……呪術師が家を尋ねた日から、ほんの数日後。
「おっはー!元気してた〜?」
「…………」
もう五条さんが家に来た。
こうゆうのは大体一、二週間くらいはかかると思っていたのだが、結構早かったな。
「……あれ、庵さんと伊地知さんは?」
「歌姫?歌姫なら京都に帰ったよ。伊地知はここの駐車場」
き、京都!?
そんな遠いところから来ていたのか……。
……いや、今はそれは関係ない。
まず、五条さんがここに来た理由を聞かなければ。
「えっと……五条さん、今日はどうしてウチに?」
「あーそれね。まぁざっくり言うと"面談"だよ」
「面談…?」
「そそ。それに、こないだ回収した呪物についても色々教えておかないといけないし……」
「……!」
「僕個人から、君に伝えたいことがあるからね」
「……?」
……間も無くして、五条さんはウチの中に上がると持って来たお土産……というより、ウチの近所でもよく売っている喜久福30個入りの箱を即開封し、母さんの出したお茶と合わせて堪能し始めた。
……五条さん、一応"客"なんだよな…?
「んじゃま、早速本題に入ろうか。まず色々説明する前に僕から幾つか質問がある」
「……質問?」
「僕達が呪物を回収してからここ数日間、君の周りに何か変化はあった?変なモノが出て来たりとか」
「……いや、何も」
「じゃ、次。君……練徒くんは、今高校生?」
「あっ、いえ。高校受験で、本命と併願校の両方とも落ちちゃって……今はフリーターを」
「最後。練徒は父親についてどこまで知ってる?」
「父さんの?………どんな仕事をしてたかは俺も正直まったくわからないです。ただ、あまり家に帰ってくるような人ではなかったですね。勤めている先で殉職したとしか………」
「なるほどねぇ……」
五条さんはほうじ茶を嗜みながら深く頷く。
まるで同情でもされているかのようだ。
「おっけい、聞きたい事は以上だ。んじゃ、いよいよ説明させてもらうね。まず回収した呪物だけど…………はい、これ」
「……?」
僕が五条さんから手渡されたのは、黒いメダルのぶら下がったペンダント付きの首飾りだった。
「あの箱の中に入ってた呪物の一つだよ。君に直接害を与える様な呪いじゃなかったし、上の人達から返却の許可をもらったんだ」
「そう、なんですか………ん?一つ?これの他にも、まだ中身があったんですか?あの箱」
「あー……それについては後で説明するよ。次の話がいっっっっちばん大事な内容だからね!」
「次の話……」
一体、どんなことを言われるのだろう。俺は五条さんが喜久福を飲み込むまで待った。
咀嚼し、ごくりと低い音を喉から立てた五条さんの口から放たれた。
「…君の父親のキャリア、実はこっそり僕達の方で調べてたんだけどね……君の父さん、呪詛師だったみたいなんだ」
「……え?」
呪詛師。
呪いを祓うために戦っている呪術師とは対等的に、その呪いを悪用して人に仇なす人間のこと。
……続ける様に、五条さんに説明された。
「……色々やってたみたいだよ。それっぽい事は」
「………それ……絶対」
「嘘じゃないよ」
"嘘です"と問いただす前に、五条さんに先に言葉を封じられた。
「あの箱に入ってたもう一つの呪物……正式名称は、特級呪物「宿儺の指」って言うんだけどね。その他いろんな呪物を他の呪詛師に売買する、一種の密輸業者みたいな仕事をやってたんだ」
「密輸って………」
彼ら呪術師の世界について俺はほぼ無知であるが、五条さんの口から放たれる単語の数々一つ一つはそれ相応の"重み"を伴っている事はわかった。
……現実というものを、叩き付けられた気がした。
小さい頃は滅多に帰ってこない変わりに、家にいる日はいつも俺と遊んでくれた。
あの黒い箱を渡した時の表情だって、悪意一つない善人の顔だったのはハッキリ覚えてる。
なのに、そんな父さんが呪詛師だなんて……
「……ありえません!絶対!!」
「……………」
「父さんは……そんな悪人みたいな人じゃないです!だから………」
「うん、知ってる」
…………え?
今、五条さん、なんて………
「君の父親が呪詛師であることには変わりは無い。だけどね、己が呪術を利用し一般人を呪うのを生業としてる連中が大半な呪詛師の類に含まれてる中、君の父さんは人を殺した経歴が無かったんだ」
「……!」
「安心して良い。あの人は誰も殺してないよ」
いつの間にか菓子を食す手を止めていた五条さんの声色は、優しさに満ちていた。
そしてその反面、まるで父さんと"誰か"を比較しているかの様な苛立ちの表情が、少しだけ見えた。
……でも俺は、おかげで少しホッとした。
呪詛師の肩書きはあっても、父さんが"人"としての常識を持ってくれていた事に。
そして、感謝した。
この事実を直接伝えてくれた五条さん達に。
「ただ、一つ問題が残ってる」
「……?」
安堵した矢先、五条さんは鋭く冷静な口調を伴ってあることを言い出した。
「…君の苗字でもある『柊木』の家系なんだけどさ、その先祖って、呪術界隈じゃ割と有名なんだよね。御三家みたく圧倒的な権力を持ってたってわけじゃ無いんだけどさ……今回の件でその子孫が呪詛師になったって知って、呪術界は今大騒ぎなの」
「……と言いますと……?」
「じゃ、余計な説明は省いて言っちゃうけど……」
俺は思わず唾を飲む。
そして、俺は五条さんから、とんでもない提案ととんでもない情報を貰った。
「今後、柊木家から呪詛師が蔓延するのを防ぐ為、子孫である君と、君の母親の秘匿死刑が確立!!だから君には呪術師になってもらいまぁす!!」
……え?
…………は?
「はぁぁ!?!?!?」
ーーーー以上