「……天与……呪縛?」
初めて聞くフレーズに、俺は耳と頭を傾けた。
「お前、事前に教えられたんじゃなかったのか?」
「え、えっと……五条先生?」
「あーごめん。天与呪縛は教えてなかったね。普通
の「縛り」ならもう教えてるんだけど」
「ったく、テキトーこきやがって………」
縛り
呪術における重要な因子のひとつ。
何らかのリスクや制限を自身に掛ける事で、
引き換えに術式の性能の底上げや呪力の増加など、
代価分から何かしらのメリットを得る事ができる。
……そして、その延長線上に存在するのが新夜君の
言っている「天与呪縛」というものらしい。
「天与呪縛って、なんですか?」
恐る恐る、そして仕方なく、俺は新夜君に質問を
投げかけてみる。
すると、彼は呆れた様な大きい溜息を吐きながら
渋々答えてくれた。
「…生まれた時から強制的に体に課される縛りだ。
自らが自らに課す普通の縛りとは違って先天的に
体に刻まれているんだよ」
生まれ持った持病……に近いのだろうか?
解釈を解いている内にも、彼は話を続ける。
「多くの例は身体の欠損やら何やらがある代わりに
莫大な呪力を得るってのがセオリーなんだがな。
俺の場合は「生得術式」が身体から消えている」
「へぇ〜」と、俺が頷こうとしたその直前。
俺の脳裏にひとつの疑問が過ぎった。
「最初から術式を持たない人とは、何が違うの?」
五条先生から聞いた話との織り交ぜにはなるが、
術式が無くても術師として戦っている人はいる。
それらはいずれも、並大抵の術師と同等の呪力を
持っていて、彼の言う天与呪縛とは関係ない。
なんなら、それのみで一級に上り詰めた術師すら
存在するとのことだ。
新夜くんもただ呪力量が多いだけで、その人達と
変わらないかもしれない。
それなのに何故、それを天与呪縛と言えるのか。
……その答えは、五条先生が教えてくれた。
「新夜の場合はね、ちょっと特殊なんだよ」
「特殊…?」
「彼の場合は呪力だけじゃなくて、結界術や式神の
他因子の強化も兼ねてるんだよ。例えば式神と密接
に関わっている術式や、結界術の使用を前提とした
術式もあるんだけど、そうゆうとこの呪術的思考を
極限まで省く代わりに術を簡略、強化するんだ」
……術式と呪力の関わりは深い。
その関係は、未だに不明な点が多々存在している。
術と術を掛け合わせたりだの、複雑な工程だの。
呪術は単純で複雑な因子で成り立っている。
だが、新夜君にはそれが無い。
生得術式と他因子との関わりを天与呪縛で完全に
遮断する代わりに、結界術等の他因子の簡略化。
そして、それらの更なる強化。
「まあ簡単に言うと『生得術式以外に特化』っていう感じになるね!」
五条先生は、そう軽くまとめて終わらせた。
その次。
「ツナ」
「ん?」
「高菜、明太子」
「練徒の術式が知りたい?」
「……!」
そういえば、俺だけ術式を紹介してなかったな。
みんな言っているのに俺だけ言わないのも失礼だし
今の内に説明しておこう。
……かと、思ったら。
「………その紹介は、少しだけ先かな」
「……え?」
「練徒の術式、割と面白い類いの奴だったからね。
二人には実戦で直接見てもらおうかな」
「おかか!」
「はいはーい、我慢してくださーい」
……と五条先生の遊び半分であろう勝手な理由で、
俺の術式開示はお預けになった。
俺のアレは、そんなに珍しいのだろうか?
「……さて、これで一年生も全員そろったことだし
早速始めちゃおっか!!」
……五条先生と関わり始めて数十日。
なんとなく、この人のことがわかり始めた。
軽薄、馬鹿、個人主義。
神出鬼没で謎だらけの人。
その中に隠されている、恐ろしい強さ。
単独で国家転覆が可能とされている特級呪術師。
その中の一人。
……五条 悟。
そんな彼の話は大体、唐突に始まる。
「……始めるって、何をですか?」
「みんな、呪術の基礎は大体学び終えてるからね。
近い内に「実戦」に駆り出そうと思ってる」
「「「……!!」」」
『実戦』。
これが皆に取って何を意味するのか。
初めての戦場である。
「入学した時、みんな学生証と一緒に術師としての
階級が振り分けられてるんだけど、それに合わせた
強さの呪霊を祓ってもらうよ」
「階級……」
学生証には、自分の階級が書かれている。
俺の場合は「準二」……準二級ということになる。
「えっと、新夜は準一級で、円呼は二級だから……
総合的な戦略で見ちゃえば、一級相当の任務でも
行けそうだけど……」
なるほど。
戦力的に言えば、新夜君が一番強いらしい。
ここに俺と円呼さんが加わることで、一級呪霊と
戦えるくらいの強さなのだろう。
「ま、最初だし、二級くらいが妥当かな」
最初なので少し大目に見てくれたのだろう。
初任務は二級呪霊の討伐となった。
「ちなみに、任務っていつですか?」
「明日」
よし、それまでに新夜君や円呼さんとの仲を深めて
任務に臨ん……………
………いやちょっと待って。
「「……明日!?!?」」
「おかか!?!?」
ーーーーーーーー以上