黑火   作:球天 コア

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仙台出張

ーー記録 : 4 月 21日 宮城県仙台市、某所にて

 

 

 

 

 

 

 

 

地下駐車場の隅にある黒い車。

 

そこへ、真っ黒なサングラスをかけた背の高い男が個人的な用事を済ませて"戻"って来た。

 

 

 

 

 

「たっだいま〜!いやー、悪いね伊地知。わざわざ車止めてもらっちゃってさ」

「アンタが急に行きたいって言い出したんでしょ」

 

 

男……特級呪術師、五条悟は助手席に大きい紙袋を二つ置き、後部座席に座る。

 

そしてその隣に座る女……庵歌姫は、呆れ半分のため息を吐きながら愚痴をこぼす。

 

 

「あ、歌姫も食べる?喜久福」

「いらないわよ!!」

 

「あ、あの……そろそろ車、出しますよ……」

 

 

五条悟、庵歌姫を乗せた黒い車は、補助監督……伊地知潔高の運転で、地下駐車場を出発した。

 

暗闇の中を出た刹那、車の窓から一筋の光が射す。

 

 

 

 

「アンタねぇ……一応、任務で仙台に来てるんだから少しは真面目にやりなさいよ……」

「え?僕は至って真面目にやってるけど?…ってか、さっき歌姫もめっちゃ買い物してたじゃん」

「………っ………そ、それはねぇ……!」

 

 

 

(なんでこの二人と一緒なんだろう……)と伊地知は内心思ってしまったが、決して口には出さない。

 

どちらも怒ると(双方違う意味で)怖いから。

 

 

 

 

 

……ともかく歌姫の堪忍袋が破れる前に、伊地知は別の話へと促した。

 

 

「五条さん、庵さん、もうすぐ目的地に到着します。念の為、今の内に今回の任務の確認を……」

「いや、大丈夫だよ」

 

伊地知の声は、五条の返事に一瞬で遮られる。

 

その声は軽薄だった口調から一転し、仕事モードの重たい空気を纏っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「呪物の回収でしょ?今回の任務って」

「あっ……はい。そうなっています」

 

「アンタ、今日はいつもより冷静ね。どうしたの?」

 

「そりゃ、そうだよ。たかが呪物を収集する任務にグッドルッキングガイで最強の僕が駆り出されるってことは、余程の代物か、あるいは………」

 

「特級相当の呪霊……あるいは呪詛師が絡んでいる可能性がある……ってことよね?」

「……そうゆうこと」

 

「到着しました」

 

 

三人は車を降り、目の前にある建物を見つめる。

見てくれは10階建ての普通のマンションだ。

 

 

 

「…普通に人は住んでるみたいね……伊地知。早速、(とばり)の方を……」

「いや、帳は要らないよ」

 

「……はぁ?何言って…………っ!」

 

 

 

 

 

歌姫が見た時、五条はサングラスを外していた。

 

 

 

……"六眼(りくがん)"。

 

その青く澄んだ眼球で、マンション全体をじっくり観察しているようにも見える。

 

 

 

 

「……妙だな」

「妙…?」

 

 

「このマンション一通り見てみたけど、呪霊なんて4級以下の蠅頭1匹すら潜んでないよ」

 

「…え?」

 

 

「あるのは……目的の呪物から出てる呪力だけかな。封印されているみたいだけど、少しだけオーラが漏れてるよ。それもかーなーり、ドデカいね」

 

「呪物の呪いが強すぎて、呪霊が寄って来ない………って事?」

 

 

元来、魔除けとして呪物が使われる事は無きにしも有らずだが、それにしては放つ呪力が強すぎる。

 

 

「……ま、呪物を直接見ればわかるでしょ」

「あっ、ちょ、待ちなさいよ!」

 

 

五条はサングラスを再び目にかけ、歌姫とともにマンションの中へと入っていった。

 

(伊地知を置き去りにしている事を忘れて)

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

……家のチャイムが突然鳴る。

 

 

「……練徒(れんと)!代わりに出てくれない?」

 

「………はーい」

 

 

こんな時間に、一体誰が来たんだろう?

ひとまず俺は玄関を開ける。

 

 

 

「やっ。初めまして」

「………?」

 

 

玄関を開けた先にいたのは真っ黒なサングラスをかけた、白髪で高身長の男性一人。

そして巫女の羽織を来た女性一人だった。

 

巫女の女性が、俺に尋ねてくる。

 

 

 

「柊木 由真さん、で間違いないですか?」

「あっ……えっと………母さんなら、台所に」

 

「んじゃ、失礼しまーす」

「えっ…ち、ちょっと…!?」

 

 

男の人が靴を脱ぎ捨てて家の中へ勝手にズカズカと入っていった。

女の人の方も履き物を脱ぎ、そこらに脱ぎ捨てた男の人の靴と一緒に揃えて置くと、俺に謝るように一礼した後、同じく家の中へ入っていった。

 

 

「ま、待ってください!貴方達、誰なんですか!?いきなり家の中に入って来て……」

 

 

慌てて部屋に戻ると、女の人の方は母さんと話をしており、男の人の方は部屋の中をただウロウロ歩いて見回っていた。

 

 

「えっと………もしかして………」

「はい。先週そちらに電話した庵歌姫です。で……」

 

「ふーん、結構ボロマンションだね」

 

ぼ、ボロマンションって………実際そうだけど……

 

 

「あー……あの礼儀知らずはお気になさらず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………しばらくして、俺と母さんは彼等が何者であるかを、あとから来た真面目そうなメガネの人、(伊地知という名の人)に説明された。

