地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
「…………フウゥゥゥ」
大した狸だとカガリに評されたフォスター。そんな彼女は今、大西洋連邦大統領としての広い執務室で
つい先程の会談での失態に、思わず眉間に皺が寄る。
本来なら、あくまで非があるのはユーラシア連邦──地球連合側だけではない、と釘を刺す程度のつもりであったのだ。
思っていたよりもカガリとラメント──オーブ側とプラント側にとってラクス・クラインの存在が大きなものであったこと、それに加えて今回の一件──地上での核ミサイルの使用という惨劇に対するカガリやラメント、そして何よりもフォスター自身の余裕の無さを見誤った結果だったのだろう。
結果的に交渉は決裂、オーブ・プラント・大西洋連邦というコンパス理事国である三国の喧嘩別れという形になってしまったのは。
「それでも、少なくとも最低限の成果はありましたか……」
冷えた頭で、ポツリとひとりごつ。正式な会談なのだ、議事録は取られているだろう。
キラ・ヤマトの軍事境界線への接近が事態の発端であり、大西洋連邦から出向している兵の働きで越境は阻止された。
それをラメントに肯定させることができたのだから、少なくとも大西洋連邦が今後この件に関してユーラシアと一括りに非難される謂れは無くなった。
そして、おそらく今回の一件。オーブやコンパス、ラメントの関与するところではないだろう。少なくともフォスターはそう考えていた。
「大統領、失礼します」
ノックの後、秘書官が入ってくる。その手には紙の束、まとめられた報告書である。
半年前に内通者の存在する疑惑が浮上して以降、機密に類する報告はハッキングを警戒してアナログな紙にまとめられている。
……今になっても続いているのは、残念ながら内通者の特定に至っていないからだ。
「ご苦労様………………やはり、変わりませんか。アドゥカーフに関しての言及は?」
「残念ながら、その上での答えがそちらになります……」
声を掛けて受け取った報告書に目を通したフォスターは、そこに記載されていた事柄に目を通した上で秘書に確認する。
これまで関係性の更なる悪化を懸念して言及してこなかったアドゥカーフ──デストロイの製造元である軍事企業が、もはやテロ組織と化したブルーコスモスの過激派へとデストロイを供給していることを引き合いに出した上でのユーラシアからの返答である、という秘書官の言葉。
それを聞いたフォスターは不快感を隠そうともせず滲ませながら、手に持った報告書を机へと置く。
そこに記載されているのは、今回の一件──ファウンデーションへの核使用。
そのことへの大西洋連邦の抗議に対するユーラシアからの返答である、[現場の独断による行動であり我々に攻撃の意思は無い。詳細は鋭意調査中である]というこれまでに三度も繰り返された文面。
子供の言い訳にも等しい、最低限の建前すら整えられていない弁明。これを伝えた際の、情報を伏せているのでは?と言わんばかりのカガリとラメントの疑念に満ちた顔が、フォスターの脳裏にチラつく。
「……僭越ながら、大統領。今回の一件が貴女のおっしゃる通りプラント側の企みなら、オーブとも距離を置くべきでは?」
「その必要はないでしょう」
胃の辺りが苛立ちでムカムカしてきたフォスターに、秘書官が声を掛ける。
先程の会談、そこでの発言を考えれば筋が通るであろう言葉を、フォスターはバッサリと切り捨てる。
「……何故です?」
「もしプラントとオーブの結託した企みであるのだったなら。あの場は今後の方針、その協議の為の会談でなくただユーラシア連邦の弾劾のための会談だったでしょう。それに──」
コツ、と机の上。正確には脇に避けられていた別の報告書──半年前から継続されている、基地武装蜂起事件で浮上した内通者疑惑に関する諜報部からのレポートの束を指して、フォスターは沈鬱に言葉を続ける。
「少なくとも、オーブとコンパスは私の喉元にナイフを突きつけられる立場にあるのです。謀略を巡らせようというなら、それを使わない理由はありますか?」
整備の行き届いたデストロイ、及び大西洋連邦の正式な軍籍を持ち合わせた生体CPU。かつて悪の秘密結社とされたロゴスの用いた非人道的なソレが、大西洋連邦領内の軍事基地に存在した。
そこがブルーコスモス過激派の巣窟であり武装蜂起を行ったという事情があれど、明るみに出れば容易くフォスターを大統領の座から引きずり下ろすこともできるであろう特大のスキャンダル。
その気になればこちらを傀儡にできうる情報を握りながら、企ての片棒を担がせるどころか蚊帳の外に置くとはフォスターには考えられなかった。
「……出過ぎたことを申しました」
「構わないわ。私だってあんまりにも触れられないものだから、つい忘れてしまいそうになるもの」
そう言いながらも、この件についてフォスターは常に頭の中で考えを巡らせていた。
半年かけても影すら踏ませぬ内通者。政府・軍内部の情報を知りうる人間からは、一切不審な対象は見つけられなかった。
故に外部の第三者が介入したと見た諜報部は、かなり早い段階で候補は挙げていた。
情報を知りうる人間と接触を持った外部の存在。基地武装蜂起事件のほんの数日前に、非公式に会談を行った相手。まるで図ったようなタイミングで行動を起こす存在。
ファウンデーションである。
だが、それも憶測に過ぎない。接触は僅かな時間しか行われず、場所は外部。それこそ、心が読めるわけでもなければ情報の獲得は不可能だろう。
それでも、疑惑は疑惑であった。それ故に今回のミケール捕縛作戦に際して不自然にならぬように、けれども可能な限りファウンデーションの情報を集めていた。
オーブへと送りつけたデータの作成も、その情報収集の賜物である。
そして、今回の一件。ユーラシアの曖昧な弁明に対しても、ある疑念が湧いている。
ユーラシア首脳部は核の使用どころか、配備されたことすら把握できていなかったのでは?
