黑火   作:球天 コア

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禪院

 

 

 

 

 

 

……ここは……?

 

 

 

瞬く間に起きた閃光に怯んでいた俺が目を開けると、開けたばかりの目を疑うような光景が広がっていた。

 

まるで広大な宇宙空間のように果てのない黒い闇。

五条先生に体を掴まれ、宙に浮いている俺。

そんな俺達を前に、意識が抜けたかのようにボーッと立ち尽くす鎌鼬の呪霊。

 

……何が起きている?

この領域で何が起きている?

考えようにも、腹に迸る激痛に思考を遮断される。

 

 

「うっ……」

 

「詳しく説明してあげる暇もなさそうだ。どうせ傑にも逃げられてるだろうし、サクッと祓って硝子のとこに運ばないと…ね」

 

 

 

『収束』。

 

五条先生の手の先に、領域内を漂う光の粒が集まって虚空に変わる。

 

『反転』。

 

虚空が球体となり、赤い光を放ち始める。

 

 

 

 

「……術式反転『赫』」

 

 

 

そして、『発散』。

 

収束した無下限が弾けて、ボンッと爆ぜる。

目の前にいた鎌鼬の呪霊3体は跡形もなく弾け飛び、存在ごと消えてなくなったかのように祓われた。

 

 

 

……領域が解ける。

目の前に夏油の姿はない。

 

代わりにいたのは、こちらに走ってくる伊地知さんと数十名の術師があちこちを駆け回っている姿だった。

 

……おそらく、総出で夏油を捜索しに来たのだろう。

 

 

しかし、痛みで卒倒寸前だった俺の意識は、五条先生の領域解除から数秒して、闇へ堕ちていった。

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

程なくして、俺は目を覚ました。

 

程なく……というのは間違いか。時間的には大分経っているのだろう。夜眠って夢から覚めたのと同じ感覚に陥っている。

 

……だとしたら、どのくらい経ったのだろう。

 

さっきよりはマシだが、まだ体は痛い。

そこまで時間は経過してなさそうだ。

 

目を開けてみると、そこには今まで何度かお世話になったことのある場所の天井があった。

 

 

「……おーい、お前らー。彼が起きたぞ〜」

 

「柊木…!!」

「……!!」

 

 

ゆっくり起き上がる俺。

家入さんの声が、聞き馴染みのある声を呼ぶ。

 

 

「大丈夫か…?」

「……ツナマヨ……」

 

 

駆け寄ってきたのは、新夜くんと円呼さんだった。

二人の表情は、目が覚めたばかりで霞んでいた俺の目でもはっきりとわかるほど緊迫している。

 

 

「…おはよう、練徒」

「あっ……五条先生……」

 

いつもの軽い声で、声がかかった。

 

でもそれは声だけの話で、いつもの能天気で軽薄な姿はどこにもない。

近くの椅子に腰掛け、何もない一点を見つめている。

まるで考え事でもしているかのようだ。

 

 

俺もまた、起きたばかりの頭で考えを廻らせた。

 

夏油 傑とは、何者なんだろうか?

五条先生は、あの夏油 傑とどんな関係があったのだろうか?

サングラスの先にある青い瞳は、今、五条先生に何を映しているのだろうか?

 

 

「さて、練徒も起きたことだし、分校の方に戻ろっか」

 

 

─────────────────────

 

 

 

仙台方向へ続く高速道路。

補助監督の運転する黒い車が、2台並んで走る。

 

 

内1台、助手席に座る五条先生。

後部座席に座る俺。

 

いつもベラベラと喋る五条先生の声で満たされるはずの車内は、帳の中のように静かだった。

 

無理もない。

俺も、五条先生も、頭の中には夏油 傑の余韻が色濃く残っている。

 

 

『非術師を皆殺しにし、呪術師だけの楽園を築く』

 

平然とした顔で狂気に満ちた事を言い切った彼だが、五条先生を前にした時、親しそうに話しかけていた。

 

 

「夏油傑は……五条先生の、何なんですか?」

 

 

興味の歯止めが効かなかった俺は、好奇心に身を任せてその質問を投げた。

 

でも五条先生がアンサーとして出したのは、長い過去の話でも、あっさりとした因縁の話でもない。

 

わかりやすい、たった一言だけだった。

 

 

 

 

 

