地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
「よっ、お疲れさん」
聞こえた声にマリューが振り向けば、そこにはコーヒーを両手に持ったムウの姿があった。
ファウンデーションの王宮でのパーティを終えたマリューは、明日のミケール捕縛作戦のブリーフィングにて使用する資料をまとめていた。
「あら、差し入れ?ありがとう、ムウ」
「どういたしまして………やっぱりゼフォーは前に出す、か」
柔らかな笑みを浮かべ礼を言えば、歩み寄ったムウはコーヒーをデスクに置きマリューの肩越しにモニターを眺め、ポツリと呟いた。その顔、眉間には小さく皺が刻まれていた。
「えぇ、そうなるわ」
返事を返したマリューも、自身の表情はムウのものと大差ないだろうと考える。
16才の少年を、MSに乗せ戦場に送り出す。苦い過去がマリューとムウ、両名の脳裏をよぎる。
尤も個人の情を差し引いて、世界平和監視機構コンパスのMS隊の隊長及びアークエンジェルの艦長としての立場として考えたところで、この作戦におけるゼフォーの配置には物申したいところがある。
ゼフォー・ローワンのMSパイロットとしての能力は、16才のナチュラルとしては破格であることに両名ともに異論は無い。
けれどもその能力は、時間経過で肉体的、かつ精神的な不調を禁断症状としてもたらす薬物の服用が前提にある。
今回の作戦では、行動時間が長時間に及ぶ可能性は大きい。幸い戦力は充実している。本来ならば、後方にて待機。不測の事態に対応する予備戦力として扱うのが適切であろうと考える。
だが、軍事行動とは往々にして政治的な要因によって前提条件というものが付与されてしまうものである。
「……ユーラシアからの要請か?」
「そうよ。……オルドリンでの事例を踏まえ、ブルーコスモスによる欺瞞工作による撹乱を防ぐために前線のユーラシア連邦部隊からの探知可能圏内への配置を求める、ですって」
「本気で言ってると思うか?」
「……ノーコメントよ」
マリューの答えに、ムウは肩をすくめた。半ば意味のない、戯れに近いやり取りだ。
ユーラシア連邦は、コンパスに対して不信感を抱いている。プラント・オーブとの関係は言わずもがな。大西洋連邦との関係も、同じ地球連合という組織の一員でありながら一枚岩とは言い難いことは、マリューとムウは身をもって知っている。
恐らく、ユーラシアが懸念しているのはブルーコスモスがコンパスだと装うことではなく、その逆なのだろう。
ブルーコスモスを装ったコンパスによるユーラシア領内への侵入、それを口実にして領土を掠め取ること。
何を馬鹿な、そんなことはしないしする気もない、と口にするのは簡単だ。だが、その言葉を信じてもらえるかは別である。
「あぁ、そういえば……」
ずず、とコーヒーを啜ったムウが思い出したかのように言葉を切り出した。
「ちょっと個人的に頼みがあるんだが、聞いてもらえるか?」
「頼み?個人的なって……何かしら」
「今回はアークエンジェルが前に出るだろ?……作戦中、ファウンデーション側の動向に気をつけておいてほしい」
「ファウンデーション側……昼の一件があったから?でもその件は、相手方からの謝罪で話は済んだって聞いたけど?」
中庭での諍い、その顛末を聞いていたマリューは疑問を投げかけた。そもそも、このミケール捕縛作戦はファウンデーション側から提案されたものだ。そして見返りとして、コンパスへの参加を望んでいること──それを足掛かりに、国際社会にて独立国家として認められようとしていることはマリューもムウも知るところである。
ならば、たとえこちらに隔意があったとしてもミケール捕縛作戦の成功を妨害するような真似などしないのではないか。
「……それもあるんだが、ちょっと確認したいことがある。さっきのパーティでそっち側でゼフォーの──大西洋連邦から出向しているMSパイロット、ゼフォー・ローワン特務少尉について何か話題は上がったか?」
「えぇ、チラッとだけれど……それが?」
若い身空のナチュラルでありながら、MSパイロットとして活躍していると聞いている。我が国にいたならば是非とも相応の地位に登用したいものだ、と半ば冗談めかした物言いではあったが。
マリューのその言葉に、ムウはそうかと答えコーヒーを啜った。
「パーティの最中、ゼフォーに対してそれとなく注意を向けていたんだがな。どうやら、ファウンデーション側の参加者はそこまで交流を深めるつもりはなかったらしい。二言三言話した程度だったよ」
「そうは言っても16才程度の相手よ。そこまで踏み込んだ話はしないのは、別に普通じゃないかしら」
「まぁ、その辺については相応しい立場の人間を寄越さなかった大西洋側の落ち度だ。その場じゃ気にならなかったが……」
そう言うと、ムウは壁にもたれかかって溜息を一つ。
「ゼフォーが中座する時、ラクスの嬢ちゃんとタオ閣下が中庭に二人で出るのを見かけたらしくてな……一応そっちには話が通ってたんだよな?」
「えぇ。……それで?」
「真面目というか、なんというか……二人きりなのが気になったらしい。自分も中庭に行こうとして、ガローテ筆頭外交官にやんわり止められたらしい。それを聞いて、流石に抗議の連絡がされたんじゃないかと気になってな」
「……こっちにはその手の話は来てないわよ?」
マリューとしても初めて聞いた話に思わず言葉を溢せば、ムウは肩をすくめて口を開いた。
「ここに来る前に、マイカ中尉にミリカ中佐のところに顔を出してみたんだがな。何もなかったそうだ」
「……何も?」
「そう、何もだ。ゼフォーの粗相に対してどころか、それ相応の立場の人間を寄越さなかったことへの抗議も今後ともよろしくといった具合の挨拶の部類も、だ」
それを聞いたマリューの顔に流石に困惑が浮かぶ。大西洋連邦は、以前と比べればその影響力を大きく減じているが、それでも地球圏における一大勢力の一角である。
国際社会に独立国家として認められることを望んでいる筈のファウンデーションがぞんざいに扱われることに抗議しない理由も、繋がりを求めての接触を行わない理由も無い……筈だ。
「確かに、妙ね」
「だが、それだけだ。わざわざMS隊の隊長が、艦長や総裁に対して正式に意見具申を行う根拠としては弱い、だろ?」
それこそファウンデーション側へと問いただすにしても、発端はこちら側の不手際だ。
ましてやブルーコスモスの指導者、ミケール大佐の捕縛の機会を棒に振るわけにはいかない。終わりの見えない戦いに楔を打ち込む、千載一遇の機会であるからだ。
「……わかったわ、気にしておく」
「すまん、恩に着る」
「あら、これって個人的な頼みじゃなかったかしら?」
頭を下げるムウに、マリューはからかいの言葉をかけた。それを受けて、ムウはへらりと砕けた態度で口を開いた。
「ありがとうな、マリュー」
「いいわよ、別にこのくらい……そうだ。ならこの資料作るの、手伝ってくれない?」
「あぁ、お安いご用さ」
そう言って、ムウは再びマリューへ歩み寄ってその肩越しにモニターを見始めた。
僅かな疑念を胸に芽生えさせながら、夜は更けていった。