 

 

 

 

 

 

 

日本国内での怪死者・行方不明者は年平均1万人を超えており、その殆どが"呪い"による被害とされている。

 

その呪いに対処する(この人達の言葉を用いると、"祓う")のが彼等、「呪術師」とのこと。

 

社会秩序の遵守、ひいては俺達一般人の心の安寧のため、姿を見せず社会の裏で暗躍している人々。

 

 

俄には信じがたい話だが、彼等の話を聞いた感じはやけにリアルで、どうやら本当の事のようだ。

 

 

 

そして、今日彼等がここに来た理由は、俺の家にあるとされる呪われた物…「呪物」の捜索と

その回収なのだそう。

本来なら一般人に"呪い"の存在は明かさないことになっているらしいのだが、案件が案件である以上、説明せざるを得なかったらしい。

 

 

 

伊地知という方がそれを説明し終えると同時、男の人……五条悟という人が。

「おーい、それっぽいの見つけたよー」

と言うので、個人的な興味から見てみる事にした。

 

 

 

 

……しかし、五条という人が指したものは……

 

 

 

 

「これだよ」

 

「えっ……それって…!?」

 

 

 

俺の机の上に置いてあったはずの、小さくて黒い箱だった。

 

小さい頃、今は亡き父さんからもらった、俺にとっては大事な「御守り」である。

 

 

「待ってくださいよ!それは俺が父さんにくれた大事な箱なんです!!それが呪物だなんて……」

 

「でもこの箱、今もゲッスいオーラが滲み出てるよ」

「……そ、そんなはずは……」

 

 

 

その時。

 

 

「……ん?」

 

 

五条さんと目が合ったその瞬間、俺は五条さんにサングラス越しにじっと見つめられる。

 

時々、悩む様な唸り声を上げられながら30秒くらい見つめられた後、彼はクスッと笑き俺の目の前から顔を離した。

 

 

「……ま、何はともあれ、これは貰ってくよ」

「だ、だから……!」

 

「大丈夫、中身次第では返却するからさ」

 

 

 

 

……その後、何度か俺は回収を否定していたが、伊地知さんと女の人……庵さん、そして母さんに促され、結局彼等が持っていくことになった。

 

 

帰りの前、俺は一同の見送りの為にマンションの玄関前まで3人を案内した。

 

 

 

「本当に……返してくれるんですよね…?」

「中身次第、だけどね」

 

 

「五条さん、そろそろ……」

「はいはーい」

 

 

五条さんは伊地知さんに呼ばれて、黒い車のドアを開けて乗り込もうとする。

 

すると、乗る直前に彼はこちらを振り向き……

 

 

「あっ、もしかしたら、また会うかもだから!」

「……え?」

 

「んじゃ、バイバ〜イ」

「ち、ちょっと待ってくださ……」

 

 

俺の呼び止めも虚しく、黒い車は五条さんを乗せて出発してしまった。

 

 

……また会う……って、どうゆう事だろう?

 

俺は疑問を残したまま車に手を振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、五条」

「ん?にゃに、うふぁふぃめ」

 

 

行きに買った喜久福を頬張りながら、歌姫の疑問に応答する五条。

 

 

「その呪物を封じてる箱……なんか変じゃない?」

 

「やっぱり歌姫も気付いた?この箱、かなり高度な封印術が掛けられてるみたいだよ。割と年代物の呪物っぽいけど、これを封印しているこの箱にも相当な術式が……」

 

「そうじゃなくて!……ってか解っていってんだろ」

 

 

 

すると、五条は箱をパカっと開ける。

 

 

「はぁ!?アンタ、勝手に封印解くなよ!!」

 

「へぇ〜……そうゆうことか」

「人の話を聞いて……って………ん?」

 

 

箱の中には、小さく黒いメダルのぶら下がったペンダントのようなものと、術式の刻まれた札でグルグル巻きになった呪物本体であった。

 

 

「何?そのペンダント」

 

「やっぱりおかしいと思ったよ。箱だけじゃなくてこの首飾りにも術式が施されてる。古い封印の札に術式を重ねがけして、呪物の力を極限まで抑えていたみたいだ。それにこの呪物……」

 

 

 

五条は札の巻かれた呪物を箱から取り出す。その呪物は、まるで「指」のような形をしていた。

 

 

「嘘……その呪物、まさか………」

 

「どう考えても、家庭の部屋ん中に置いといて良い呪いじゃないよこれ。少し面倒な事になりそうだ」

 

 

五条は呪物を握りしめ、珍しくため息を吐く。

 

 

「……伊地知、帰ったらさっきの子の家系について調べてくんないかな?」

 

「えっ?あ…はい……わかりました………」

 

 

 

 

「…歌姫はさ、あの練徒って子見てどう思った?」

 

「……異質ね。たまに凄い呪力を持った一般人ならちらほらいるけど、あの子の中の呪力は……」

 

 

 

「……やっぱりあの子、呪術師の才能あるよ」

 

「えっ、まさかアンタ……あの子を高専に招くつもりじゃないでしょうね…!?」

 

 

「ぱっと見た感じ、あの子は大体中3か高1くらいの年頃だ。でも今は4月の下旬の昼。学生だったら学校にいてもおかしくない。多分フリーだよ」

 

「で、でも………!」

 

「僕の"眼"が間違えるとでも?」

「…………」

 

 

歌姫は途端に、何も言い返せなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、後は僕に任せてよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー以上

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