地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
「えぇ、ではこの件はそのように。それでは失礼いたします」
大西洋連邦大統領、フォスターはそう締めくくりカガリとのビデオ通話を終えた。そして、執務室に備え付けられた豪奢な机。その引き出しからガラスの瓶──胃腸薬を取り出し、乱暴な手つきで蓋を開けて錠剤を取り出した。
「大統領、お飲み物です」
「えぇ、ありがとう…………ハアアァァァ」
脇に控えていた秘書から水を受け取り、錠剤を飲み下し深い、深い溜息をひとつ。
そこにはオーブの代表であるカガリ・ユラ・アスハ──20歳程度の小娘に頭を下げたという、この椅子に座る前のフォスターなら一笑に付すか、或いは憤慨を覚えるだろう行為を為した自身への自嘲がいくらか。
それよりもなお大きい、ブルーコスモス過激派への苛立ちが籠っていた。
現状、フォスター政権下の大西洋連邦は二度にわたる地球・プラント間の大戦を経て厭戦思想が大半を占めていた。
その上でプラント前議長──デュランダルの行った、世界中の企業や国家との深い繋がりのあった秘密結社とも呼ぶべき存在、『ロゴス』を利潤目的で戦争を操る絶対悪的組織としてその存在と活動の暴露。
それによって扇動された民衆の行った、ロゴスのメンバーへの襲撃・壊滅による経済不振。
これらの経緯で、地球連合内で高い影響力を有していたブルーコスモスの権威は失墜。それでもブルーコスモス過激派はミケール大佐を指導者に活動を続け、軍内部からもその思想に賛同する者が脱走し合流。最早テロ組織と称すべき存在となっていた。
ここまではいい、とフォスターは思っていた。むしろ、政治的な利害も放り投げてコーディネイターへの苛烈な攻撃を望む存在など配下にいるべきではない、と二度の大戦で一歩引いた場所からブルーコスモスの半ば暴走と言っても過言ではない方針を見ていた彼女は考えていた。
無論、コーディネイターへの嫌悪がないというわけでは無い。それよりも、二度にわたる大戦の結果著しく低下した国力。その回復に努めるべきだという政治家としての判断が、それを上回っていただけである。
選挙公約として経済不振打破・プラントとの融和を掲げたフォスターは大統領当選後、事前の調査で反コーディネイター思想の比較的薄いいわゆる穏健派と判断した人員を重用し始めた。
そして、軍内部においてもブルーコスモス思想の持ち主を密かに冷遇、脱走しミケール大佐と合流した者の発生で空いた席に穏健派を据える、いわゆる組織改革を推し進めた。
C.E.74、カガリ・ユラ・アスハ主導の元設立された世界平和監視機構コンパスをプラント・オーブとの共同で設立するに至ったのも、純然な善意ではなくフォスターの掲げた選挙公約に基づいた選択である。
それに加え、自国の経済不振を理由に戦力を供出せずにコンパスの活動によって蓄積される戦闘データの供与、あわよくばザフト・オーブの技術の吸収もできれば御の字だ。
結果、その考え通りとはいかなかったものの、コンパスの活動によっていわゆる紛争への対処も減り国内の経済対策へと注力することができていたフォスターは手応えを感じていた。
少なくとも、自身の代では無理でもこのまま国力を回復させていけば、プラントとの戦争において勝利する未来が訪れる……筈だった。
転機はおよそ半年前、フリーダム強奪事件の少し前。大西洋連邦領内、とある軍事基地でのブルーコスモス過激派の武装蜂起疑惑。
──半端な真似をしてくれる。さっさと脱走なりしてミケール達へと合流していればいいものを。
その一報を受けたフォスターは、内心で罵倒を吐き捨てながらもポーカーフェイスで自身の秘書からの報告に目を通す。
事前調査で弾ききれなかったか、と思いこそすれ所詮は基地ひとつ分。醜聞でもある以上、大西洋連邦のみで片をつけるべきだろう。それに、改めて我々のブルーコスモスに対する姿勢を示すには丁度いい。
そう結論づけたフォスターは、軍へとその基地の制圧を指示して僅かではあるが確実に回復傾向にある経済状況への対応に頭を回し始めた。
