「…はぁ………はぁ………」
か、勝てた……やった………
初めての任務、緊張したけどコレで……
と、瓦礫の上に座り込もうする直前。
「まだ終わってねぇぞ!!」
「えっ!?」
新夜くんと円呼さんが、壁に空いた穴から外へ飛び出して行った。俺も外の方に顔を向けると、まだ呪いの残穢が空中に微かながら残っている……
…つまりあの呪霊は、まだ祓いきれていない。
俺も2人の後を追うように外へ飛び出す。
2人を追いかけていく内、残穢はどんどん濃くなる。
そして、ある程度の角を曲がった先。
顔の半分が潰れ、足が2本ほど折れた蜘蛛型の呪霊が満身創痍の状態で立ちあがろうとしていた。
なんという生命力だ。
しかも呪霊はかなりの回復速度で足を治している他、体全身に呪力を張り巡らせ防御の姿勢を取っている。
………正直、マズい。
ただでさえ敵が硬くて仕留めきれなかったというのにこれ以上硬くされては俺が黒閃でゴリ押ししようと、破れないかもしれない。
そして、問題はそれだけで終わらなかった。
「げほっ、ごほっ!!」
「…っ、円呼さん!?」
突如、円呼さんが口から血を吐いて倒れた。
おそらく……というか絶対に呪言を使った反動だろう。彼女はつい先程これでもかと呪言を連発していた。
呪霊に捕縛されてパニックになっていたのもあったのだろう、喉薬を飲むのも忘れていたようだ。
しかも、敵はこちらの攻撃を一通り受けた上で守りを固めている。だから、アイツに呪言が効くかどうかと問われると微妙だ。なんなら円呼さんに跳ね返ってもおかしくはない。
俺は何故か、先刻の新夜くんの言葉を思い出した。
『相手は呪霊のくせに知能が高いんだ!』
『一級相当……下手したら特級に片足突っ込んでる可能性だってあるんだぞ!?』
特級、相当………
勝てるのか…?そんな、バケモノを相手にして………
息を呑むと同時、背中を冷や汗が撫でる。
呪霊もこちらの焦りを感知したのか、プレッシャーを放ちながらにじり寄ってくる。
本当にマズい、このままじゃ…!
……と。
「おー!みんな結構頑張ってるじゃん!!」
「…!?」
「五条先生…!!」
俺達の後ろから五条先生が音も立てずに現れた。
それと同時、俺は先生の言葉に違和感を覚えた。
頑張ってるじゃん…?
昨日の説明と今日の説明的に、これほどの強さの呪霊がいるのは先生側も想定外で故にここに来たと勝手に思っていたのだが………
「いやー、ごめんね?上には内緒で、3人には一級術師がやる予定だった別の任務をやってもらってたの」
「な……任務を差し替えてたんですか…!?」
「うん」
平然と答える五条先生に、新夜くんはブチギレた。
「テメェ…!なんでそんなバカな真似を!!」
「上層部の奴、術式的にも優秀そうだった君達に対して過保護気味でね。こうでもしないと、低級呪霊の相手ばかりでつまらなくなっちゃうんだよ」
過保護……?
そこまで特別視されていたのか、俺達って。
「…さて……でもまさか相手が特級手前の強い奴だったなんてねぇ………これは、ちょっと想定外だったかな。まぁいいや。今の練徒達にそぐわない危険が及ぶっていうなら………
僕もちょっとだーけ、戦っちゃおっかな…!」
五条先生は持っていた紙袋を新夜くんに渡しながら、俺達の前、呪霊の前へと踏み出した。
……ってか、その紙袋、まさか……お菓子か?
この人、任務中に菓子買いに行ってたの!?
すると、五条先生に向かって、呪霊が飛びかかった。
「…っ!先生、危な…………!」
……だが刹那。
飛びかかった呪霊の体は、空中で静止した。
鋭く尖った足先と牙を五条先生に向けながら、その場でピクリとも動かなくなっていく。
「ご、五条先生…?」
「………そういえば、僕の術式についてはまだみんなに説明してなかったね。ちょうど良いや」
五条先生は空中で静止する呪霊を見つめながら、僕らに説明を始めた。
「僕の術式は、無下限呪術。収束する無限級数みたいに僕に近づくものはどんどん遅くなって、結局僕まで辿り着くことはなくなる……つまり、超簡単に説明すると僕に攻撃は届かないってわけ」
「無下限呪術……」
「…そして、それを強化して、−1みたいな虚数の空間を作ると…!」
直後、空中で静止していた蜘蛛型の呪霊が、何もないはずの空間へと吸われていく。
上空から発する青い光。
周囲の建物を瓦礫に変えながら呪霊をその渦の中へとブラックホールの様に吸い上げ、巻き込んでいく。
「……『術式順転「蒼」』」
五条先生のその攻撃は、伊地知さんの帳すらも破り、あっという間に呪霊を祓ってしまった。
穴の空いてしまった帳は、風船やシャボン玉が割れた時のようにバッと穴が広がって消える。
刹那、雲ひとつない青空と共にギラギラと輝く日光が地上に差し込んだ。
……そして、もうひとつ。
なんか知らない間に周りが更地になっていた。
これ、もしかしなくても五条先生の術で………
……現在、日本に3人しか存在しない特級術師。
入学前に聞いてた話によれば、特級の条件は単独での国家転覆の可否らしい。目の前にいる五条先生その人は、その条件を満たすのはもちろんのこと、その中でも規格外な強さとして、他の特級とも比べ物にならない別格の存在とのこと。
……先生は、自分のことを最強と自負していた。
そして目の前で五条先生が呪いを祓う姿を見た俺に、たった今それの真意が伝わった。
……間違いない。彼こそ間違いなく呪術師最強。
もはや………生き物としての格が違う。
「みなさん!お怪我はありませんか!?」
「……っ!…伊地知さん!」
五条先生の強さに唖然としていると、伊地知さんがこちらに向かって走って来るのを確認して今の現状へと意識が引き戻される。
俺は倒れた円呼さんの左腕を担ぎながら、伊地知さんと一緒に安全な場所へ運び込んでいく。
円呼さんは伊地知さんからノドナオールを貰いながらフラフラとした足取りで何とか移動していた。
新夜くんも五条先生の菓子を持たされながら不服そうに先生と一緒に車のあった方へ歩いていく。
各々、それぞれの行動を取っていった。
……任務を終え、俺は改めて学びを得た気がする。
初めて呪術を学び、初めて呪いと戦い、祓う。
想像、そして描いた理想とは遥かに違った高校生活。
読んで字の通り、命をかけた高校生活。
それが、呪術高専という中での青春の形なのだろう。
…正直、死の迫る日々に耐えれるかはわからない。
でも。
それでも俺は、戦わなきゃならない。
母さん……そして、父さんのためにも。
俺は、首に掲げていた空のペンダントを握りしめる。
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《ようこそ、呪術高等専門学校へ》
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………うん、悪くはないかな。
……最後に多少のバタバタはあったが、こうして俺達の初任務は蒼い空の下で幕を下ろしたのだった。
これから、こんな世界でも青春が謳歌できるように、今のうちに神様に祈っておくとしよう。