握りしめられた。

 

「帝国が――あの赫皇(クリムカイザ)どもが、()()()()を根絶やしにするために作った機体だよ」

 

 

 ◇

 

 

 アリア帝国軍本部。

 首が絞まるような緊迫が張り詰めるそこでは、早急なる会議が行われていた。

 

 各重役が集められていた。皇帝の代理として、親衛隊も混ざっている。

 最も彼らはその中で最年少。話を聞くだけで精一杯だろう。

 

「奪われたのは〈トルネイド〉と〈アレス〉いずれも汎用性に優れた機体です」

 

 技術担当の老人が、薄暗い空間に照らされたホログラムの前に立ちながら言う。

 カールはバレないように歯を噛み締める。

 だが、隣に座るマティアスに睨まれ、渋々止めた。

 

「だが、ミリシアズなどというドブネズミ共に扱えるのかね」

「既にパイロットの遺伝子情報を組み込ませているから、多分大丈夫ッスよ」

 

 エルンストの言葉に会議室がざわつく。

 口々に文句を言っている。その殆どが、技術担当の怠惰を謳うものばかりだった。

 

 腹を立てたヴェルクがバン、と机を叩きながら、勢いに任せて立ち上がる。

 

「何であろうと、搭乗者と他者の遺伝子情報を照合し、エネルギー供給効率を激増させる〈ゲディア〉という機体が、ミリシアズなどという劣等人種どもの手に渡ったのは事実だ!! 文句を言っている場合か!!」

 

 大の大人に向かっても容赦無く言い捨てるヴェルクに、足元のエルンストはやれやれと言った感じだ。

 

「アスルト様は『火急なる対応を打て』との事です。重役の皆様にも、そのような方針で動いてもらう必要があります」

 

 ヴェルクを抑え、マティアスが冷静に言う。

 皇帝直々の命となれば、重役たちのよく喋る口も塞がった。

 

 マティアスは中佐の位を持つ軍人。

 そこに集まる重役達でも、簡単に刃向かえる人間では無い。

 

「参謀長殿、そのようなご方針で今後の計画を練って頂くことになりますが」

「……中佐の頼みとあらば、何でもやろう」

 

 顔面傷だらけの参謀長は、息をするように返事をする。

 マティアスが席につくと、会議が終わった。

 

 皆が続々と席を立つ中、親衛隊のカールとマティアスは暫く椅子から離れなかった。

 

「……お前は何を気にかけている」

「……っ……!! あんたには関係ないでしょ、ほっといて」

 

 鋭い視線を向けると、カールは反発した。

 虫の居所を悪くしたのか、そそくさと会議室を飛び出す。

 

 ため息をついたマティアスは、視界を天井で埋め尽くす。

 

「空が見たい」

 

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