 

「……僕の、親友だよ」

 

 

 

その一言は、先生とアイツの事情を知らない俺でも、重いと感じられる言葉だった。

 

その一言で俺はもうこれ以上、五条先生に追及をする気力も無くなった。

そうして中途半端な解答で終わった。

 

 

 

心のモヤモヤと胃の中に呪霊をぶち込まれた時の不快感の蒸し返しが、胸の中で蒸留して混ざり合う。

 

そうして出来上がったよくわからない液体は、俺の体に呪いとなって染み込んでいく。

 

 

 

 

……心のどこかに、黒い光を伴って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ◻︎

 

 

 

「じゃあね、練徒。ゆっくり休んでね」

「はい。五条先生も………いえ、なんでもないです」

 

「っはは、お気遣いどうも」

 

しゃけしゃけ〜(おやすみなさい〜)

 

 

練徒達を寮に送って間も無く、五条先生を乗せた車は仙台分校を出発した。

 

特級呪術師、五条 悟。

近頃、仙台市周辺で起こった大震災により活性化した呪霊の対処に、彼は大忙しだ。

なんでも、五条先生をもってしても祓うまでに時間がかかる強力な呪いも目覚めたんだとか。

 

ここ最近も、あまり授業に顔は出してくれない。

日下部っていう人が代わりに授業してくれてるんだけど、俺的にはなんかイマイチだ。

 

周りは五条先生をキツい目で見てるけどなんだかんだ楽しいんだよな、五条先生の授業。

 

…そういえば、明日は日下部先生もいないんだっけ。

 

誰が授業するんだろう?歌姫さんは京都の先生だからわざわざ仙台まで来るのは大変だろうし……

 

 

こういう時って、確かフリーの術師が授業することもあるんだったっけな。

それだとしたら、どんな人が来るんだろう?

愛想の良い人がいいな。

 

 

 

 

 

─────────────

……翌日。

─────────────

 

 

 

「……臨時講師、6時間目から来るらしいぞ」

 

「えっ、そんな遅くに!?」

 

 

朝っぱらから昼過ぎになるまで任務に当たっていた俺は、帰りに新夜くんから聞いたそれにビックリした。

 

午後からならまだわかるけど、大分ゆっくりだ。

 

まぁその人も呪術師だからな。

術式による適材適所とかも加味すれば、今の俺達みたいに任務に当たってることだってあるかもしれない。

 

それにしたって、ゆとり極まれりな気はするが……

 

……いや、逆に考えるんだ。

最後の方まで授業に来ないということは、時間ギリギリまで任務に励んでいるのかもしれない。

つまり実力のある呪術師なのは確定だ。

気を引き締めなければ……

 

 

 

 

 

車内で昼飯を済ませ、分校に戻った俺達。

 

教室で待っている円呼さんと合流しようと扉を開けようとしたその直前……

 

 

すじこおかがぁ(助けて2人ともぉ)!!」

「「ぐぇっ!?」」

 

すごい形相で教室を飛び出してきた円呼さんと、正面衝突。俺達は廊下で一斉にぶっ倒れた。

 

「ってぇな……いきなり何すんだよ…!」

「ツナ!ツナ!」

「……ん?」

 

 

涙目の円呼さんが指差すその先にいたのは……

 

 

「ビビりやのぉ、でもまぁそーゆーとこも可愛いわ」

 

「貴方は……臨時講師の…?」

 

 

「そうやで。ホントなら6時間目にお邪魔するつもりやったんけど、君らんとこの先生に予定繰り上げられてもうてな。午後から来ることになったんや。ごめんちゃい、別に脅かすつもりはあらんかったんやで?」

 

 

書生服を着た、関西弁の金髪の男。

五条先生に似て異なる軽薄そうな口調。

 

吊り目から放たれる、見下ろすような視線。

 

そして、彼は己の名を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特別一級呪術師、禪院(ぜんいん) 直哉(なおや)や。

よろしくなぁ、仙台分校のお三方」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー以上




再び投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
Switch2を入手し、モジュロを読み始め、気付けばどっぷりその魅力に浸かってしまいました。
それと、アニメ死滅回游の影響に伴い、少しだけ脚本に変更を入れてました。
相変わらずのドブカス投稿頻度ですが、それでも応援してくださるとありがたい限りです。
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