地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
途中から視点が切り替わるので読みづらいかもしれません。ご注意下さい。
アグネスは、屈辱にひりひりと痛む心を胸に抱えてあてどなく彷徨っていた。
自身が突きつけた真実から目を背けて、あんな女──ラクス・クラインに追い縋ったキラ。
その直後、まるで嘲笑うかのようなタイミングで現れた能面のように表情が変わらない、気味の悪いナチュラル──ゼフォー・ローワン。
何を考えているのか分からない無表情で、淡々と、こちらを煽るように嫌味を投げつけてくるゼフォーに腹を立てたアグネスは
アグネスの知る限り、どんな男も少なからず狼狽える筈の切り札は不発に終わった。
それどころか眉ひとつ動かさずに嫌味を投げつければ、もはや用は済んだと言わんばかりにゼフォーは立ち去っていった。
思わずこちらの方が狼狽えて、嘘泣きしていることすら忘れて声をあげたが、それさえもどうでもいいと言わんばかりにあの女の残していったトレイを持って駆けていった。
アイツは、ゼフォー・ローワンという存在はいつもそうだと、アグネスは思い返す。
それと初めて対面した時、アグネスの胸中にあったのは面倒な存在が来たという煩わしさと、表面上だけでも優しくすれば周囲からの評価が上向くだろうという打算。それに加えて、僅かな同情程度だったろうか。
そして、相手の立場を思いやる優しい年上の女性という仮面を半ば無意識に被って、言葉を交わした。
表情の変化に乏しく、控えめに二言三言話しただけで離れていったゼフォーに、初めてだからそのような態度なのだろうとアグネスは考えていた。
けれども、山猿──シンやルナマリアには最初は同様の態度だったゼフォーが、表情は別として親しげに話をしているのに自身へは相変わらず余所余所しい態度のままだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
この私が優しくしてやっているのに、という苛立ちを抑えながら接しても態度は変わらず。結局、話しかけることすら止めた。
ゼフォーとの関係を自身を担当する整備士に話して、優しい女性だと印象づけることができたから、というのが理由の大部分であったが──。
接している時の、表情の変わらない顔についている眼が、まるで自身の被った仮面の下を見抜いているようで。
その上での余所余所しい態度が、お前は愛されないと言っているようで……。
そこまで考えを巡らせて、アグネスはかぶりを振ってその考えを投げ捨てる。
ただただ、キラとゼフォーの見る目がないのだと。私は強く、美しいのだと。
パーティで、刃物のように鋭かった雰囲気を幾らか和らげながら私をダンスに誘ってくれたこの国の近衛師団──ブラックナイトスコードの団長であるシュラ・サーペンタイン……シュラは、そう言ってくれたのだから。
そして、アグネスはその瞳に熱を湛えて、歩みを進める。その足取りは、先ほどまで当て所なく彷徨っていたとは思えないほどに力強く、行く先は定まっているようだった。
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「僕……は……」
キラは、ラクスを追いかけた先にて邂逅したファウンデーション王国の宰相──オルフェ・ラム・タオが突きつけてきた言葉の数々に、まるで蛇に睨まれた蛙のようにその身を強張らせていた。
自身がデュランダル議長を殺し、デスティニープランを否定した結果。世界にもたらされたのは、更なる混乱だった。
ユーラシアからの独立運動を発端とした数々の紛争。ミケールに率いられた軍を出奔したブルーコスモスの過激派による、死を厭わぬ憎悪を撒き散らす為の四度にも及ぶ侵攻。
救うことが、守ることができたモノよりも、零れ落ちていったモノが遥かに多いことはキラには否定出来なかった。