なんの問題も無くブルーコスモス過激派の制圧が完了、解決すると考えて。
その報がフォスターへと伝えられたのは、フリーダム強奪事件の後に
「…………ハァ?」
思わず顔を顰めて、声を上げてしまう内容であった。軍事に対しては素人なフォスターだが、事前に作戦内容を軍の高官から説明を受けていた。
表情だけは普段のポーカーフェイスへと取り繕い、秘書から詳細な説明を受ける。
ブルーコスモス過激派となった基地を包囲した制圧部隊は、まず降伏勧告を行った。それに対して、ブルーコスモス側は攻撃。これは理解できた。
問題は、その攻撃が基地からだけで無く展開されていた制圧部隊の後方からも行われた事。
この時点でフォスターの眉間に皺が寄る。
伏兵自体はリニアガン・タンク数台ではあったものの、予期せぬ挟撃に浮き足だった制圧部隊に対して基地側が攻勢を強める。その数は事前の調査で把握していた以上であった。
その後の戦闘も、状況は悪化していた。伏兵に浮き足だっていた事に加え、死をも厭わない苛烈な攻勢に制圧部隊は徐々に戦線を押し下げられる。そして、最悪の事態──市街地での戦闘にまでもつれ込んだ、と。
「……コンパスへ救援を要請しなさい」
「えっ、現場の指揮官からは増援の要請はすでに……」
「明らかに
制圧部隊の配置を把握した上での伏兵に、事前調査以上の戦力を潜ませていた事。素人であるフォスターでさえ、偶然だとは片付けられない。
思わず机に手を叩きつけて、秘書へと指示を飛ばす。どうやら想像以上にブルーコスモス過激派を排除できていなかったらしい、と歯噛みする。そしてそれ以上に、この後に訪れるだろう民衆からの突き上げを想像して、キリキリと胃が痛みを訴えている気がしてきていた。
そして、事態はフォスターの想像以上であった。
「分かりました。こちらでも可能な限り配慮を行います。えぇ、それでは……」
コンパス総裁、ラクス・クラインとのビデオ通話を終えたフォスターは頭を抱えた。事前に秘書にも出払ってもらい、この場には彼女一人であった。
大型MAデストロイ、及び正式な大西洋連邦の軍籍を持った生体CPUがブルーコスモス過激派の巣窟であった例の基地。その付近にある倉庫街に複数のウィンダムと共に配備されていた事を、ラクスから初めて伝えられたのだ。
──アアァァァッ!時代錯誤のクソ野郎どもがッ!!どうせやるならもっとコーディネイターのいるところでやろうとしろッ!なんでナチュラル相手に使おうとしてるんだッ!!
これには、極めて下品な罵倒がフォスターの頭を駆け巡った。デストロイと生体CPU、その存在は穏健派として掲げた選挙公約以前の大問題であった。
そもそも地球連合軍はその主力を複座式MA、直掩にMSを運用する形のドクトリンをとっており、決して表沙汰にできない人の業を形にしたような生体CPUなど必要では無いのだ。
デストロイに至っては、ベルリンの虐殺を含め悪の秘密結社ロゴスと結びつくような最低のイメージが染みついている。
最早、それらを運用するのは政治的利害を無視した活動を行うブルーコスモス過激派ぐらいだろう。
もしデストロイが起動していたら、付近の市街地はほぼ壊滅していただろう。たとえコンパスに所属している、あのキラ・ヤマトがいてもだ。かろうじて起動する事態にはならなかったが、その存在がコンパス──プラント・オーブ双方に知られたことはあまりにも痛い。
もしそれを確保したのが自軍であれば無かった事にもできたのに、と黒い考えすらフォスターの頭を過ぎる。
不幸中の幸いと言うべきか、ラクスにはそれを表沙汰にする意思は無いようだ。そんな事をしてしまえば、大西洋連邦内の情勢の急激な悪化を招く。それは結果的にコンパスにとっても大きな打撃になると理解しているからだろう。
その代わりとでもいうのか、大西洋連邦での生体CPUの治療及びその経過観察をコンパスへと行うことを打診してきた。
以前なら、お優しい事だと鼻で笑ったかもしれないが現状ではその程度であるなら喜んで受け入れられる。
