二日後……
「ってなわけで!今日から転校生がやってきます!
全員、テンション上げてぇーー!!」
…………。
扉の向こうから、五条先生の叫び声が聞こえる。
だが、おそらく先生の目の前にいるのであろう生徒
と思わしき声は微塵も聞こえてこない。
聞こえてくるのは五条先生の愉快な話声のみだ。
(それも割と一方的である)
昨日は丸一日、五条先生に付きっきりで呪術師の
イロハを叩き込まれた。
呪霊、呪力、術式、その他諸々のトレーニングと、
その他呪術関連の予備知識………
よくも、僅か一日でこれだけの情報量を俺に与えて
くれたものだ。脳みそが焼き切れそうである。
これを上手いこと全部覚えられた自分を褒めたい。
褒めちぎってやりたい。
それだけ覚えることが多すぎるのだ。
いくら急遽とはいえ、多忙が過ぎるのだ。
「おーい、早く入っといでー」
「…!」
五条先生の呼びかけにより、意識が現実に戻る。
俺は意を決し、扉を横に開いて教室に入った。
「し、失礼します…!」
教室に入ってまず感じ取ったのは、クラスメイトの
あからさまに冷たい視線だった。
教室にいたのは五条先生と、二人の男女。
一人は黒いコートを着た青年で、教室に入った俺を
早速冷たい目線で迎え入れている。
もう一人はツインテールでロングスカートの少女。
目線は冷たくなかったが、灰色の不織布マスクを
口に装着している。
「じゃ、自己紹介よろしく〜!」
「あっ…はい!今日から仙台分校に入学しました!
柊木 練徒です!よ、よろしくお願いします…!」
「おっけー。そんじゃ、練徒も席に着いてね」
「はい…!」
こんな形で高校に入るとは思ってもいなかったのも
あるせいか、一々返事に気合いが入ってしまう。
そんなこんなで、俺は二人の男女に挟まれるような
形で、自分の席に着いた。
「…さて、これで一年生も三人になったことだし!
まず二人の紹介をしてあげるよ」
最初に始まったのは俺以外の二人…クラスメイトの
紹介であった。先に五条先生から紹介されたのは、
俺の右に座る青年から。
「では、お名前をどうぞ!」
「………
青年……新夜くんは無愛想な態度のまま俺に名だけ
言い、目線をチラッとだけ向けてすぐ前に戻した。
「ごめんねぇ?新夜はツンデレだから人との会話が
とても苦手なのよぉ」
「うるせえ」
教員に対してスッゴいナメた態度だ…!?
「それじゃ、次はこの子」
辛辣な彼の態度など気にもせず、五条先生は続けて
左の席の少女の紹介に移ろうとし始めた。
俺もそれに合わせて左を向く。
「彼女の名前は、
……?
五条先生が紹介するのか…?
本人から名前を言ってもらうのではなく…?
「よ、よろしくお願いします……」
ひとまず、俺は挨拶をしてみる。
こうゆうのは俺から先に挨拶した方が………
「しゃけ」
「………え?」
しゃ、しゃけ…?なぜに鮭?
「そうだった。円呼は語彙がおにぎりの具しかない
から、会話とか頑張ってね」
おにぎりの具…!?
なんでもって、おにぎりの具なの!?
「あっ、ちなみにさっきのは"よろしく"って!」
なんで五条先生は意味がわかるの!?
「ツナマヨ、いくら!」
「……………」
どうしよう、一気に自信無くなってきた………。
〜〜〜〜
………俺が色々と理解を終えるまで数十分。
その後々、五条先生は今更の様に補足してくれた。
彼女……円呼さんがおにぎりの具で会話する理由は
円呼さんの"術式"が関わっているとのこと。
術式
正式な名前は「生得術式」。
生まれながらに体に刻まれている特殊能力のこと。
昨日、五条先生に教えてもらったことの一つだ。
自分の体内にある呪い……呪力を術式に流すことで
その能力を使うことができる。
そして、円呼さんの術式は「呪言」。
文字通り、言葉に呪いを込める術式である。
要するに「動くな」と言えば相手は動けなくなり、
「死ね」と言えば相手は死ぬ。
ただこれは、本人の意思とは関係なく勝手に言葉に
呪いが込もってしまうので、不意に放った言葉で
相手を呪ってしまう。
つまり円呼さんは、不用意に相手を呪わない為に、
呪力の込もらないおにぎりの具で会話している。
………らしい。
それにしたって、何故おにぎりの具なのだろう。
もっと他に良い言葉は無かったのだろうか?
こればっかりは地道に具の意味を理解していくしか
なさそうだ、と、俺は半分諦めた。
……そういえば………
「……えっと……新夜、くんの術式は…?」
「ねえよ」
「……え?」
「俺に生得術式は無い」
生得術式が「無い」。
そして新夜くんは、告げ口の様にこう言った。
「………天与呪縛だ」
ーーーーーーーー以上