………東京都立呪術高等専門学校。
日本に二校しか存在しない四年制の呪術教育機関。
その内の一つ。
私立の宗教系学校を装っているが、実際は都立。
政府公認のため、公費で運営されている。
多くの呪術師が卒業後もここを拠点に活動しており
教育だけでなく任務の斡旋・サポート等も行なって
いる呪術界の要である。
そして俺は今日、ここに入学手続きに来た。
学長、五条先生を交えた三者面談を行うのだが、
"呪術にまつわる"教育機関の学長とはまた異例だ。
どのような人物なのか想像も付かない。
「はい、こっから先が学長室だよ」
「………失礼します」
五条先生に先を譲られ、俺は扉を開けた。
「来たか、悟」
その瞬間、俺は「えっ」と声を漏らした。
俺の目の前にいたのは刈上げ頭でアゴヒゲを蓄え、
サングラスを掛けた、強面の男性。
そして、その人を囲うように置かれた大量の………
ぬ、ぬいぐるみ…?のような物。
そして、その人の手の上では、現在進行形で人形が
手編みで作られている。
………いや、なんだこの状況は。
イカつい顔のおっさんが、キモ可愛い人形を作って
いるのだが。
ツッコミたくなったが、一応は面談の場であるため
言いたい事はなんとか飲み込んでおく。
「…私の名は
ある程度の理由と"事"は悟と歌姫から聞いている」
「ひ、柊木 練徒です。よろしくお願いします」
「では練徒に一つ問おう。お前は何をしに来た?」
「えっ…?……が、学長と面談に………」
「違う」
否定!?
「何を思って呪術高専に来たのかと聞いている」
「……何を思って…って………それは…?」
「呪術師の仕事というのは"呪い"……つまり人から
生まれる"負"の感情と向き合う仕事だ。呪いを祓う
ことは即ち、人の未練や後悔といった思いに対処し
文字通り"戦う"ことを意味する。時には自身がその
呪いを受け持ち、溜め込んだ結果、蛮行に及ぶ者も
少なからず存在する」
「……………」
「とても一般人が入り込む事を許されるような世界
ではないのだぞ。……それでもお前は此処に来た。
つまり、"それ相応の理由"があるのだろう?」
「…………!」
"それ相応の理由"。
そのフレーズを耳にした俺は父さんと母さんの事を
反射的に思い出した。
〜〜それは数日前に遡る。
「ひ………秘匿………"死刑"…!?」
「そ、秘匿死刑!」
「いやいやいやいやちょっと待ってくださいよ!
死刑って……俺と、母さんが……マジですか?」
「大マジ」
慌てふためく俺に、至って普通の態度で話しかける
五条さん。
「いや〜それもこれも全部上の連中のお達しでね。
君たち一家を殺せ殺せって騒いでんのよ」
「え………え………………」
信じられなかった。
急に出会って、急に関わり始めた知らない人たちに
急に人生終了を言われるのだから。
それに加えて、俺が呪術師になれ、と。
「…意味………わかんないですよ………」
この人達の真の怖さは、伊地知さんとの話を通して
よく覚えている。
怖い。ものすごく怖い。
何故、こんな急展開になったのか。
………本当に、怖い。
今の状況が。
突きつけられた強制的な「死」が。
身体の震えが、止まらなかった。
「なんで……なんで…っ……死ななきゃ………」
………その瞬間。
「だから
「………え……?」
五条さんに、告げられた。
「上のジジィどもは極端に臆病だからね。例えそれがまだ何もしてない一般人だったとしても、嘘で塗り固められた情報だとしても。1%以下の可能性すらも完璧に潰し、呪術界の尊厳を守る為だったらどんな手段も惜しまない」
「…………」
「僕はね、そんな上の連中がすんごく嫌いなんだよ。古い事に縛られるのは特にね」
「………!」
俺が見た時、五条さんはサングラスを外し、汚れた
天井を見つめていた。
初めて見た五条さんの素顔は、儚かった。
綺麗に澄んだ、雲一つない冬の空のような青い瞳。
男の俺でも見惚れてしまうほどに、美しかった。
「練徒だっていきなり死にたくないだろ?この腐った呪術界を変えるには行動を起こすしかない。そこで君の出番だ。呪詛師の息子でも呪術師として生きて行けることを、呪術界上層部に証明する」
「証明…?」
「ああ。練徒の頑張り次第では秘匿死刑は帳消し。
練徒自身も、練徒の家族も、救われる」
「………ッ!」
「それに呪術師として、人を助けることもできる。
…悪くはない話だろ?ただそれ相応の覚悟はいる。
呪いを産むのが人である以上、いつかクソみたいな
人間の悪意と向き合う時がくる。日を重ねて慣れは
しても気は晴れないし、たった一つのキッカケが、
毒になって心を壊すこともある」
「…………」
「………そんな世界で戦う覚悟、あるかな?」
「……………………」
〜〜〜〜そうだ。
俺は決めたんだ。覚悟したんだ。
父さんも母さんも俺自身も、みんな助けるって。
「………何か、思い出したみたいだな」
夜蛾学長が、口を出した。
「今一度問おう。お前は何をしに高専へ来た?」
「俺は………」
そうだ…………俺は………!
「人を、"助ける"為です…!」
肺の酸素と己の根性を振り絞り、俺は応えた。
「…………」
「…………」
「…………」
夜蛾学長のぬいぐるみを作る手が止まる。
一時の沈黙が空間を満たす。
「………合格だ」
………ッ!
「ようこそ、呪術高専へ」
学長の険しい表情は変わっていない。
だが隣に立つ五条先生は、クスッと微笑んでいる。
「…………よろしくお願いします!!」
ーーーー以上