だが、と。抱えた頭を元に戻して、内線で秘書を呼び戻した。今の内情では、その要請にも充分に応えられないかもしれない。
大西洋連邦内に潜んでいるブルーコスモス過激派は、秘密裏にデストロイを運び込んでそれを運用する為の生体CPUすら確保できていたのだ。フォスターの下、穏健派を中心とするよう組織改革を行なった筈なのに。
それでも、ラクスからの要請を突っぱねる真似は出来ない。おそらく、コンパス内部では大西洋連邦はブルーコスモス過激派を裏では容認している、という疑惑が生じているだろう。
場合によっては、ザフトの過激派に嗅ぎつけられ難癖を付けられるやもしれない。どこを見ても過激派はいるものなのだ。それだけ二度の大戦の傷跡は深い。
フゥ、と溜息をこぼしたフォスターは胃が痛むのを感じた。秘書が戻ってきたら、今後の方針を決める前に胃薬を調達した方がいいかもしれない。腹部を手でさすりながら、フォスターはそう思った。
フォスターは後日、ラクスとの再びのビデオ通話での会談でこう伝えた。
大西洋内でのブルーコスモス過激派の影響が未知数であり、生体CPUの安全を確保するのが困難である事。
その代わり、こちらの有する資料や研究者。設備に資金を融通するのでコンパスにおいて治療・研究を行って欲しいこと。
ただし、生体CPUの存在を表沙汰にするのはリスクが高いので、特例で階級を与えた上であくまで出向という形にしたいこと。
これに対しラクスは難色を示したが、あくまで体裁を整える為であり戦闘への参加を意図していないこと。コンパスでの活動という実績があれば今後の立場を作りやすいことを示し、最終的には了承を得た。
どういうわけか、復興支援に参加した彼が反ナチュラル武装組織やブルーコスモス過激派の襲撃に居合わせ、それを撃退。紆余曲折の末、戦闘部隊への配属へとなったと知り、本格的に胃薬を常用し始める事になってしまったが。
そうして、再び大西洋連邦内部の洗い出しを行いながらコンパスとの関係を深めることとなったのだ。
この一件を機に、フォスターは反ブルーコスモス過激派の姿勢を一段と強くした。あとはゆっくりと国力を回復させるだけだと思っていたところに、大量虐殺未遂を起こされたのだから当然ではある。
先程、カガリに対してフォスターが頭を下げて頼んだことも結局はブルーコスモス過激派に起因するのだ。
オルドリンの偽装別働隊、予想はできていたものの内通者を警戒しなければならない以上身動きが遅くなってしまった。
間に合わせではあるがどうにか対応はできそうだ、とフォスターは別の件へと意識を向ける。
手元にある親書。フリーダム強奪事件後に非公式の会談を行った相手、ファウンデーションからのものである。
ミケール大佐捕縛作戦、これが成功となればブルーコスモス過激派の動きも一時的ではあるだろうが落ち着くだろう。
あまりにもタイミングが良いことへの疑念は、ある。偽装別働隊の一件で、コンパスへと出向した生体CPU──ゼフォー・ローワン。
彼について周知する必要性が強まったタイミングでの、捕縛作戦参加のほぼ名指しでの指名。
だが、拒否する理由はない。むしろ、参加一択だ。ここに来てあの武装蜂起事件で生じた疑惑が尾を引いている。
ふと、ファウンデーションからの使者。黒髪黒目、モノクルを着用した蛇のような印象の男を思い出す。
「……まさか、ね」
フリーダム強奪事件、非公式の会談、基地武装蜂起事件、オルドリンの偽装別働隊、タイミングの良い親書での申し出。思わず頭に浮かんだ、一連の流れにファウンデーションが絡んでいるのでは?という思いつきを常識的な思考で切って捨てる。
そんなコミックか何かに出てきそうな黒幕だなんて、ロゴスだけで充分だ、と。
「さて、こちらからもユーラシアへ
間違いなくコンパス、ファウンデーションに対して悪印象しかないユーラシアに協力させるためには何をすべきか。
最悪、強力な抑止力たりえるものの配備も暗に認めなくてはならないか……とフォスターは憂鬱な思いでユーラシアとのビデオ通話による会談の内容を練るのだった。