[核の使用は現場の独断による行動であった。独断による行動を起こした将官にはすでに処分を下してある。しかし、今回の一件にて独断による行動が起こった要因は、キラ・ヤマト准将の不審な行動にあると考える]──このような文面を作戦に関わった将官のリストと共に送る程度は出来る筈であるのに、鋭意調査中であると繰り返すのは何故か。
首脳部の下した司令と現場に通達された司令が差し替えられ、それが事が起こるまで発覚しなかったからではないか。
鋭意調査中と言うのは、文字通り作戦に関わった将官達を調べている為に下手な発言をするわけにはいかなくなったからではないか。
半年以上前のフォスターなら、曲がりなりにも大国であるユーラシア連邦でそのような体たらくはありえない、と鼻で笑っただろう。
だが、内通者のリークによるものと思われる不手際で他国に特大のスキャンダルを握られる羽目になった今現在のフォスターには、それは軽く否定できる考えではなかった。
そして、これに関しても第三者の介入の余地がある。独立運動の高まったユーラシア。独立しようとしている地域出身者が中枢にいる可能性は高いだろう。
そして、その人間が郷土愛の特別強い人間である可能性も。
もしそれが、ファウンデーションであるならば。状況だけを見るのであるならば、あり得なくはないだろう。
だが、それだけだ。首都に核が直撃し高官らは宇宙へと脱出、実質的に地球上での領土は無くなった。
もし独立を願っての行動なら、本末転倒という言葉がこれほど相応しい結果はないだろう。
あるいはプラントと結託し、ユーラシア領を以前よりも広く占有した上で凱旋するという選択もあるかもしれない。
そうなれば、今度はラクス・クラインの無事をラメントへ伝えない理由がない。
むしろ積極的に連絡を取り、亡命政府設立の後ろ盾を得る手札として使うべきだろう。
こちらの内通者の件と同じだ。疑惑はあれど、明らかにあり得ないと言える点が存在する。
限りなくクロに近く、手段や動機という点で決定的にクロでない。
だからこそ、シャトルの予定航路と推定目的地のデータをオーブへと送った。
こちらが表立って疑惑の目を向けるのは、ユーラシアのやらかしもあって厳しいものがある。
プラントに関しては、デュランダル前議長の手による政策とはいえ独立を支援した相手でありナチュラルの被害者という側面もある。ファウンデーションの肩を持つだろう。
オーブは、良くも悪くも中立という立場に居続けようとする稀有な国家だ。そしてその代表であるカガリも、未だ年若く先の会談では感情に流された場面もあったがこれまでの関わりで決して愚鈍ではないと知っている。
ファウンデーションがラクス・クラインについて何も連絡しない点に、少なからず違和感を感じているだろう。
あるいはフリーダム強奪事件を機に、もうすでにファウンデーションの情報を収集していてもおかしくはない。
すでに賽は投げられた。あとは粛々と為すべきことをなすだけだ、とフォスターは考えを打ち切った。
「そういえば、例の配置転換に関してはどうかしら?」
「……進捗は七割といったところかと。ただ今回の一件を受けて、プラントとの衝突を想定してペースを上げるべきだと一部で声が挙がっています」
自身の進める計画について尋ねたフォスターは、秘書官の答えに少し考え込んで言葉を返した。
「いえ、計画通りに進めさせてちょうだい。……現場の独断での判断を起こす口実にならないとも言えないでしょうから」
再建されたエンデュミオン基地へのMS・MAを含めた戦力の配置転換について、フォスターは少し皮肉げに言葉を返した。
この時に考えていたファウンデーションへの疑惑。その答えは後に、宙からもたらされた。