そんな自分が、ラクスに。平和を求める彼女に、笑っていて欲しい彼女に悲し気な顔ばかりさせるキラ・ヤマトがふさわしくないというオルフェの言葉も、同様に否定する言葉が見つからなかった。
「それで?平和が訪れた時、きみはどうする?」
オルフェはキラの方へと、ゆったりと歩みを進めながら挑戦的な言葉を投げかける。
「その血塗られた……
横を通りすがるタイミングで投げかけられた言葉は、キラの心へと深く突き刺さる。
改めて突きつけられた自身の罪、巡る思考は明確な形を成さず、オルフェの言葉に一文の反論も出来ぬままに、去り行く姿をキラは見送るほかなかった。
まじまじと自身の手を、目には見えずとも血と罪に塗れた手をキラは見る。
本当にラクスを愛しているのなら、僕はこの手を……。
「ヤマト隊長〜〜!お届けもので〜〜っス!」
「……ッ。ゼフォー?どうして、ここに?」
不意に聞こえた声、自身が再び戦場に引き摺り込んでしまった被害者。
振り向けば、何かを載せたトレイを手にこちらへ駆け寄ってくるゼフォーの姿があった。
「これ、クライン総裁の作ったお夜食っス。あの場に置きっぱだったんで、届けに来たっス」
「これを、ラクスが?」
「そうっス。ヤマト隊長と一緒に食べるつもりだって、そう言ってたっス」
無表情な顔から紡がれているとは思えないほどに、明るく軽妙な調子の声で伝えられたのは自身へと向けられたラクスの優しさを表すようなものだった。
そして、こちらに気を使ったのかそのトレイに載せられた夜食──ハロを模ったおにぎりがこちらは向くように差し出されたそれに、手を伸ばそうとして。
──その血塗られた……戦場から掬い上げたものさえ再び引き摺り込んだ手で──
先程の弾劾の言葉が脳裏をよぎり、手が止まる。その様子を、無表情ながらも不思議そうに首を傾げたゼフォーが見つめる。
キラは、なんでもないようにトレイを受け取った。
「これを、一緒に……って?」
「はい、そうっス。だから、早くクライン総裁のところに行ってあげてほしいっス。ひょっとしたら……泣いちゃってるかも、な〜んて」
その言葉に、キラは思わず息を呑む。己の罪を、また別の罪の被害者に突きつけられ固まってしまった。
それに気づかず、ゼフォーは一歩下がって戯けた様子で敬礼した。
「それでは、ゼフォー・ローワン特務少尉はこれよりミレニアムに帰投いたします。良い夜を!では、おやすみなさいっス!」
そうしてゼフォーは、戦場に引き摺り込まれてしまった少年は最後まで明るく軽妙な調子の声で、キラの前から去っていった。
ゼフォーを見送ったキラは、その視線をハロを模ったおにぎりから──その無垢でしかないはずの目から外せなかった。
ラクスの優しさの具現と言えるこの夜食を目の当たりにして、脳裏には悲し気な顔のラクスが……涙を零すラクスが浮かんでいた。
「僕……には……ラクスのところに行く資格なんて……そばにいる資格なんて…………」
たとえ本来ゼフォー・ローワンは、その任ぜられた特務少尉という立場は仮初。戦場に立たせる為でなく、大西洋連邦領内で見つかった生体CPUというスキャンダルを隠す為のカモフラージュでしかなく。
あくまで復興支援などの所謂PKO活動に従事させつつ治療と研究を行うつもりが、ブルーコスモスに情報が流れてしまった為か幾たびもゼフォーを狙った襲撃が重なり、むしろゼフォーの存在が騒乱の種になってしまった。
そのせいで彼に対して──厳密にはコンパスに所属する連合製のMSに対して現地からの悪感情が高まってしまったという経緯も。
その幾たびかの騒乱の最中、ゼフォーのMSによる戦闘行為への適性の高さが判明し、敢えて戦力として組み込むことでゼフォー起因の襲撃を減らすという苦渋の判断が下されたということも。
キラの胸中に広がる痛みを、和らげることはなかった。
────ラクスのそばにいる資格なんて無い。
己の罪を、業を目の当たりにしたキラは。その重さに身体が震え、俯いたキラはそれでも。
それでも最後まで、その言葉を口には出せなかった。